黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
五十二 異変と…?
「…はぁ」
溜め息混じりに青い空を駆け抜ける。あれから早一年。空の元をあまり離れない方がいいと考え、基本的には地霊殿に籠りっぱなしだった。最近では椛や藍から会いに来てくれる為、何等問題はなし。ちなみに地霊殿に籠りっぱなしと言っても、仕事はしているし、やることもやっている。
その私が何故地上に狩り出されているのか。それは希に頼まれるさとりからの山菜集めに出ただけに過ぎない…はずだったのだが、どうも暫く帰れないらしい。山菜を入れる目的だった篭を能力で消し、妖怪の山を、正確には妖怪の山の遥か上を見据える。私の周囲に起きる黒い霧は、有難い事に異変の始まりを表していた。また…巻き込まれるのか、私は…。
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「…見ない顔ね?」
「私は地底に住んでるから。貴女は…アリスだっけ?」
アリス・マーガトロイド。人形使いの魔法使い。彼女の見た目自身も人形そっくりで、可愛らしい限りだ。私が会うのは…初めてか。誰と会ってて誰と会っていないのか、ちょっと混乱するなぁ。
「そうよ。貴女は確か…狼戈?」
「んにゃ。魔理沙とか霊夢から聞いた?」
「ええ、まあ」
一応、戦うという雰囲気では無さそうで嬉しい限りだ。それに魔理沙や霊夢から話を聞いているなら私の能力も知っているはず…つまり、私は(多分)疑われていない。張本人を知っている私としてはさっさと解決してしまいたいところなのだが、原作は尊重すべきかな、等と今更過ぎる判断の元、適当に幻想郷を回ってからにした。…実を言えば、久々に血が騒いでいる。戦いを求めて…。まぁ、今アリスと戦う気はないのだが。
「…一応聞くけど、貴女はこの異変の原因じゃないわよね?」
「もちろん。それだったらこんな黒い霧に悩んでないさ」
私の周囲に現れる黒い霧。そこまで邪魔にはならないし、もし視界を塞がれても熱源や気配でだいたい察知出来る為無問題。大丈夫だ、問題ない。
「さて、此処で戦って消耗したくないし、私はもう…」
「おお、狼戈!! 久しぶりだな!!」
私の声を、元気な声が遮る。確かに会うのは久々だが、空気を読んで欲しいというか、今は来ないで欲しいというか…振り返れば、空に浮かぶ白黒の物体がひとつ。私、貴女呼んでないよ。
「…久しぶりね、魔理沙。でも私急いでるから…アリス、お願いっ!!」
「…え? あ…まぁ、いいけど…」
アリスに全てを投げ出し、その場から逃走するのだった。無駄に戦いたくないし…もし辿り着くのが私一匹(になることはまず無いだろうけど)だった場合、もしこの異変の元凶に負けたら幻想郷が終わるし…。やるなら本気で相手をしたいのだ。まあ、もし紫や萃香、幽々子と会えば戦うつもりだが。血が騒ぐのさ。
「さて、まずは妖怪の山にでも行きましょうかねぇ…」
背後から聞こえる爆発音を無視し、私は一匹飛びたつのだった。
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「ひやっ、やめ、舐め…らいで…らめ…」
「んむ…あむむ…」
行く先行く先快楽に襲われるのは、私の宿命なのでしょうか。
つるぺた幼女鬼に全身を舐め回されつつ、どうしようかと考える。紫や萃香と会ったら~と考えた結果見事にフラグを回収して貰った訳だ。異変以前に、根本的に私はもうダメかも知れない。
「なんでこんなに大胆なんですか…」
「う~…私の狼戈が…」
天狗が二匹傍観しているのも問題なのだが。椛がかなりの嫉妬の目を向けているが…ここで萃香が離したら私の体が二匹の唾液まみれになる。ただでさえ快楽を受ける度に体が湿っ…いや、何でもない。I can't speak.
