黒狼狐己録 -Life Harboring-   作:ふーか

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 投稿から早くも、約半年。完結でございます。
 最初から見てくださっていた読者様、途中から見始めていただいた読者様。
 本当にありがとうございました。

 作者(私)の活動報告にて、後書きを残しておきます。
 改めて、本当にありがとうございましたっ!!


最終章 黒く白い狼
最終話 日常へ…


 窓の外は吹雪いていた。つい先日までは冬だと思えぬ程に暖かかったというのに、気付けばこの大量の雪である。雪の妖精でも暴走しているのだろうか、ある意味異変的な雪だった。この雪の中、あの少女は元気に走り回っているのだろう。私を置いて勝手に行くとは、後で少しお仕置きが必要かも知れない。

 

「…ふわぁぁ」

 

 大きな欠伸をひとつ、どさっと毛布の束へとダイブする。その豪雪の中で暖かいベッドで横になるのは、眠気を誘うには充分過ぎるものだ。何故だろうか、冬は眠くなるのだ。野生の本能の習性なのかも知れない。でも、どこぞの妖怪と違って冬眠なんてしない訳で…。というよりかは、あの娘と一緒に過ごす時間が減るなんて考えられない。一瞬一秒でも一緒に居たいというのに。

 

 ふと、卓上に置かれた可愛らしい人形に目をやる。吸血鬼の少女が、以前置いていった物だ。届けには行きたいところだが、またすぐに来ると言っていたし放置でいいだろう。それにしても、よく出来た人形だ。何故あそこまで万能なのか。お陰さまで私の出る幕がない。弾幕ごっこも、一対多数でも余裕でこなし、家事も全て気付けば終わらせている。私は空気か置物か。私に出番が欲しい。

 

「…暇だなぁ」

 

 以前も仕事が無い日には、河童達とよく盤遊びをしていたものだ。よく考えれば、何もせずにただのんびりとする…この簡単な事が出来なかった気がする。それ故か、毎日が新鮮に過ぎている。日々をまったり、気楽に。長い長い生命なのだ。ゆっくり生きて、楽しんで、最期は大切な者の腕の中で果てたいものだ。…そう考えると、一人しかいないのだけれど。

 あの娘が使いだし、何やら少し流行となっていた知恵の輪も、全て終わらせてしまった。他にも暇潰し用具はあるが、やはり“一人„では暇すら潰せない。依存しているのだろう、他の人といるという事に。…そういえば知恵の輪を、あの猫又が必死に解いていたのは可愛かった。健気というか、なんというか…もっとも、最後は九尾にすべて任せていたが。

 

「た~だいま~♪」

 

 突然、威勢良く、可愛らしい声が聞こえる。下の階から聞こえたその声は、どう考えても私を置いていった張本人だ。さて、どうお仕置きしてやろう。擽りか、食べるか。いや、雪で虐めてもいいかも知れない。…何故だろう、最近Sと言われても仕方がない気がする。いや、何でもかんでも可愛い反応を見せるのが悪い。私は悪くない。

 

「…ただいま、椛!!」

 

 二階に来るなり満面の笑みで告げる少女。全く、少しは落ち着いて欲しい。側に居てくれないと、私が落ち着けないではないか。苦笑しつつも、私は優しく応えるのだった。

 

「お帰り、狼戈」

 

 

◇◆◇

 

 あれから早数年。天狗から嫌がらせを受ける訳でもなく、精鋭を寄越してくる訳でもなく…ただただ時は過ぎていった。妖怪の山へ行った結果、天狗に見られてもほぼ無視されるだけ。たまに挨拶を交わす者もいるが、実際はどうなんだろうか。文に聞いた結果、当人が何もしなければ何かをしてくる妖怪ではないと伝えたらしい。優秀な天狗である文の言う言葉でも、あの事件が起こった後だ。怪しい話極まりないことだったが、私に挨拶をしたり、攻撃してくる者が居なかったりする辺り、少しは信頼してくれたのだろう。もっとも戦友を殺された恨みだと突っ込んで来た者もいたが、仕方がなく脚力で無視をしてまいた。その天狗は上から何か言われていたらしいが…悪いのは全て私、この事実は動かない。本当に、申し訳がなかった。

