黒狼狐己録 -Life Harboring-   作:ふーか

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遅れてしまい、申し訳ありません。
唐突ですが、質を上げるために、更新を最遅三日に一度に変更します。

また、BAD END短編予定でしたが、急遽日常短編に変更。
飽きたという方も、寛大な目で見ていただけると嬉しいです<(_ _)>


~とある二日間~

「コスプレ大会?」

 

 水の音が響く厨房。夕食に使われた皿を洗う最中、興奮気味の燐が頷く。興奮気味と言っても、昨夜彼女が本性を現した時よりマシである。今日一日酷かった。昼位までまともに立てなかったし。

 

「は、はぁ…なんでまた急に?」

「狐火鴉が立案なんだけどね。さとり様も、たまには弾けていいじゃないかって」

 

 …貴女、昨晩に弾けてましたよね。私弾かれましたよ? 今も動けば快楽に襲われてますよ?

 最初はあんなに恥ずかしがってたのに、どいつもこいつも…

 

「…あんまり乗り気じゃないみたいだねぇ?」

「う~…自分を可愛いなんて思ってないし…」

「狼戈が可愛くなかったらあたいはどうなるんだい?」

 

 いやいや、貴女が可愛くなかったら誰が可愛いって言うんだ。流石に言い過ぎだろう。

 

「燐が私を誘いたいっていうなら…」

「よし、決まりだね。じゃ、あたいは準備してくるよ」

 

 私の返事も聞かず、去っていってしまった。あんなにも子供っぽく騒ぐ燐を見るのは珍しい為、嫌な気分はしない。はてさて、どうしようか。コスプレと言われても…

 

 ルール(…?)は単純。他の人物を真似る、または独自に作る。優勝も無ければ負けもない、ただの見せ合い。当然の事ながら、そのまま宴会モードと化していくだろう。ならば、当然の如く誰かを誘う事となる。だが…何時も地底の面子ばかりではつまらない。今回は…あのカリスマ(…?)達を連れて来るとしようか。

 

「勿論、私達も参加していいのだよな?」

「あぅ!? 藍…あのね、いいんだけどね。暴走しないでね」

「保証は出来ないな~♪」

 

 この九尾、誰か止めてくれ。

 唐突に現れて唐突に去っていった藍に失笑しつつ、とぼとぼと部屋へ戻る。一歩一歩、下駄の音が鳴る度に下半身に上半身、全身に快楽が走る。あの火車、どうしてくれよう。もう一日経っているというのに。

 

「コスプレねぇ…私の能力の性質上、誰にでもなれるけどどうしようか…」

 

 宿すと化けるを併用すれば、顔立ちや身長等以外は完璧に化けられる。はて、どうするべきか。燐曰く大会は一週間後の夜に行うらしい。ならば考える時間は十分にある。巫女に魔法使いに吸血鬼…

 

「さあ、狼の七変化を…お見せするとしようか」

 

 

 

 

「こすぷれ大会?」

「うん。他の妖怪達の服装とかの外見を真似したりするの」

 

 黒狼交渉中…

 紅魔館、主の部屋にて。レミリアにコスプレとはどういうものかを刷り込んでいく。無論、捏造も含めて。ああしてこうしてそうしてむふふ。

 

「…フランもきっと喜ぶよ? ね?」

「そうね…たまにはいいんじゃないかしら」

 

 この後数十年先に紅い霧の異変を起こすであろう張本人は、ふふんと鼻高くすまして笑った。誘って貰って嬉しい癖に…素直に可愛いと思えるのは、私より年下だから、だろうか。

 

「じゃ、いいね。六日後の夜に…」

「残念だけど、私は場所を知らないわ」

 

 遠回しに連れていけと言うレミリア。紫の隙間を借りれば早いが…まあ、たまには話しつつ移動するのもよいだろう。フランとも話したいし。

 

「…迎えに来る。では、また今度」

 

 返事も待たず部屋を飛び出し館を飛び出す。あまり詳しくは説明していないが、変なものを着て来たのならそれはそれで一興。楽しませていただくとしよう。

 

 

 

 

「仕事なんか有給とって休みなさい」

「そんな無茶な…それなら文さんに言ってよ…」

「許可とったわ」

「はい!? 準備良すぎないかな!? ったくもう…行けばいいんでしょ」

 

 参加者に鴉と狼を追加せねば。文は取材の為なら何処でも来るだろうし、椛は私が無理矢理連れて行けば万事解決。何故か、私の事が上層部の奴等にああだこうだと言われているらしいが、知った事ではない。どうせ邪魔だとか迷惑だとかの苦情だろう。此方は流浪(仮)の狼。そんなこと知ったことか。

 ちなみにだが、今いるのはとある洞穴。滝の裏とは少し違う場所。

 

「よし、後で迎えに来るね。では、私はこれにて…」

 

 去ろうとしたところで、背後から抱き締められる。頬を擦り付けて満面の笑みを見せる椛に嫌な予感がし、無言でそのまま去ろうとする…

 

「ダメ、逃がしてあげない。泊まってってよ」

「ふぇ!? 私は妖怪の山に住んでる訳じゃないのよ!?」

 

 そんな事はお構いなしにずるずると、洞穴の奥へと引きずっていく椛。抵抗して逃げたいところだが…毎度、思うんだ。美少女共に誘惑されて、断れる訳ないって。

 

「ん…あむ…ふふ」

 

