黒狼狐己録 -Life Harboring-   作:ふーか

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誤字が多すぎる…
修正は端末的に不可能のため、後日。

次回は…もこけーね。以上。


◇ 姉妹と妹(上)

「むむ…此処も外れかね?」

 

 ふらふらと、ゆらゆらと。人里巡りの真っ最中…そもそも、その目的はどこぞの不死人に会う為なのだが。少し聞きたい事がある故に妹紅を探して竹林に赴いた結果、妹紅はいないわ妖精がからかっているのか弾幕飛ばしてくるわで災難だった。挙げ句に偶然会った仕事中の鈴仙からは何処かの人里に出掛けたと訳のわからないことを言われるし…結局、何の為に竹林に行ったのだと。どうせなら鈴仙に、あの先生がいる里が何処かを聞いておけばよかった。

 

「ふむ…幻想郷に、そんな多くの里があるとは思えないしなぁ…」

 

 今まで行ったことがあるのは数件。それに加えて、現在新発見二件目。竹林近くを、と色々探してみるのはいいが…私の性格上色々寄り道するもので。もしかしたら、もう妹紅は自分の住処に戻っているかも知れない。もしそうだったら…ちょいと頭突きをお見舞いするとしようかね。

 

「ん…? おい、其処の妖怪」

「にゃっ!? な、何!? 何事!?」

 

 突然響いた声に、咄嗟に振り向くが誰もいない。見ず知らずの人間の里さえもさらりと紛れ込むような妖怪、私くらいしかいないはずだが…

 

「…まさか、狼戈?」

「…え? あ、まさか」

 

 声の主をゆっくりと辿ると、其処には建物の庭から此方を見据える者が一人。あの姿に、強そうというか、中性的な喋り方。それに加え、見えはしないが建物から聞こえる子供の声。間違えるはずもなく…

 

「…上白沢 慧音?」

「ん、やはりか」

 

 ちょいちょいと手招きする慧音に従い、ぴょこぴょこと慧音の前へ向かう。正面に立った途端、舐めるようにただじっと見詰め始める慧音に視線を逸らしながらも、率直に疑問を問うてみる。

 

「なんで私を?」

「あの娘が話してたよ。色々世話になってるとか。ありがとう」

 

 何かいきなり感謝されたが…私が、世話を? 確かにご馳走したり、色々駄弁ったりと結構関わりは深いはずだが…そのことを言っているのだろうか。それもそうか…慧音はともかく、人間と親しい妖怪なんて早々いない…それは妹紅にも同じことだろう。いつでも親切にしてくれる者が…でも…わかる気がする。私達妖怪も、永い時を生き続ける…それ故に人間と関わりを持つのは苦痛だ。気付けば寿命を迎え、亡くなっている…それ故に、私もあまり人とは会わない。まぁ…霊夢や魔理沙はおいといて。人里の人達も、何故か勝手に私を妹のような感じで見ているだけであって。

 

「私も届け物だったりで助けて貰ってるよ。困ってる時はお互い様ってね」

「わぁ…!! 狼だ!!」

「ひゃっ!?」

 

 人がせっかく満面の笑みで良いことを言っているというのに、突如として突っ込んでくる小さな子供。寺小屋の生徒だろうか…こんな小さな子供もいるのだな。てっきり、最低限自律が出来る辺りの人間が学んでいると思ったのに。だがまぁ、子供は命知らずというが…私が人間嫌いの妖怪だったらどうなっていたやら。いやまぁ、即座に逃げるけど。

 

「こら…!! …すまないな、狼戈」

「いや、大丈夫…やっ!? し、尻尾は、ダメっ…!!」

 

 へなへなと崩れ落ちる私に、慧音が慌てて子供を引き剥がす。軽くお説教を受けて渋々といった感じで戻っていった子供。その様子を微笑ましいと眺めていると、慧音が溜め息混じりに呟いた。

 

「…美味しそうだな」

 

 …もう言われ慣れているから、私はもう何も言わない。

 私の尻尾を触られた時の反応を見てか、さらりと問題発言をかます慧音。思い返せば出会い頭に美味しそうだの可愛いだのと、皆から言われているな。それも、人外の同性ばかり…逆に言えば、人間、又は異性に変なことをされていない。…私の体質はいまいちわからないが、同性の人外を惹き付けると見ていいだろう。まぁ…異性とはあまり関わりが無かったし、人間なんてたまにしか会わないし、で。

