黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
この第五章(四十一話~)では、各々の狼戈への感情、気持ちを描きます。
ちなみに、次の章からは完璧な現代。
つまり、まだ出ていないあのキャラやこのキャラが…!!(自主規制)
「このキャラと~」等のご要望がありましたら、メッセージをいただければできる限りお応えします。
「…真っ赤だな」
「…真っ赤だね」
陰口的なことを言われつつ、全員仲良く風呂場へ向かう。全員パジャマ姿なのは、私が能力を発動させたこと為だ。寝るときはパジャマ、これ常識。
…いやいや、誰でも真っ赤になるだろう。酔った勢いで猫になったり狐になったりして“にゃん”だの“こん”だの…恥ずかしいにも程がある。せめて当時記憶が無ければよかった。
「ぅぅぅ…!! 私だってね!? やりたくてやった訳じゃないんだよ!?」
「にゃう~ん。んにゃぁ…♪」
「いやぁぁぁぁ!!!!」
見事に再現してくる萃香に絶叫する。何故こんなところで公開処刑されねばならぬのか。
「いやはや、可愛かった。今度からは酒を飲ませるとしよう」
「…つるぺた幼女」
「…ちょっとおいで? そのつるぺたに鳴かされる気分を味あわせてあげるよ」
萃香が殺気混じりの声で告げる。即座に退散しようとしたところで、正面に回るのは狐火鴉。その表情には“面白い玩具を見付けた„と書かれている。残念だが、私は羞恥プレイなど望んでいない。
足に妖気を込め、一気に急加速。狐火鴉の横を通り抜ける。何故こんなことに妖気を使わねばならぬのかと問いたい。何故こうも毎日命懸けなのかとも聞きたい。
「…追い付けるならどうぞ?」
「捕まえた~」
「ひゃぅ!? 橙!? 嘘、なんで此処に…」
最近、気付けば橙がいるのは気のせいか。マタタビ持って自爆するぞ。
「ちょっと、離してよ!!」
「嫌です。悪いことをしたら謝るのが常識です」
「いやいやいや!? 私まったく悪いことしてな」
「つ~かま~えた♪」
背後から殺気全開の声が響き、腹辺りを抱き締められる。橙は満面の笑みで隙間に消えていった。ちょっと待て、何やってんだ紫。わざわざこんなのに能力使ってんじゃない。
「追い付いたら…いいんだよねぇ…?」
「い、いや、ダメ。そんなことしたらむぐぅ!?」
瓢箪を口に突っ込まれ、パニックになる。即座に引き離したが、少なからず酒は回った。一分も経っていないというのに既に自我と意識がきつい。
「…じゃ、私達は後で風呂に入るよ。ちょっと悪戯狼を懲らしめなくっちゃね」
「…え、本気で? いやぁぁ!? 誰か助けてぇぇ!!」
「じゃ、あたい達はお風呂に入ってるよ」
勿論、誰も助けてはくれない。更に酒を詰め込まれ、もう自我を保てない。
私の一人部屋に連れ込まれ、ベッドに寝かされる。これが酔った者を心配するような寝かせるなら良かったのだが、そうではない。もう死にそうだ。
「やめ…てよぉ……私美味しくないよぉ…」
「…本当にもう出来上がってるね。さて、どうしてあげようか…」
にやにやと近付いてくる萃香。酔った私は逃げることも抵抗することも出来ない。
もうどうにでもなれと、私は自我を放棄したのだった。
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「勇儀さん、お背中流しましょうか?」
「おお、頼むよ」
勇儀の背中を洗いつつ、チラチラと浴場の入り口に視線を向ける。狼戈と萃香と別れて既に数十分。全く来る気配はない。狼戈が潰れて眠っているか、萃香が欲に負けて続けているか…どちらにせよ、狼戈には御愁傷様と伝えなければ。
勇儀の背中を洗い終え、自分の体も洗い終えた後で、ゆっくりと浴場の扉が開く。其処には真っ赤な狼戈と、脱力しきった萃香がいた。何が起きたのか…紫の媚薬の件もあり、何が起きたのかは大抵理解出来る。まあ…酔わされたら媚薬とあまり変わらない状況になるだろうね。狼戈の性質上。
