黒狼狐己録 -Life Harboring-   作:ふーか

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含まれる表現
・残酷表現 ・性的描写 など

 ちょいと説明が足りなかったり、強引になってしまいましたが…楽しんでいただければ。

 次回は戦闘短編。あんな妖怪やあんな妖怪と…


~隙間~

「くぅぁぁ……っ」

「…大きい伸びだな」

 

 八雲の館にお邪魔する今日この頃。獣耳ぴこぴこ、尻尾ふりふり。冬でも私は元気です。

 しんしんと外に降り積もる雪を眺めながら、炬燵で丸くなってお茶をすする。こんな簡単なことで安らげる…隣で私の尻尾にじゃれている化け猫を見て、また和む。なんという幸せな日常なのか…ところで、この館はいったい何処に建っているのだろう。いつも隙間を介す訳で、場所は知らないのだ。雪が降るということは…普通に幻想郷の何処かにあるのだろうか? ふむ、よくわからない。

 

「ご主人しゃま~、一緒にごろごろしましょ~よ~」

「私は狼戈と橙を見てるだけで幸せだからいい」

 

 隙を見て尻尾にダイブしようと思ったが、逆に此方がダイブされそうだったため止めておく。あの瞳は確実に捕食者のもの…突っ込んでいたら、きっと今日の夜に地獄を見るはめになっただろう。

 

「狼戈、椛はいいのか?」

「もみたんは用事があるから~って神社に行ってたよ」

「…もみたんか」

 

 “もみたん„と呼ぶと私のこともたん付けで呼ぼうとするのだが、“ろう„で区切るのは中途半端で、“ろうか„でたん付けするのは椛と比べて長い。結果、誤魔化すように押し倒される訳だ。二度と本人の前で呼ぶもんか。

 

「ゆかりんゆかりん」

「…その呼び方は止してよ。何か用かしら」

「なんでもない」

 

 炬燵に入ったまま、殺意を込めた瞳で睨むのも、わざわざ炬燵から出てじりじりと寄ってくるのも勘弁してください。それなら隣で私の言動に和んでいる式も、お仕置きが必要なのではないだろうか。素の状態且つ快楽で勝とうとすると、藍には手も足も出ない故何もしないが。館で暴れたくはないし。ゆかりんマジゆかりん。いや、訳がわからないけども。

 

「狼戈様…っ!! 捕まえられません!!」

「ふはは、捕まえられるなら捕まえるがいいさ」

 

 尻尾を掴もうとする橙だったが、全て紙一重で避けられている。私の動体視力。反射神経と思考の処理速度的に、まだ橙では追い付けないだろう。その瞳と動きから次の動作を幾つも予測し、該当する予測で避けるのだ。天狗も人間より遥かに早い速度でものを考えるというし、私だって千年以上生きているのだ。それくらいは出来る。

 

「ふふ…まだまだ…うぐぁ!?」

「おや、この椅子…ふっかふかだな」

「捕まえた!!」

 

 藍、私の背中は椅子じゃない。橙、尻尾をかじるな。紫、にやにやしてないで助けろ。

 八雲に関わる妖怪共は本当に…私をなんだと思っているのやら。

 

「…藍、本気でどいて…苦じい゙」

「わかったわかった…そんな死にそうな声を出すな」

 

 じゃあ殺すような行動をするな。

 

「ひや!? ち、ちぇ…ん……それは…だめ…ふぁ…」

「…あれ? 狼戈様、どうしたんですか?」

 

 尻尾を撫でていた橙だったが、やがてずぼっと奥まで手を突っ込んだ。毛並み部分ならまだいい。尾は触るんじゃない。最近は毛並みですら少し触れたら跳び上がる程には敏感だというのに…おかげさまで体が動かない。

 頭上に「?」を浮かべつつも満足げな橙にされるがままに弄ばれつつ。炬燵に逃げようとするが、藍に場所を盗られた。にやにやされると本気でイラッとくるのは私だけだろうか。媚薬…持ってますが。使いましょうか?

