黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
▼オリキャラ登場注意▼
オリキャラはこれがラスト。もう増えない。
「あの、ちょっと、うぐ…」
「……人気だねぇ」
この子はかなり可愛いのだけれど、加減というものがわからないのか…痛い。今私が悲痛な叫びをあげているのは、白い大蛇が私に巻き付いていることが原因。首から下は全部巻き付かれているため身動きが取れない。ちょっと前まで、あんなに小さかったのに。もしかして、この子の妖怪化はこんな風なのか? 巨大化…そして妖気。いや、可愛いけどさ…円な瞳に細い瞳孔とか。
「人気とかじゃなくって、ちょっと助け…もう。ほら、離して」
私がそう告げると、素直に離れる白蛇。私の言うことをしっかり聞いてくれる辺り、また…なつかれてるんですか、私。なんでこんななつかれるんですか。
「もう。変なことするとご飯あげないよ?」
『!?』
それだけは…!! と懇願してくる白蛇。まあ、そんなことはしないけども。代わりにお前を食わせろとか言われて食われたら笑えないし、実際それが有り得るから。
白蛇を枕に、何時もの四人で談笑する。白蛇が私にしか巻き付かない為、泣きそうになるのはご愛敬。可愛いけど…ちょっと加減して欲しい。痛いんだ。
「…狐火鴉もいつの間にか居たよね」
「私ですか? そうですね…あんまり記憶がないです。狼戈さんの事位しか」
「…なんで私なのかね」
「え? 私、頻繁に狼戈さんに撫でて貰ってましたよ?」
そうは言われても、適当に撫でていたりした記憶しかない。確かに狐は好きだから、撫でてはいたけど…そんな頻度ではないはずだが…?
「…妖怪になって、狼戈さんと話せるのは嬉しいですけど…
撫でられなくなってしまうのはちょっと残念です…」
…これは遠回しに撫でろと言っているのか。そうだな、そうに違いない。
「…おいで、狐火鴉」
その言葉を聞くなり、満面の笑みで飛び付く狐火鴉。抱きつく狐火鴉の頭…ではなく、尻尾を撫でる。触れた瞬間ビクッと体を震わせ、ゆっくりと私の顔に視線を合わせる。
「撫でるって言っても…何処かは言ってないよね?」
「い、いやです…きゅぁぁ…」
完璧なる脱力モード。適当に撫でた後に、手を離す。ジト目で睨んでくる狐火鴉を宥めるように頭を撫でると、いつか動物の時に見せた、優しい笑顔になった。
「…えへへ」
私に頬を擦り付ける狐火鴉に和みつつ、片手で羨ましそうに見ていた白蛇を撫でる。どいつもこいつも可愛いな…まったく。その可愛さを分けてくれ。
「…あれ?」
ふと、白蛇に違和感を感じる。発光している上、感触が変わった。狐火鴉も動きを止め、白蛇を凝視する。いや…まさか……!?
『……ぁあ?』
「これは…もうすぐだ」
燐が白蛇を見つめながら呟く。妖怪化する瞬間を…初めて見られるのだ。
「…んぅ?」
白蛇が激しく発光する。どこぞのモンスターの進化のように、光輝く。私が撫でていた体は、まるで掌のような柔らかい感触に…いや、私が触れているのは掌そのものか。
発光が止み、残されたのは変わらぬ私達四人と姿と、無表情で佇む純白の少女。その肌は何より白く、瞳は深紅に輝いている。やはりアルビノだったか。
佇む少女の頭を撫でると、ニコッと笑った。なにこれかわいい。
「…とりあえず、服着ようか」
私がそういうと首をかしげる旧白蛇。確かに、動物は基本全裸だから別にいらないかも知れないけど…妖怪化した以上服を着ていただかないと、非常に目のやりどころに困る。
溜め息混じりに能力を発動、応急処置で純白のワンピースを着せておく。白には白で。
「ぁ…ぁ……喋れる…?」
「んむ、喋ったね。とりあえず…おめでとう?」
「…ありがとう?」
生まれながらにして言葉も使えるのは、妖怪だからか、それとも普段私達が使っている言葉を聞いているのか…意外にも、動物たちは私達を見ているのだな。
「…この子の名前はどうするの?」
「あたい達が決めるのかい?」
「いや、別にこの子が嫌なら…」
「狼戈が決めて?」
名指しですか。私が決めろということですか。
白蛇に名指しされ、色々な名前を探し出していく。変な当て字は嫌だし…
迷いに迷って十分後、やっと纏まった。この子の名前は…
「
白は、文字通りこの子の体の色から。音は、私の名字からそのまま。
己は、蛇を表し、嵐は…格好良く、ね。
「己嵐…己嵐…? うん、良い名前」
高評価をいただけて何より。命名なんて初めてするから不安だけど…