 頬を舐める椛。狼がじゃれているんだと思いたいところだが、彼女が人狼の以上、かなり…恥ずかしいです。しかも、押し倒されて動けないもんだから尚更恥ずかしいです。

 

「ち、ちょっと椛…痛い…よ…」

「えへ、へへ…あむっ」

「にゃぅ!?」

 

 手をかじられた。甘噛みなのか、痛くはない…だが、押し倒した相手の上で、犬のように息を荒げる椛が怖い。主人に甘える犬のよう…なんて例えられればいいが、やはり人狼である以上は…

 

「狼戈~? 食べてい~い?」

「…どっちの意味で、よ」

「ん~と…どっちも~♪」

 

 やべぇ、この子平常心失ってる。何が起きたし。

 一度(無理矢理)どいて貰い、注射器と針を具現化する。採血に関しては既に慣れたもので、場所も粗方理解している。血を抜くと、その辺りに冷たい感触が走るのはなんでだろうね?

 まあいいか、とコップに注ぎ、椛に渡す。勿論、自分の血を飲んでいる姿など見たくもなく、視線を逸らす。喉を鳴らす音がかなり…現実味を帯びていて怖い。

 

「…美味しい」

「お気に召したようなら何より。帰っていい?」

「ダメだよ。二匹で絡もうよ」

 

 完璧にこの子、犬になってるよ。誰か助けてよ。

 不意に口の中を変な感触が襲う。唐突なディープキスに対応出来ず、全身が硬直する。その間も執拗に舌を絡めてくる椛。もう逃げようかと考えるが、今の私は押し倒されている上、尻尾が尻尾に巻きついて身動きが取れぬ状況。つまりは、どうしようもない。

 

「れる…ん…あむ…んぐ…」

 

 荒い息と、喘ぎ声が反響する洞穴の中。結局、その後一日、私が解放されることはなかった。

 

 

 

 

「美味しい…ねぇ、うちの食材にならない?」

「勘弁…して…くだひゃい…」

 

 二日目。参加者はいないかと探し回って夜雀のところに来たのだが、何故か献血するハメになった挙げ句食材にされそうになった。ちなみに、現在進行形の模様。

 

「ん~…私は行けないかなぁ。お店があるし…」

「そっか。じゃ、私は去る」

 

 本当に食材扱いされる前に去ってしまうのが一番である。

 

 巡りめぐって数十分。とある竹林に辿り着いてしまった。丁度いい。あのもんぺに可愛らしいふりふりの服を着せたかったんだ。今も可愛いけど、さ。さて、何処にいるかね。

 

「ん、狼戈、久しぶり。迷ったの?」

「いや…今度ね、ちょっとした大会があるんだけど、来ないかなって」

 

 黒狼説明中…

 レミリアの時と同じように、捏造や偽造を含めて説明していく。やはり意外に乙女なようで、少し恥ずかしそうだがOKを貰った。妹紅が地底に、か…私がいなければ、行くこと等なかったのだろうなぁ…もこたん。

 

「よぉし、後は…もう誘えないや。じゃもこたん、当日迎えに来るね」

「わかった。次にもこたんって呼んだら…焼き狼が出来るわよ」

 

 おお、怖い怖い。

 

 

 

 

 色々と準備を進める中で、刻々と過ぎる時間。気付けば当日になっているという…本来、衣装を自作する為の一週間であり、私には必要のない時間。それでも、誰のものを借りるかとか、記憶を葬って作ってみたりとか、色々としていると、もう猶予は無くなってしまった。私の仕事(融資)として、ご飯やお菓子、果てはワインや酒まで作らなければならなかったため、かなり時間に追われていた。酒系は具現化で妥協したが。

 

「なんでこんなに賑やかに…」

「まぁ、弾けましたね。さとり様は、何かお披露目するんですか?」

 

 ジト目で辺りを見回すさとり。正直を言ってしまえば、私なんかより色々辛いことがあるはずなのに、彼女は暴走なんてしない。私にとって…憧れであり、羨ましくもある…大切な主だ。

 

「私は特に何も…」

「…ふふ、私の能力なら、変えて差し上げますよ?」

 

 あからさまに狼狽えるさとり。恥ずかしがりやの彼女には苦だろうか…? いや、それでも。彼女の雰囲気を…もっともーっと、可愛いものにするために…輝いて貰わなければ。

 

「問答無用です!!」

「え…?」

 

 さとりの衣服に能力を施し、燐のものへと変える。一瞬固まり、その後段々と頬を朱に染めていくさとり。かなり恥ずかしいのか…やっちまったぜ。

 

「…でも、滅茶苦茶可愛いですよ? にゃんって言って…くださいませんか…?」

「~~っ!! に…に……にゃん…っ!」

 

 …大切な主可愛いな、おい。

 

「ぅぅ…もう……っ」

「えへへ~♪ ありがとうございます~♪」

 

 満面の笑みで抱き付き、誤魔化しておく。怒られるのはご勘弁。

 

 冷静になって辺りを見回してみれば、何処から出したと問いたくなるような変な服を着ている者もいれば、浴衣に身を包む者もいる。フランが浴衣なのは心底驚かされた。可愛い。ちなみにレミリアだが…大人びていてもう別人になっているため無視。誰この子。

 

「ん~…あ、もこたん!! うわ…かなり似合うね」

「そう? ふふ、ありがとう」

 

