黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
狼戈の日常の中、狐火鴉が過ごしたとある一日…
え? ネタ切れ? 何を言うんですかあははー
次回ですが…前々から投稿出来なかったBAD短編を。
結構種類があって…五、六種類、です。
全部一気には投稿出来ませんが、三種類くらいは投稿出来たら…
長くなりました。それでは番外編、狐火鴉の日常を…どうぞ。
▼狐火鴉の一日
何処からか鳥の鳴き声が聞こえる。寝ぼけ眼で辺りを見回せば、もう誰もいない寝室の中。椛も狼戈もやはり起こしてくれていないようで、階下からは何かの焼ける良い匂いがする。となると、今は朝か…
「狐火鴉、早く起き…ん、起きてるじゃん。ほら、朝ごはんだってば」
「ん~…今いきまひゅ…」
決してわざとじゃない。寝起きで呂律が回らないんだ。
言われるがままに一階へと降りると、既に椅子に座る椛と狼戈の姿。いつも思う話、私だけ狐というのはどうなんだろう。どうせなら、私も狼に生まれたかったかも知れない。狼三匹暮らし…狼戈曰く“狼は群れないと生きていけない”らしい故に、悪くはないだろう。
「ほら、早く。卵焼きに味噌汁に…まぁ、シンプルイズベスト」
「…私にはどうみてもシンプルには見えませんよ…いただきます」
地底で狼戈が料理を担当した時も思った話だが、彼女が作るものは見たこともないようなものばかり。千年以上生きている故に、そんな知識も豊富なのだろうか? 時折教えて貰ったりはするが、なかなか難しかったり、タイミングがシビアだったりと真似するのは厳しい。しかも、誰が食べるかによって味付けすら変える始末。それ故か椛も正直お手上げのようで、料理は完全に狼戈の仕事…というより家の構造などを全て狼戈が決めたともあり、家事のほぼ全てを狼戈がやってしまっている。万能狼。
「…狼戈さん、今日は何かあります?」
「ん~…椛が河童のところに行くくらいかな…私はフリーだよ」
箸を片手に応える狼戈。背後でゆらゆらと揺れている尻尾を触りたい衝動を抑え、言の葉を繋げる。
「じゃあ、二人で何処か行きません? 久々に…二人っきりで…」
「ん~…そうだね。ずっと椛が一緒だったし…よし、そうしよっか」
「んにゃ? 二人で行くの? んむ…いってらっしゃい」
…椛の方が寝ぼけているとはこれ如何に。
卓上の料理を全て平らげた後、皿を洗う狼戈の尻尾に欲望に従うままダイブした結果、しゅるりと全身巻き付かれることになった。本人が嫌がらせでやっているのかはわからないが…幸せです。ありがとうございました。
◆◇◆
「さて、行くにしても…何処に行く?」
狼戈が妖怪の山にはあまり行きたくないらしく、それ以外で何処に行こうかと軽い計画をたてる。妖怪の山にある神社にならまだ行っても構わないようだが、やはりあの事件があった以上…心中はお察しする。
となると候補に上がるのは、八雲の屋敷や紅魔館、地底に一部の人間や妖怪の家。それとも、気ままにぶらぶらと回るのも良いかも知れない。
「…どうしましょう? やっぱり…地底とか?」
「……うん、それがいいや。久々に会いたい人…人? がいっぱい居るし」
まぁ、人じゃないのは確かですけどね。
護身用の小刀二対に、懐や袖に仕込んだ苦無や手裏剣。気の知れた仲の妖怪達しかいないため、何等警戒する必要はないと思うが…念には念を、というやつだ。狼戈は能力上、やはり手ぶらになるらしい。羨ましすぎて…私の能力も、夜のお相手をする以上はかなり重宝するのですけれど、ね。
「よぉし、いっくぞ~!!」
「…テンション高いです」
カラカラと下駄を鳴らす狼戈に手を引かれ、家を飛び出す。道中、兎や夜雀と遭遇しては駄弁りつつ、時間をかけて地底を目指す。狼戈、いつの間に此処まで顔が広くなっているのか…道会う妖怪に、ほぼ全員話し込んでいる気がするのだが。
「…到着!! ん、飛び降りようか走ろうか…どうする? 狐火鴉」