 

「どう? 雪、積もってた?」

「うん、妖怪の山が真っ白。ていうか一面銀世界だよ。椛も後で行こう?」

 

 椛。あの事件以降、ずっと一緒に暮らしている。暮らしている場所だが…

 私の具現化と、ヤマメ率いる土蜘蛛達、そして家族揃って手伝いをして貰って出来た、二階建ての綺麗な家。当初の予定では一階建ての、質素な家だったはずなのだが…気付かぬ内に二階建てにされていた。聞いたところ、普段の恩返しだと、お礼もさせて貰えずに一蹴されてしまったのだ。今家が建っているのは、私が指定した幻想郷の隅。地底や竹林、妖怪の山へ行くのに、支障があまり無い場所である。本当は幻想郷が一望出来るような、高い場所に建てたかったのだが…妖怪の山に建てるのも…ねぇ?

 

「う~、寒いのはあんまり…」

「布団が吹っ飛んだ」

「…わかったわかった、行けばいいんでしょ…」

 

 家の中も極寒になったよ。なんでだろうね?

 椛を引っ張って一階へと階段を駆け降りる。いつもの様にを履いて玄関のノブに手を触れた瞬間、背後から何かが抱き付いた。その生暖かい感触に跳び上がるが、そのままがんじがらめに拘束され、驚くことも出来なかった。幾ら私が小さいとはいえ、こんな柔らかいもので全身を包めるのは…一人しかいない。

 

「ら、藍…!! ひゃっ!? やめ、やめてっ!! 服の仲間でまさぐるなぁ!!」

「あ、藍さん。久しぶり」

「ああ、久しぶり。此方は可愛い反応も相変わらず、だな」

 

 建築の報酬だと言って理不尽に襲った癖に、まだ私を虐めたがるのか、この九尾は。確かに、あの時は私も仕方なく許した。理不尽だ。全てが理不尽だ。少なくとも、私に悪い要素は全くない。らんしゃま、許すまじ。

 

「雪遊びでもするのか…なら、私も混ぜるんだ」

「えぇ!? わ、私は別に、雪遊びをする訳じゃ」

「ろ・う・か・さ・ま~!!」

 

 次の瞬間、少し空いていた扉が、蹴るように開かれる。正確には、私が突然現れた砲弾に吹っ飛ばされ、扉に激突したため開いた。雪に埋もれる私に抱き付き、当の本人は幸せそうだ。結構痛かった。この状況で、何故保護者は笑って見ているのか。そこは止めるか助けるべきではないのだろうか。

 

「あらあら狼さん。雪に埋もれて幸せそうね」

「…これが幸せそうに見えるかしら、紫さん」

 

 八雲の面子は、何故毎度毎度私を虐めるのだろう。虐めたくなる程に可愛いと言うこともあるが、絶対違う。絶対ただの嫌がらせだ。わかってやっているに決まっている。

 

「よぉ、狼戈。楽しそうだな、私も混ぜろっ!!」

「なんで魔理沙まで来るのぎにゃっ!?」

 

 何故か突然魔理沙は現れ、雪玉は顔面に直撃し、椛はともかく藍迄吹き出しそうになっている始末。何故だろうか、私の周りには常に誰かが居る上に、皆揃って私を虐めてくる。これはきっとあれだろう。雪にでも埋もれて泣いていろということだろう。それならば素直にそうさせて貰うとしようか。

 

「あ~、狼戈が拗ねちゃったじゃないか」

「…吹き出しそうになってた九尾様が何を言うか」

 

 橙を雪の上に放り投げ、積もった雪の中へと潜る。全身を冷たい感覚が覆い、心地よい温度に意識を投げたくなる。冷たいものに包まれると眠気がするのは私だけだろうか、雪の温度は丁度良いのだ。