 

「…確かに、あの娘の言ってた通りだ」

「……え、ちょっと待って。あの娘ってまさか…」

 

 慧音と親しい仲で、且つ私とも親しい者なんて…

 

「…妹紅?」

「ああ、そうだが…?」

 

 …おい、誰だ。人間からは襲われないって言った奴は。出てこい。私だ。もう泣きたい。

 つまりは…あれか。まさか、早苗や咲夜、主人公二人も豹変する可能性が…? いや、早苗と咲夜はともかく、魔理沙と霊夢にその可能性は低いだろう。そんな素振り見せた記憶がないし、魔理沙は弾幕勝負ばかりだし、霊夢はいつも素っ気ない態度だし。いや、それでもまぁ、早苗辺りが怖いんだけど。

 

「…そっか。妹紅、私をそんな風に見てたんだ…」

 

 特に怒りや憎しみの感情はないが、意外。その一言だった。虚無感しか無いが。

 

「…慧音。今日の夜、お酒でも飲みに行かない? 妹紅を誘ってさ」

「夜? 別に構わないけど…」

「よし、決まり♪ じゃあ、みすちーの屋台…わかるよね? 其処に集合ね!」

 

 返事も聞かず、上機嫌で其処から去る。今日は椛も狐火鴉も出掛けているし、もう特に用事もない。折角だから、紅魔館にでも遊びに行くとしよう。あの後…フランとはゆっくり話を出来ていない。私が意識を失っていた時も、どうやら心配して来ていたらしい。あの事件の後は…私が少し不安定だったから…

 

「…フラン、元気かなぁ?」

 

 一人で呟きながら、下駄に力を込める。次の瞬間、紅魔館を目指して、強く土を蹴った。

 

 …この時、気付くべきだったのだろう。青空に薄く見える、真ん丸なお月様に。

 

 

◆◇◆

 

 

「美鈴~? その幸せそうな寝顔を恐怖に染めてあげようかぁ…♪」

「ひゃぁぁあ!? お、起きます起きます!! 起きますって!!」

 

 わかればよろしい。

 まるで化物を見るかのような瞳で私を見る美鈴にむすっとしながら、早速入館許可をとる。魔理沙のように、何の許可もなく突撃…しても正直いいのだが、此処に来ると何かとお世話になるため、最低限の礼儀はあってもいいだろう。ただ…その世話になる反面、どこぞの姉妹に血をねだられることがある為に、やっぱり突撃してもいいのかな、とはたまに思う。

 

「もう、しっかり起きててよ」

「え~…一応、寝てても誰が来てるかとかはわかってるんですよ?」

「…ああ、能力。ふむ…でも、寝てるのに変わりはないわよね」

 

 軽く一蹴すると、美鈴がしゅんとなってしまった。苦笑しながら宥めたあと、お菓子(臨時具現化)を渡して館に突撃。美鈴、やけに嬉しそうだったが…水羊羹って、結構人気なのかな? 私は和菓子好きなんだけど。

 

「…あら、いらっしゃい」

「んにゃ!? 何奴…!! まさか、侵入者かっ!?」

「いやいや、どちらかと言えば侵入者は貴女でしょうに」

 

 溜め息混じりの咲夜。ボケてくれる訳でもない冷静なツッコミ。呆れ顔をしてない辺りは、一応対応してくれているらしい。流石メイド長、万能。

 ふと先程の話を思いだし、咲夜の顔をじっと眺める。少し頬を赤らめながら視線を逸らす咲夜。体質が引き寄せる対象は、人間にも効いてしまっている…咲夜は、私のことをどう思っているのだろうか。客人か、知人か、友人か…それとも…

 

「ねぇ、咲夜? 私のこと…どう思ってる?」

「狼戈を? ん~…今は客人、かしらね」

「客“人„じゃないけどね。そうじゃなくって、普段のことよ、普段のこと」

 

 私の言葉に、人間なんて食料としてしか来ないと溜め息を吐く咲夜。ええ、そうでしょうね。まあ仕方ないのだけれど。来なかったらあの吸血鬼生きられないし。

 

「普段…は頼れる友人、かな。何かとお世話になってるものね」

「いやいや、私もお世話になってるから、その仕返しだよ」

「…いや、仕返しされた記憶はないのだけれども」

 