「……どっちの選択肢も普通は有り得ませんっ」
「むぅ、意地悪」
これが冗談ではなく、本当に壁を走って行くか妖気を爆発させつつも飛び降りていうから怖い。というか、何故妖気を細かく精密に爆発させ、しかもそれで加速するという芸当が出来るのか。何をとっても化け物級で…狼戈に勝てる妖怪、いるのかなぁ。
「ほら、行くよ? 何をぼーっとしてんのさ」
「え? あ、はい。行きましょう」
ぴょんと飛び降りる狼戈に続き、ゆっくりと飛び降りる。狼戈がほぼ自然落下に近い速度で降りていくため、私もそれに似たようなスピードでついていかなくてはならない。狼戈は普段のスピードが異常な迄に早いからいいかも知れないが、私からすれば早すぎるのだ。突然障害物が現れれば反応出来ないし、蜘蛛の巣にでも引っ掛かったら…
「きゃっ!? な、なんでこんなとこに…」
「…なんで狼戈さんがかかるんですかね」
「あはは~、ちょっと調子に乗ったかな~♪」
笑顔で応える狼戈だったが、此方からすれば溜め息しか出ない。普段は恐ろしい程に大人な癖に、変なところで子供になる。羽目を外したいのはわかるが、せめて地底に辿り着いてからにしていただけないだろうか。
「おやおや…可愛い獲物がかかったもんだね」
「えへっ♪ これ、外してくれる?」
「ん~…いやだ」
私をそっちのけでコントらしき何かを始める二人を、ジト目で見守る。なんやかんやで解放するヤマメに、狼戈が苦笑しつつも文句を言っているようだ。普通はこんな速さで降りないから、引っ掛かっても文句など言えないと思うのだけれど。
「…狼戈さん。いつになったら目的地に着くんですか?」
「おお、狐火鴉じゃないか。久しぶりだね」
「お久しぶりです、ヤマメさん」
笑顔で応えたあと、こっそりと逃げようとしていた狼戈の手を引っ張る。目を逸らしつつ口笛を吹く狼戈を能力で小さくした後に、再度降下を開始した。ヤマメは後で会おうねと言い残し、闇に消えていってしまった。酒でも飲みたいのだろうか。
「さらっと小さくすな!! 早く戻してよ!!」
「嫌です。こんな可愛い人形を、誰が離すんですか」
「誰が人形だっ!!」
お姫様だっこの腕の中でじたばたと暴れる狼戈に和みつつも、もっともっとと奥を目指す。もう特に何かに遭遇する訳でもなく辿り着いた旧都は、相も変わらず賑やかだった。静かな時は静かだが…
「ね、ねぇ、流石に…降ろしてよぅ…」
「ん~…どうしようかなぁ…」
意地悪な笑みを浮かべる私に、狼戈が涙目と化した。こんな可愛い表情をされてしまっては、余計に手放せる訳がないではないか。
尻尾も含めてじったばったと暴れる狼戈を愛でつつ歩いていると、ふと感じたことのある気配を感じて立ち止まる。この強く、威圧感のある力は…
「おお、狼戈に狐火鴉じゃないか。久しぶりだねぇ…特に、狼戈は」
「勇儀…うぁぁん、この狐さんが虐めるよぉ…!!」
一瞬の隙に腕から飛び出し、勇儀へと飛び付く狼戈。私の能力のせいで小さくなっている為、勇儀の股辺りまでしか身長がないのが…やはり可愛い。それこそ食べてしまいたい程には、愛らしさを感じる。
「ん~…よしよし。なら…悪い狐はお仕置きしないとねぇ?」
「え、ええ、ええぇ!? わわ、私が何をしたっていうんですかっ!!」
鬼の相手をするなど…命がいくつあっても足りない。否定するにも狼戈は親指をたてて応援モードに入ってしまっているし、勇儀も盃の酒を飲み干してしまった。幾ら弾幕ごっこでも、私が勝てる相手では…いや、やろう。折角狼戈に鍛えて貰ったのだ…どこまで対応出来るのか、試してやろうではないか。
「……いいですよ、相手になります。場所を移しましょう」
「ん、威勢が良いじゃないか」
意外という表情を浮かべる狼戈に何故親指をたてたと内心突っ込みつつ、旧都から少し離れた広野…以前、狼戈と勇儀が死闘(?)を繰り広げた場所へと移動する。そういえば、あの時吹っ飛ばされていた狼戈の片腕は何処へいったのだろう…粉々に吹き飛んだ訳ではないはずだが。