 獣耳をぱたぱたとさせて雪で遊ぶという悲しいことをしながら、外の音を聞く。もしこれ以上誰かが来るようだったら、私は更に奥に行く。それこそ掘らなければ助けられないような場所へと潜る。騒がしいのなんの、だ。

 

「…あ~、寒い寒い。お、椛。これ、届け物…あれ、狼戈は?」

 

 わかった、私に死ねというのか、昇天しろというのか、よし、わかった。

 

「…へぶっ!?」

「きゃあっ!? ろ、狼戈っ!! 驚かせないでよ!!」

 

 違う、違うよ妹紅。雪を掘り進んでたら何か眼前に開かれた隙間に突撃してしまったんだよ。その結果ここに落とされたんだよ。ワタシワルクナイヨー。シャンハーイ。

 私をじろじろと睨む妹紅に平謝りしながら、届け物と言われた小包を受けとる。中からは瓶のような陶器特有の重さと、じゃらりと小さな物が、何かにぶつかるような音をたてている。中身はあの医者(?)以外誰にも知らせていない、大事なものだった。それもそうだ、これ無しで夜は越えられない。やるかやられるかしか無いのだ。ならば、やり返すに限る。…もしかしたら、うどんげ辺りは知っているかも知れない。

 

「…よし、わかった。皆で雪合戦しよう。問答無用!!」

「冷たっ!? 狼戈ぁ…!! 食らえぇ!!」

 

 椛に飛ばした直径五センチ程の雪玉は、直径三十センチ程の凶器となって返ってきた。しかも、がちがちに固められて。反射的に下駄で粉砕し、事なきをえる。雪合戦で帰らぬ人となるのは勘弁してほしい。雪の下敷きになるなら、椛の下敷きになっていた方がまだマシである。どちらにせよ、疲労か溜まる。泣きたい。

 

「ぐはっ!? …? んぐっ!!」

 

 背後から飛んで来た雪玉が直撃、誰だと振り返ったはいいが誰もおらず、またも背後から直撃。涙目になりながらも周囲を睨むと、何やら何時にも増してにやにやしている紫の姿が目に入る。相変わらず上半身を隙間から出したままの体勢だが…成る程、隙間を使えば全方向から攻撃出来るという訳か。それにしても、爆笑している奴等を私は許さない。もういい、やってやる。

 

「“氷獣„雪華繚乱」

「狼戈が怒った!!」

 

 下を向いたままスペルを取り出す。宿すは不死鳥、フェニックス。架空の存在だろうが、私の宿すに際限等ないもので。氷の不死鳥…炎もいいけど、此方も格好良いな。

 

「装填完了…WARNING!!」

 

 周囲に浮き上がる無数の雪。雪が無いと使えない為にあまり出番のないスペル。石ころでも代用出来るが、流石に少し怖い。石ころみたいなのが音速辺りで飛んでくるのは流石に怖すぎる。頭に当たったら死ぬ。いや、普通の弾幕も一緒か。…そんなことはどうでもいい。この怒り、今ここで晴らす。

 

「全員、雪に埋もれてしまえぇ!!」

 

 

◆◇◆

 

 

「皆、元気だねぇ…」

「狼戈様が事の発端ではないですか」

 

 膝枕の橙の頭を撫でながら、雪(弾幕)合戦真っ最中の妖怪に人間、幽霊達を、遠い目で見守る。何故…何故こう余分に人数が増えるのだろう。折角だから家に誘って、と思ったが、流石にこの人数を入れたら私の家がパンクする。それに、あの幽霊を入れたら食材が一瞬で消える。鍋ごと消える。家ごと消える。…少し言い過ぎたか。

 

「…ところで狼戈様」

「何? どうかした?」

「今日の夜、付き合ってください」

 

 …ダイレクト。

 

「…ごめん、今日は先約が入ってる。また今度にして?」

「わかりました、明日ですね♪」

「連続か!? 私を滅する気か!?」

 