「…ま、細かい事は明日にして。寝ようか」
「ああ、お休み」
「…お休み」
二人分の声が聞こえないが、どうやらもう寝ているらしい。早い。
…ずっと私を抱き締めてくる己嵐どうすればいいかね。
▼
「さて、椛のところにでも行きますかねぇ…」
午後三半。何時もの如くお菓子を配り終え、下駄を鳴らしつつ廊下を歩く。
己嵐は現在、さとりと色々話している最中の模様。妖怪としてはまだまだ子供だから、色々と教えなくっちゃここでは暮らせない。ま、私みたいにほぼ働いてない妖怪もいるけれど。
時々すれちがう妖怪達に会釈しつつ、たまにはゆっくりと、歩いていくのだった。
▼
睨み合う二匹の狼。互いに構える刀は、鈍く月光を照り返している。
互いに雑念は捨てる。手加減もいらない。今は友達でも何でもない、敵として。
死合の発端は、椛と私の拙い会話から。椛曰く、本気で戦える相手が私位しかいないらしい。天狗自体、決して弱い存在ではない。というか鴉天狗等は自分より強い者と戦うのを嫌い、戦ったとしても決して本気を出さない。椛が私を選んだ理由は、”自分よりも強く、信頼出来る„から。天狗の本気…見せて貰うとしようか。
「…行くぞ、椛」
「…いつでもどうぞ」
私の口調が変化しているのは威圧でも何でもない。無意識だ。
疾風の如く地を蹴る。振り抜くはずの刀は刀で止められ、火花を散らす。それぞれの妖気が干渉し、ちりちりと音をたてた。やはり、妖気を纏わぬ素での突進は破られるか。
一度跳躍し、距離を離す。足に妖気を込め、更に足裏で凝縮させる。正真正銘…“この姿での”全速力だ。
妖気の爆発と地を蹴る勢いで急加速。音速を越えて、光すら凌駕し…背後で再度妖気を爆発させて威力を殺し、そのままがら空きの背中を切り付ける。あの速度のまま手加減抜きで切る程、私は無慈悲にはなれない。
「あぐぅぅ…っ!!」
悲鳴を漏らす椛に距離をとる。追撃? 出来る訳がない。やっぱり大事な友人に…
「…本気じゃないですよね」
「…え?」
鋭く私を睨み付ける椛。そこに普段の穏やかな瞳はない。私に…手加減するなというのは…
「…本気で来てくださいよ。こんなの、死合じゃありません」
「で、でも…がはっ!?」
油断していた私の腹を、椛の一本下駄が貫く。受け身もとれず大きく吹き飛び、岩壁に激突する。腹と背中に激痛が走り、血を吹き出した。
「…わかった。本気で…」
ーー死んでも知らないから。
心を鬼にし、手首に牙を当てる。今は夜…満月に照らされる山の中。此処は…私の独壇場。
牙で自分の体を切り裂く。それを引き金に“宿す„を暴走させる。淡い発光の後に残るのは、人狼ではない。漆黒に染まる、紅い瞳の大狼。その口には、巨大な剣を携えて。
「なっ……!?」
驚愕を浮かべる椛。それもそうだ。これはあの時の藍以外に見せていないのだから。
『ガルルル…』
「ろ、狼戈…」
一瞬迷ったような表情を見せる椛だったが、即座に首を振って雑念を振り払った。この能力は…加減が出来ない。妖気は全開、身体能力等も限界まで引き出す。四足歩行の練習は戸惑ったが、練習する迄もなかった。まあ、藍を連れて逃げる時も使ったし、本能的に身に染み付いているのだろう。
私が仕掛けるより早く、椛が地を蹴る。下駄が悲鳴を上げる程の力とスピード…それもそうだ。鴉天狗が空なら…白狼天狗は地上の天狗。そのスピードは尋常じゃない。
「…~~ッ!!」
ーーだが、それでも私のスピードに追い付けない。
刀を強く弾き飛ばし、飛び掛かって来た椛を思いきり地面へ叩きつける。肉球がクッションになっているため、打撃でのダメージはそこまではない。主なダメージは叩き付けられた衝撃と先程の斬撃。声にならない悲鳴をあげる椛に、ゆっくりと前肢を引く。
「がはっ…ぐっ…は…」
『・・・・・・』
悶絶する椛に改めて前肢を乗せ、ゆっくりと妖気を流し込んでいく。背中の傷を治癒させ、痛みを和らげていく。
「うぅ……」
視線で動くなと伝え、暫くの間妖気での治癒を続けていく。五分もすれば傷は完璧に治り、後は痛みを我慢して貰うだけだ。流石に、痛み迄完璧に治せない。
「私じゃ…敵わないや…」
『……?』
座り込む椛。ゆっくり近付き、椛を囲うように丸くなる。尻尾で包み、モフモフ状態。ごろごろと喉を鳴らす私に、椛が苦笑した。
「…やっぱり狼戈なんだね。暖かい…」
『~♪』
うとうとし始める椛。それにつられ、段々と眠くなってくる。
「…ふふ、お休み。狼戈」
椛の言葉にがうと一鳴き、私も目を瞑ったのだった。