「…ふぅ、やっぱり狼戈は美味しいねぇ」
「きゅ~…」
「次は私が…いただきま~す♪」
「きゅぅぅ!?」
どちらにせよ、私は披食者。
椛にかじられつつも、今にも戦闘を始めそうな萃香と文から離れる。快感のせいで力が入らない為ゆっくりだが。その後、すぐ戦闘を始めた二匹。そんな状況でも私を抱き締めて離さない椛。犯してやろうかと媚薬をちらつかせようとするが、逆に嬉しがりそうだから止めておく。犯してやるという発想をする辺り、私はもうダメかも知れない。
「…その首輪…誰かに飼われてるんですか? 私が飼いたいのに」
「これ? 橙からの贈り物。可愛いでしょ? ていうかさっさと離せ」
「いやだ♪」
まぁ、それ以前にさとりのペットとして飼われているも同然なのですがね。でも、私の認識では飼い主というより家族、母親ポジションだな。一番頼れる存在だから…。
椛にしゃぶられ舐められかじられと散々葬られた後、決着が着いたらしい二匹を見る。強さ的に当然と言えば当然か、萃香の圧勝のようだ。文自身決して弱くはない。というか、幻想郷の中でも結構上位に入ってくる存在だろう。だが、萃香は規格外だ。鬼という存在自体、かなりの規格外なのだから。
「ん、二人ともお疲れ。相手が悪かったね、文」
「悪いどころの騒ぎじゃないわよ…本当にもう…」
素で反応をする文に微笑しつつ、酒を飲む萃香にまた苦笑する。こんな時間から酒を飲むなよと言いたいところだが、普段から酔っぱらってるし、まあ何時ものことか。
「さぁて、次は狼戈が相手かな?」
「え? えぇ!? 私は弱いから止めとこうよ、ね? ね!?」
私の意見など完璧に無視で、ふらついた足取りでカードを取り出す萃香。ああ、そうだろうね。鬼には逆らえる気がしないよ、まったく。笑えない話だ。
「OK…怪我しても知らないよ、萃香」
「それは此方の台詞だねぇ…精々楽しませておくれよ?」
鬼相手にまったく退かぬ私の態度に、どういう関係なのかと文が首をかしげる。関係か…私の古い恩人であり、親友であり、かな。信用出来る相手でもある。
「っし、先手必勝…ってあれ? 何処に…ひゃっ!?」
「捕まえた♪」
いきなり目の前から消えて、いきなり背後に現れた。足をじたばたさせても逃れられないし…って、いつもやられてることですけどね。これ。
「はむっ」
「ひにゃぁぁ!! 食べないでっ!! もぐもぐしないでっ!!」
傍観者が冷めた視線と嫉妬の視線を送るだけになっているけども。
ネタも程々に改めて距離をとって開戦宣言。スペルカードルールに従い、色々と程々に。私が全力を出したら勝てる気がしないと勇儀が言っていたが…実際のところどうなのだろう? 私ってどれだけ強いのかな。
「“雷鳴„閃光火弄」
生前(?)、アニメや漫画でよく見るような、電気による加速。電磁砲、とかも同じことだ。電気による筋肉の刺激が云々とか聞いた気がするけど、私にとってはさっぱりだ。
…何時だったか。ふと思い立ち、今の私なら電気纏えるんじゃね? という訳のわからない根拠と期待を持って色々と試してみた訳だ。電気を纏う…それは、私の能力を組み合わせれば、容易な事…。その成果、お見せしようか。宿すのは複数…、疲労なんて気にしない。
「いくよ…!!」
「…っ!? あれ…光ってる?」
椛が目を凝らして呟く。そりゃ、電気纏えば光るわな。
瞬時に加速、瞬きする暇も無く間合いを詰め、妖気を纏った尻尾で弾き飛ばす。何が起こったのか…それは理解しているようで簡単に受け身をとる萃香。相手も遥か化け物だ。普通に張り合う私がおかしいのであって…ね。
「~っ!! 痺れるねぇ…痛い痛い」
「ほぼ無傷で何を言うか。まぁ、威力にスピードも妖気も全然乗せてないからね」
「手加減のつもりかい? なめてると死ぬよ?」
萃香が間合いを詰めてくる中、一人制止し精神を統一する。あと数歩で間合いに入るというところでキッと目を見開き、力を込める。瞬間、辺りの空気を稲妻が走り、意図せず上空から落雷が直撃した。ちょっと待て、雷が降る天候じゃなかったぞ…!? 放電は意識してだが、まさか雷が落ちるとは思わなんだ。まぁ、痛くも痒くもないし、逆に力を感じる。
「私に触れるなら…ダメージ覚悟でね」
「ん~…恐ろしい。やっぱり勇儀の言ってた通り、鬼より遥か格上だね」
「さぁ? 私は自分が強い弱いとかどうでもいいよ。相手が強ければ、ね…♪」
戦闘狂? 幻想郷にいる妖怪は基本そんなもんさ。
「でも、触れずとも攻撃は出来るさ」
「…? わっ!?」
次の瞬間、全身を襲う”熱気„に大きく飛び退く。その正体は萃香の吹いた火。口から火を吹くとか、何でもありかこの鬼は。
突撃しようかと思ったが、鎖を振り回されるわ火は吐かれるわ小さいのが増えるわで雷どころではなく、仕方なく能力を解除する。ダメだね、こりゃ…無理矢理の実力行使じゃ勝てない。
「…普通に殴り合いのが楽だね…!!」
「ん~…痛いのは嫌いなんだけどねぇ…」
そんなことを言いつつもやる気満々の萃香。いつになくフラフラしているのは酔っているからだろう。普段から酔っているから違和感はないが…この子が酔っていない時はあるのだろうか…
「…ふふ、“鬼符„ミッシングパワー」
「え…ちょ、いきなり!?」
唐突に発動されたスペルカードに咄嗟に間合いをとり、その姿を見据える…って、いやいや、でかい。でかすぎる。私が元々小さいのもあるけど、大き過ぎる。なにこれでかい。え? 胸? 潰されるよ?