 

「…もう、猫は炬燵で喉でも鳴らしててよ。化け猫も一緒よ」

「さっきまで狼戈様が丸くなってごろごろ言ってたじゃないですか」

「うわぁぁ!! 藍の前でそれを言うなっ!! ひっ!? こ、こっち…来る…なぁ…!」

 

 淫らに笑む九尾に押し倒され、九つの尾に全身を愛撫されて泣き喘ぐ狼…

 化け猫は苦笑して眺めているし、隙間妖怪も溜め息混じりに笑むばかり。もう…どうにでもなぁれ。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「…狼戈、まだ起きてるかしら?」

「ん…にゃぁああ…何? 紫」

「…ちょっと来なさい。というか…どんな欠伸してるのよ」

 

 人が藍の尻尾に埋まって寝ているというのに…藍は幸せそうに寝ているし。欠伸は欠伸。

 さらさらと、静かに降る雪の中。月が照らす館の中で、伸びる狼一匹。椛には泊まると伝えておいたため、何等問題はないだろう。代わりに橙が誘拐されてしまったが…きっと抱き枕程度になっておしまい(のはず)だ。私の時と比べれば遥かに…うん。

 

「雪を見ながら一人酒は寂しいの。付き合ってくれないかしら?」

「すぅ…ぐぅ……」

「あら残念。美味しい和菓子があるのですけれど。寝てしまったのなら私が…あれ?」

 

 紫が探している水羊羹は、既に私の口の中。和菓子うまうま。和菓子が一番。

 

「あらあら、結構お高いアルコールが入っているのに」

「…あ、あるぇ? 紫…分身の術れもふかぇらの?」

「…もう何を言っているのかさっぱり」

 

 …快楽と酒に耐性がつくのは、いったいいつなんですか?

 紫の策略に見事にはまってしまい、意識が朦朧、視界はぐらつく、世界が回る。

 

「…もう。どうせ酔っているのなら付き合いなさい」

「むぅ…ひょうがないなぁ…」

 

 呂律は回らない。

 水を貰って仕切り直し、夜の雪を眺める。改めて見る白い夜桜に感嘆の声を漏らしつつも、グラスに貰った酒をいただく。何の酒かは知らないが、此方は刺激が弱くて気が楽だ。もう準備するのは気怠い為、酒のつまみは具現化で。枝豆は鉄板…と言いたいところだが、私は鯣の方が好きなのだ。

 

「…狼戈、此方に来て」

「ん…どうし……た?」

 

 近付いた途端不意に紫の腕が私へ伸び、抱き締められた。酒が回っていることに加え、唐突過ぎて顔が赤くなる。視線を泳がせても、紫は気にも留めずに抱き締めて顔を埋める。この酒は弱い…私より飲んでいなかったし、酔っている訳ではないはずだが…なんて身長差があるのやら。

 

「ち、ちょっと…紫?」

 

 私の言葉に、返ってくるのは静寂ばかり。ただ静かに、紫の吐息だけが響いている。引き剥がす訳にもいかず、そのまま身を委ねた。雪も見えずに酒も飲めないが…。

 刻々と過ぎていく時間に、紫の甘い匂いが鼻に残る。数分、数十分と離さない紫に、流石に違和感を感じ、少しもがいてみた。

 

「ん…ゆ、かり…っ」

 

 刹那、左肩に走る鋭い痛み。噴き出していく紅に状況が理解出来ず、表情を歪める。紫の表情は恐ろしい薄ら笑い…その口を、鮮やかな深紅に染めて。

 

「ゆ、紫!! 何を…ぎゃ…ぅ…!!」

 

 追い打ちをかけるように、肩に顔を埋める紫。戦慄の表情と共に引き剥がそうとするが、焦りと痛みで上手く妖気を扱えない。蹴り飛ばそうにも私の体勢が膝立ちのため、どうしようも出来ない。

 

「やめ…助け…っ!! ぐ…ぁ…!!」

「…狼戈? 紫様!?」

 

 突如として飛び込んだ影は私と紫を引き離し、紫を押さえる。何事だと問い詰める藍…紫の表情は、虚ろだった。

 ちらと見やる傷口。骨が見える程に深く抉られている上に、その大きさから血が止まらない。水源のように溢れて消えていく血液に、薄れる意識。このままでは危ないと、必死に妖力を集中させていく。止血に再生…気付けば藍の声も止み、紫も正気を取り戻したようで。

 

「…狼戈……」

「…気にしないで…いいよ。見る限り自我も無かったし…」

 

 心配そうに寄ってくる紫。口の中がいつにも増して赤いのは何故か…聞くまでもない。

 