 私が安定したからと言って、さらりと夜中に襲ったり連れ去ったりする輩がいるから困るのだ。目覚めたら服が無いとか、何故か八雲の屋敷にいるとか…恐ろしい話、結構頻繁にある。最近はその原因の殆どが、どこからともなく現れた妖精達と楽しそうに雪だるまを作っている、あの白狼だ。やり返すと調子に乗るし、正直打つ手がない。下手に別のことで仕返しすると、人前でも普通に押し倒してくるし…。いや、それはだいたい皆一緒か。私はそういうものだと認識されているのだろう。全員、後で屋上に来なさい。

 

「あ~、楽しかった。狼戈、こんなところに居たのか」

「お帰り。ふふ、藍の尻尾はいつでも暖かい…ひゃっ!? し、尻尾はっ、触るなっ!!」

「言ってることとやってることが矛盾してます」

 

 尻尾は性感帯があると何度言えば…

 触るどころか擽ってくる藍に、意地でも尻尾を離さない。このもっふもふから離れる気は更々ない。橙や燐の尻尾は、どこか物足りないというか…あの艶やかな手触りは、結構病み付きになるけど。

 

「うぅ…しっぽ…らめらって…ふぁ…」

「お前はいったい何がしたいんだ」

 

 九尾様には勝てなかったよ…

 二階のベランダで観戦していた結果、室内に放り込まれ、ベッドの上で散々尻尾を触られる始末。橙も加わってやられるもので、私の声はもう完全に喘ぎ声に変わっていた。呂律も回らない。私には快楽しかないのか。嫌がらせなのか。そーなのかー。

 

「あたた…お邪魔してます…」

「あぁ、妖夢。また…幽々子に…巻き添え? 大変だねぇ…」

「な、なんでそんなに息が荒いんですか!?」

 

 毎度毎度無茶ぶりをされているし、なんというか哀れみを感じる。何故か半霊が私の回りをくるくる回っているのだが…何事? まさか私を餌にでも思っているの? 毎度思うが、この半霊は妖夢の意思で動いているのだろうか。やけに私にくっついてくるのだけれど。

 

「…妖夢、この半霊、何?」

「…さぁ? よくわからない」

 

 嘘を吐け嘘を。

 橙がひたすら後ろを着いて来るなか、渋々と一階へと降りる。場所的に、地底だろうが何処にいようが来やすい場所なのだが、それ故に暇潰し程度に来る輩が結構いる。一部の妖怪は私を寂しがらせないようにと、色々考えてくれているのだろうが、少し頻度が多すぎやしないかい。

 

「…あれ、狼戈様。何か作るんですか?」

「う~、うん。まぁ…こういうことも考えて、この家広く造ってあるから。

 折角だから鍋でもやろう、鍋。具現化に頼ることになるけど…まぁいいでしょ」

 

 はしゃぐ橙に苦笑しながら、冷蔵庫を開ける。色々と最新のものが揃っているのも、この家に色々集まる原因かも知れない。それに、幻想郷には無いレシピも、時おり作っているし。何故こんなものがあるのか…そういう疑問は、全て黙認して貰っている。正直、私がこの世界の住人で無かったとしても…皆はそれがどうしたと笑い飛ばすだろう。本当に、私は恵まれているものだ。近過ぎて…普段は気付けないけど。

 

「ん…橙、蜜柑食べる?」

「み、蜜柑は…ちょっと…」

 

 猫に柑橘系の果物を渡すのは嫌がらせでしょうか。何なら檸檬でもいいわよ。

 お鍋といえば豆腐に野菜にお肉に…鼻唄混じりに作る鍋。皆、どんな反応をするだろうか。喜んでくれるなら…私はなんでもするさ。それが例え無駄なことだとしても……。

 

「…さ、作るよっ!! 橙も手伝って!」

「はいっ!! …あ、報酬は…?」

「…あ~、わかったわかった。明日の夜ね」

 

 …この現金な猫又め。

 