 咲夜は、何故こうもボケの対応に慣れているのか。きっとこの館のお嬢様がふざけまくる結果だろう。まったく…ご苦労なことだ。そう考えると、咲夜が一番精神年齢が高いのではないだろうか。…パチュリーといい勝負かね。

 

「ま、いいや。聞きたいことは聞けたし…」

「お姉ちゃん!!」

「おうふ」

 

 突如として現れた紅い弾丸に、成す術無く、力無く吹っ飛ばされる。咲夜は苦笑、私は唖然、フランは私を凝視いったい、この状況はどう狙ったら作り出せるのか。

 

「お姉ちゃん…もう大丈夫なの?」

「う~…正直言うと今の状況が大丈夫じゃない…かな?」

 

 吹っ飛ばされた後に床にクリーンヒットしたため、ダメージが大きい。その上フランには(形はどうあれ)押し倒されているしで、正直いますぐ逃げ出したかった。それにしても、客人又は頼れる友人が倒れ伏しているのに、何故あのメイド長は助けようとしないのか。どたばたしているのは日常茶飯事だろうけども…ねぇ?

 

「ごめんねぇ? 心配かけて…もう大丈夫だよ。ほらほら」

「お姉ちゃん…心配ばっかりかけるんだもん…」

 

 ぐぅの音も出ない。

 とりあえず、とまだ離れようとしないフランを一旦離れさせ、床に思いきり擦りつけられた背中を払う。埃ひとつ落ちないのは、掃除が完璧に行き届いているからだろう。此処のメイドは有能で羨ましい。まあ、私にメイドなんていらないのですけど。

 

「…あ、そうだ。あいつがお姉ちゃんに会いたいって言ってたよ?」

「あいつ? …ああ、レミリアか。実のお姉さんをあいつ呼ばわりするのは…」

「こいつでもいいよ?」

 

 この娘、レミリアに何か恨みでもあるのだろうか。気持ちはわかる。

 完全に空気と火していた咲夜に小さく敬礼し、フランの手を引いてレミリアの自室へと向かう。なんというか…憂鬱だなぁ。何故だろう、別に嫌いな訳ではないのだけれど。

 

「そうだ、お姉ちゃん…これ」

「ん? え…これは…?」

 

 廊下を歩く、その最中…フランから手渡されたのは、まるで鮮血のように鮮やかで深い紅の革に、七色の宝石のようなものが等間隔に並べられた…首輪だった。まるで…フランのようだな。綺麗な紅の瞳に、七色の翼…

 

「…いいの?」

「うん。人形も、血も。何もお返しが出来てなかったから…ひゃっ!?」

 

 無防備に油断しているフランを、背後から抱き締めた。翼がぴくりと動き、フラン本人は思いきり跳び上がる始末。瞳のように顔を紅くしながら狼狽するフランに、更に強く、強く抱き締める。

 

「…フランと一緒に居られることが、私にとって一番のお返しなんだからね」

「…ありがとう、お姉ちゃん」

「ん、どういたしまして。これ、着けてくれる?」

 

 以前橙から貰った首輪を外し、一度尻尾に引っかけておく。身長差的にしゃがむ必要もなく、フランが私の首に手を回した。苦しくない程度に締めて貰い、装備完了。アイテム発見力とかが上がったり…はしないか。

 可愛らしい首輪…だが、橙から貰った首輪はどうしようか…流石に二本も着ける訳にもいかないし、家に飾っておくのも私の性格上好ましくない。

 

「…とりあえず、ブレスレットにしとこうかな」

「お姉ちゃん、行こう?」

「あ、うん」

 

 手首に橙の首輪を巻いて具現化ひとつ、余った部分の革を邪魔にならないように固定する。急かすフランに言われるがまま、再度廊下を歩き始めるのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

「…久しぶり、レミリア。どう? ご機嫌いかが?」

「まずまずよ。それにしても…貴女も結構やるのね」

 

 レミリアの意味深的な発言に、思わず首を傾げる。差し出された紅茶(何が入っていてもノーコメント)をすすり、言葉の続きを急かす。

 

「妖怪の山の事件、聞いたわよ?」

「…やっぱり、結構知られてるんだね。出来ればあんまり口に出さないでくれるかな」

 

 憂い顔を見せる私に、少し間を置いて頷くレミリア。此処で利用しようともせず、何も聞かず、という反応をする辺り、決して悪魔では無いようだ。本当に…いざという時に頼れる存在が、私の周りには多すぎるよ。

 