「…狼戈、一旦帰るんだ。紫様、それでいいですね?」

「…ええ。…ごめんなさい」

 

 上がらぬ左腕を煩わしく思いながら、紫の肩を右手でポンと叩いた。開かれた隙間にぴょんと跳び、その身を滑らせる。

 紫…どうしたんだろうか。彼女の自我を奪える者などそうそういないだろうし、おかしくなったのはつい先程だ。怪しい輩が居たのなら私が余裕で感付いているだろうし、藍や紫も即座に警戒しただろう。思い当たるのは…やはり、私自身の体質か。まったく迷惑な体質だ…周りに迷惑がかかり過ぎる。

 

「…お帰り、狼戈…っ!?」

「あ…うん。ただいま…おおぅ!?」

 

 帰ってくるなり押し倒すとは何事だ。それほどまでに欲求不満だというのか。いつもいつも夜になったらくっついてくる癖に…

 

「この傷…どうしたの!?」

「いや、ちょっと問題が発生してさ。大丈夫、相手もわざとじゃないし」

 

 むっとする椛を適当に宥めながら、ちらりと隣で眠る橙を見やる。どうやらかなりお疲れのようで、寝息が少し荒い。私の椛がすいませんでした。

 

「…まあいいよ。早く傷治して寝よう? 手伝うからさ」

「…どうせ寝かせてくれないでしょうに」

「あ、ばれた? ふふ」

 

 洒落になってねぇぜ…。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「…どういうことか、しっかりと説明していただきましょうか」

 

 目を瞑ったままの主を前に、強い口調で声を張る。先程のことは、例え本人が許そうが私が許せない。例え主だろうが…大切な命を奪われるのだけは、見過ごせる訳がないではないか。

 

「…自我がなかったのは、狼戈の言う通り事実よ」

 

 紫が口を開く。少し震えるような声…初めて見る主の姿に戸惑いつつも、質問を重ねる。

 

「それはいつから、何が原因で」

「狼戈を抱き締めた後…匂いに意識が錯乱された。そこからよ」

 

 …彼女自身の体質故、か。やはり、暫く狼戈を誰かに会わせるべきではない。降れているだけで自我を奪う程に、体質が強くなっているのならば尚更だ。勿論…私も例外ではない。何より問題なのは…狼戈の性格上、例え食われそうになったとしても相手を攻撃しないことだ。全て成すがまま、されるがままに。相手にもよるだろうが、どう考えても放置は出来ない。…頼めるとすれば、人間である霊夢や魔理沙、咲夜に早苗辺りか。霊夢は常に妖怪が近くにいるような性格をしているし、早苗は神と暮らしているし…咲夜は論外だ。あの館に人間はいない。適役は…魔理沙か。彼女の家にはあまり誰かが寄り付くということもないだろう。他にもアリスだったり適役らしき者はいるが、やはり…

 

「…紫様、隙間を。狼戈を一度避難させて来ます」

「……ええ、わかった」

 

 開かれた隙間を潜り、狼戈の家へと降り立つ。其処には幸せそうに駄弁りながら、傷を癒す二匹の狼の姿があった。まったく…可愛らしいものだ。

 

「狼戈」

「あれ、藍? どうしたの? こんな夜中に」

 

 とぼけたように話す狼戈に詰め寄り、手をとる。状況がわからずに唖然とする二人を前に、真剣な口調で、低い声色で告げた。

 

「狼戈…体質が強くなってることを自覚してるか?」

「…やっぱりか。してるよ。痛い程に」

「…お前を一度魔理沙のところへ避難させる。椛もわかってくれ、狼戈が危ないんだ」

 

 狼戈が魔理沙…? と首を傾げた後、成る程と頷いた。何故か魔理沙が理不尽な気がする。

 

「…流石に嫌だとは言わないけど。どれくらい?」

「狼戈のそれが収まるまで…だな。だいたいの期限もわからない」

「……ごめん、流石に我慢出来ない」

 

 …粗方予想はしていたが。

 

「…藍、椛は大丈夫だよ。まぁ…盛んだけど」

「どういう意味かなぁ? 狼戈ちゃん」

「い、いやぁ!? な、舐めるなっ!!」

 

