黒狼狐己録 -Life Harboring-   作:ふーか

51 / 96
久々に二日連続更新。

▼オリキャラ登場注意▼
 オリキャラはこれがラスト。もう増えない。


四十五 妖怪と死合

「あの、ちょっと、うぐ…」

「……人気だねぇ」

 

 この子はかなり可愛いのだけれど、加減というものがわからないのか…痛い。今私が悲痛な叫びをあげているのは、白い大蛇が私に巻き付いていることが原因。首から下は全部巻き付かれているため身動きが取れない。ちょっと前まで、あんなに小さかったのに。もしかして、この子の妖怪化はこんな風なのか? 巨大化…そして妖気。いや、可愛いけどさ…円な瞳に細い瞳孔とか。

 

「人気とかじゃなくって、ちょっと助け…もう。ほら、離して」

 

 私がそう告げると、素直に離れる白蛇。私の言うことをしっかり聞いてくれる辺り、また…なつかれてるんですか、私。なんでこんななつかれるんですか。

 

「もう。変なことするとご飯あげないよ?」

『!?』

 

 それだけは…!! と懇願してくる白蛇。まあ、そんなことはしないけども。代わりにお前を食わせろとか言われて食われたら笑えないし、実際それが有り得るから。

 白蛇を枕に、何時もの四人で談笑する。白蛇が私にしか巻き付かない為、泣きそうになるのはご愛敬。可愛いけど…ちょっと加減して欲しい。痛いんだ。

 

「…狐火鴉もいつの間にか居たよね」

「私ですか? そうですね…あんまり記憶がないです。狼戈さんの事位しか」

「…なんで私なのかね」

「え? 私、頻繁に狼戈さんに撫でて貰ってましたよ?」

 

 そうは言われても、適当に撫でていたりした記憶しかない。確かに狐は好きだから、撫でてはいたけど…そんな頻度ではないはずだが…?

 

「…妖怪になって、狼戈さんと話せるのは嬉しいですけど…

 撫でられなくなってしまうのはちょっと残念です…」

 

 …これは遠回しに撫でろと言っているのか。そうだな、そうに違いない。

 

「…おいで、狐火鴉」

 

 その言葉を聞くなり、満面の笑みで飛び付く狐火鴉。抱きつく狐火鴉の頭…ではなく、尻尾を撫でる。触れた瞬間ビクッと体を震わせ、ゆっくりと私の顔に視線を合わせる。

 

「撫でるって言っても…何処かは言ってないよね?」

「い、いやです…きゅぁぁ…」

 

 完璧なる脱力モード。適当に撫でた後に、手を離す。ジト目で睨んでくる狐火鴉を宥めるように頭を撫でると、いつか動物の時に見せた、優しい笑顔になった。

 

「…えへへ」

 

 私に頬を擦り付ける狐火鴉に和みつつ、片手で羨ましそうに見ていた白蛇を撫でる。どいつもこいつも可愛いな…まったく。その可愛さを分けてくれ。

 

「…あれ?」

 

 ふと、白蛇に違和感を感じる。発光している上、感触が変わった。狐火鴉も動きを止め、白蛇を凝視する。いや…まさか……!?

 

『……ぁあ?』

「これは…もうすぐだ」

 

 燐が白蛇を見つめながら呟く。妖怪化する瞬間を…初めて見られるのだ。

 

「…んぅ?」

 

 白蛇が激しく発光する。どこぞのモンスターの進化のように、光輝く。私が撫でていた体は、まるで掌のような柔らかい感触に…いや、私が触れているのは掌そのものか。

 発光が止み、残されたのは変わらぬ私達四人と姿と、無表情で佇む純白の少女。その肌は何より白く、瞳は深紅に輝いている。やはりアルビノだったか。

 佇む少女の頭を撫でると、ニコッと笑った。なにこれかわいい。

 

「…とりあえず、服着ようか」

 

 私がそういうと首をかしげる旧白蛇。確かに、動物は基本全裸だから別にいらないかも知れないけど…妖怪化した以上服を着ていただかないと、非常に目のやりどころに困る。

 溜め息混じりに能力を発動、応急処置で純白のワンピースを着せておく。白には白で。

 

「ぁ…ぁ……喋れる…?」

「んむ、喋ったね。とりあえず…おめでとう?」

「…ありがとう?」

 

 生まれながらにして言葉も使えるのは、妖怪だからか、それとも普段私達が使っている言葉を聞いているのか…意外にも、動物たちは私達を見ているのだな。

 

「…この子の名前はどうするの?」

「あたい達が決めるのかい?」

「いや、別にこの子が嫌なら…」

「狼戈が決めて?」

 

 名指しですか。私が決めろということですか。

 白蛇に名指しされ、色々な名前を探し出していく。変な当て字は嫌だし…

 

 迷いに迷って十分後、やっと纏まった。この子の名前は…

 

白音 己嵐(しろおと みらん)。どう? 音は私からのプレゼント」

 

 白は、文字通りこの子の体の色から。音は、私の名字からそのまま。

 己は、蛇を表し、嵐は…格好良く、ね。

 

「己嵐…己嵐…? うん、良い名前」

 

 高評価をいただけて何より。命名なんて初めてするから不安だけど…

 

「…ま、細かい事は明日にして。寝ようか」

「ああ、お休み」

「…お休み」

 