 

◇◆◇

 

 

「…あの娘も変わったわね」

「…狼戈が、ですか?」

 

 しみじみと話す紫に、藍が首を傾げる。確かに以前と比べれば、あまり室内から出なくなった気がする。だが、それは椛がいるからであって、狼戈自身の変化という訳ではないのではないだろうか。

 

「ええ。私達や、彼女の言う家族にあの娘が見せていた笑み…何処か悲しげで、何かを偽っていたような気がするのよ。でも、最近はそれがない。本心から笑っているように見えるの」

 

 紫の言葉に、以前の狼戈の笑みと、台所で橙と楽しそうに料理をする狼戈の笑みを比べる。確かに、何処か雰囲気が違う気がした。今の狼戈は、本当に楽しそうだ。

 だが藍の記憶の中で、狼戈を良い方向へと変えるような出来事が見当たらなかった。数年前の天狗の時も、あれは狼戈にとってマイナスに働いていただろう。その後は特に何もなく、唐突に地上に椛と住みたいと言い出したし…やはり、その何もなかった時期に、何かあったと考えるのが妥当だろうか。いや、だがその時期は私や地霊殿の妖怪達が狼戈を見守っていた時期だ。その何かがあったとは考えにくいが…

 

「…そうですね。まぁ、反応は変わらず、ですが」

「全く、程ほどにしなさい」

 

 溜め息を吐いて苦笑する紫に、藍が小さくなる。ふと狼戈を見ると、既に具材は全て切り終えた後だった。何か手伝おうとすると大丈夫と却下される為にこうして見ているしか出来ない。それなのに橙とは楽しそうに…少し大人げない小さな嫉妬を抱きつつも、藍が立ち上がる。やはり、ずっと何もしないのは性に合わない。

 

「狼戈、何か手伝うことは?」

「ん~、ごめん。もうないや…あとは味を整えながら煮込むだけ」

 

 やはり、出る幕などなかったようだ。狼戈の言葉に渋々と座り、ふてくされたように頬杖をつく。だが狼戈の笑顔を見て、そんな気分はすぐに消えるのだった。今は、ただ待つとしようか。

 

 

◇◆◇

 

 

「Do you understand?」

「何を理解しろって言うのさ」

 

 わいわいがやがやと騒がしい室内。鍋の具材は気付けば消え、追加しても消え、大食い共に加えて妖精やら妖怪やらが大量に集まってくる為、マッハスピードで全てが消えていく。出汁の追加に具材の調理…ああ、忙しい。ご飯が全く間に合わない。自重という言葉を知らないのだろうか。

 何処から湧いたのか、どこぞの神様や巫女、兎に鬼に、土蜘蛛、地獄鴉に火車。それに追い討ちをかけるように吸血鬼や門番まで。何故こうも大量に集まるのか。まさか唐突に現れて外でぐうたら酒を飲んでいるつるぺたが萃めているのではなかろうか。私を疲労で殺す気か…ただでさえ夜は寝かせてくれないというのに。

 

「…んにゃ、具材は冷蔵庫…ごめん、椛。後は任せた」

「ええぇ!? ちょっ、狼戈ぁ!! むぅ…っ!! 今日の夜は覚悟してよっ!!!」

 

 大声で言うな。視線が思いっきり集まってるじゃないか。悟ったように私を見るな。

 ぐでぐでと二階へ逃げ、何やらぐうたら寝ている狐を押し退けてベッドへダイブする。私が拵えた毛布に布団だ。手触り極上で、触れているだけで意識が蕩けてしまうような…

 

「…狼戈さん、覚悟はよろしいでしょうか」

 

 私が押し退けた狐が、落とされた体勢のままでジト目で私を睨む。冷や汗が滲む中、聞いて聞かぬふりをして毛布に潜り込む。だが次の瞬間、毛布の中へと何かが侵入してきた。

 

「にゃっ!? やめっ、服の中をまさぐるな!! ひやぁ!? そこはっ、触るなぁ…!! んぐぅ!?」

「んむ…んふ……」

 