 無礼講なのか、もこたんと呼んでもお咎め無しである。もこたん。

 何故か結構被っているが、浴衣姿の妹紅を舐めるように見た後に再度フラフラと回ってみる。地霊殿の庭のごく一部の為に其処まで広くはないが…

 

「…どちら様ですか? お帰りは彼方です」

「酷い!? 私です!! 狐火鴉です!!」

 

 地面に付いてしまいそうな、純白のワンピース、半透明のヒール、綺麗な長い髪。見たこともない美少女が其処にいたら、誰だと聞きたくなるさ。何、この可愛い娘。しかも、恐らく能力で幼くしている。けもロリ狐。

 

「なんでそんな可愛くなってんの…? 私への報復なの? 勝負なの? 負けた」

「なんか勝っちゃった!? もう、狼戈さん。なんで何時もの服装なんですか」

 

 何故何時もの服装なのかと聞かれても、候補が有りすぎてどうでもよくなったなんて言えない。今すぐにでも化けられるが…どうするべきだろうか。

 

「…ていっ!!」

「にゃう!? 体が縮む…狐火鴉ぁ!!」

 

 何故…何故また幼稚園レベルのロリにならなければならないのだ…!!

 だぼだぼになり、下着が落ちる。上着だけで全身が隠れている状態に…以前もこんな服装になったが…? それはともかく必死に下着を回収し、化ける能力で消す。こんなところに落ちてたら何を言われるかわからない。

 

「えへ…♪ 大丈夫ですよ。超が付くほど可愛いですって…で、では、私はこれで」

「あ、ちょっと待て!! これ治し」

「ろ う か ぁ」

 

 亡霊のような、亡者のような唸り声に背筋がピンと立つ。超が付くほどスローモーションで後ろを見れば、舌をちろりと出し、淫らに微笑む藍の姿。

 さて、今現在、一部の動物たちの顔が赤い。今が春だと言えば、その意味は容易に理解出来るだろう。毎度の如く、発情期である。春一番が吹き始めた頃からお菓子にそっと入れる薬を、今回は入れ忘れた。いっそのこと、今回作った料理に入れておけばよかったぜ。自覚はないが、私もちょっと興奮気味である。良い異性がいたら飛び付いちゃうかもね。

 

「や、やぁ、藍。可愛い服だね…」

「ありがとう。狼戈も、可愛く縮んじゃって…ほら、おいで?」

 

 嫌です。尻尾を広げて如何にも“遊んであげる”といった雰囲気を漂わせる九尾の胸になんか飛び込みたくありません。成る程、一週間前の燐が酷かったのも、発情期だからか。

 

 ーーー発情期の為に性欲を私にぶつけるのやめていただけませんかね!?

 

 だって、ほぼ全員から変な目で見られるんだよ? 美味しそうだったり、可愛いだったり、強いだったり…もう嫌だよ。私普通に過ごしたいよ。

 ちなみに藍の服装だが、胸や股部分を、いつもの青い和装に包んだ、正直言って際どい格好。かなり美少女(少女?)だから、きっとスク水とかかなり似合うんだろうな。

 

「ん~…私はちょっと其処でお披露目が…」

「狼戈が何か見せてくれるらしいぞ~」

「にゃあああ!?」

 

 藍が叫びつつ、私を会場(仮)の中央に投げ飛ばす。ダイナミック顔面スライディングを決めさせられた上に、全員から視線が集まった。皆にとって私が知らない奴だったら、”変なの”で終わっていただろう。だが…此処にいる全員と、顔見知りどころか仲が良いため、何の曇りもない期待の目で見られている。これが侮蔑だったり、差別の目でないだけ、全然マシだけど…

 

「え、えへへ…えっと…」

 

 今更嘘ですなんて逃れる訳にもいかず、ただ乙女座りで固まるばかり。こうさせた張本人はまだかまだかと恐ろしい程の眼差しで此方を見ている。

 

「…やればいいんでしょ、やれば」

「歌なら私もやります~」

「みすちー…来ないんじゃなかったの?」

「えへ、来ちゃった」

 

 騒ぎ出す夜雀。即ち、私に歌えということか。普段鼻唄しか歌っていないから…どうしようか…。

 

「…そうだ、みすちー。何か適当に合わせられる?」

「ん~…まあ、一応」

 

 足に巻かれたオカリナを取り出す。さて、何か訳もわからないけど、久々に演奏会といきましょうか!!

 

 

 

 

「…なん…で……こうな…るの…」

 

 演奏会は大好評のようだった。だが…何故私は着せ替え人形にされているのか。

 着せられては撮られ脱がされを繰り返し、既にへとへとである。際どいものもあるために、視線がかなり痛い。今のところ変な目で見られてはいないけど、時期が時期な為に怖い。

 ワンピースに浴衣にドレス、メイド服に水着にナース。藍や燐に、空だったりさとりだったり、色々な服装を…ふざけんな、何処から持って来てんだよこれ。なんでこんな変態バリの服を着せられなければならないのだ。私は着せ替え人形じゃない!! 取り扱い説明書をしっかりと読め!!!

