黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
次回、予定として、今まで登場しなかった一部の方々に登場していただきます。
…死神とか花妖怪とか(ボソッ
▼ 異変…? (上)
「狼戈の本気、ねぇ…ちょっと試してみたい気もするなぁ」
からりと笑う萃香に下を向く。狼戈は私と戦う際、本気本気と言いつつも、全力を出している素振りを見せたことがなかった。今の目標は“狼戈の本気を越える„こと…一度危うかったりしたこともあったが、最初から本気の狼戈に勝たなければ何の意味もない。だからこそ…もしかすれば異変規模になるかも知れないこの頼みを…。
「…頼む。どうしても…戦いたいんだ」
「ふーむ、私もどうせ暇だしなぁ…最近あんまり会ってなかったし、丁度いい」
萃香の遠回しな受諾を聞き、いてもたってもいられなくなり、箒に飛び乗る。
「…一週間後に、狼戈の家に。彼奴の家の周辺は障害物も何もない…頼んだ」
「やけに真剣だねぇ…まぁ、私も参加するし…頑張るといいよ、魔理沙」
萃香の言葉を聞き終わる前に、空高く飛翔した。一週間後…絶対に、この手で。
「…絶対に勝ってやる、狼戈」
◆◇◆
家の屋根。快晴の青天井を眺めながら、ふらりふらりと寝転がる。椛は狐火鴉と出掛けてしまったし、暇だから~と行って来るような藍達も来ない。ただ暇を潰すように、空を飛ぶ鳥、妖怪を眺めて、一人空想に明け暮れる。ずっと離れないでね、と言っていた椛自らが、気まぐれに外に行っている気がするのは気のせいだろうか。
「こんな時間にお昼寝なんてどうかしてる」
「こんな時間に寝なかったらいつお昼寝しろと」
突然の来客に真面目に返し、ぱっと起き上がる。其処に居るはよれよれ兎耳、鈴仙。手を銃のように此方に向け、じっと見据えてくる。対して私は乙女座りで寝ぼけ眼。いきなり来るから悪い。
「…で、何のつもり? 射的なら向こうでやっておいで」
「大人しくやられてくれる? ライバルが来る前に」
話が読めずに首を傾げる私に、鈴仙が発砲(?)。瞬時に身を傾け、最低限の動きで避ける。宣戦布告と見るが、理由や目的は…どうせ聞いても言ってはくれないか。やはり、力尽くで聞くしかないらしい。争い事は嫌いなのだが。
「…あらら、弾幕ごっこって避けられないものって禁止じゃない?」
「許可が出てるわよ。賢者直々に」
…許可? 賢者…紫から? 一体何を企んでいるやら…後で一度蹴っ飛ばしてみるか。
そうこうする内に、眼前に、恐ろしい密度で展開される弾幕嵐。速度も何もかもがルールから外れ、恐ろしいこととなっている。これって、完全に殺す気よね? でもまぁ…私も軽く本気を出せるのですが。
「乱れ咲け、紅の花…」
具現化するは刀。黒い鞘に納められた刀身が纏う淡い白光に、周囲の空気が裂ける。弾幕だろうが何だろうが…真っ二つに切り裂いてしまえばいいだけの話。
『千輪咲』
刹那、弾幕の間をするり抜け、完全に油断していた様子の鈴仙の首へ刀を降る。暗い桜色の刀は首筋を裂く寸前で止まり、肌をごく薄く切った。固まる鈴仙を後目に、ゆっくりと刀を鞘へ納めていく。
「…繚乱」
刀を納め終わる、かちりという音と共に、静止していた弾幕は全て淡い桃色と化し、散っていった。原理? 知る訳がない。この幻想郷において、常識など問うだけ無駄である。
「逃げ道なんて無かったはずなのに…」
「切った」
気付けば首筋に刀…よく考えれば確かに恐ろしい。鈴仙が今も固まっている理由がよくわかる。さて…いきなり攻撃を仕掛けられた訳だが。その裏に何があるのか…吐いていただくとしようか。
「…で、何が目的?」
「…そんなことより、後ろの亡霊をどうにかしたら?」
鈴仙が言い終わる前に、鞘に納めたままの刀を後ろ手に、直感で構える。響く甲高い金属音に、感じるふたつの気配。どいつもこいつも…何が目的で何がしたいのか。さっぱりわからない。今のところ紫からルール無視の許可が出ていることしかわからない…私を殺すとでも? いや…よっぽどのことが無ければ、性格や親密さ的に私を殺せる輩などいないだろう。ならば…殺しはせずとも、何か他の理由や目的があると…?
