黒狼狐己録 -Life Harboring-   作:ふーか

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今回は短め。珍しく2000文字台。伏線回収もやっていく。
黒狼狐火録…100話程で終えるつもりが、それまでに終わるかどうか…


四十四 感情と白蛇

「…疲れた」

 

 土蜘蛛の群れの中。一匹、溜め息を吐く。

 以前狼戈から拒絶され(私が悪いのだが…)、時は過ぎる。先程まで一緒に居た狼戈に、文字通り変わった様子はなく、誰とも平等に接していた。私にさえも。

 どうでもよい話だが、今回の宴会(…?)の発端は、狼戈の“お酒飲みたい„の一言。私から誘った訳ではない。というか…狼戈があんなに酔うとは思わなかった。意外な所に弱点があるようだ。

 

 狼戈が謝りに来たのは…一週間程前か。本当は私が行かなければならなかったのに…と、後悔と罪悪感で満たされた心。それを狼戈は簡単に“慈愛„で埋め尽くした。彼女は自覚等していないだろうが、彼女の優しさは、少なからず周りを救っている。だが…その優しさが原因で情緒不安定と化していては本末転倒。どうにかしてあげたいという気持ちはあるが、家族でもなければ同居でもない。私が…易々と踏み込んでよい領域ではないのだ。

 

 ーー結局のところ、私は狼戈のことをどう思っているのだろう?

 

 可愛くて、優しくて、大人で…それでいて、何処か幼くて。初めて会った時は“可愛らしい、とても美味しそうな狼„だったが、今では“信頼出来る優しい狼„だ。信頼に関しては、正直誰よりも持てる。自分より幼い相手に悩み事を相談するというのもおかしな話だが…彼女は自分の事のように、必死に考えてくれる。何より、どんな状況だろうが秘密は絶対ばらさないということ。全てを含め、精神年齢だけで見ればかなり大人だ。

 

「あれで私より強いんだから困るよ」

 

 遥か年下、されど格上。全てにおいて、私が勝てる気がしない…酒なら負けない。

 

「…狼戈」

 

 意味もなく名を呟く。先程から独り言が多いが、無意識だ。自覚はない。

 

「…こんな私でも、頼ってくれないかな」

 

 狼戈の溜め込む癖…何でも自分で、率先してやろうとする癖。でも…自分だけじゃなくて、私や、それこそ地霊殿に住む妖怪達を頼って欲しい。彼女が壊れれば…きっと一生憂いを帯びた気分のまま生きることになるだろう。日常での恩返しも、何も出来ていないのだから。

 

 ーーー私を愛してくれる狼戈を…私も愛してる。例え一緒に居なくとも…。

 

「…さて、もう寝よっかな」

 

 ごろんと転がり、目を瞑る。たまに昼夜逆転もいいだろう。妖怪の命は長いのだから。

 

 …大きい土蜘蛛の巣の中、いないはずの狼戈の匂いがしたような気がしたのだった。

 

 

 

 

「結界?」

「結界」

 

 唐突に藍から告げられた、結界の出来事。つまり、それは幻想郷が完全に成立したことを意味する。これで外には行き来出来ない…まあ、ほぼ地底にいる私には関係ないか。

 私は気付かなかったが、結界が張られ、既に何十年と経過しているらしい。紅魔館が此処に来る前だっけか…? 流石にもう覚えていない。

 それにしても…紅魔館の移転、大結界…さて、そろそろ現代ですね…!?

 

「…ふふ、ふふふ」

「な、なんだ? 気味の悪い笑い方して…」

 

 気味の悪いとは失礼な。ただうつ向いて低く声を出しているだけじゃないか。

 

「…ま、私は何でもいいや。藍達と過ごせるなら…ね? らーん♪」

「は、恥ずかしいからやめてくれ…」

 

 やめれと言われてやめるバカが何処に居る。ここに居る。ごめんなさい。

 

 …思えば、今まで長かった。千年という時を越えて、私は今、此処にいる。

 千年…暴走したり、泣いたり、笑ったり。とても充実してた。これまでにない程に。

 

「…ありがとう、藍」

「…急に改まってどうしたんだ…?」

 

 ーーさっきから様子がおかしいぞ?

 そう心配する藍。それに対し、私はにっこりと微笑むのだった。

 

 

 

 

 狼戈が“遊びに行って来るぜ!!„とハイテンションで館を飛び出して行った。彼女の仕事は終わっている為誰も文句は言わないし、もし仕事をしていなかろうとも何か口を出す者はいないだろう。狼戈はそれほど慕われているのだから。性格でも、行動でも、その全てを。まあ、自覚等していないだろうけど。

 

「にゃ…?」

 

 狼戈の一人部屋。タンスが物置として使われている。その物置に、狼戈に頼まれた私物を運んで来たのだが…

 

「…どうしたんだい。こんなところで」

 

 一匹の真っ白な大蛇が、何か慌てるように、不安そうにきょろきょろと辺りを見回していた。此処は基本的に狼戈以外使わないのだが…(やはり物置には使われている)。

 ふと此方を見るなり、するすると這い寄ってくる。口許が吊り上がっている。自分が来たのが嬉しいのだろうか? いや、それもありそうだが、この部屋にいるのと何かを探していた辺り…

 

「…狼戈なら今はいないよ?」

 

 あたいの言葉に、しゅんと悲しそうな表情をする白蛇。やはりか。

 

 この白蛇…もうじき妖怪化するだろう。感情豊かなその表情と、徐々に渦巻き始めている妖気がよい証拠…狼戈が来てから、動物の妖怪化が頻繁に起きている気がする。

 

「狼戈の事だから何時帰って来るかはわからないけど…まあ、その内来るさ」

 

 微笑む白蛇。荷物を置き、白蛇が居眠りを始めたところで、部屋から退散する。

 狼戈は…何処まで他者を惹き付けるのだろう。動物でも、妖怪でも…例えそれが絶対強者であろうとも。あたいの心配していることは、それが最悪の結末に繋がらないか、ということ。彼女の体質のことに、アドバイスも相談を受けることも出来ないが、心配なものは心配だ。せめて彼女のお人好しが治れば、少なからず安心出来るのだが。

 

「…全く。お空といい狼戈といい、世話の焼けるのが多いね」

 

 …そんなことを言ってみても、世話を焼いてるのは狼戈の方かも知れない。

 

「ふふ、考え込んじゃって…あたいらしくないね」

 

 一人で呟きつつ、歩き出す。さて…仕事を再開するとしましょうか。

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