 

「ふぇ…もう……らめぇ…」

「まだまだですよ~!! 次はこの服お願いします!」

「…文、お前後で潰すからな」

「怖いです!? なんでそんな声のトーンが低くなるんですか!?」

 

 コスプレ大会から私の(を)着せ替え大会に変わったところで、もう色々どうでもよくなってしまった。結局その後、私が自由の身になったのは開始から一時間後。よくもまあ、私の着せ替えだけであんなに楽しめるよ。私はへとへとだけど。

 

「あ、狼戈。ねぇ、私の専属料理人にならない?」

「ふぇ…幽々子の食べる量は私には作れないよ…」

「あら、失礼ね。なら、貴女を食べてもいいのよ?」

「いやいや…え、ちょっと、離し…痛い!? ひや、食べちゃ、らめ…」

 

 もくもくと私をかじり始める幽々子。本気でやってないため痛くはないが、何かこう…精気を吸われている気がする。力が抜けるというか、なんというか…

 全身を散々しゃぶられた後、会場の散策を開始する。幽々子に追い回されているみすちー、ぐでぐてに酔って寝転がっている空(いつも通り)と狐火鴉、楽しそうに美鈴(和服)と話す燐(浴衣)、そして文に絡まれてジト目の椛。見ていて愉快だ。

 

「ん…? フラン、どうしたの?」

「…私、外に出たの初めてなの」

 

 そうか、そういえば…そうだったな。本来なら、紅い霧の異変の後、やっと館の中を彷徨くようになった位だから…迎えに行ったとき、私が誘い出したから、外に出たのだものね。

 

「…どう? 此処はちょっと外とは違うけど…楽しいでしょ?」

「…うん!」

 

 まったく、可愛い子だな…。どうでもよいが、私がロリ化しているのに驚かないのは、迎えに行く前に狐火鴉に悪戯されたが故だ。

 フランがおにぎり(私特性肉入り)を食べ始めたところで、また誰かいないかと探し始める。妹紅は館の中で動物と戯れているし、レミリアは観察モード、咲夜はそれに付き添うばかり。萃香と勇儀はとてもいい雰囲気で、静かに何かを語り合っているため、とても乱入する気になれない。また、紫は珍しく藍と何か話しているし、さとりはいつの間にか現れたこいしと楽しそうに話している。こうも相手がいないと、なかなかに寂しいものだ。ヤマメも、パルスィと酒呑みモード。

 

「…ん、狼戈。お前もちょっとおいでよ」

 

 仕方がなく座り込んで皆の様子を見ていると、意外にも勇儀からお呼びがかかった。邪魔をするのは申し訳なかったが、呼ばれているためにまあいいかと立ち上がる。

 

「…どうしたの? 何か楽しそうに話してたけど」

「いや、色々昔のことをね。ところで狼戈」

 

 不敵な笑みを見せる勇儀。とてつもない嫌な予感が私を襲う。逃げようとしたが、萃香に背後から掴まれた。足を振っても腕を振っても当たらず、ただ顔を近付ける勇儀に戦慄するのみ。

 

「…ちょいと死合に付き合ってくれないかい。あの白狼天狗の時のように」

 

 それは、私に死亡フラグがたった瞬間だった。

 

 

 

 

 地霊殿から離れた広野。睨み合う鬼と狼。静寂が耳を襲う…静かな空間。

 意外に野次馬が多く…というか、ほぼ全員此方に来ている始末。私が人前で、全力で本気の戦闘を見せるのは…これが初か。夢月と幻月の時は、頭が回らなかったのもあり、全力ではない訳だし。陰陽師の時も、全力は妖気だけだし。

 

「勝敗は? どちらかが死ぬ迄とか言ったら逃げるよ」

「そんな訳ないだろう? そうだね、勝負はつかないだろうし…時間制にしようか」

 

 具現化した腕時計は、午前二時を指す。

 

「…午後四時迄。二時間の真剣勝負。どう?」

「よし、いいだろう。開戦の合図は狼戈がやっておくれ」

 

 オカリナや時計、所持品全て狐火鴉に渡す。盃を持たず、仁王立ちする勇儀の姿に圧倒されそうになるが、私とて易々とやられる訳にはいかない。全身全霊をもって、相手をする迄。

 “化ける„と“宿す„を融合して発動する。胸や股を、服のような橙色の竜の鱗が覆う。動きやすさ重視なら、包帯無しで何も着なければいい…ま、全裸なんて勘弁。今の私は端から見れば、竜の少女なのだろうな。体の一部を覆う鱗に、竜の手。竜の耳、細いが頑丈な竜尻尾、そしてかなり細い瞳孔。狼の原型は留めていないが、まあ気にしない。

 さて、この試合…鬼を相手にするとなると。本気で掛からねば、最悪死ぬ。ならば…私も、殺す気で掛からねばならない。未練は捨てる…椛の時は出来なかったが、今回の相手は各が違うのだ。

 

「…いくよ」

 

 私の周りの大気が、ぐにゃりと曲がる。妖気のが盛れ、溢れ、渦巻き、そして…

 

「死なないでね、勇儀」

 

 …爆発する。その妖気と殺気に完璧に唖然とする野次馬たちは放置し、何時ものように足裏に妖気を集める。だが…此処からは完璧にこなさねば、逆に減速する。完璧な動作で、配分で…!!