「久しぶりね、妖夢に幽々子。うちにメインデッシュになる料理は無いわよ」
「あらあら、それなら貴女を食べるから問題ないわ」
「…幽々子様、狼の料理は骨が折れるので勘弁してください」
鍔迫り合いの刀を離し、間合いを取る半人半霊の庭師。ゆっくりと振り返れば、それを傍観する亡霊の姿。二人相手とかは…流石にないですよね、はい。
霊仙の座り込む屋根から跳び降り、障害物も遮蔽物もない広野へと降り立つ。後を追ってくる二人に刀を抜き、逆手に構える。長い刀を逆手で構えるのは少々難があるが…妖気と脚力でなんとかするとしよう。
「私を料理出来ると思ったら大間違いよ? 逆に食べるわ。ぎゃお~♪」
「…この狼、飼ってもいいですか?」
「いいんじゃないかしら? 非常食に」
会話が噛み合ってない。
今度は此方から…軽く地面を蹴り、妖夢めがけ全力で降り降ろす。だが…慣れぬ逆手での長剣の扱いではやはり勝てないようで、少し表情を歪めただけで流されてしまった。ちっ。
少し格好つけた自分に舌打ちしつつ、妖夢と同じように両手に構える。今度先手を打つのは妖夢…音の如き剣速で払われるそれに咄嗟に反応し、弾丸を逸らすように、低角度で流れるように弾く。前へ重心をずらされて前のめりになる妖夢の腹めがけて掌底一閃…切り合い? 拳を使っていけないなんてルールはないのでね。
「うぐ…っ…」
「ん…戦闘不能か。ごめんね? ちょっと強くやり過ぎた」
うずくまって悶絶する妖夢の肩をポンと撫でて、もう一人…ただ傍観していた亡霊を見据える。刀は無用…かと言って、幽々子は見た目に依らず力が強いから寄りたくない。…弾幕戦といこうか。
「…二人目にして幽々子を相手にするなんて…ちょっとキツすぎるんじゃないかなぁ」
「何言ってるのよ、か弱い乙女に対して」
お前のような三面(?)ボスがいるか。場所が変わっていないから面も何もないけど。
空高く飛翔した瞬間、きらきらと音をたて、辺りへとばら撒かれる光達。見惚れそうになりながらも、応戦すべく妖気を集める。背後に展開するは大狼の口…狼の咆哮、しかと受けとるがいい。
「助けて妖夢、私が食べられそうだわ」
「っ…!! ルール無用…」
かといって、不意打ちはどうかと。
背後からの一閃を、宙で一回転、下駄で刀を弾き落とす。その刀を見向きもせずに突っ込んでくる妖夢にそのまま二回転。咄嗟に爪先での蹴りを肩と両手首で防ぐ妖夢に感心しながらも、その足を軸に更に横に回転、鋭い踵落としが横腹へと直撃し、呻き声を上げつつ崩れ落ちた。なんか…不憫だ。というか、回りすぎて世界が回ってる。
「あらあら…もう。手加減が出来ないの?」
「声が聞こえない程の弾幕を展開してる奴が何を言うか」
既に眼前に迫っていた光の束を咄嗟に蹴り倒して相殺。さぁ…装填、完了。
「黒霆…きゃのん!!」
…誰だ、可愛いとか言ったのは。
大狼の黒い咆哮は、霆の如く辺りを廻り、標的を焼き尽くす。技が終わってもばちばちと音をたてる黒雷に、やり過ぎたかと溜め息ひとつ、煙で見えぬ亡霊を見据える。
「…字面は可愛いのに名前が可愛くないわ」
「ありゃ、外したか…よし、もう一発」
「もうお腹一杯」
特大をご馳走しようと思ったのだが…意外にも幽々子が自ら辞退した。彼女の能力上、本気の殺し合いでは絶対勝てないだろうなぁ…というかそもそも、相手…もう死んでるんだけどね。
「妖夢~、家の食べ物漁るわよ~」
「ぅぅ…? あ、待ってください!! これ以上食べたら…あ~あ」
「まだ食べるの…ていうか、私の家且つ私の食料なんだけどなぁ…。
…そうだ、妖夢。食材確保して、適当に外持って来といて。多分色々来るし…宴でもしましょ」
そんな悠長な…と愚痴を溢す妖夢だったが、やがて諦めたのか、頷いて中へ入っていった。一部の山菜や果物を除けば、基本的に具現化した食材が多い故に、無くなっても正直困りはしない。具現化…私が元々この世界の住人ではない関係上、皆が知らない食べ物を多く知っている訳で。それ故に食材目当てで集まってくる者もいたりする。実はみすちーもその一人…一匹? だ。みすちーは鰻一匹でやっていける気がするのだが…
