黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
(まだ序の口(←こんな作者が描いているので、無理だなという方はバック推奨。
※かなりの独自解釈が含まれております
まだ七話なのに、もう最初からクライマックス的な感じが…むぐぐ……
「私の血を飲まないか?」
唖然とする私に対し、玉藻はじーっと私を見てくる。飲まねば何かをするぞと眼が語っている。恐らく断っても害は無い…か、または無理矢理飲ませようとする…か、この二択だろう。やはり妖怪は妖怪。人間(今は妖怪だが)とは色々と、考え方が違うのだろう。私は彼女の言葉の意味をいまいち理解出来ていない。
「…え?」
「飲むのか? 飲まないのか?」
そう聞かれても、私の答えは出ない。仮に飲むといって、彼女は喜ぶのか。何か意味があるのか。仮に飲まないと言って、彼女は悲しむのか。それとも力で飲ませるのか。それとも堕とす気なのか。真面目な表情の彼女に、私の混乱は加速する。どうすればいいのか。どうすれば両者にとって最善の選択なのか。私にはまったくとしてわからない。わかる訳がない…
「あの、私は…」
「どっちかを決めろ」
玉藻の豹変振りに、思わずビクンと体を強ばらせる。今にでも押し倒して来そうな距離で声を少し荒げる玉藻の顔は、少し赤くなっているような気がした。まさかと思ったが、私に札は貼られていない。
「玉藻…おかしいよ。何故…何故そうまでして…ぅぁあ!?」
「私の質問には…はいか、いいえで答えてくれないか」
突然の行動に、身構えていなかった私は成す術もなく壁に叩き付けられる。逃れようにも、負傷していようとも、相手は九尾。所詮狼の勝てる相手ではない。両肩を両手で押さえられ、私は抵抗すら出来ずにいた。その力、表情、涙を見て。
「答えは?」
「・・・・・・」
無言。それが私の出来る選択だった。許可しても何の意味も無い気がする。却下しても私の命が無い気がする。私に残される選択肢はただひとつ。ただ黙ることだった。小刻みに体は震えており、視線を玉藻の瞳から逸らす事が出来ない。
「…そうか。なら私も強行手段だ」
そう言うと、殺気の籠った視線が私を見据える。突如彼女の背後で尾がうねり始めた。その尾は段々と私に近付いていき、遂に肌へ触れる。
「悪い狼にはお仕置きだな」
▽
私は自身を止められなくなっていた。
素肌を晒され、嫌がる少女を…恩人を尾で犯す…妖怪の本能。欲には逆らえない。互いに血を分ける事で、更に関係が深くなる。そう思っただけだった。だから彼女が嫌だといったら、それでもいいと。だが、次第に自分の感情が暴走していく。彼女の血には、媚薬でも入っているのではないか。そう思える程に感情が安定しない。彼女が呟いた小さな寝言。独りぼっち…仲間を見付けた喜びも合い極まり、もう止められない。涙も止められず、ただ笑顔で、弄ぶ。もしこのまま食い殺してしまったら、彼女は怒るだろうか。いや、怒れないか。死んだら…戻れないものな。はは、ははは……
壊れる感情に、自然と言葉が出た。
ーーー悪い狼には、お仕置きが必要だ。
▼
状況がもう何も理解出来ない。豹変し、押し倒し、犯してくる。四肢を縛られ、抵抗する出来ない私を玩具に、ひたすらに弄んでくる。こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃ…こんなはずじゃ…!!!
既に私は力を無くしており、ずるずると壁を背に座り込んでしまっている。勿論、尾の快楽を全身に受けながら。泣いても、嫌がっても、怒っても離す気配はない。私が座り込む地面には、ねっとりとした液が大量に垂れていた。それは私から出ている気がした。遠退く意識に、止まぬ尻尾。もう、駄目だ。もう…もう……
防衛本能か、疲労故か、衰弱故か、私は簡単に意識を放り出した。
▼
視界に映るのは綺麗な、黄色のような色。その色の意味を理解するのに一瞬遅れたが、不思議と私が驚くことはない。ゆっくりと起き上がり、その色の主の顔を伺う。涙のような跡が綺麗に残っている。ここまで感情を暴走させるような彼女の過去など、私は知らない。でも、私の中の定規などでは、到底計り知れないものであることは…それだけは理解出来る。私は、彼女を許せるだろうか。抵抗出来ずに、有無を言わさずに犯され、遊ばれた相手を、私は許せるのだろうか。
「こんなんだからお人好しとか言われるんだよ……」
ポツリ、涙ぐんだ声で呟く。洞窟を木霊したその声は、誰の耳に届く事もなく消えていった。
▼
目が覚める。飛び起きて見回すも、視界に黒い人影は映らない。当然だ。私は…私は……やってはいけないことをした。自ら、手に入れたかも知れない友を手放した。必死に私を気遣い、護ろうとした少女を…私は殺した。精神を蝕んだ。殺してしまったも同然だ。色々な感情が込み上げ、次第に笑いが込み上げてくる。
「はっはは…はは、はははは!!!」
狂ったように笑う。その笑い声は洞穴に木霊し、反響し続ける。笑いとは裏腹に、渇れ果てたはずの涙が頬を伝う。私は、どうしようもない奴なのだろう。これからも同じ事を繰り返すのだろう。笑いは鳴き声へ、泣き声へと変わる。地面へと熱い何かが落ちていく。それは、私の瞳から落ちていた。
「…玉藻」
その言葉に、私は振り向けない。
言葉の主は…怒っているだろう。失望しているだろう卑下しているだろうそうさ笑ってくれよ。いっそのこと、ひと思いに殺してくれ。一瞬で、私を…!!
「ねえ、此方を向いてよ」
怯え、体が動かない。ただ無様に涙を流すだけで、言葉も、力も、言い訳も、何も出てはこない。足音と気配は、すぐ背後まで近付いた。
「玉藻」
これが最後だろうな…名前を読んでくれるのは。きっと、彼女は逃げてしまう。彼奴は化け物だと。妖怪の風上にもおけないと。
それでいい。
もう、それでよかった。私はもういい。一度死んだ身だ。死など怖くは…
「私ね、ちょっと怖かった。押し倒されて、服まで脱がされて、さ」
優しい声とその内容に、嗚咽も涙も出なくなっていた。もう終わったんだと。だが、それは間違いだった。
「…でも、ね。私は玉藻の事…許すよ。だって…」
その先は聞きたくない。でも聞きたい。でも…聞いたら自分が壊れそうで…自分が自分じゃなくなりそうで…。それでも彼女は、とても優しい声色で、私を抱き締めて呟いた。
「私達、もう家族だもんね」
涙がーーー零れた。