 …微塵も説得力がないぞ、狼戈。

 椛が着いていくのは仕方がないとしても、やはり…二人きりにするのは避けたい。椛とて妖獣(天狗が入るのかは知らないが)…狼戈にリスクが無い訳ではない。では、近いうちにでも…連れていくとしよう。流石に準備をせずにという訳にもいかない。

 

「明日の夜、迎えに来る。魔理沙は…まぁそっちで話をつけてくれ」

『了解っ!!』

 

 同じタイミングで敬礼する二人。やはり長く一緒に居ると、波長が合ってくるのだろう。私と似ているのは…まぁ、夜の方があれだから…仕方ない。狼戈の笑顔に一安心して、再度隙間を潜るのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

「…ッ!?」

 

 辺り一面に広がる瞳に、一瞬で意識が覚醒する。目覚めるは静かで綺麗な寝室ではなく、闇と不気味さ漂う異空間の中。心当たりはあった。この世界に見覚えはあるし、私の肩を抉った元凶の姿が即座に脳内へと浮かぶ。妖力を一気に解放し、絶対に居るはずの、この世界の主を威圧する。私から離れてなお、私を手中へと納めようとするのなら…それは己の欲が原因だ。その相手に…手加減は出来ない。

 

「…紫、いるんでしょ? 出てきなよ…このふざけた空間、吹っ飛ばすよ」

 

 手中に集まる黒い炎。きぃぃと音をたてながら膨れては凝縮を繰り返すそのエネルギーに、ふわりと何処からともなく紫が姿を表す。日傘も扇子も持たずに佇み、微笑みを浮かべて。

 

「…出して、早く。いい加減にしてくれないかな。私だって…人格もあるし感情もある。

 あんたらにただ弄ばれるだけの人形じゃない!!」

 

 叫ぶように言い放ち、手中の炎を吐き出した。辺りを包む漆黒の業火に隠れ、紫の姿が消える。どうせ当たっても、効いてもいない…何故ここまで強く当たっているのか、自分でもよくわからなかった。やはり…食われたことと、囚われたことによる恐怖で頭が混乱しているのかも知れない。

 

「…人形になるのよ。私の…私だけの、人形に」

「…ふっざけんな!!」

 

 自分でもおかしいとわかっているのに、苛々が収まらない。余裕を見せる紫…絶対裏があるはず。力任せに宿すを発動させ、いつだったか…天子を相手にした時のように、自分の姿を放棄した。狼の原型を留めぬ、異形の姿…だが、そんなことは知ることではない。目の前の敵を…倒す為に。

 

「…何故、貴女はそんなに怒っているのかしら」

『煩い…煩い煩い!! 絶対…潰す』

 

 自身の体に収まらず、溢れた妖気が隙間を巡る。紫めがけて跳躍、その刹那に紫の姿が消え、宙へと放り出される。即座に体勢を立て直し、周囲を見据えた。

 

『…ほら、早く…出てこいよ…ねぇ!?』

 

 自分がおかしくなっていることを、段々と忘れていく。何が目的で、何がしたいのか…段々と、わからなくなっていく。もう…気付けなかった。既に、狡猾な策に追い詰められていることに。周囲へばら撒く鋭い光線。微塵も当たることはなく、ただ暗闇へと消えていく。

 

「…チェックメイトね、狼さん」

『…何を…っ!? ん…ぐ…っ!?」

 

 強制的に能力が解け、纏う力は全て分散されていく。力なく崩れた体を受け止め、淫らに笑む紫。…力の境界を…壊されたのか?

 

「こ…の……!!」

「残念…貴女は甘いのよ。無意識に…誰かを傷付けるのを避けている。

 どちらにせよ…もう、貴女に対抗する術などないわね。さぁ…どうするの?」

 

 無防備で囚われる恐怖や悔しさよりも、すぐにでも封じられる癖にそれをせず、弄んだことに対する怒りが涌き出る。強く睨み付ける私に、紫は残念そうな顔をした。

 

「…素直に従ってくれないのなら。じっくりと…教調していくしかないわね?」

「この…悪魔……っぐぅ…ぁ…!!」

 

 刹那の隙に左の肘先が無くなる。今の一瞬で、小さな隙間は腕を捉えたらしい。紫が腕を、嘲笑うように見せびらかすその姿に、足に力を込める。が…気付けば吹き出るのは鮮血。右の膝先が瞬く間に消えていた。ここは彼女の世界…そうだろうな、勝てる訳がないさ。

