黒狼狐己録 -Life Harboring-   作:ふーか

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 独自解釈、オリジナル展開。
 グロあり、胸糞悪い(?)です。

 苦手な方は、無理だと思った瞬間にバックをお願いします。


第十章 狼戈の生命
六十三 暴走


「まったく、狼戈さんを連れてって、上から何を言われるか…」

 

 隣で愚痴を溢す文に苦笑しつつ、空を駆ける。妖怪の山を目指し、地底を抜けて。満月が照らす幻想郷は、名の通りとても幻想的で、綺麗なもの。脳裏に焼き付けておいて、後々また思い出すとしよう。記憶の具現化は…スペルにも応用出来るのだ。以前、地霊殿の異変の際に、私が魔理沙に対して使ったもののように。スペルを作り過ぎてしまい、紙の量が多すぎる。帰ったら整頓しなくては。

 

「…椛、もしかして、解雇とか…」

「…充分有り得ますね。最悪でも…まぁ、死刑は流石にないでしょうけど」

 

 そんなもの、あっては困る。もしそれが遂行されるようだったら…私は命を覚悟で天狗の社会をぶち壊す。文や、まだ会っていない念写記者、他諸々の天狗達に生涯続く迷惑をかけることとなるが…それでも。私には、やらなくてはいけないことがある。全てを捨てて、やるべきことがある。

 

「…もうすぐ着きますよ」

 

 文が低い声色で呟いた。先程から椛はずっと黙っており、何も話しては貰えない。

 

「…もしさ、ダメなら…」

 

 私の言葉に、椛が小さく顔を上げる。元凶の私がこんなことを言うなんて、図々しいにも程がある…だが、どうしても言いたいことがあった。もしもの場合、地底から離れても…

 

「…私と、一緒に住もう?」

 

 椛がじっと私の瞳を見た。文も私の発言に驚いているようで、此方を直視してくる。少しの間迷うような素振りを見せた椛だったが、答えはもう決まっていたようだ。

 

「…うん。一緒に…居たい」

 

 文がどう反応したらいいのかわからないといった表情をし、私を一瞥すると手で招いた。流石に、いつまでも寄り道をしている訳にはいかないらしい。文に視線を合わせて小さく頷くと、椛の手を引っ張った。頬を紅に染める椛に、タイミングでも間違えたかなと苦笑しつつも、スピードをあげた。

 

 

◇◆◇

 

 

「貴様が咬音 狼戈か」

 

 肌がピリピリとする緊張が、辺りの空間を支配する。文を含めた、男女大小様々な天狗が、部屋の隅で待機している。恐らく、逃げられない為だろう。はっきり言ってしまえば、私一人なら一瞬で逃げられる為何の意味もない。だが、椛も居るとなると…

 辺りは巨大な室内。見たこともない建物を案内され、辿り着いたのがこの場所だ。天狗の本拠地、とでも言うのだろうか。私が目の前にしている天狗達は、とても言葉では言い表せない威圧感や威厳を持っていた。

 

「はい、お初に御目に掛かります」

 

 形だけでも…そう考え、適切であろう返事を返す。この千年で敬語なんて学んだ記憶はないし、生前もまだ面接も受験もあまり考えていない頃、お偉い奴等の扱いなんて知らない。結局、幼い頃に慣れた上面だけの言葉を連ねている。

 

「この度は、私などの為にご迷惑をおかけしたこと、心より謝罪致します。申し訳ありません」

 

 頭を深く深く下げ、謝罪を述べる。流れる沈黙に、冷や汗が垂れた。体が震えているのは、恐怖でも後悔でも無く、ただただこの後の展開がどうなるのか、緊張しているだけだろう。

 

「ふむ…許してやらなくもない」

 

 何か条件でもあるのだろう、天狗はにやりと悪の笑みを浮かべて此方を見据える。内容次第では、即座に逃げるかこの建物を吹っ飛ばすか…色々な選択肢が頭で広がっていく。だが…天狗から出た言葉は、想像の遥か上をゆく言葉はだった。

 

「貴様…天狗の仲間になるつもりはないか」

 

 その場にいる全員が、驚愕を浮かべて天狗を見た。私としては、言い分は理解出来る。妖怪の山に限らずだが、様々なところで私が力を見せつけているのも事実、相手からしては戦力を簡単に増やせるのだ。願ったり叶ったりだろう。