「弾幕ごっこ…私そこまで強くないので。三本先取でいいですか?」
「なんでもいいさ、血が煮えるような闘いが出来るならねぇ…!! …狼戈、合図を頼むよ」
「りょーかい。ここあ~、がんばれ~」
ほけっと観戦する狼戈。巻き込まれたらと一瞬危惧するが、彼女のことだ。何があろうが弾き飛ばすか避けるだろう。鬼相手にまともに戦う時点で、ただの狼の妖怪とは思えないのだけれど。元は人間? やっぱり狼? 今度それとなく聞いてみよう。以前聞いた気もするが…記憶が曖昧だ。
「もういい? じゃ…は~じめ~♪」
そんなに楽しそうに開戦するな。
開幕とほぼ同時に、袖に仕込んだ苦無を展開。呪術も纏めて使用し、刃に炎を纏わせる。その後、前方向全方位へ向けて高速射出、空に一直線の赤を描きながら飛ぶその軌跡は、途中で一気に途絶えることになる。やはり…そう簡単には当たってくれないようだ。
駆け出す勇儀。その意図を察し、同じように駆け出す。力負けするのは確実…だが、勇儀は私の能力を知らないはずだ。ならば…
ーーリセット。
大きくふりかぶっていた勇儀の拳は空気を裂く。驚愕を浮かべようがもう遅い…隙だらけだ。
「桜之型…一輪咲」
腕の間を縫うように、胸辺りをめがけ掌底一発。当たったのを瞬時に確認、体勢を低くしてベクトルを変えて…妖気を爆発させた。
「っ…!!?」
「妖気の扱い方は狼戈さん譲り…私とて、そう簡単には負けませんよ」
「…成る程。今度私も教えて貰おうかね」
相手に掌を密着させ、相手の体と掌の間に密集させた力を爆発させる…相手に送り込んで爆発させるという遠隔操作的な技になると、かなり集中しないと出来ない為このくらいがちょうどいい。狼戈みたいな化け物ではないもので。
勇儀の位置に関しては…巻き戻した、それだけのこと。走った距離の時を巻き戻された為に、最初と同じ位置で拳を振ることになったのだ。そうなれば…当たることはないし、隙だらけ。
「お~、やってるねぇ。む、私は狼戈と遊ぼうかなぁ」
「え、な、す、萃香!? うわ、何をする、やめ」
…あちらで繰り広げられている茶番は放置でいい…のか…? ああ、私の狼戈が…
「わ、わかった、わかったからかじるなっ!! いやぁぁ!? そこはダメだってばぁ!!」
「ん~♪ わかったならいいさ。…柔らかいねぇ」
…問題発言だと思う、萃香さん。私の狼戈が涎に濡れているけど…可愛いからいっか。
「狐火鴉!! 二対二でやるよ!!」
「…え? え、えぇぇ!? いきなりですか!?」
「そうだ、いきなりだ。ふはは…」
狼戈自身嫌そうだが、萃香が満足げな表情をしているのを見ると…やはり今の一瞬で何かをされたらしい。狼戈を食べるのは私だけで充分です。小さくしたらもっと可愛いから、この娘。小さくしなくても可愛いけど。
「ていうか、これ解いてくれないと私死ぬよ」
「あ、忘れてました。はーい、こっちおいでね~」
「…馬鹿にされてるよこれ」
愛でてるだけですよ。
狼戈にかけた能力を解き、何の作戦会議もせずに準備を完了させる。二人が加わった影響で、三本選手制ではなく、普通に大乱闘になる。戦闘不能で負け…私、自信がないんですけど。全部狼戈に任せていいですか? 狼戈が弱ったらいただいていきますので。
「私達が負けたら酒でも奢るよ。勝ったら…ん~、狼戈を一晩借りようかな?」
「それ狐火鴉にリスクなくない!? なんで!? なんで私犠牲になるの!?」
「そういう運命なんですよ、はい」
溜め息混じりにレミリアに運命が~と愚痴をこぼし始める狼戈。正直狼戈をとられたくないため、私も負けたくない。狼戈の相手は私の役目(主に夜)。
「…もういいよ。わかった。なら…勝てばいいだけの話だもんねぇ…!!」
狼戈の周りを、白い妖気が渦巻く。見るたびに色が変わっているのは何故だろう。
立ち込めるその力に威圧されつつ、自分も呪術を発動、鞘の中の刀に炎を纏わせる。さて、やるとしましょうか…狼戈さん?