「狼戈さん…?」
「どうしたんだい、真っ赤になって」
「…お願い、何も聞かないで」
そう言ったきり自分の体を洗い始め、完全に無言になった。対して萃香は、少し震えつつ無言で体を洗っている。どっちもどっち、ということか。ま、二人の間に起こった事は心が読めるさとりと、私以外は知り得ないだろう。
「…まさか鳴かされるとは思わなかったよ」
「…え?」
二人の状態を見て静かな浴場に響いた声。私以外の全員が唖然と固まっている。狼戈は体の動きを止めた。益々赤くなっている気がする。逆上せている訳ではないのは一目瞭然だ。
「…藍譲り。何年やられて来たと思ってるの」
「成る程…やり返されたということか」
一人納得する勇儀。いや、納得することじゃないと思いますよ。はい。
「…ヤマメ、そんな顔で見ないでよ」
狼戈の言葉にヤマメの顔を見ると、口を小さく開け、固まっている。何時もの笑顔は何処へやら…まあ、そういうことはあまりやらなさそうな妖怪だから…ね。
「…もう!! いいよ、吹っ切れた!!」
「いやぁ!? ちょっと、掛かったよぉ!!」
狼戈が湯船に突っ込み、お湯が掛かった空が悲鳴をあげる。狼戈の事だから、きっと後々、部屋で真っ赤に後悔することになるだろう。狼戈は毎度、溜め込むから…ストレスに欲望、基本的には全て口に出さずに今まで過ごしている。今までニ~三,四回しかそれを爆発させていない辺り、彼女は本当に強いと思う。幼くして家族を失い、地上から追い出されて(今は自由に行っているが)…。自慢ではないが、私が狼戈と同じ状況だったらきっと生きられていない。妖怪は精神を破壊されると死ぬ。それでも彼女はずっと死なない辺り…あれ? 精神を破壊されると死ぬのに、放火で…それに、妖怪がただの炎で、簡単に死ぬだろうか…? 狼戈の親は…誰? まさか、妖怪では…ない…? それに、遥か昔に14歳と言われたきり、彼女は成長の色を見せない。それほど迄に成長が遅いなら、14年でここまで成長する訳がないのだ。彼女はいったい…
「きゃっ!? やったな…!! それ!!」
「…狼戈、私に水を掛けるとはいい度胸だねぇ」
「ひゃ!? すいませんでしたぁぁ!!」
子供のようにはしゃぐ狼戈に、私は一度思考を白紙にする。
…いいじゃないか。親が誰だとしても、彼女が説明出来ない者だとしても。
ーーー狼戈は狼戈…私の大事な、大事な家族なのだから。
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「世話になったね。また来るよ」
「うん、またね。また会えたら…ごめん、お酒は勘弁」
勇儀達に別れを告げつつ、お菓子を渡す。これは何時ものことだ。
「…ヤマメ、また今度遊びに行くね」
「……え? あ、うん。いつでもおいで」
…何故か固まっていたが、どうしたのだろう。
全員に別れを告げた頃には、既に夜。昨日の夜から飲み明かし、風呂も入ってご飯も食べてでは、妥当な時間か。やった…二日間お仕事なしだよ♪
「…さて、さとり様。どうしましょうか。
お風呂も入っちゃいましたし、ご飯も食べましたし、仕事も時間的に無いですし…」
「そうね…もう寝ましょうか」
「…了解です。では、私はさとり様の部屋で寝ますので」
サラッと告げた言葉に、さとりが一瞬遅れて反応する。
「…え?」
「ダメ…ですか…?」
「では、私もご一緒します」
狐火鴉、空、燐と挙手していく。他の面子は既に解散してしまった。もし今から仕事をやると言われていたら皆どうしたのだろう。サボリ扱いになるのに。
「最近、共同でやることが多いわね」
「さとり様も皆も好きですから。好きな人と一緒に過ごす程楽しいことはないでしょう?」
私の言葉に全員揃って、照れたように微笑む。こんなに優しくて、暖かい家族…私には不相応だね。でも…妖怪人生、本当に充実してるよ。本当に…感謝しなくちゃ。
談笑しつつ、これからを考えつつ…何時ものように、さとりの部屋へ向かうのだった。