黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
次回、次章or短編。
どちらになるかは私の現実状況次第です…<(_ _)>
「…酷い臭いね」
「えへへ~♪」
八雲の館にて。椛が全身湿っている上に虚ろな目でふらふらしているのは私の責任として、私の体まで濡れているのはどういうことか…いや、その原因も私なのだが。激しすぎた。すまない、もみたん。
「んぅ…とりあえず、お風呂お借りします」
「はいはい、どうぞお好きに」
椛を引きずりながら、紫の部屋を後にする。椛は服を着ているが、私は全裸に尻尾を巻き付けただけ。紫は顔色ひとつ変えなかったが、もし此処に藍がいたらと思うと涙が出る。今度は私が遊ばれてしまう。もう嫌だ。
浴場へ連れて行き、椛の服を脱がせる。自分でやっていただきたいものだがどうも私から離れてくれず、ただただ抱き付いてくるばかり。ああ、やり過ぎたなぁ…。
「ほら、しゃんと立って」
愚痴をこぼしつつ、椛の服をせっせと脱がせていく。裸なんて今更見慣れたもので…原因は私ではない。無理矢理脱がせてくる輩が悪いのだ。
椛の手を引き、浴場へ。沸かしてと頼んだ訳でもないのに蒸気で満たされた室内。誰かが手動で沸かしているのだろうか。いや、それとも自動で…? まあどちらでもよいだろう。
椛の体を流し、慣れたような手つきで泡立てて洗い立てる。数分程して椛が少しずつ力を取り戻し、十分もする頃には自分で洗い始めた。念入り洗浄。
「あぅ…感覚が…ひゃぅ…」
「ごめんね? ああいうの使うと自制心が無くなるから」
使わなかったら恥ずかしくて出来ない…そう言いたいところだが、最近暴走気味なのも事実。実際のところ、犯す口実を作っているだけなのかも知れない。
「随分とお楽しみだったようだな?」
「…もう驚かないよ。うん。居るだろうと思ってた」
にやにやと笑う藍を涙目で睨みながら、椛の背中を流す。言われた通りに尻尾から獣耳まで、丹念に洗う。擽ったそうに幸せそうにする椛に和みつつ、最終的に自分も洗って終了。本当は洗って出るつもりだったのだが、藍が入れと強制してきたため入る事にした。笑えない。
「そういえば久しぶりだね、藍」
「そうだな。最近遊びに来てくれないから…」
「たはは、ごめん。折角だから暫く泊まってくよ」
椛を送った後にね…そう苦笑しつつ、椛を見る。本人は幸せそうに、溶けそうな状態で湯船から半身を出していた。まるで小動物のようなその姿に、不覚ながら心臓が高鳴った。可愛いぞこの野郎。
「じゃ、夜の九時辺りに迎えに来てね、ご主人様?」
「そう呼んだ以上、夜は覚悟するんだな。今日は橙もいることだし」
え、なに? 私二人から犯されんの?
ひきつった笑みを浮かべつつ、椛を連れて浴槽を出る。さて、この娘が落ち着いたら一度神社の様子でも見に行きますかね。
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「もうらめぇぇ…」
「…酒に弱いとは可愛いね」
可愛いの基準は何なんだよ。
あの後、椛に謝られせがまれと色々起きたが、とりあえずは適当にあしらっておいた。話の流れでまた明日会う事になってしまったが、外出ばかりでさとりに申し訳ない。既に泊まると言ってしまった数日を除き、暫くは地霊殿で大人しくしていようか、と考えている。
そんなこんなで予定通りに神社に戻って来た訳だが…神奈子が怒っている様子はなく、逆に酒でも飲んでけ~と引き留められた。いざ飲んだら強いわ諏訪子は愛玩具を見るような目で見てくるわで散々だ。早苗、然り気無く抱くな。私は小さいけど人形じゃない。
「…んぅ。ちょっと様子見て帰るつもりだったのに」
「まぁいいでしょ? 狼戈なんてなかなか来ないんだから」
「私地底住みだしねぇ? あんまり外に出たくなにゃっ!? さ、早苗、やめっ…!!」
会話の途中で獣耳をいじくる早苗。抵抗してみるも、いつの間にか膝に座らされている状態だし力は抜けるしでどうしようもない。はっきり言おう…私は指先ひとつで負ける。尻尾とか獣耳とか擽られただけでもう勝てない。