 地を全力で蹴り、更に爆発させる。蹴った地面は大きく抉れ、巨大なクレーターのような後が出来る。そこから宙を蹴る。宙で更に爆発させ、加速を繰り返す。音速を遥かに凌駕したスピード。それに遅れつつも拳を合わせる勇儀。だが、振り抜いた拳の先に、私はいない。

 

「後ろだよっ!!」

 

 妖気を込めた裏拳を、空いた背中に叩き込む。数十メートルという距離を吹っ飛び、それでも受け身を取る勇儀に苦笑しつつ、構えを取る。次は…そちらが攻める番だ。

 

 弾丸の如く突っ込んで来る勇儀に対応し、必要最低限の動きで避ける。連続で、物凄いスピードとパワーで振り抜かれる拳を紙一重で避けつつ、反撃の機会を窺う。

 

「…隙あり!!」

 

 勇儀の言葉の意味がわからず硬直するが、次の瞬間走る痛みに、遅れて感じる重力と風。腹を打ち抜いた拳は、強く抉り、私を吹き飛ばした。完全に吹き飛ばされる前にと地面に竜の尻尾を突き刺し、ブレーキを掛ける。その反動で一回転し、ブーメランのように勇儀に突っ込み、拳を振る。振られた拳は拳とぶつかり、異常なまでの衝撃波を辺りに撒き散らす。身構えていなかったのか、橙が軽く転がっていくのが見えた。ごめん、あとで遊んであげるから。

 

「成る程、やはり一筋縄ではいかないらしい」

「ふふ、当たり前よ。狼の本気、見せてあげる」

 

 振り抜かれる拳。飛び散る血痕。美しい争いは、時間を越えて続いていくのだった。

 

 

 

 

「あ~…疲れた…」

「何処がだい…なんであんなに妖気を振り撒いてまだ平気なんだ…」

 

 少し疲労の色を滲ませる勇儀。私は全身が痛む程度で疲労はない。妖気も余裕である。というか、勇儀姐さんの一撃一撃が重すぎる。モロに食ったら肩から先が吹っ飛ぶってどういうことよ。お陰様でこけしみたいだよ姐さんめ。

 

「疲労より、腕がないとか勘弁してよ。片腕でどう料理するのよ」

「それはお互い様だろう? 私だって、四肢全部吹っ飛ばされるかと思ったよ」

 

 そう抗議する勇儀は、片足片腕が無い。戦闘の爪跡は両者だけではなく、広野にも残っている。クレーターや、焼け焦げた後だったり。ちなみに吹っ飛んだ私の腕だが、何処かの誰かが食べたらしい。誰かは聞いていないけど、思いっきりぶん殴りたい。周りに誰もいなかったし、集まった面子の中なのだろうな。

 

 戦闘は、時間切れで終わった。三時間に渡って続いた戦い…勇儀曰く、あと一時間戦っていたら負けてたらしいが、お世辞にしか聞こえない。私が勝てる訳ないだろう…何発食らったんだ私。

 

「狼戈の一撃は重すぎる。特に足技だよ。骨が砕ける」

「勇儀に言われてもお世辞にしか聞こえないんだよねぇ…」

「お世辞なんて言わないさ。本当のことを言ったまで」

 

 微笑む勇儀に、偽りの色は見えない。元々嘘を嫌う鬼に、お世辞だのと言うのは失礼なことなのかも知れない。されど、それが本当の事だとは到底信じられない。

 

「あれほど迄に強いとは…思わなかったわ」

 

 隣で寝転がるさとりが呟く。今回も以前のように、地霊殿に泊まろうという話になった訳だ。机も荷物も全部退かし、全員詰め込む事が出来た(藍や幽々子、みすちー達は何故か帰ってしまったが)。元々、一部を除いてロリ…いや、少女しかいないため、あまりスペースを取らないのだ。だが正直に言えば、文やレミリアの翼がかなり邪魔である。フランは許す。

 

「…まあ、私の妖気って普段隠れてますし、ね」

「その癖、夜は完璧に受けだけどね」

「…もみじぃ? 此処に媚薬があるよぉ?」

「なんで今持ってるの!?」

 

 コントが繰り広げられる部屋の中。それぞれが誰かと駄弁る和やかな空気。ただ、何故か椛が私にくっついており、狐火鴉からは嫉妬らしき視線が送られている、なにこれ、二等辺三角関係? いや、それだとおかしいか。

 

「ろ~お~か~♪」

「ぐはっ!?」

 

 おまけに空が飛び付いて来た。毎度のことだが、何故か寝るときは私にくっついて来る。暖かいのだろう。つまり私は暖房狼です。

 

「…狼戈様!!」

「ぐふっ!! 橙…帰らなくてよかったの?」

「狼戈様と一緒なら大丈夫です♪」

 

 …違う、違うんだ。君が一緒にいるべきなのは藍なんだよ。

 

 磁石のように飛び付いてくる妖獣達。おまけに吸血鬼や、目を閉じたさとり妖怪まで来る始末。私は…私はいったいなんなんだ。君らは樹液に惹かれる甲虫か。

 

「なんか…コスプレなんてまったくしてなかったね」

「皆とっても可愛かったですけどね。妹紅さんとか、かなり美しかったです」

「藍とか際どかったけどね」

「呼んだか?」

 

 気付けば目の前にいる藍。もう最近驚かなくなってきた。何時も通りの和服に安心しつつ、壁を背に座る藍の隣に座る。妖獣達を、押し退けて。

 

「ねぇ、藍。藍って、何の動物が好き?」

「私が? ん~…猫とか、黒い狼とか」

 

 …どう考えても、候補がそれぞれ一匹しかいないです。

 