「あ、そうだ。話って?」

「狼戈の事だから率直に言うわね。少し血をいただけないかしら」

 

 …ああ、うん。そんなこったろうと思った。

 明らかに嫌だと表情で示す私に、レミリアが堕とそうとしているのか、恐ろしい程にあざとい表情で此方をみせいる。ふと隣のフランを見ると、あざとはこそ無いが、期待しかない瞳で此方を見据えていた。

 

「…フランはともかく、レミリアは恐怖に染まった人間の血しか飲まないんじゃないの?」

「そんなこと言ってないわよ~?」

 

 嘘吐け。

 私がどうしようかと狼狽える中で、フランが抱き付いてきた。悪気は無い…と思う。其処までして飲みたいのか…? 確かに私の血は血と思えない味になってるけど…実際どうなんだろう。以前傷口を舐めた時は甘い味がした。まぁ、宿すの影響で吸血鬼の特性も少なからずあるから、補正がかかってるの化も知れないけど。

 

「…これ、もし断ったらどうなるのかしらね」

「許さん」

「あ、そう。別に構わないけど…同時は却下ね。流石に私が耐えられないわ」

 

 今にも飛びかかってきそうだった為、冷静に付け足しておく。どちらかの相手ですら貧血を起こす程に吸われるというのに、同時に相手をしては本当に吸われ尽くしてしまう。私は夜な夜な動くゾンビになんてなりたくないんでね。キョンシー? はて、誰のことだろうか。

 

「フランが先? レミリアが先? 夜は用事があるし、どちらにせよ多くは吸わせないよ」

「…フラン、お先にどうぞ?」

「…いいの?」

 

 頷くレミリア。こんな妹想いのところが、私が彼女を気に入っている理由のひとつだ。普段はカリスマの欠片もな…いや、結構お茶目でわんぱくな娘だから、こういう時のレミリアは本当に格好良く見える。それにしても…年下、かぁ…この紅魔館に私の年上がいない…改めて考えると、まさかこんなことになるなんて思わなかったな。

 

「…お姉ちゃん、大丈夫?」

「ん…どうぞ? 満足する迄は吸わないでね。私渇れちゃう」

 

 気楽に肯定し、吸血鬼の抱擁を受け入れる。ゆっくりと優しく抱きつき、首筋に牙をあてがう。次の瞬間鋭い痛みが走り、一瞬片目を瞑った。首の辺りに、冷たい感覚が走る。此処まで勢いよく血を吸われるという感覚なんて…普通味わえない。

 

「ん…く…」

「…そろそろやめてね。これ以上吸われると支障が出るから」

 

 私の言葉に、以前とは違って素直に口を離すフラン。ほんの一瞬で、体の半分程の血液が…私が妖怪であり、且つ妖力が強いから此処まで吸われても大丈夫なのだ。回復能力がなければ、こんなにも吸わせない。

 

「…30分くらいクールダウンさせてね」

「…わかったわ。咲夜!! 昼食の準備は?」

「はい、もう出来ていますよ」

 

 突然視界に現れる咲夜。もう驚く事はないが、本当にいい能力だと思う。しかも彼女は人間…まぁ、私は戦っても負けませんけど。

 

「狼戈、昼食はまだよね?」

「んにゃ? まあ、食べてないけど…」

「ちょうどいいわ。折角だから食べていきなさい」

 

 本来はフランと話しに来ただけの為断ろうとするが、断るに断れず手を引かれる。それでも、と無理に断ろうとした結果、フランに抱き抱えれて無理矢理連れて行かれるハメになった。そりゃ…私の方が小さいけど…最近思うけど、私、段々更にロリ化してませんかね。気のせいかな?

 

「さぁ、ご自由にお召し上がって?」

「…ま、まぁ、うん。いただきます…」

 

 仕方がなく座り、傍らのフォークを手にとった。以前のように凝視されることはないため気楽と言えば気楽だが…料理も美味しいけども…。最近自炊が多かった故に、少し新鮮だ。そう考えると、今日の夜も外食だな。おお、贅沢贅沢。

 

「…あるぇ? どうしてあの娘が此処にいるのかなぁ?」

「…あの娘? …誰もいないよ?」

 

 周囲を見渡したフランだったが、その存在には気付いていないようだ。それもそうだろう…彼女の能力が常時通用しないのは、私だけなのだから。見逃して放置でも良かったけど…それでも。ちゃっかりと椅子に座って料理を頬張り、幸せそうに笑みを見せる少女は、流石に見逃せなかった。