「さて、と。次の来客は…あら意外。久しぶり」
「久しぶり、狼戈!!」
ぱたぱたと忙しなく羽ばたくは地獄鴉。可愛い笑顔と裏腹に、全身物騒だが…
「…お空。次は貴女が相手?」
「うん。さとり様も来るって」
「ふ~ん…ってさとりが!? 嘘…何処まで、何が広まってるの…?」
私の問いに、答えはない。地底で戦っていないのは…勇儀やこいしを除いてほぼ全員。私の戦闘を見てはいるはずだが、直接戦ったことはないはず。つまり…初戦闘、か。燃えるね…ふふ。
「じゃーん♪ あたいもいるよ」
「面白そうだから参戦~…えへへ、狼戈。久しぶり~」
…私に死ねと? 燐はともかく、こいしには爆発四散させられた過去があるため、全くという程に気乗りしない。トラウマというか、なんというか…でもまぁ、流れ的にやるしかないのだろうな。目的はわからないけど…とりあえず。向かってくる妖怪共を蹴散らせばいいのだろう? 手加減抜き、ハンデ無し、己の力量がものを言う戦い…いいだろう。刺激を求めるのもまた一興…かかってくるがいいさ。
「…じゃあ、いくよ。殺す気でかかってきなさい!!」
一緒に過ごしている関係上故か、連携が中々に素早く、的確だ。周囲を等間隔で囲む三人に不敵に笑い、舌なめずりひとつ。狼の狩り…見せてあげるよ。
「ほわいときゃのん!!」
最近平仮名にはまったのは、きっと最近私が作ったスペルカードを見るだけで一目瞭然。
竜巻のように周囲を巡る光の束に、こいし達が同じような動作で軽く避ける。当たってくれるとは思っていなかったが…掠りすらしないのは少し心外だな。
「危ないなぁ…もう、手加減してよ」
「がう。がう~…がう。ぎゃおー」
「お燐、狼語ってわかる?」
「わかる訳ないじゃないか。無茶ぶりはやめてよお空」
…あれ? これって戦闘? それとも日常?
次の瞬間、周囲三方向からばら撒かれる個性豊かな弾幕達。どう考えても日常じゃないです。本当にありがとうございました。
空間を縦横無尽に駆け巡り、隙があれば避け、隙が無ければ作る。密度が高い…少なくとも、目視できる程度のスピードしか出せない。それぞれの弾幕がぶつかり、相殺するならまだいい…時折跳弾のように変な方向へ跳ね変えるのは勘弁して欲しい。読める軌道には限りがあるのだ。
「…閃!!」
「っあ!?」
こいしの背後から光の如き速さで接近し、首筋へと手刀一閃。弾幕ばかりに気をとられて、相手を見失っていては元も子もないんだよ、こいしちゃん?
「次は…どっちからいこうか?」
「…お空、やっていいよ」
「…わかった」
燐の言葉を引き金に、空の体が鋭く発光していく。こんなところで核融合なんて勘弁して欲しい…そう思いつつも、家を巻き込まぬべく更に上へと飛翔する。正確に此方へと狙いを定めてくる空に舌打ちを溢し、逃げ道を塞いでくる燐の弾幕を妖気を纏った尻尾で掻き消した。
「いっくよ…!!」
ーー空の炎に燃やされれば、骨すらも残らない。
だが…だからこそ…対抗したくなるのは狼の性。相殺してやろうではないか…黒き炎で。
両の手を合わせ、真っ直ぐ腕を突き出す。開いた手のひらが象るのは狼の牙…きゅぃぃ…と甲高い音をたてるエネルギーに、大きく息を吐いた。溜める間すら襲い来る弾幕達をごく僅かな動きで避け、又は相殺。空がにやりと笑う頃…黒狼の巨砲は、装填を完了する。
「…轟け、狼の咆哮よ…!!」
「最大火力っ!!」
同時に放たれる、恐ろしいまでに力を放つ光の束。互いが押しきろうと力を込める、光と光の鍔迫り合い。このまま押しきるのも良い…だが。美しく、華麗にきめたいもの。成功するか…そんなのはわからない。ただ、やるだけだ。
会わせた手を離し、自分の体を軸に回転。渦を巻く二本の黒炎の霆に、傍観していた妖怪達が驚愕と感嘆の声を漏らす。竜巻の目は安全? いえいえ…
「いくよっ!!」
「ッ!?」
渦の中央をめがけ、急加速。炎と共にその光線へと突撃し、力任せに射抜く。ある程度で鈍い感触が走り、そのスピードは止まった。気付けばふらふらと落ちていく空に悲鳴を上げつつ、即座に近付いて抱き抱えた。やり過ぎた…か?