 もう散々だ。

 散々裸を触られた挙げ句、強引なディープキスへと持ち込まれる。毛布の中で、ひっそりと狐に襲われる狼。私を抱き締めて満足そうに微笑むその姿に、もう全て諦めて身を委ねていた。

 

「…狐火鴉、昼は自重してくれないかな」

「えへへ。あ、狼戈さん。もしかしたら私も此処に住むかも知れません」

 

 以前から話していたこと故驚きはしないが、結構面倒な話かも知れない。主に夜の方向で…このまま二匹の獣から襲われることになった場合、私は失踪不可避だ。ロリ化させられて、強引に? ふざけんなこのけもどもめ。

 

「…もう寝る。お休み」

「あ、拗ねちゃった…」

 

 狐火鴉から強引な抱擁を受けながら、無理矢理目を瞑る。辛い時は寝てしまうのが一番である。夜這いや寝とりを警戒しながらになるため、多少精神的にダメージはくるけども。…あぁ、この狐、暫く離してはくれないのだろうなぁ…。

 

 

◆◇◆

 

 

「あ~、疲れた…夜の雪も中々ね」

 

 窓からの雪景色を眺めながら、一人猪口に注がれた(弱い)酒を口に含む。全員揃って散々食い荒らして帰って行ったが…とりあえず皿洗いも終わらせたし、後片付けも終了した。余分に追加した皿は具現化でそのまま消し去り、普段から使う鍋や一部の茶碗は洗って乾燥台へ。はっきり言って、片付け自体はあまり手間がかからない。実際、手間がかかるのはもう少し先だ。椛が風呂から上がった後…これが問題となる。どうせ今から臭くなるのだから、風呂になど入らなくてよいだろうに…。本人がそうしたいならば、無理強いはしないが。

 

「狼戈が酒を飲むとは珍しい」

 

 タオルで髪を拭きながら、椛が顔を出す。私もよくわかっていることだが、髪は勿論尻尾はなかなか乾かない。毛の量も多く、私に限ってはとても大きい為手間がかかる。ドライヤーにブラッシング、お手入れも大事。猫みたいに舐めて毛繕い、というのは流石に暴走させた時の姿でしかやらない。

 

「…ねぇ、椛。私、もう寝てていいかな」

「何言ってるの? そうしたら明日の朝動けなくなってるよ?」

 

 隣にぺたんと座る椛の姿は、とても可愛らしい。問題は…服を着ろ服を。幾らどうせ脱ぐからといってそのまま来るんじゃない。私は裸を見て興奮する程飢えていない。というか、正直な話見飽きたのだ。いったい、どれだけの間地霊殿で同性と過ごしてきたか…

 

「…椛、昔の貴女にあった羞恥心とか、恥じらいは何処にいったの?」

「黒い狼が食べちゃった」

 

 成る程、私が原因か。そもそもの元凶はどこぞの九尾だと思うのだが。

 ぴったりと寄り添う椛に顔を赤くしながら、深々と降り積もっていく雪を眺める。窓から写る雪化粧の幻想郷は綺麗だが、隣で尻尾と獣耳をぱたぱた忙しく動かす椛が可愛い。どうしよう、私も段々百合に染まって…いや、もう染まりきっている気がする。こんな関係の以上、もう百合以外の何でもない気がするのだ。

 

「…ね~、狼戈~。あ~そ~ぼ?」

「い~や~だ♪」

「…あら、そう。じゃあ無理矢理ね」

 

 自ら墓穴を掘っていくスタイル。

 言葉通り無理矢理に押し倒し、さらりと服を脱がせる椛。特に留めている訳でもないワンピースは一瞬で剥がされ、三十秒もしない内にもう裸体が晒されていた。毎度思うが、私が男だったら悲惨なことになっていたのだろうな…。搾り取られて亡くなりそうだ。おお、怖い怖い。

 

「えへ…♪ ねぇ、狼戈? 今日はどうして欲しい?