 とりあえず、と。化けるを発動させて橙の衣服に転換、宿すで化け猫の力を宿す。黒い狼の尻尾は猫のものとなり、尻尾は細い二又のものになった。反応するフランや橙達に、気付けば視線が集まる。よく考えれば、地霊殿に住む面子だったり、八雲家や鬼でもなければ、私の能力は晒していないか。

 

「…ふふ、まだまだいくよ…!!」

 

 深夜テンションのまま、萃香の姿へと転換し、宿す。正直、私に其処まで似合うとは思わない。じゃらじゃらする鎖を振るように、ぴょんぴょんと跳び跳ねていると、萃香が近付いてきた。

 

「…そっくり」

「…そっくり。次は…」

 

 よくわからないが、さとり妖怪の力を宿す。第三の目…はないが、代わりに片目の色が変わった。相手の心が…読める…? そのまま衣服も化け、さとりなう。

 

「どうですか? さとり様。心、読めますよ」

「…狼戈、貴女何処まで強いの?」

「ごめんなさい。わかりません」

 

 次だ次だと宿すを消し、妹紅の姿へと転換する。ピンクの髪にもんぺ。私の身長的に、正直似合うかと言われればあまり…そのまま妹紅に飛び付く。飛び付かれた妹紅は、一瞬驚愕を浮かべた後に微笑み、頭をぽんと叩いた。いつの間にか全員の視線が集まっている上、私のテンション的にもう止められない。

 

「ん~次は…文!!」

「…一枚撮ってもいいですか?」

「どうぞ~♪ んと、次は、えっと…フラン」

 

 吸血鬼の力を宿す…とは一言に言っても、フランとレミリアを比べてわかる通り、翼だったりに変化がある為、想像する際には色々と工夫がいる。フランを抱きしめ、文の持つカメラにピースサインを送る。レミリアから一瞬だけ嫉妬的な視線を感じた。何故だ。

 

「いやはや、可愛いね…」

「ですね。このまま、深夜テンションで襲っていいのかなぁ…」

 

 ふざけんな、そこの狐。

 

「…もう、皆私を何に見てるのさ」

「ん~…可愛い妹って感じかな」

「もこたん…」

 

 もこたんに私は妹的存在に見られているらしい。リアル妹の吸血鬼が隣にいるよ。

 

「優しくて可愛い狼、って感じだね」

「そういうヤマメも、充分可愛いし優しいからね」

 

 何故か顔を赤くするヤマメ。どちらが可愛いと言ったら余裕で彼女だろ、これ。

 

 その後全員に散々いじられた挙げ句、深夜テンションの狐火鴉に能力を使われ、藍に連行され、空に飛び付かれの大惨事と化した。私、これ泣いていいと思うんだよ、ねぇ。

 現に、今も私が圧し潰されている。九尾や猫に、狐の尻尾、更には翼に小さい手。美少女共に四方八方囲まれて、私はいったいどうすればいい。百合が満開だよこの野郎。

 

「密集…しすぎ…苦しいよぉ…」

「えへへ~…狼戈ちゃん可愛いなぁ…」

 

 誰か、この鴉退かしてくれ。

 頬を擦り付け撫でて包んで舐めてかじってと好き放題やり始めた空に諦めて身を委ねつつ、辺りを見回す。時間が経っていることもあり、妹紅や咲夜、さとりに橙、パルスィ等、結構な面子が寝てしまった。起きているのは狐火鴉と空、燐にヤマメと椛。あれ? 何か、この時間帯地味に嫌な方たちが起きているのですが。

 椛を枕にしつつ、ヤマメに枕にされつつ、起きてる面子の話を盗み聞きしつつ…

 

「…ねぇ、狐火鴉。私いつまでこの状態でいればいいの?」

 

 私の体は縮んだまま。狐火鴉の能力は、発動されたまま解けていない。

 

「出来ればずっと…いや、冗談です。その握り拳を下げてください」

 

 この狐め。

 

「まぁ、この狼戈も可愛いからいいでしょ♪」

「そうだね…元々幼女にしか見えないし、別にいいんじゃないかい?」

 

 誰か、この狼と土蜘蛛どうにかしてください。もう何度目だよこれ。

 

「でも、この方が反応は可愛いですよ? ほら」

「きゃっ!? ちょっと、何す…る……」

 

 集まる淫らな視線に戦慄しつつ、逃れようにも私を枕にしていたヤマメが、私を抱き枕のように抱き締めたため、逃げるに逃げられなくなった。いつも毎度無理矢理唐突に強制的に…!!

 

「私が責任を持ってお持ち帰りするとしようか」

「いえいえ、私が連れて帰ります。首輪とか…」

「私の能力でこうなってますし、私がお持ち帰りします」

 

 首輪ってなんだ首輪って。狼だからってそんなのいらないよ。ていうかお前も狼だろ椛。狐火鴉はとっととこれ治せ。

 

「あたいは…まぁ同棲だし…」

「む~…たまには我慢…」

 

 うん、お空。我慢するところはそこじゃないよ。普段から我慢してよ。

 

 戦争を始めた狼と狐と土蜘蛛に冷めた視線を送りつつ、うつらうつらし始めた空を寝かしつける。子守唄。

 結局、その後空が寝たのが数分後、燐と狐火鴉が普段の生活ペース故か寝てしまい、ヤマメと椛、私が残る。狐火鴉の能力は消えることなく…何故か、起きていた方が私と(一方的に)遊ぶと言うルールが出来ているため、私は必死に逃げようとしている訳だが、私は幼くなると妖気等扱えない。脚力はあるものの、私を抱き枕にするヤマメの力には敵わないのだ。