 

「…動かない人形になる前に、大人しくしなさい」

「ふん、嫌だね…どうせ動けなくなる。なら…お前なんかには従わない!!」

 

 言い放つ言葉とは裏腹に、心拍数は上がったままだ。妖気を封じられているため流血は止まらず、痛みも穏和出来ない。そして近付いてくる死の恐怖に、段々と気分が悪くなってきた。先程までの威勢が嘘のように倒れ伏し、紫を睨む。死にたくはない…だがきっと。このまま生きていても…きっと死より恐ろしいことが待つ。

 長い爪を首筋に添え、にやりと笑う。狼の鋭い爪で、頸動脈に沿ってつー…と首をなぞり、紫を見据えた。嘲笑するように、哀れむように…。

 

「このまま私が死ねば…人形も何もない。ただ食われるだけの屍…もういいよ」

「…いい訳がないでしょう? ふふ」

「…? っ!? ぐ…ぁぅぅ…!!」

 

 残った右の手すらも、無慈悲に切断される。綺麗に筋や筋肉、骨が写るグロテスクな断面に吐き気を感じ、脳を支配する痛みが全身を駆けた。

 

「あらあら、片足立ちで可哀想。此方に来なさい? 優しく…優しぃく看てあげるから…ね」

 

 ゆっくり、焦らすように近寄ってくる紫に、片足で唸る。最後の最後まで従おうとしないのは、単なる無意味な意地でしかなかった。

 

「…一輪咲」

 

 無理矢理に具現化を発動、巨大な刀をくわえ込む。例え勝てなかろうが…ただやられ続けるのは性に合わない。減らず口とにやけた顔を…恐怖に陥れるまで。死ぬ訳にもいかないし、従う訳にもいかない。

 健在の脚力で空間を蹴り、紫めがけ急加速。すれちがい様に強く切りつけ、体を回転させた遠心力で、空高く吹き飛ばす。咄嗟過ぎてか、わざとなのか。直撃する紫にバランスを崩して倒れ込んだ。

 

「…まだ戦う気があったとは」

「…ふん、追い詰められた鼠は猫を咬む。簡単にやられてたまるか」

 

 身を捩らせて一回転、片足立ちで、再度刀を強く噛んだ。

 

「…その執念は認めるわ。でも…もう終わってるのよ?」

「何を…んっ…ぐぅ…!?」

 

 背後から抱き締められ、刀を落とす。もがく間も無く対の五指が全身をまさぐり、その快楽に力も入らなくなる。やがて紫の手が下半身へと伸び、絡まる中へ無理矢理指を侵入させた。

 

「い、いた…い…っ」

「ふふ、大丈夫…すぐに気持ちよくなるわ…」

 

 体の中へ、根本まで深く入る指。無理矢理に押し込まれ、掻き回されるその痛みに、段々と意識も薄く、息も荒くなっていく。

 

「…貴女を従えるのは、この手が一番ね…ふふ」

 

 反論も、罵声も…全て喘ぎ声となって消えていく。快楽に溺れ、自我すら危うくなりかける頃、紫は私を離した。嫌な空間に倒れ込む私を見下ろして、不敵に笑む。

 

「は…ぅ…っ」

「ふふ…あはは…もう…離さないわよ? ずっと、永遠に…」

 

 何者も干渉出来ぬ、少女の世界。永遠に近い時を生きる妖怪。永久に交わり続けることも、そのまま食べてしまうも…全ては、紫の手の上だった。体の力すら入らぬ今の自分に…もう、何かを出来る術はない。ただ彼女にされるがまま…正直、もうどうでもよかった。どうにでもするがいいさ…そう思って。唯一、我が儘を許して貰えるのならば…

 

 ーーーお別れくらい、告げたかったな。

 

「…さぁ、遊びましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九尾と白狼天狗、化け猫に火車、地獄鴉まで。

 色々な種族、色々な者が、消えた狼の少女を探し続けた。

 一年、数十年、数百年…どれだけの時を経ても、その捜し物は見付からず…。

 皆心に負った深い穴を、忘れるという苦肉の選択肢を選び、埋めた。

 

 ーー今も探し続ける、二匹の妖怪を除いて。

 

 全てが狂った隙間の中。響くのは静寂か、鳴き声か。それとも…

 

 

「…大好きよ、狼戈」

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