「…ぅう~…痛い」
「よかった、其処まで酷くもないね…」
「…狼戈、自分の姿を見て同じことを言えるかい」
燐に言われるがままに自分の姿を見れば、先程放った自分の炎で燃え尽きる衣服。下着まで完璧に消え去ってしまい、完全な…裸。流れる沈黙に、一瞬で紅潮していく頬。羞恥プレイなんて…っ!!
「……うん、まぁ、いいや」
「いや、良くないだろう」
「だってさ…? 今この場にいる面子って…ね?」
その言葉に、燐が察したように数回頷いた。裸を見られるどころか、それ以上のことをされている面子しかいない。家の中にいる妖夢を除いて…鈴仙、いつまで屋根の上にいるんだ。降りてこい。
流石に裸のまま戦う訳にもいかないため、渋々化けるで新調。服がなくなったのなら、そのまま風呂に入りたかったところなのだが…既に新たに来客が来ているもので。
「…燐、どうする?」
「ん~…あたいはもういいや。疲れたし…其処で見てるよ」
空と一緒に、地面へと降りていく燐。笑顔で見送った後、背後に迫っていた影を、見もせずに口を開いた。わかり易い程に、強大な気配。
「豆撒きするには早い季節なんだけどなぁ…ねぇ、萃香に勇儀」
「豆か…食べ物を粗末にしちゃ駄目だよ、ねぇ?」
「地上に来るのは久々だけど…変わんないねぇ、ここら辺は」
先程から地底組を相手にしているのだが…この調子では土蜘蛛や嫉妬妖怪も相手にすることになるのだろうか? まぁ…構わないさ。何だろうが全力でかかって来ていただければ…手加減してあげるからかかってきなさい。
「鬼と二対一…一回やってみたかったんだ。ルール無視…本気で」
「…死ぬよ?」
「お生憎、私も伊達に千年以上生きてないわ。さぁ…かかっておいで!!」
勇儀と戦う時は、基本的に肉弾戦が多く、萃香と戦う時は、妖気でのぶつかり合いが多い。だが…二人揃ってぶつかってくる気満々のようだ。鎖を鳴らしながら舌なめずりするのも、指の骨を鳴らして不敵に笑うのもやめてください、怖いです。
何の合図も無く、弾丸の如きスピードで駆け出す勇儀を視界の端に入れつつ、恐らく不意打ち目当てであろう萃香も視界に捉える。どちらかを見失うと対処が面倒だ…風切り音と気配で粗方の位置や攻撃は理解出来るが、萃香の場合能力が面倒。でかくなられても困るから、うん。
「っ…!?」
「余所見厳禁だよ!!」
ほんの一瞬視線を逸らしただけで、容赦なく叩き込まれる鬼の拳。咄嗟に防ぎつつ、重心をずらして威力を殺した…にも関わらず。何の反動もつけずに、宙で数回転する程には強く吹き飛ばされる。痛みはそこまでない…戦闘続行。体勢を立て直し、再度勇儀を見据えた。萃香は…消えたか。不意打ち警戒…
「ばぁ♪」
「うわぁぁ!? ち、ちょっと!? にゃぅあ!?」
背後からの驚かし、その隙への鉄拳制裁…微塵も警戒出来てないじゃないですかやだー。
やはり強い上に、スタミナも多い為に恐らく体力切れを狙うのは愚策。ならば…一瞬の内に、数撃で沈めるのが一番良い方法だろうか。一秒でもあれば五発以上は入れられる…
「…火傷に注意」
両拳が纏う、黒い炎。質量を持った炎は拳を守り、骨を砕く。熱と固さ…さて、どう対抗してくるかね。…もう流石に自分の服を燃やしたりはしないぞ…多分。
拳を流し流され、避けて避けられ。何故かまったく攻撃してこない萃香に違和感を感じつつも、勇儀との組み合いは続く。弾幕ごっこの範疇から外れたそれは、当たれば確実に体が吹き飛ぶであろう力と速さを持って、確実に、大胆に攻め込んでくる。先程から受けばかり…流れるような連撃に、なかなか手出しが出来ない。どういうことだ。
「閃ッ!!」
「っ…!! まだまだ!!」
…首筋への一撃、耐えたぞこの鬼。
力と速さのぶつかり合いに、辺りが小さなクレーターだらけになっていく。以前の弾幕ごっこの範疇で行った殴り合いですら腕が吹っ飛ばされたといいのに、本気で殴られれば確実に抉られる。それ故に、なかなか攻撃に踏み出せない。それでも構わずに突っ込んでくる辺り、流石は鬼というところか…ところで、このクレーター達は直してくれるのよね?