「行くよっ!!」
狼戈が駆け出し、鬼の間に躍り出る。ちらと此方を見た狼戈に全ての意図を察知し、懐の手裏剣を広げた。何十という刃が風を裂き、空を駆ける。当然鬼に当たるはずはない。だが…忘れてはいけない。
「…ナイス、狐火鴉」
この手裏剣等の小道具本来の持ち主は…狼戈なのだ。
狼戈が放った大小形状様々な手裏剣は、私の放ったものを寸分狂わず弾き飛ばす。結果、空中で鉛独楽のように互いを弾き合い、恐ろしい軌道で辺りに飛び散る。下手に当たれば手裏剣同士が絡まるか、相殺されて落ちてもおかしくはないというのに…こういった精密動作を一瞬でこなすのも、狼戈の凄いところだろう。弾かれた手裏剣は、直撃はしなかったものの…小さく掠め、肌を裂いた。能力関係上、すり抜けてしまい、萃香には当たらなかったが。
「…流石に軌道が読めなかったよ」
「そう? かなり速く飛ばしたからね。読まれたら困るよ」
ちらちらと此方を見つつ、言葉を返す狼戈。警戒しろとでも伝えたいのか、目付きが鋭い。
「…私は勇儀を相手するから、萃香、頼んだよ」
「………わかりました」
下手に乱戦するより、目標は絞った方がいい。考えることは、やはり狼戈も同じだったようだ。相性的にも、私が萃香を担当した方が良いのは確実…ならば、否定する必要などないもので。
「ん~、結局一対一かい…まあいいさ。おいで、御狐様?」
「…言われずとも、行かせていただきます」
その言葉を引き金に、強く地面を蹴る。接近戦に持ち込む…鬼に変わりはないが、勇儀と比べれば力は低い。まともに食らえば…まぁ骨は粉微塵になるだろうけど。
「ほいっと」
「っ!! 小賢しい!!」
うねる二本の鎖に、小刀応戦。炎を纏った刀身に触れようものなら、火傷ではすまない…だが、正直この状態からでは切る方が骨が折れる。…肉を切らせて骨を断つ。狐の遊戯、お見せしようか。
「っ!?」
鎖の継ぎ目を狙って刀を突き、そのまま地面へと突き刺す。もう一本は弾かずそのまま小刀を地面へと落とす。勿論この隙を萃香が見逃すはずもなく、容赦のない鎖の一撃が小刀を落とした右手に直撃する。鈍い音が響いたが…今は知ったことではない。体の半身を地面に奪われている故に、もう半身で鎖を振るえば、そのバランスは崩れる。…貰った。
「菊之型…」
鎖の間を抜け、萃香と地面の間にできた空間へと身を滑らせる。左手に纏った妖気は炎と混じり合い、蒼白い炎と化した。まず、一撃…!!
「一輪咲」
下から上方向へ、遠心力と筋力を乗せて放たれた掌底は、寸分狂わず腹を撃ち抜いた。そのまま纏った妖気は大爆発を起こし、萃香の小さな体は容易に吹っ飛ばされる。自身もその反動で数メートルをバック、静止した。
「っ…!! 痛い痛い…強者も増えたもんだね」
「…ありがとうございます」
口から血を吐き出してにやりと笑う萃香に、内心驚愕を浮かべつつもその言葉に礼を告げる。あの早さで吹き飛ばされたというのに、もう体勢を立て直すとは…
刹那、横から何かが近付いているのに気付き、即座に小さく跳ぶ。吹っ飛んできた影の正体は狼戈…心配する間もなく地面へと片腕を付け、下駄でブレーキをかけた。両足を地面に付け、片手で自身を支える狼戈の姿はまさに狼で、その格好良さに見惚れてしまいそうになる…もう惚れてる。
「っ…油断した。防いでも骨に響くよまったく…狐火鴉、負けたら許さないよ」
「…勿論。私が負ける訳ないじゃないですか…ふふ」
不敵な笑みを溢し、再度萃香を見据える。不敵に笑うのはどちらも同じ…
ちらと自身の右腕を見れば、腕の真ん中辺りからぶらぶらとするだけで動かせない。たった鎖の一撃で、完璧に砕かれたらしい。だが、与えたダメージも大きいはずだ。
「…行きますよ」
「ああ、かかっておいで」
落ちた小刀を拾い、口に構える。さぁ、反撃開始といこうか…全てを懸けて、全力で。
「“妖狐„嵐戈焼焔」
◇◆◇
「や…やっ、だ…めだっ、てばっ!! ひぁ…ぅぅ!!」
「~♪」
狼が鬼に舐め回される中、湯呑みを片手に寛ぐ、狐と、これまた鬼。