 

「…もう、そろそろ離してよ…」

「嫌だよ。狼戈が可愛すぎるからいけないんだよ~?」

「君等の方がかなりの美少女でしょ!? …なんで揃って赤くなるのさ!!」

 

 まったく、発情期の動物共は…

 

「ともかく、離してって。私は抱き枕じゃないんだよ?」

「離したら逃げるだろう?」

 

 完璧に図星のようだ。ああ、私は、きっと長くは生きられないのだろうな。

 

「…ひっ!? な、舐めないっ、で…」

「ヤマメさん、私の狼戈悪戯しないでください」

 

 …今わたしのって言った? この狼。

 と、ここに来て、眠魔に負けたのか椛がふらふらし始めた。余命宣告を告げられる時のような感覚に襲われつつも、寝るなと視線で脅す。が…どうにも効果は薄かったようだ。

 

「…さて、狼戈。行こうかい?」

「うぐっ!? いやっ、ちょっ、やめ」

 

 可愛い寝顔で寝息をたてる椛を、涙目で睨み付けながら、私は連行されるのだった。

 

 

 

 

 一人部屋。最近、この部屋にトラウマが出来そうだ。というか…毎度毎度、なんでこんな目に…。今更、体質のせいだ私のせいだととやかく言うつもりなどはないが、どうにか出来ないか。それが今の私の問題だ。“耐える„だの“我慢する„だの…おい、根本的な問題が解決していないぞ。

 とにかく、反応しない、事の発端になるような言葉を言わないとか…まったく出来ていないというのが現状。どうにか出来ないだろうか…もう、根本的に何も出来ない。

 

「ね、ねぇ、ヤマメ? その、話でもしようよ。ほら、ちょっと…」

「ん~? なんだい? お話なら幾らでもしてあげるよ?」

 

 そう言いつつも、蜘蛛の糸を広げる土蜘蛛。私色々な意味で被食者だと思う。

 

「その…犯す事ないでしょ? ほら、日常的な会話とか…さ?」

「それなら何時でも出来るさ…ほら、おいでよ」

 

 捕食者特有の笑みを見せ、誘い込むヤマメ。ここで無理矢理やらない辺りが、本当に意地悪だと思う。無理矢理犯して来る輩より質が悪い。入り口は蜘蛛の糸で塞がれているし、ヤマメ自身は、私が行かない限りは夜が明けても私を解放しないだろう。以前の事もあり、積極的に誘う事はしないが、やはり…妖怪は欲には逆らえないようだ。

 

「…来ない? 私と遊ぶのは嫌かい?」

「嫌とかそういうのじゃ…ひっ!?」

「なら………いいだろう?」

 

 一瞬の内に巻き付く糸。私の力では引きちぎるどころかもがくことすら出来ない。無抵抗なままにベッドの上に寝かせられる…糸はほどかれたが、逃れることはできない。

 

「…狼戈の匂いって、なんでこう甘くて…美味しそうな匂いなんだろうねぇ…?」

「…え、え? え…ヤマメ、まさか…」

「えへ、いただきま~す♪」

 

 馬乗りになり、口を近付けるヤマメに目を瞑る。無抵抗というか、抵抗が出来ない私には、どうすることも出来ない…

 だが、いつまでたっても痛みは感じない。代わりに、襲ってきたのは快楽。不意なことに咄嗟に身を捩るが、土蜘蛛の抱擁により、身動きひとつとれなくなってしまった。その抱擁ひとつで骨が悲鳴をあげるのをわかってやっているのか、ヤマメは淫らに微笑むばかり。

 囚われた狼は、土蜘蛛に吸われ、かじられ、掻き回されて、舐められて。

 妖艶で淫らな時間は、夜が明けるまで…ずっと続いていくのだった。

 

「もう…らめらよぉ……ひゃぅ…」

「ふふ…大丈夫だよぉ? ほら、もっと…♪」

 

 …誰か助けてくれ。

 

 

 

 

「う~…うー☆…うわぁぁ…」

「ど、どうしたの? 泣いてるけど…」

 

 お風呂場にて。もう…夜が怖いよ。夜行性なんて知らないよ。何処に行っても夜が地獄だよ。迷いの竹林にでも逃げたら…いや、そうじゃない。もし逃げても、きっとうどんげとかが豹変するに決まってる。もう私、生きていけない。幻想郷怖い。

 

「もう、私一人で隠居しようかなぁ…」

「まだ若いんだから、変なこと言わないでおくれよ」

 

 そういう燐はどうなんだと問いたいところだが、とりあえずは湯槽に浸かってしまおう。

 

「ん~…妹紅。今度遊びに行ってもいい?」

「竹林に? 好きな時においで。私は何時でも暇してるから」

 

 本音を言うと、彼女と一度戦ってみたい。炎を操る者同士…何かこう、惹かれるものがある。彼女の首のない不死鳥に…少し憧れを抱いて。宿すと私の呪術を併用すれば、不死鳥そのものになることも出来る。…この千年余りの時を経て、段々と私の思考は妖怪のものになっているのかも知れない。以前と比べれば好戦的になった、というのもあるが、能力を除けば人間である妹紅に興味が湧いてしまうのは、妖怪故の性だろうか。希に…希にだが……人間が美味しそうに見える。同棲の…妖怪さえも。狼という種族な以上、私は…私は……