 

「…レミリア、少し席を立つわよ」

「? ええ、どうぞ?」

 

 料理に夢中なのか、無意識故に此方に気付いていないのか。大きな机をくるっと回り、その少女の背後へと回る。首を傾けるフランとレミリアににやりと微笑むと、その少女を勢いよく抱き締めた。

 

「ひゃぁぁぁあ!? な、何っ!? 狼戈!?」

「久しぶり~♪ こいし、元気だったぁ? ふふ…♪」

 

 私が抱き締めると、フラン達にもみえるようになったようだ。驚愕を浮かべる姉妹に、じたばたと腕の中でもがくこいし。よく考えると…この室内、身長の低い者しかいない。それにしても…本当に何処にでもいるな、こいしは。

 

「…こいしちゃん、居たんだ」

「てへへ~♪ 久しぶり! フランちゃん!!」

 

 私を他所に、何やら親しげに話始める二人の少女。完全に空気と化した私をレミリアを気にも留めず、楽しそうな少女の会話が室内に響く。

 

「…え、まさかの知り合い?」

「うん。こいしちゃんが、いきなり私の部屋に現れて…」

「…ああ、うん。だろうね…神出鬼没だもんねこの娘」

「褒められても何も出ないよ~♪」

 

 別に褒めたつもりはないのだけれど。

 可愛らしい少女トークを始めた二人を眺めながら、ただただしんみりと見守る吸血鬼と狼。互いにぴったりと目が合い、互いに苦笑した。これでは保護者ではないか…そう心中で呟きながら、ただただワインをすするのだった。血肉入りの紅茶は、あまり言いたくないけど絶品です。

 

 

◆◇◆

 

 

「弾幕ごっこの続き?」

「うん。フランちゃんもいるし、二対一でやろうよ!!」

「あら、私を忘れてないかしら」

 

 私の了承も得ずにきゃーきゃーと騒ぎ始めた三人。大人だと再認識したつもりが、レミリアはまだまだ子供のようだ。若いっていいわね。

 私がしんみりと外を眺めている間に、三対一の本気でやるという、私からすれば怒鳴りたくなるような酷いルールを押し付けられていた。殺す気の本気…私が強いと信用されてのことなんだろうけども、流石に鬼畜過ぎではないだろうか。なら、私も紫や藍、さとり辺りを呼んでもいいのかな…? さとりは戦闘は苦手と言いながらも極悪な弾幕放つし、紫はもう言うまでもなく最強クラス、藍は最強の妖獣だ。…ああ、これ、もし呼んだら私の出番が微塵もなくいなってしまう。やはり私は一匹狼でいい。

 

 渋々といった感じで、紅魔館屋外、建物の影へと移動する。本当は屋上の更に上が良いのだが、吸血鬼ペアは日光に当たると霧化してしまう。それ故に、戦闘スペースが限られるのだ。やはり、これは私にとっての死刑宣告でないか。

 

「…フラン、流石に能力は禁止ね? ふむ…じゃ、ハンデとして、私は自分からは空に浮かないわ。

 さて…何処からでもかかって来なさい!!」

 

 宣戦布告。それと同時に、三人が同時にスペルカードを取り出す。いやちょっと待て、そんなの聞いてない。霊夢と魔理沙を同時に相手した時も結構怖かったというのに、そんなの聞いてない。

 

「“禁忌„フォーオブアカインド…レーウァテイン」

「“スカーレットディスティニー„」

「“ブランブリーローズガーデン„…最初から、全開だよっ!!」

 

 …ちょっと待って、本気で聞いてないって。何これ? 三対一が六対一になった上に更にスペル追加、しかも二人揃って…それはいきなり使ったらダメだろ、レミリアとこいしよ。これが並の人間だったら消し飛ぶぜ…

 

「わぁ綺麗…まぁ、うん。“開花„鮮紅繚乱」

 

 宿すは植物…少し前に使ったが、外見は結構気に入っている。植物は癒し。

 周囲から縦横無尽に舞う、ナイフ型の紅い弾幕や、綺麗な薔薇の嵐。更にその隙間から覗く紅い切っ先。これは…流石にノーダメージは無理、かな。

 