結果として…負けた。巻き戻すを使うにも、萃香の能力や技に不確定要素が多すぎて迂闊に巻き戻せない…最終的に私のスタミナがもたなくなり、ダウン。あと一歩のところで勇儀に勝つところだった狼戈も、突然現れた萃香に快楽攻撃(今の狼戈と同じ状況)を受けてダウン。まぁ…そういう攻撃をしちゃいけないなんてルールはないし…
私が負けたから狼戈も負けた。涙目で睨まれたけど、目の療養です。ありがとうございます。
「…よくわからないけど、萃香に従って狼戈は借りるよ」
「む~……仕方ないですね。ちゃんと送ってきてくださいよ」
狼戈が突然いなくなると、椛を宥めるのが大変で大変で…それを分かってやっているのか、萃香はとても幸せそうだ。気持ちはわからなくもない。狼戈は、どことなく甘いのだ。つまり美味しいということである。
「い、いいから…は、離してよっ!!」
「む~、狼戈の意地悪」
…萃香のキャラが変わったのは気のせいか。
唾液を拭った後にちらと此方を見てジト目と化す狼戈。そのまま溜め息ひとつ、萃香達に向き直った。
「相手はするけど…元々は私達、地霊殿に遊びに来てたから。後でまた来ればいい?」
「う~…うん。私達は此処にいるよ…逃げたら一斉攻撃、仕掛けるからね」
「はは、わかったわかった。逃げないってば。遅くても真夜中には来るよ」
流石の狼戈も、もうこういう関係に慣れているようだ。昔は何かある度にそれがストレスと化し、暴走していたようだが…最近ではだいぶ落ち着いたな。私も、自重しなきゃとは思うけど…どう我慢しても無理なので。
「よし、地霊殿に向かうぞっ!!」
「…おー」
「む、ノリ悪いわね」
…そんなことを言われましても。
◆◇◆
「ろ~お~かぁ♪ 会いたかったよ~!!」
「む、ぎゅ、ぐ、ぐるじ…ぃ…」
地獄鴉に抱き締め(絞め)られる狼を眺める今日この頃。身長差が嫌らしいことになっている為、胸にむぎゅむぎゅと押し付けられて窒息死しそうな感じだ。私は…ま、まぁ無くても狼戈さんぐらい鳴かせられますし。…変態思考? 今更ですね。
どうでもよい話だが、腕は“巻き戻す„で応急の処置をした。治癒を加速させた訳ではなく、単純に傷を受ける前に巻き戻しただけのため、時間がたてばまた骨折(粉砕)の状態へと戻る。やはり、完璧に応急の処置なのだ。
「…相変わらずモテモテだねぇ…」
「ですねぇ…あ~あ、あんなに押し潰されて」
「おまいら助けろっ!! うぎゅぁ!?」
苦しむ狼戈を見るのも目の療養なので放置しますね。ああ、可愛い可愛い。
涙目で助けを求める狼戈をまた眺めること数分。ようやく解放された狼戈が、息も絶え絶えでベッドへと倒れ込んだ。ここは元々、狼戈の一人部屋。具現化でどうにでもなると、服や色々な用具以外全て置いていったため、誰が住んでも困らない部屋となっている。だがさとりが何かを考えているのか、この部屋は使われないまま…きっと、思い出のひとつなのだろう。大切な家族が過ごした部屋なのだから。
「狼戈っ!! また会ったねぇ…♪」
「う…ぎゅ…ぁぁ…」
…本当に窒息死しそうだから流石にやめてあげてください。
乱入してきたヤマメにも抱き締め(此方も絞め)られ、悶絶する狼戈。ヤマメの体温は冷たいため、結構心地よいとは思うのだけれど…
「…狐火鴉、今日は泊まってくのかい?」
「私はその予定だったんです…けど狼戈さんが色々あって帰れないので椛さんに伝えないと」
「ん~…まぁお察しするよ」
…狼戈がリアルで泣いてるのは、果たして放置するか否か…流石にフォローしようか。
「うぅ…みんな、酷いよぅ…」
「ほらほら、泣かないでくださいよ。飴玉いります?」
「私は子供じゃないもんっ!! ……飴は食べる」
狙ってやっているのか素なのか…うるうるとした瞳からは読み取れない。何はともあれ可愛すぎて、正直もう死にそうだった。というか死んでも悔いはない。
「まったく騒がしい…妬ましい」
「いきなり出てきてそれは酷いよぅ…私だって、私だってぇ……うぐぅっ」
「な、何で泣くの!? と、とりあえずごめんね? ほ、ほら泣かないで?」
…時と場合に寄る精神年齢の差がおかし過ぎる。この娘があの事件を起こしたなど…私には想像も出来ない。そう考えると、椛があそこまで狼戈に固執する理由も理解出来る。固執に関して、正直私は何も言えないが。