「狐火鴉の技は私譲り…菊之型…ッ」
全力で振られる回し蹴りを屈んで避け、左足に全体重を預け強く地を蹴る。速さで私の右に出る者は居ない…例えそれが天狗だろうが、鬼だろうが。
「二輪咲ッ!!!」
全ての体重を込めた、力の限りの掌底。だが、これに威力は求めない。本番は次…手に秘める、全ての妖気を…
「あぐ…っ!!」
ーー爆発させる。
周囲の土を吹き飛ばす程の爆発に、勇儀の悲鳴が微かに響く。下級妖怪ならば即死する威力の爆破…だが、これでは終わらない。咲いたのは一輪…まだ、続いている。
「…開花」
勇儀に向けたままだった手のひらを、強く握り締める。刹那、爆発音が周囲へと響き、勇儀の体が地面へと叩き付けられた。血を吐き出し、無理矢理という感じに起き上がる勇儀。何が起きたのか…その場にいた全員が、理解出来ていなかった。
「…大丈夫? 加減が難しくて…」
「そうやわじゃないさ…このくらい」
「…もういいよ。面倒だけどまた増えてるし…続きはまた今度、ね?」
腹に穴を開けた相手に、戦えというのは少し…無理。
菊之型 二輪咲…一撃目の爆発は、狐火鴉が以前使ったものと代わりない。強いて言えば、威力が恐ろしいことになっているくらいか。自分でも驚く驚く程に、妖力だけは誰かに負ける気はない。
二撃目は…狐火鴉では出来ない芸当。それ故に、狐火鴉には教えられていない。だが、やったことは至極単純だ。一撃目の際、相手の体に送り込んだ妖気を、遠隔操作で爆発させた…それだけのこと。決して、ぎゅっとしてどかーんなどとした訳ではない。真似はしたけど。
…ところで、萃香が消えたのだが。放っておいていいのだろうか。いいか、うん。
「さて…お帰り。私もそろそろ疲れたんだけど…やる気満々? 狼さんと狐様?」
「まぁ…見てた流れ的に。ねぇ? 狐火鴉」
「私は何でもいいですよ? 狼戈さんと遊べるなら…ふふ」
いったい何処へ行っていたのやら。魚の入った網を両手に抱えて。
そそくさといった様子で魚を家に置きに行く狐火鴉。中に入った瞬間に悲鳴が聞こえたのは、きっと気のせいだろう。幽々子…まさか、家具まで食べたりしていないだろうか…いやまぁ、流石にないか。
「じゃあ、私も乱入しようか♪」
「…私は其処で見てるわ」
「ありゃ? もう、つれないなぁ」
つれないなぁ、じゃない。乱入すんな、土蜘蛛め。
突然の乱入に軽い困惑を浮かべつつも、戦闘形態に入る狐火鴉と椛。まったく…何連戦すればいいのだろう。鈴仙、妖夢、幽々子、空に燐やこいし、次いで勇儀に萃香(?)、そして狐火鴉に椛、ついでにヤマメ。既に八人を相手にしていると…これで十一人目、か。…人?