 草花のドレスで隠れているが、首筋辺りから伸びる茨の蔓。舞うように、鞭のようにレミリアの弾幕をひたすらに弾き落としていく。弾幕の合間から伸びる切っ先を紙一重で避けつつも、一番邪魔な攻撃をするレミリアを潰そうと動く。だが…フランとこいしの連携が思った以上に高度。私が避ける先へ先へと誘導し、こいしが狙いを定める。あの薔薇に囚われれば…私とて容易には抜け出せない。

 

「“必殺„ハートブレイク」

 

 レミリアのスペルが切り替わる。妖気や力が尽きる前に終わらせてしまう…紅霧異変の時と同じく、速攻で終わらせる気だ。だが…どうするか。反撃の隙がない。何故あんなハンデを自らつけたのか…ちょっと調子に乗った。本気、つまりルール無視故に、避ける先がないのだ。弾くか落とすか、当たるか。その三択に絞られ、やはり反撃出来ない。

 

「っ…!! いやっ!?」

「…捕まえた」

 

 三方向からのレーヴァテインを、遠距離からのハートブレイクを避けた刹那、周囲を薔薇が取り囲む。ガードしようにも薔薇の嵐のせいで集中出来ず、上手く扱えない。その上で、茨の蔓が巻き付き、全身を裂いていく。

 

「…これは特別製。さぁ、狼戈…終わりだよ!!」

「が…っ…~~!!」

 

 声にもならない悲鳴が漏れる。棘に割かれた体に、レーヴァテインは突き刺さり、それに追い討ちをかけるように薔薇が大爆発。何十メートルという距離を吹っ飛ばされ、紅魔館の壁に激突。壁に縫い付けられ、血を吐き出した。

 

「…ちょっと、やり過ぎた…かな…」

「何を…油断してるのかなぁ…? 終わるのは…君達なんだよ?

 咲き乱れろ、深紅の血花よ… “桜之万華鏡„」

 

 ハンデをつけようが…フィールドを縛られようが…

 

 ーーそう簡単には敗けられないんだよ。

 

 刹那、天空から降り注ぐ真紅の花弁。それは肌に触れれば肉を裂き、地に触れれば巨大な桜を咲かせる痛みの種。相手を花弁の嵐が取り囲み、且つその上空からはまた花弁が降り注ぐ。当たれば地獄、避けても地獄…このスペルを打ち破れるものならば…破るがいいさ…未熟者。

 

「“神槍„スピア・ザ・グングニル!!」

「っ…!! ぐ…ぁぅ…」

 

 花弁の嵐から、吹き荒ぶ一筋の光。それはいつぞやのように私の体を貫き、鮮血を噴き上げた。あはは、ぼこぼこにやられてるよ、私。試作スペルを実践で使うもんじゃないね。

 今頃気付いたが…爆破で左腕が吹き飛び、かすったレーヴァテインで太股を大きく切り裂かれ、こいしの薔薇に囚われた際に直撃したそれは肩から胸の少し上辺りまでを大きく裂いた。それに加え、腹からは見たくもないグロテスクな臓器が覗き、今もなお鮮血を上げ続けている。流石にまずいと判断したのか、心配そうに寄ろうとするフランとこいし。だが…それを片腕で一蹴。懐からスペルカードを乱暴に取り出す。血に濡れたカード…そんなの、気にしない。

 

「“爆砲„月光砲-焔-」

 

 周囲一体、全てが暗闇へと変貌する。何事だと周囲を警戒する三人…力無く項垂れ、かろうじて立っているだけの状態…そんな私を警戒する必要などないと決断したのか、即座に此方へと歩み寄ってきた。

 私はね…勝負は嫌いじゃない。売ることは少ないけど、乗り気の時は余裕で買う。でも…私もまだまだ子供なんでね。敗けるなんて…敗北なんて……

 

「プライドが許さないんだよ…!!」

 

 背後、上下左右、辺りに全て巨大な魔法陣が展開。暗闇に映る惑星達の光が尻尾へと集まっていく中で、展開された弾幕からは大きさもスピードもまばらなエネルギーの塊発射され続ける。こんな状態でこれだけの力を使う私に驚きつつも、こんな状態だからこそ反撃を戸惑う三人。それじゃ…つまらない。

 

「…殺す気で来るんでしょう? なら…殺しなよ。それが…出来るもんならねぇ!!」

 

「っ…!! “必殺„ハートブレイク!!」

「お姉様っ!!」

 

 今更放とうが…遅い。もう…装填は終わった。

 