「…よし、今日は私達がご馳走するよ!! 狼戈は此処で待っててね!!」
「…やれやれ。あたいも手伝うとしようかな」
元気に出ていく二人を見送った後、取り残される土蜘蛛に狐、嫉妬妖怪と狼。ふと狼戈の姿を見ると、何故か狼そのものに姿を変えていた。座りつつ、尻尾を振りつつ…どんな姿でも可愛いな。
「…狼戈さん、大丈夫ですか?」
「がう。ぐぁおぅ」
「何を言ってるのかわかりません。戻らないと肉球いじくり回しますよ」
渋々といった感じで姿を戻す狼戈。だが意地でも元の姿には戻りたくないようで、姿が恐ろしいものへと変わっていた。服は水着のような際どい…と言いたいところだが、正直いつものことなのだ。動きやすいからといって水着や下着のような露出高の衣服を着るのは。問題は…その体。その体を介しても向こうが見える、半透明の体…勿論内臓だったりが見えることはない。…説明がしにくいが、簡単に言えば水だ。狼戈の体が水に…もう狼の原型がないな。
「私の宿すは生命の力…水は生きるのに不可欠よ?」
「そんなの何でもありじゃないですか…ちょっと触っていいですか?」
どんとこいっ!! とよくわからない威勢を見せる狼戈。ならば、と服の中もまさぐるように全身を撫で回す。変態? 今更ですね。デジャブ? 此方も今更です、はい。
水だからといって触れた手が貫通したり、ということはなかった。質感や見た目が水なだけで、流石に全て水という訳ではないようだ。髪の毛も同様に。この状態の狼戈を犯したら、いったいどんな反応をするのか…他人に知られたら絶句確実の妄想。どうやら表情に出てしまっていたらしく、狼戈が気味の悪いものをみる目で私を見据える。
「…変なこと考えてない?」
「そんなことないですよ? 食べたいとか、虐めたいとか、犯し」
「はいストップ、それ以上はやめようか。この変態狐さん」
…何か褒められた。嬉しい。
「いや、誉めてないからね。絶賛非難中だったからね今」
「心は読まないでくださいよ…なんでもありですか、その能力」
「…幾ら妄想の中だからって、私を好きなように虐めるのはやめようか~?」
妄想までもを読み取られてしまったようだ。少し怯えた表情をする狼戈にニヤリとしつつ、置き去りにされていた妖怪二人(二匹?)に話を振る。
「水橋さん、ヤマメさん。料理が来るまで、一緒に狼戈さん虐めませんか?」
「おい、ちょっと待て」
「そうだね…うん、賛成だ。狼戈ちゃ~ん♪ 此方においで?」
「おいこら、待てって言ってるだろ」
私とヤマメがじりじりとベッドの隅へと狼戈を追い詰める最中、部屋の隅で苦笑しながらその様子を眺めるパルスィ。相変わらず涙目…? の狼戈。姿が姿な故に、よくわからない。が、泣きそうなのは確かだ。可愛い。
「ひっ!? や、やめ…っ、ぁぅ…ぁぅ…」
ほんの少し擽るだけで脱力する狼戈。ほぼ常時といっていい程に敏感で、ちょっと擽ればすぐに色めいた声をあげるのだ。このまま虐め続けると、頬も紅く息も荒くとアウトな絵になってしまうため、この状況では流石に自重…出来ない。無理。
「やっ、め…ふ、ふたりっ、同時はぁ…ひぅ…ぁ…」
端から見れば、きっと少女二人に襲われる少女なのだろうな。可愛いから仕方ない。
「ご飯、出来たよ~!! …あれ? 狼戈、なんでそんなに息が荒いの?」
「もう…らめ……ぱたんきゅー…」
…あ、私何も悪くないんで。
◇◆◇
「暇だねぇ…」
「暇ですねぇ…」
狼戈がさとりに会いに行ってくる!! といってスキップで飛び出していった。なんやかんやで時計が指すのは午後八時。燐達の仕事も終わり、もう気ままに過ごすだけである。仕事と言っても、正直結構フリーな感じであって。空が仕事場からあまり離れられないのは仕方ないとして、燐の場合は頻繁に運ぶ必要はないため、結構気楽な感じだ。私の仕事…なかったのか、そういえば。
「…えっと…」
『じれったいわね、早く入ればいいじゃない』
扉の外から響く会話に、全員の視線がそちらへ向く。小さく開いた扉から覗いていた少女は見られるなり姿を隠し、またひそひそと会話を始める。このままでは…いつ入って来るかわからないな。
「己嵐、己神。早く入って来なさい」