 

「…さて、後で恒例の私の手作りご飯でもご馳走しましょうか」

「あ、私も手伝う!!」

「じゃ、お空。デザート作り手伝ってね。燐も狐火鴉もね」

 

 巻き添えを食らった二匹が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているが、気にするもんじゃない。狐火鴉に関しては当然の報いだ。結局朝まで犯され尽くされたわこの野郎。

 

「…文? まさかカメラとか持ってないよね」

「いやいや!? 流石にこんなの撮りませんよ!?」

 

 ま、幼女達の裸なんか撮ってたら変態だわな。この変態め。

 

「…はぁ。まぁいいわ。もう…沈んでていいかしら」

「ひゃっ!? 狼戈さん!? 沈まないでっ!! まだ死んじゃだめぇぇ!!」

 

 狐火鴉。大丈夫。もう精神的に死んでるから。

 

 

 

「ご馳走様。また来るね」

「んにゃ。また誘いに行くよ」

 

 長いのか短いのかわからない準備を経て行われた大会。結局、私が泣いて終わった気がするが、それなりに楽しかったし問題はないだろう。吸血鬼達のこともあり、巡りめぐってまた夜になってしまったが…問題ない。さとりも結構楽しそうだったし、久々にゆっくり全員と話し込めた。橙は先程帰っていったが。地上に送らねばならぬのは…紅魔館一行と、妹紅に椛とか。勇儀やパルスィは、近いから問題ないだろう。文? 誰それ。

 

「…さて、私は地上まで送って行きましょうかね」

「…あ、じゃあ私が…痛いっ!?」

「椛と文は元から早いでしょ。私が乗せる必要はないわね」

「え? 乗せるって…」

 

 さとりにすら見せていない“暴走させる"。椛と藍にしか見せていなかったが、勿体ぶるものでもない。晒してしまおうかね…

 

 宿すで九尾の力を宿し、且つそれを暴走させる。其処に見えるは巨大な九尾。黄金色の尾をなびかせ、優雅に佇む。九尾…藍が目を真ん丸にしているが…私が見せたのは宿すを使っていない時の暴走。つまり、この姿は誰も見ていない。椛も藍も唖然としている時点でお察しだ。

 

「狼戈…お前いったい…」

『ふふ…さ、乗って』

 

 最も、私が言った言葉は誰にも通じていないだろう。

 

「…乗って、ですって。今の狼戈は、何故か読める…」

 

 唯一コミュニケーションのとれる妖怪がいて嬉しい。

 妖怪達を背中に乗せ、地霊殿の目の前で解散する。藍と橙は、私に“また遊びに来い”と言って、主のものであろう隙間に帰っていった。ヤマメとパルスィ、鬼二匹も追うように帰っていったため、私もそれを追うように駆けている。フランや妹紅だけならまだしも、背中に美鈴や咲夜、それに何故か文も椛も乗っているため、背中の上がぎゅうぎゅう詰めになっている。首に掴まっているフランが、興奮気味に歓声を上げているのが狂おしい程に可愛い。

 私の煩悩はともかく、落とさぬように駆け抜ける。地上への穴に到着した時ち一度暴走を解き、説明を交える。

 

「…尻尾で包むけど、一応妖気だったりで保護しててね。咲夜と妹紅は…」

「私は大丈夫。なんとでもなるよ」

「私も同じく。どれだけのスピードが…」

「音速の数倍から数十倍…数百倍? どうだろう」

 

 全員揃って唖然とされても困る。実際それだけ出るんだから仕方ないだろう。

 

「ん~…フランに見て貰いたいし、竹林から行こうか。さ、乗って」

 

 全員を乗せた上で、尻尾でシートベルトのように固定する。隣で出発準備をしていた文と椛も強制的に乗せ、壁に片足を掛ける。

 

『行くよ…っ!!』

 

 この姿、且つ四足歩行て壁を登れるかずっと心配していたが、杞憂だったようだ。全速力で駆け抜け、竹林に着いた頃には出発から20分が経過していた。妹紅が少し死にそうな顔をしているが…

 

「あ、ありがとう…狼戈、また来るのを待ってるよ…」

『おう!』

 

 手を振る妹紅にニッと微笑み、妹紅が竹林に入っていったのを見届けてから再び地を蹴る。次は~、紅魔館、紅魔館です~、お降りの方は……はっ!?

 フランに景色を見せつつ、空を掛けつつ。紅魔館に到着したのは、竹林出発から15分。途中で景色を見せるために減速したこともあり、あまりスピードは出していないけど。

 

「さ、楽しかった。フラン、今度は私が泊まりに行くからね」

「…うん、待ってる」

 

 フランの頭をぽんぽんと撫でると、満面の笑みで返された。美鈴達にも目配せをして礼をした後、足に妖気を込める。さて、帰るとしましょうか。

 

 

 

 長いようで短い二日間は、あっと言う間に過ぎてしまった。その中で、写真として切り取られた時間と形。長い命、これは些細なことなのかも知れない。でも、私は思い出を、命を大切に過ごしていきたい。いつ終わるかはわからないけど…それでも、大切に、大事に…

 

 ちなみに帰った後に、空との“遊び„に散々付き合わされたのは、また別の話。




片腕がなかろうが、狼戈さんはいつも通り。
…想像するとグロテスクですけどね(苦笑)。
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