 強く下駄を地面へと突き刺し、血に濡れた片手をフラン達に向けてつき出す。その手のひらへと集中し、集まっては小さくなるを繰り返す月の光。きぃぃ…と耳に障る音をたて、尚も光は縮小し続ける。さぁ、終わりだ。

 

「いっけぇぇぇぇ!!!!」

 

 

◇◆◇

 

 

「…ああもう煩わしい」

 

 再生と回復に妖気を高速で循環させつつ、溜め息を吐く。技の発生が予想と計算のミスで少しずれ、レミリアのハートブレイクは太股へとオーバーキルで直撃、大怪我というレベルではなく…骨折や骨の粉砕時の接合よりも、肉体や骨そのものを再生させるハメになったため、なかなかに時間は過ぎるし疲労も溜まる。断ればよかったと切に思う。

 

「…あの状況からほぼ相討ちに持ってく方がおかしいよ」

「浮かないハンデ、しかも夜じゃないから暴走も出来ない…ま、ハンデは自業自得だけど」

 

 綺麗に元通りになった腕を見つつも、腹部分や足の切断面にも徐々に力を入れていく。オーバーキルにも程があるというか、私も所詮生き物だから常に無傷で勝ち続けるとか無理というか。というか、こいしの攻撃が予想以上に強かった。茨からの加えて爆発…だから、オーバーキルにも程があるんだってば。

 

「…あと一時間もあれば完全に治る…かな。レミィ、今何時?」

「なんでその呼び方で…夜の八時よ」

 

 時間に間に合えばいいため、ゆっくりでいいだろう。だが…弾幕勝負前には本を読んだり駄弁ったりで、体感的にそこまで時間は過ぎてなかったような気がするが…短期決戦だったし、気絶もしていない。では、やはりその時に時間を食ったか。

 

「…でも、狼戈なら私達が攻撃する前に終わらせられたんじゃないの?」

「…一応、封殺勝ちすることも出来るよ。でもさ、それじゃつまんないじゃない?」

 

 結果として、勝負は引き分け。私が放ったスペルは当たりはしたが…気を失うまでにはいかず、結構重度の打撲を負わせるのみだった。だが…手加減が出来なかった為、やはりそのダメージは軽いものではなかったようで。互いに戦闘不能で終了。正直言えば、私はまだ動けた。四肢折られて暴走するくらいだからねぇ…思い出したくないけど。

 

「…狼戈らしいね。そうだ、明日の夜狼戈の家に行っていいかな?」

「私の家に来るのは全員唐突だね…別に構わないよ。ていうか、断っても来るでしょ」

 

 図星だったようで、こいしが苦笑した。先程の弾幕展開時に見せた、狂気を孕ませたような鋭い表情とは一変、可愛らしい少女の笑みだ。なんでこうも…みんな揃って豹変するのかねぇ? でもまぁハッキリ言ってしまえば、殺人を躊躇する妖怪などは、この幻想郷にはほぼいないし。それに…こいしは死体を集めている、よくわからない収集家。しかも、彼女の無意識が変な方向に働けば…私を殺して自分のものにすることも容易な訳で。…うん、実際一部の親しい妖怪から殺られそうになった事はあるし。

 

「…うにゃ~、早く治んないかねぇ…」

「…お燐の影が見えた気がする」

 

 はて、なんのことやら。

 すっかり傷も治ったこいし達と話しつつも、刻々と時間が過ぎていった。予想に反し三十分程で傷は完治、こいしに化け物扱いされたものの、とりあえずはもう問題ない。窓からは月光がさしこんでいる…さて、そろそろ約束の時間か。

 

「ん、よし。私は用事があるから去るとしようかな」

「いきなり!? あれだけ重傷だったのに、もう元気に走る気?」

「もちろん!!」

 

 満面の笑顔で返し、レミリア達に礼を告げる。別にいつでも来れる訳だし、長く居座るのも迷惑だしで、その後すぐに館を出た。帰り際に居眠り美鈴を尻尾で弾いておく。流石に驚いたのか涙目で睨んできたが、饅頭を渡して万事解決。あ~、楽しかった。

 

「…ん~、さて、行くとしましょうかね…っ!!」

 

 二、三度小さく跳ねた後、全速力で駆け出す。多分三分かかるまい…話したいこともあるし、急いで行くとしよう。お酒も飲みたいし…ね。

 意気揚々と駆ける暗闇の中、首輪の宝玉は、キラキラと輝くのだった。

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