 

「…誠に図々しい事ですが、私からも条件がひとつ御座います」

「…何だ、言ってみるがいい」

 

 椛を見ると、震えているのが嫌でもわかった。まだ話題には出ていないが…きっと、処罰はある。震えるのもわかるさ…。だが、だからこそ私が来たのだ。わざわざ、行きたくもない場所に。

 

「椛を…犬走 椛の処罰は無しにしていただけませんか」

 

 早とちりかも知れぬが、先に言っておくことに損はなかった。椛を見て小さく微笑むと、涙目になるという始末。可愛いのだけれど…泣かれるとちょっと、恥ずかしいかな…。

 

「…椛、寄れ」

「……はい」

 

 私の隣へと、椛が歩み寄る。背筋がぴんと伸び、汗が滲んでいる。少し触れた椛の手は湿っており、どれだけ緊張しているのかがよくわかる。天狗は上下社会だとは聞くが、此処までなのだろうか。地位の上下という概念はあまり気にしていない為、正直どうでもいい。

 

「……貴様等が仲睦まじく話している様を見たと、報告が入っている」

 

 それ以上のことに発展したりもしたけど…そう考えると笑みが溢れそうになり、はっとして真顔に戻した。この場で笑うのは空気を悪い方に壊しかねない。

 

「もし椛を消すといえば、狼戈…貴様はどうする」

「…此処にいる全員の首を飛ばそうか」

 

 冗談も、嘘もいらない。上下社会…知るか。容易く仲間の命を捨てる者など、消えてしまって構わない。

 私の言葉に、文を除くその場全員が刀と盾を構える。びくっと体を震わせる椛に罪悪感を感じつつも、まったく動じず言葉を連ねる。

 

「私は、雑用だろうが仕事だろうが喜んでやるよ。でもね…

 ーー仲間を容易く物扱いして捨てる阿呆な屑共に、貸す手なんてねぇんだよ」

 

 普段は見せぬ、底からの怒り。空気が震え、周りの天狗も冷や汗を垂らす。貴様等がどれだけ天狗の中の精鋭だろうが、私にとっちゃ道に転がる石ころだ。消そうと思えば、一秒もせぬ内に消せる。

 

「その態度…宣戦布告と受け取ろう。……やれ」

 

 次の瞬間、全員が私に向かって飛びかかる。平穏という言葉を知らないのだろうか、この天狗は。

 

「痛いっ!! 離して…離せよっ!!」

「この者の処分は私にお任せを…」

 

 椛の悲鳴を聞いて逆上しそうになるが、その原因は文。此方をチラと見て小さく頷くのが目に入り、それを信じてすぐに天狗共に目をやる。見渡す限りでざっと五、六…精鋭? 笑えるね。宿すを使う迄もないさ。

 

「獣輪」

 

 眼前に迫っていた天狗の首をめがけ、右足での回し蹴りを放つ。寸前とはいえ受け止めた天狗ににやりと笑みを溢し、上半身を捻る。その反動で突き上げられた左足は隙の出来た首に直撃し、数十メートルという距離を吹っ飛んで沈黙した。色々出来ないかと考えていた技を試す良い機会ね。

 

 左右から流石は天狗と言える速度で、刀を振りかぶって突撃する、二匹の天狗。小さく身を屈めて二匹の刀がぶつかり、火花を散らしたのを音で感知、刹那空いた腹めがけ、起き上がり様裏拳を叩き込む。そのまま吹き飛ばされた二匹は壁に縫い付けられ、ダウン。残り、三匹。

 

 背後から隙を見て奇襲を狙ったのか、突っ込んでくる天狗。肌が風の異変を繊細に察知し、数ミリという単位で避けた後、腹に掌底一発、屈ませた後に横から首を掴む。

 

「登竜独楽」

 

 首を軸に鉄棒のように回り、更に一回転。首が鈍い音をたてて、天狗が崩れ落ちる。妖怪故に、そう簡単に死にはしないだろう。邪魔にならぬようにと痙攣する天狗を蹴り飛ばし、上から迫る一匹を迎撃しようとした瞬間、それは起きる。

 

「狼戈!!」

「!?…がはっ…ぁ」

 

 背後から椛の声が響き、何事かと振り返るが何もいない。一瞬の隙を取られて背後から組み付かれてしまい、両腕拘束される。脱出しようとした瞬間、腕に鈍い痛みが走った。

 