「なに…っ、するのさぁ…!!」
「…この子、飼っていいですか?」
「うんうん。いい感じに働いてくれそうだ。首輪は…もう着いてるけど」
私はペットじゃない。いや、さとりのペットだがペットじゃない。
涙目で唸ってみても和まれるだけ…そろそろ対応するのに疲れてきたためにひっそり帰ろうとするが、早苗に抱き締められて何も出来ない。だから私は人形じゃないって。
結局酒を無理矢理飲まされて、三人揃って用事が家事がと言って何処かへ行ってしまった、とさ。めでたしめでたし…。
何処にめでたい要素があるのか誰か教えてくれ。
「…あら、こいし? こんなところで何してるの?」
「…なんでばれるのかなぁ…? 誰にも見えてないはずなのに…」
神社の鳥居の上に座っていたが、ふと見たことのある影が視界に入り呼び止める。どうやら私に気付いていたどころか私目当てだったようで、ぴょんと軽く乗ってきた。鳥居に跳び乗るとか、この世界に来る前は想像もしなかったな。
「…もしかして、元凶探し?」
「うん。色々探してて」
「もう潰したよ。ま、もう和解したけど」
「…狼戈を敵に回したら何が起きるかわからないね」
小声で失礼なことを言うこいしに目を細めつつ、空を見上げる。快晴快晴…私は雪が好きなのだけれど、地底にいる上に更に室内だから雪も何もないんだよねぇ…?
「…ね、狼戈。折角だから弾幕ごっこで遊ぼうよ」
「んぇ? やけに唐突だね? 別にいいけどさ…」
嬉々として鳥居から飛び降り、戦闘準備に入るこいし。よく考えると、彼女の戦闘もスペルも見た記憶がない。千年という時を得て前世(?)の記憶が薄れている為、ほぼ初見で挑むことになる。忘れぬようにと書き留めているものはあるが、流石にスペルの名や内容まで私は覚えていない。
「私は…二枚か三枚かなぁ? あんまり使わないけど」
「いくら狼戈だからって手加減しないよ…あ、私が勝ったら夜付き合ってね」
「ごめん、私も手加減出来なくなった」
残念ながら、夜はもう予約が入っている。
「“深層„無意識の遺伝子」
「いきなりだねぇ…」
今まで結構多くの弾幕を見てきたが、一番綺麗なものはなんだろうか。人によって違いはあるだろうし、まだわからないか。個人的にはレミリアの蝙蝠とかちょっと可愛いなと思ったのだが。
縦横無尽に巡るこいしの弾幕の嵐を避けつつ、どうしたものかと思考を巡らせる。いつもの如く脚力で終わらせるのもありなのだが、変化に富まないしつまらないし。単に撃ち合いだけで戦うのも良いかも知れない。
「“雷鳴”雨雷深嵐」
上空に大きく展開される魔法陣。戦闘音に気付き、何事かと見上げる神社の面子達。早苗が射程範囲内にいるが、殺傷能力がある訳ではない為放置しておく。
徐々に降り始めたのは雨粒よりも大きめの、水のようなもの。綺麗。見た目は本当にただの水だが…実際はどうだろうね…?
「……っ!? つぅ…電気?」
「当たり。何故自ら触れたし」
遠くで痺れている緑髪の巫女が見えた気がするが、きっと気のせいだ。
「一度触れれば感覚は、一時的とはいえ狂う…もうおしまいかな? こいし…?」
「うぅぅ…痺れる…」
実はかなり逃げ道があるスペルなのだが、上に気をとられると横から攻撃を食らい、私に気をとられると視界外からの雨に当たる。地味に面倒なスペルだ。
麻痺し、小刻みに震えているこいし。手加減しつつも、妖気の塊は円を形成し、大きくなっていく。何も出来ずに終わるのかとこいしが悔しさの色を浮かべた。だが…
「…っ!!」
「…あれ、狼戈?」
急速に体の力が抜けていくのを感じる。形成された妖気は消え去り、膝から崩れ落ちた。スペルが消え、麻痺が回復したこいしが近くに駆け寄るが、そちらを見ることすら出来ない。
「狼戈!? そんな…っ、ねぇ、しっかりしてよ…!!」
声すら出ない。何も出来ないままに、意識が段々と薄れていく。何者かに抱えあげられた感覚を最後に、ぷつりと、電池の切れた機械のように、意識は途絶えるのだった。