「ひやぁぁ!? は、はいっ!! 入る、入ります!!」
…この子、ここまで恥ずかしがりだっただろうか。可愛らしいのだけれど。
「え、えっと、狼戈さん、いますか?」
「今はさとり様のところに行ってますけど…此処で待ってれば来ますよ?」
じゃあ、と部屋の片隅で正座する己嵐に、やれやれといった表情で己神がそれに巻き付く。生まれた時からほぼ一心同体の彼女等だが、いったいどういう感じになっているのだろう。白蛇様、という話は狼戈から聞いたことがあるか、黒蛇様は…ない、かな。
『…この娘の恥ずかしがりは誰に似たのやら』
「ん~…思い当たる妖怪はいないですよ? 狼戈さんも微妙な感じですし…」
『そう? ん…まぁいいわ。そこが可愛いものね』
…人格は別、ですよね。流石に。
燐と駄弁りつつ、空に尻尾を撫でられつつ、ヤマメ達にちょっかいをかけられつつ。意外と私も絡まれるタイプなのかも知れない。単に信頼関係があるだけだと思うけど。狼戈? ああ、可愛いですよね、はい。
「ただいま~…あれ、己嵐と己神。随分と久しぶりだね」
「狼戈さんっ!! 色々あって、会いに行けなくて…」
「ううん、私も行かなかったら同罪だよ。ごめんね?」
…同罪? 罪になるのか…? ならば、その罪の判決は私が決めようか。やはり…十年程同じ部屋に軟禁か監禁でいいか。私と同じ部屋で、あんなことやこんなことを…
「…狐火鴉、心の中ならなんでもいいと思ったら大間違いよ」
「だから心は読まないでくださいってば…でも私は狼戈さんのありのままが見たいです」
「限りなく理不尽!? じゃあ尚更見るなと言われても無理ね」
蒼色の瞳を此方に向けながら淡々と告げる狼戈。さとり妖怪の力、挙げ句の果ては水や植物まで。私に同じ能力があったなら…と言いたいところだが、これ以上変な妄想をすると狼戈に押し倒されそうなため自重する。最近は狼戈も、何かあれば押し倒して擽ったり、舐めたり尻尾で絞めたりと、色々と暴走しがちだ。まったく、誰に似たのやら。
「どう考えても狐火鴉です。本当にありがとうございます」
「藍さんや燐さん達だってやる時はやるじゃないですか。私だけ理不尽です」
「呼んだか~」
名前を呼ぶ度に、颯爽と現れるのはやめていただきたい。この狐は何処に耳があるのかと。
「いや、貴女も狐でしょうに…」
「ああ、もう。本当に心は読まないでくださいっ!! いい加減その能力消しますよ!?」
「そんなことしたらそこの九尾様に連れ去られるから却下」
「おお、よくわかってるじゃないか」
否定しない藍に軽く嫉妬心を向けつつ、パルスィがキッと此方を見据えつつ。
蚊帳の外と化していた己嵐に視線で用件を聞くと、また今度にしますと言うように苦笑し、ひっそりと部屋から出ていった。ただでさえあまり会わないというのに、色々と可哀想だが…今度、私でよければ話を聞くとしよう。
「ご主人様っ♪ 何か用件があって来たの?」
「…狼戈、襲われたくないなら本気でやめるんだ」
ロリボイス且つあざとい動作で詰め寄る狼戈に、藍が悪魔の囁きを聞いたかのように視線を泳がせながら忠告する。吹っ切れた時の狼戈なら逆に突っ込んでいきそうだが…今宵は約束もある。そう簡単に自分の体を張るのは無理だろう。私が悪い? 狼戈が疲れて帰ってきたらその分襲いやすいので問題無いです。
「橙が、狼戈様にあげた首輪がどうなってるか、聞いてくださいって言うんでな」
「ああ、成る程。しっかり手首に着けてるよ。この首輪は…ちょっと色々あってね」
…いつの間に貰ったのだろうか、あの綺麗な首輪は。まるで、何処かの吸血鬼の羽のような…確か、紅魔館に遊びにいったとは言っていたが…首輪、か。鎖付きならば私も狼戈にはめたい。
「そうか、ならいいんだ。今日は忙しいからもう帰るとするかな…じゃあ」
「んにゃ。またね~」
去る九尾に、手を振る狼。日常茶飯事とはいえ、改めて見れば凄いことだ…狼の妖怪が、九尾相手に何の躊躇もなく話しているのは。この世界に生まれて、正直破天荒なことしか起きてない気がする。
「ふぁぁ…ねむぃ。ここぁ~、尻尾貸して~」
「え~? うぐっ…ひやっ!? い、いきなりはやめてくださいよぅ…」