「…ふふ、私のが大きいよ」
「いや、元々私のが小さいってば」
体が大きいということは…裏をかえせば的が大きい。何かを食らう前に、私が攻撃を当てればいいだけのことなのだ。さて、私もやりますか…
「“焉槍„グングニル=レイン」
またパクらせていただいた。
宿すは龍の魂。背中に聳える黒の翼に尖る瞳孔、皮膚に鱗の亀裂が疾り、口からは黒い炎が溢れる。結構体力を使う為あまり使わないが…結構強力だと、私は思う。
「降り注ぐは龍の咆哮、渦巻く怒り…幻想の織り成す槍の雨…」
ーー果たして、無傷でいられるのかな?
格好つけたいが為にこんなことを言ったという幼稚な理由は置いておいて…。
周囲360度に魔法陣の展開、更に両の手、両の翼に集まる巨大なエネルギーの塊。相手が強い、信頼出来る相手だからこそ使える、私の“力の出せない日中„での奥義のひとつ。
「さぁ……貫け!!」
魔法陣から細い光が降り注ぐ。眩い閃光が辺りを埋め尽くす中、翼と手中には妖気が萃められていく。光が最大限にまで達した時、振るわれ、交差する腕。白と黒の槍は交わり、甲高い音を立てながら、音速を、光速を越えて空気を貫く。萃香がどうなったのか確認は出来ないが、とりあえず一旦降りようか。
「…萃香~……大丈夫? ひゃっ…ひっ、ぅ…」
「んむ…戦いの相手の心配をするとは…ん…優し過ぎるんだよ、狼戈は。あむっ」
「ひゃっ…人前だからっ…舐めないでぇ…んぐっ!?」
スペルカードルールって、相手を拘束してディープキスを仕掛けるルールだっけ? そんなルールだったら幻想郷が百合の花で埋まるっつーの。私は同性としか縁がないのかまったく。
「もう、離してってば…」
「はいはい、まったく、いつまでも可愛いねぇ…♪」
「っ、べ、別に…」
「もう、照れちゃってさ…?」
私を放した萃香。その体を見て一瞬固まる。萃香の体は複数の丸い傷を負っており、そこからは少しずつ血液が流れている。
「え、嘘…大丈夫っ!?」
「四肢吹っ飛ばされて胸に穴開けて平気な狼戈が言うんじゃないよ。
たかが体に穴が何個か空いたくらいで私は死にゃしないさ」
かんらからと笑う萃香。そういえば紅魔館の時、私は萃香を呼んだ。彼女の能力の特性上、フランとの戦い(?) を見ていたとしてもおかしくはない。助けに入らなかったのは彼女の性格が元々そういうものだということと、私の強さを知ってのことだろうな…っておい。なんでグングニル直撃したの知ってんだ。
「…もうやめよ。目的は一緒なんだし」
「え~? まだまだこれからだよ~?」
いくら死なないとはいえ…いくら平気そうだとはいえ…私にこれ以上は無理。改めて…此処がどういうところか理解した気がする。私は…スペルカードルールでさえ着いていける気がしない。自分が傷付くなら全然問題ないが…他者を傷付けるのは厳しいな。勇儀の腕は…まぁ、あの時はやらなきゃ私の四肢におまけで下半身くらいは完璧に吹っ飛ばされてたから…。あれでも結構心が痛い。
「ん~…形式上どっちかが負けるか勝つかしないとねぇ?」
「別に、ルールなんていいでしょ、ちょっとくらい」
無理矢理捻曲げ、無理矢理弾幕ごっこを終わらせる。はてさて、いったい何がしたかったのか。私は少し火傷したし、萃香は体に穴を空けるしで骨折り損だな。
「…目標は雲の上、だね」
「みたいだねぇ…」
気楽に笑う萃香。体に穴空けてなんで平気なんだと言いたい…のだが、私は何も言えない。ブーメランを放ってしまうこととなる。
とりあえず両者各々、何処に行けばいいのか、何を成せばいいのかは理解しているようだ。まぁ、鬼だし…今更凄いとは思わない。私は元々この世界のことを知っているし、まぁ…うん。
「…上には伝えておきます。どうぞ」
「今度遊びに来てよ、狼戈。たっぷり遊んであげるから」
「…椛、ちょっと見ない内にキャラ変わった? ほれ、もっふもふ」
今度会った時の(私という)犠牲を減らす為に、尻尾を差し出しておく。尻尾どころか私の体が(性的な意味で)犠牲(羞恥)になったが、今後の事を考えると軽い…。そう考えてしまう時点で、私はきっと、もう駄目だ。うん。
「…ふぇ、ふ、ぁ…す、すいかぁ…早く…いこ~…」
「…やれやれ。それで帰った後に私の相手がつとまるのかい」
然り気無い死刑宣告を受けつつも、快楽で弱った体を引きずっていく。さぁ、この異変…終わらせにいこうか。いざ、雲の上へ…!!
…いやまぁ、説得力も格好良さも微塵もないけどね。