 舐められたい? かじられたい? それとも、強引に弄ばれたい? ふふ…」

「…酒でも飲んだな、この白狼。じゃ何も無しで…ひゃっ…ん…ぅぐ…」

 

 考えても見て欲しい。強引なM字開脚に、頭上で両手首が押さえつけられる。それでも屈辱的だというのに、更に無理矢理犯されるのだ。これ以上私にどうしろと。

 

「らめ…ほこは…はぁうな…」

「ん~? はっきり言わないとわかんないよぉ?」

 

 絶対わかってるでしょ。呂律が回ってないんだよ。察してよ。

 そこは触るなと言っても、執拗にぐちゃりくちゅりと掻き回す椛に段々と意識が高揚していく。頬を紅潮させて瞳のない目で見詰め、先程させられた体勢のままで涎を垂らす…絵的にはどう考えてもR-18状態なのだが。だがどう考えても逃れる術がない為、やはり素直に受け入れるしかないらしい。何故だろう、毎度逃げようとして諦めるのは。実際逃げられないし…。

 

「…んぅ…ぐ…」

「逃げたらダメだよ? ほら、ふふ…♪」

 

 ほら見ろ、逃げられる訳がない。

 刻々と過ぎる時間に、止まぬ色めいた声。あの事件以降、椛が更に暴走し始めた。独占欲が~、と散々ぎゃーぎゃーと言っていたのだ。一緒に住み始め、その欲望が叶ったのだろう。お陰様で私はボロボロである。まぁ…無理矢理なことを除けば、あまり悪い気はしない。獣ロリに獣ロリ…つまり、いつも通り。

 

「ち、ちょっと…もみ…じ…本気でっ、待って…」

「…んぅ。しょうがないなぁ」

 

 一度椛に離れて貰い、荒くなった息を整える。少し湿った体をひきずってベッドから降り、バスタオルを体に巻き付けた。「?」を浮かべる椛に、口に指を当てて静かにと小さく伝え、階段をゆっくりと降りる。ぺたぺたと素足がフローリングを歩く音が響く。階下から、確かに何かの気配が…

 

「…どちら様かね」

「ひゃっ!? あ、い、いや、その…」

 

 近付けば、その正体は容易に確認出来た。特有の尖った耳、真ん丸の大きな尻尾、炎の装飾が綺麗な、白い和風の衣服。仕事は休みと言っていたとはいえ、勝手に此処にいるとは…大事な主が心配するではないか。

 

「…ということは。出てきなさい、お空、お燐」

「…い、いや、あたいは…お空に無理矢理」

「えへへ~♪ だって、狼戈がいないと静かで寂しいんだもん」

 

 かといって、夜に私が(強制的に)出す(出させられる)声は、とてもじゃないがBGMに聞かせられるものではないのだが。こんなBGM、誰が喜ぶというのだ。まったく、何処の変態だと。

 

「貴女達ねぇ…さとり様が心配するよ? 狐火鴉、然り気無く尻尾に…ひぅ…」

 

 私が正常にいられる夜はないのですか?

 尻尾を擽られて膝から崩れ落ちつつ、その元凶と妖獣達を睨む。返すべきか否かで悩んでいた時、階上からぱたぱたと何かが降りてくる音がした。いや、これはまずい。燐と空はともかく、狐火鴉と椛が合わさるとろくなことにならない。それは身をもって知っている。こうなってしまったら、密かに玄関から脱出を…

 

「…あれ? 狐火鴉に、お燐にお空。なんで此処に?」

 

 作戦失敗、敵前逃亡ノ許可ヲ求ム。

 扉のノブに手をかけて固まる私を椛がちらりと見て、にやっと笑った。じりじりと寄っていく白狼に、震えるままに捕まるのを待つ黒狼。完全な捕食者と被食者の関係である。

 

「…あ、お燐達も、一緒に狼戈虐める?」

「おいこらふざけんな。私をなんだと思ってるんだ。性的な餌か? 餌なのか!?」

 