「がぐ…っ…!!」

「…四肢全てだ。やれ」

 

 右腕が有り得ない方向へと曲がり、ぶらりと垂れる。痛みに声を上げるまでもなく、一気に七つの粉砕音が響いた。それは折れる音ではない…完璧な「粉砕」の音。

 

「ぎゅ…ぁぁ…~~!!!」

 

 声にならぬ悲鳴をあげる。いつもならば妖気で神経を麻痺させ、痛みを和らげるが…パニックでそれどころではなかった。腕と二の腕、脛に太股…それに追い討ちをかける、全身を襲う組み付かれたままでの殴る蹴るの暴行。天狗の…妖怪の力で行われるそれは、生身では軟弱である私の体を壊すには、充分過ぎるものだった。

 

「~~!! っぁ…」

「…ふん、声も出ぬか。安心するがいい。しっかりと、あの白狼も同じ所へ送ってやろう」

 

 ぴくりと、体が動く。全身を襲う耐えられない痛みに、妖気を使う迄もなく感覚、神経が麻痺。気付けば私にしがみついていた天狗の首から上は無くなり、丁度よく応援に来た天狗達が私を見て悲鳴を上げた。

 

「…誰を……殺すってぇ?」

 

 何故立てているのか、自分でも不思議だった。力も入らず、少し触れれば絶叫せざるをえない傷を全身に負い、それでも立っている。顔には…怒りや憎しみを通り越した、笑みを浮かべて。

 震えながらも、私の周りを固める増援の天狗。だが一匹の天狗が私に触れようとした瞬間、その肘から先はなくなった。鮮血が飛び散り、肉と骨が露出する。…何故だろうか、口から…とても美味しい匂いと味がするのは。

 

「う、うわぁぁ…っ!!」

 

 流石の天狗達も、私の狂いっぷりに腰を抜かした。それもそうだろう、自分でも何を言って、何を考えているのか…わからない。自分がどんな状態かもわからない。もう何も…わからない。

 

「はは…ぁはははっ!! ほら、かかっておいでよぉ…!! 全員、食ってあげるからさぁ!?」

 

 元々弱い私の精神は、大切な家族の事を想う余りに崩壊していた。優しさは時に毒となり、刃となり、近寄る者を傷付ける。それでも、構わない。

 

 こいつらぜんぶ、たべちゃっていいんだよね?

 

 

 弾幕ごっこというルールに縛られない狼戈の力ならば、その場にいた全員を一瞬に消し去ることが出来ただろう。だが狼戈がそれをしなかったのは…惑う天狗を捕まえ、首を咬み千切る。そんなくだらないことをしたかった故なのかも知れない。黒い耳や尻尾、白い肌は深紅に染まり、もう瞳に光などは見られなかった。もし…もし、椛が止めに入らなかったとしたら。そこにいた天狗という種は、ほぼ根絶やしにされていたのかも知れない。だがその狼戈を止めた椛ですら、その光景を直視することが出来なかった。少し話した程度だったが、仕事を共にした同僚の骨や肉、脳髄が飛散し、それを貪る愛する家族の姿。悲鳴をあげなかっただけ、凄いことなのやも知れぬ。涙を流しながら狼戈を抱き締めたその心情は、察するには余りあることだった。

 

「…狼戈、大丈夫?」

「ごめん…なさい……私、私……」

 

 建物から遥か離れた洞窟の中。椛がぶるぶると震える狼戈の手を握る。一時の暴走、椛を護ろうとするばかりに、自分を捨ててまで全てを壊した。亡き同僚、居場所も壊された。それでも椛は、狼戈を責めることなど…出来なかった。

 

「大丈夫…大丈夫だから……」

「うぁぁ…!! ん…ぅ…!!」

 

 泣き叫ぶ狼戈に、まるで取り憑かれたように大丈夫、と強く抱き締める椛。この調子では、体も。心も。ほんの数日、数週間では元に戻ることはない。だが…それでも。絶対に離さない。生涯、ずっと。強く胸に誓い、更に強く、ずっと強く、小さな少女を抱き締めるのだった。




 あなたは、自分を犠牲にしてでも…護りたい人はいますか…?
 護り、護られ。それが…良い連鎖になっていくとは……限らない。
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