 二人分の声が聞こえないが、どうやらもう寝ているらしい。早い。

 …ずっと私を抱き締めてくる己嵐どうすればいいかね。

 

 

 

 

「さて、椛のところにでも行きますかねぇ…」

 

 午後三半。何時もの如くお菓子を配り終え、下駄を鳴らしつつ廊下を歩く。

 己嵐は現在、さとりと色々話している最中の模様。妖怪としてはまだまだ子供だから、色々と教えなくっちゃここでは暮らせない。ま、私みたいにほぼ働いてない妖怪もいるけれど。

 

 時々すれちがう妖怪達に会釈しつつ、たまにはゆっくりと、歩いていくのだった。

 

 

 

 

 睨み合う二匹の狼。互いに構える刀は、鈍く月光を照り返している。

 互いに雑念は捨てる。手加減もいらない。今は友達でも何でもない、敵として。

 

 死合の発端は、椛と私の拙い会話から。椛曰く、本気で戦える相手が私位しかいないらしい。天狗自体、決して弱い存在ではない。というか鴉天狗等は自分より強い者と戦うのを嫌い、戦ったとしても決して本気を出さない。椛が私を選んだ理由は、”自分よりも強く、信頼出来る„から。天狗の本気…見せて貰うとしようか。

 

「…行くぞ、椛」

「…いつでもどうぞ」

 

 私の口調が変化しているのは威圧でも何でもない。無意識だ。

 疾風の如く地を蹴る。振り抜くはずの刀は刀で止められ、火花を散らす。それぞれの妖気が干渉し、ちりちりと音をたてた。やはり、妖気を纏わぬ素での突進は破られるか。

 一度跳躍し、距離を離す。足に妖気を込め、更に足裏で凝縮させる。正真正銘…“この姿での”全速力だ。

 妖気の爆発と地を蹴る勢いで急加速。音速を越えて、光すら凌駕し…背後で再度妖気を爆発させて威力を殺し、そのままがら空きの背中を切り付ける。あの速度のまま手加減抜きで切る程、私は無慈悲にはなれない。

 

「あぐぅぅ…っ!!」

 

 悲鳴を漏らす椛に距離をとる。追撃? 出来る訳がない。やっぱり大事な友人に…

 

「…本気じゃないですよね」

「…え?」

 

 鋭く私を睨み付ける椛。そこに普段の穏やかな瞳はない。私に…手加減するなというのは…

 

「…本気で来てくださいよ。こんなの、死合じゃありません」

「で、でも…がはっ!?」

 

 油断していた私の腹を、椛の一本下駄が貫く。受け身もとれず大きく吹き飛び、岩壁に激突する。腹と背中に激痛が走り、血を吹き出した。

 

「…わかった。本気で…」

 

 ーー死んでも知らないから。

 

 心を鬼にし、手首に牙を当てる。今は夜…満月に照らされる山の中。此処は…私の独壇場。

 

 牙で自分の体を切り裂く。それを引き金に“宿す„を暴走させる。淡い発光の後に残るのは、人狼ではない。漆黒に染まる、紅い瞳の大狼。その口には、巨大な剣を携えて。

 

「なっ……!?」

 

 驚愕を浮かべる椛。それもそうだ。これはあの時の藍以外に見せていないのだから。

 

『ガルルル…』

「ろ、狼戈…」

 

 一瞬迷ったような表情を見せる椛だったが、即座に首を振って雑念を振り払った。この能力は…加減が出来ない。妖気は全開、身体能力等も限界まで引き出す。四足歩行の練習は戸惑ったが、練習する迄もなかった。まあ、藍を連れて逃げる時も使ったし、本能的に身に染み付いているのだろう。

 私が仕掛けるより早く、椛が地を蹴る。下駄が悲鳴を上げる程の力とスピード…それもそうだ。鴉天狗が空なら…白狼天狗は地上の天狗。そのスピードは尋常じゃない。

 

「…~~ッ!!」

 

 ーーだが、それでも私のスピードに追い付けない。

 

 刀を強く弾き飛ばし、飛び掛かって来た椛を思いきり地面へ叩きつける。肉球がクッションになっているため、打撃でのダメージはそこまではない。主なダメージは叩き付けられた衝撃と先程の斬撃。声にならない悲鳴をあげる椛に、ゆっくりと前肢を引く。

 

「がはっ…ぐっ…は…」

『・・・・・・』

 

 悶絶する椛に改めて前肢を乗せ、ゆっくりと妖気を流し込んでいく。背中の傷を治癒させ、痛みを和らげていく。

 

「うぅ……」

 

 視線で動くなと伝え、暫くの間妖気での治癒を続けていく。五分もすれば傷は完璧に治り、後は痛みを我慢して貰うだけだ。流石に、痛み迄完璧に治せない。

 

「私じゃ…敵わないや…」

『……?』

 

 座り込む椛。ゆっくり近付き、椛を囲うように丸くなる。尻尾で包み、モフモフ状態。ごろごろと喉を鳴らす私に、椛が苦笑した。

 

「…やっぱり狼戈なんだね。暖かい…」

『~♪』

 

 うとうとし始める椛。それにつられ、段々と眠くなってくる。

 

「…ふふ、お休み。狼戈」

 

 椛の言葉にがうと一鳴き、私も目を瞑ったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。