無理矢理押し倒し、尻尾を抱き締める狼戈。その表情は幸せそうで、見ている此方が和まされる。本当に…外見だけで見れば、この中では一番幼い。だが過去の記憶も、その強さも、優しさも。この中では一番深い。世の中とは不思議なもので…外見や性格だけでは、秘めた心などわかりはしない。今。此処にいるのはきっと奇跡のような偶然で生まれた、ひとつの道筋なのだろう。この生、家族、全て大事にして生きていきたい。
「…うにゅ~」
「ひっ!? だ、抱くのとっ、擽るのじゃあぅぅ…ち、違いますよっ!!」
…快楽は、果たして大切にするべきものなのでしょうか。狼戈から受けるならいいや。
◇◆◇
「狼戈を盗られた?」
「はい…地底で色々ありまして。萃香さん達に誘拐されてました。朝には帰るかと…」
風呂にも入って、礼と挨拶を済ませた後に、狼戈を見送った後にパルスィとヤマメと駄弁りながら地上へと戻った…此処までは予定通り。だが、やはりこの白狼が…
「…むぅ。狼戈…私を放っていくとは……明日はたっぷり遊んであげなきゃねぇ…♪」
…表情がアウトです、椛さん。
ふふ、と笑う椛。はっきり言って、今日はだいぶマシな方である。最悪無言で出ていく場合があるし…その後、基本的に狼戈を連れて帰ってくるのだが、狼戈がどういう状態なのかは…私の口からではとても言えない。
「…まぁいいや。狐火鴉、もう寝よう」
「あ…はい」
矛先が此方に向かず、とりあえずは一安心である。此方に矛先が向いた場合、椛の心ゆくまで尻尾が犠牲になる。なんやかんやで狼戈じゃないとダメみたいだが、一応私の尻尾でも多少の代わりは努められるようだ…どちらにせよ最悪、鳴かされることになるためあまり刺激したくない。
椛の後を、少し視線を泳がせながら着いて行く。椛は嬉しかったり、楽しいことがあると尻尾がぶんぶんと揺れる。だが…今の椛の尻尾は微動もしない。重力に従った、完全な脱力状態。この状態の時はかなり不機嫌…やはり内心、怒りが有頂天状態なのだろう。私の不安も有頂天。
そのまま会話もなく、ベッドへと横になる。布団と毛布を被って目を瞑る…さっさと寝たい。でも寝れない。
「・・・・・・」
椛が体ごと此方を向いたまま、動かない。薄目でちらちらと見ていても、動かないし眠る様子もない。半分、もう駄目だなと確信しながら、後の半分に賭けて目を瞑る。
「…ねぇ、狐火鴉」
…アウト。
「…なんですか?」
「尻尾、頂戴?」
そう言うや否や、無理矢理尻尾を抱き寄せる椛。尻尾を引き寄せられれば私の体も引き寄せられる…尻尾のみならず獣耳まで弄ばれながら、ほんの少しずつ…段々と、息が荒くなっているのを体が感じとる。しっとりと貼り付いた下着に構うことも出来ず、ただただ玩具にされ続ける…
「あ、あの、椛さん…っ」
「ふふ…な~に? 狐火鴉ちゃん…」
椛が私のことをちゃん付けする時も、アウトが確定する。もうどうせ無理だが…せめて抵抗を。
「もう、やめてください…だ、ダメですって…ひゃう…」
「離してあげない…狐火鴉も可愛いよ? ふふ…」
それ、ほぼ無差別じゃないですか…っ。兎が性欲が強いとは言うけど、狼に関しては知らないし…狼に限ったことかどうかはわからないが、椛はよく襲うし、狼戈は反応も性技も恐ろしい程。やはり、兎より狼の方が性欲は強いのでは…
「あぅ…! やめ、離してっ…くだしゃ…い…」
「~♪」
そんなことを考えている内も、執拗で激しい椛の虐めは終わらない。狼戈相手の時と比べれば、確かに激しさも表情もまだまともだが…そんなのは関係ない。もう、耐えられない。
「あぅぅ…っ…」
「あれ…もう終わりなの? …まぁいいや」
尻尾は抱いたままだが、擽ったり愛撫したりの動作をやめる椛に、安堵の表情を浮かべた。風呂にも入ったというのに…もう、無駄ではないか。
気付けばもう寝息をたてる椛にどう報復しようかと策略をたてながらも、落ちていく瞼に抵抗せぬまま目を瞑る。
今日一日…疲れたし、色々なことがあった。明日、狼戈に全て八つ当たりするとしよう…そんなことを考えながら、私の意識は…暗い闇へと落ちていくのだった。
「ち、橙?」
「…狼戈様、後で…全て聞き出しますからね…っ!!」