 これを認めると四対一で地獄を見ることになる為、流石に止める。以前の紫と藍の時ですら死にそうになったのだ。どう考えても、私の体が耐えられる訳がない。確かに、多数を相手にすることも無かった訳ではないが、はっきり言って地獄絵図のような光景に…いや、なんでもない、なんでもないよ。

 

「…燐達、二階においで。部屋貸すから。ちょっと狭いけど我慢してね」

 

 二階は二部屋。私が先程捕まっていた寝室と、普段の生活に使う自室。どちらも椛と共同だ。風呂も二階に。もし、昼に言っていた通り狐火鴉が住むというなら…具現化を連発して、新たに小さく作るとしようか。勿論隣接させて。一階建てなら、正直具現化だけでもなんとでもなる。ちなみにだが、一階は台所にリビング、玄関等が必要最低限あるのみ。

 

「…あれ、此方で寝ちゃだめなの?」

「…空ちゃん、貴女は然り気無ーく私を虐めようとしてない?」

「あれ、ばれちゃった」

 

 この地獄鴉め。可愛らしい笑みを見せながらも腹黒いことを考えている。

 自室のものを粗方どかし、布団をぽんと敷き詰める。早速ごろごろし始めた空達を後目に寝室へ戻る。が、やはりというか、想像通りというべきか、狐火鴉がついてきた。居て当然のように振る舞う狐火鴉に、ただ失笑するしか出来ない。

 

「…ね、ねぇ、狐火鴉? 君の寝る場所はあっちだよ?」

「え? でも、椛さんはいいって言ってましたよ。ですよね?」

「うん、勿論。それに、狼戈は小さい方が敏感で可愛いから…♪」

 

 やっぱりお燐達も誘って来ようかな、と死神の囁きを繰り出す椛に戦慄しながらも、どう逃げるかと二度目の策略を練る。下は雪…ベランダから飛び降りて逃げよう。そう考えた瞬間、尻尾が尻尾と絡まり、視線が低くなった。脳内に表示されるGAME OVERの血文字。ぽてっと毛布の上に倒された私の視界には、にやりと微笑む椛と満面の笑みで此方を見詰める狐火鴉の姿。言葉ひとつ交わさずに、連携したように私の手首を押さえつける二人。それはすなわち、もう逃げられないことを意味する。

 

「さて、狼戈さん。まだまだ夜は長い訳ですし…」

「いっぱい鳴いてね? 狼戈♪」

「…もう……いやだ……」

 

 

 

 千年、何百年。私がこの世界に来て、長い長い年月は一瞬で過ぎていった。

 出会って、別れて、また出会って。喧嘩もして、泣いて、最後は笑って。

 

 この世界に来て学んだこと…。それは家族の暖かみだと、私は思う。

 しっかりと誉めてくれて、喜んでくれて、時には叱ってくれる、優しい存在。

 家族なんて…所詮は邪魔なもの。何時だったか、家族をあまり知らない私は、そう思ったこともあった。どうせ、また私から離れていく…温もりは、長くは続かないと。でも、藍や、燐達、さとりと出会って、私の価値観は大きく変わっていったのだ。ずっと、心の中にある、変わらない暖かさ。その暖かさを、私が皆に与えられているなら…私は本望だ。

 

 皆と一緒に生きて、皆と一緒に朽ちていけたのなら…もう、望むものなんてない。

 …強いて言うなら、夜になった瞬間に私を襲うのを止めて欲しいとは思う。

 

 

 …さぁ、まだまだ人生は…妖怪生は長い。

 何時終わるのか、そんなのはわからない、黒く優しい狼の、たったひとつの物語…。

 

 この命枯れるまで…精一杯、紡いでいくとしましょうか!!

 

 

 

 

「…もう、はらして…よぉ……」

「ダメだってば…ふふ、ずっと一緒にいようね」

「んぐぅ…んぅ……」

 

 …だめだこりゃ。

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