「…さて、本気でかかって来なさい。。パルスィ、不参加でいいの?」
「ええ、どうぞ。今は疲れてるから」
疲れてなかったらやってるのか。
突然加速する椛の動きに、咄嗟に身を捩り、カウンターの回し蹴りを入れる。だが、相手は元々戦いを主に活動していた、歩兵の白狼天狗。そう簡単に当たるはずもなく、盾で防がれてしまう。でもまぁ…私の脚力を防ごうとしたのなら、愚かでしかないんだけど。
「ぐぅ……ッ!?」
「…この娘、ほんの軽い蹴りで大岩粉砕しますから。受け止めるのは無理ですよ」
地面にまで落とされながら、体勢をたてなおす椛。牽制とばかりに放たれた手裏剣を一寸狂わず叩き落とし、近付こうとする狐火鴉から距離をとる。が…次の瞬間、また元の場所へと戻された。…巻き戻されたか。
「なんで私からは逃げようとするんですか? 狼戈さん…ふふ」
「貴女が一番わかってるでしょうに。幼いと私は妖気を振るえない…結果、詰みよ?」
不敵に笑う狐火鴉に、冷や汗をかきつつ退く。下手に近付くのも、攻撃するのもまずい…巻き戻されれば、私の放つ威力では自身を怖しかねない。どうすれば…
「狐火鴉、頼むよ!」
「…了解です」
突然響く声に何事だと背後を見れば、既に眼前に迫っていた蜘蛛の糸。紙一重で避けたのも束の間、糸の到着点を見て、戦慄する。何故に、こんな連携を一瞬で…
「燃えてください、狼戈さんっ♪」
それ、どう考えても満面の笑みで言うことじゃない。
私を囲っていた糸は、狐火鴉が放った炎により、一瞬で燃え盛る。肌を刺す痛みに顔をしかめ、もがく…が、勿論素の力で千切れる糸ではない。でもまぁ…“素„なら…だけどね。
「ッ……ぅう!!」
「なっ…!?」
「糸が…千切れた…?」
妖気を込めた全力で、絡まる糸を一気に引き裂く。その糸を瞬時に引っ張り、操り人形のように此方へと引き寄せられる二人に、笑う。今度は私が…微笑む番。
「いたぁ!?」
「つぅ…っ!!」
引き寄せられた二人は、私の攻撃を食らう訳でもなく。それぞれが激突し、互いに唸っている。首筋に刀を添えて、満面の笑みを見せた。土蜘蛛と狐がぶつかる…か。想像もしない光景だな。
「チェックメイト、だよ♪」
「そんな笑顔で…最後の抵抗ですっ」
「ひうぁ!? か、体が縮…戻せ今すぐ」
狐火鴉に詰め寄った…その刹那。頭上から降り下ろされる剣の一撃を紙一重で避け、その剣の持ち主を見据える。そうか…忘れていた。三対一、だったな。
「本当に…可愛いなぁ可愛いなぁ♪ よし、狼戈。私が勝ったら暫く軟禁ね♪」
「笑顔で言うことじゃない!! ていうか、私この状態で…勝てる訳がうわぁぁ!?」
無慈悲に振られる剣を、無意識に屈んで避ける。ふとこいしが反応した気がした。無意識さんお疲れ。
じりじりと間合いを詰めてくる椛に、どうしたものかと辺りを見回す。完全に観戦モードと化している妖怪達に、助けを求められる輩などいないし…都合よく求められたとしても、きっと酷い目に合うことはかわらないだろうな。それが私の宿命よ…泣きたい。
「…わかった。能力も、武器も、妖力もない状態で、って言うんだ…。
なら……手加減なんて、いらないよねぇ?」
刹那、一瞬で間合いを詰めて背後に回り、剣を腕から叩き落とす。苦し紛れの盾での打撃も、妖夢と同じように流して弾き、落とす。驚愕の隙すらも与えずに再度近付き、腹めがけて腕を突きだした。
「…王手。さて、次は…うん。狐火鴉、本気で戻して。本気で死ぬから」
「え~、しょうがないですね…」
「むぅ…いいもん。どうせ今日の夜は押し倒すから」
ん~、聞き捨てならん言葉が聞こえたが…まぁいい。どうせ逃げられない。
「…もう疲れた。貴女達を倒してお終いかしら? ご主人様…」
「そう簡単に倒されると思ったら大間違いだな…橙?」
「…狼戈様、その首輪は」
さらりと終わらせるつもりが、橙の視線が私の首筋へと向けられた。素で短い声を出しつつも、手首につけた首輪を見据え、流れ始める冷や汗を拭うことも出来ずに、ずかずかと近付いてくる橙に戦慄する。言い訳のしようがない…どうしろと。
「ひ、日替わりだよ。日替わり…しっかり大事にんぐっ!?」
「あむ…ん……♪」
人前にも関わらず、執拗に舌をねじ込む橙。口の中で響く音と、慣れたようで慣れぬ感触に、意識が朦朧とする。この状況下…私から目を背ける者はいない。それどころか…隙あらば襲おうとしている輩が多いのが見てわかる。盛んなのを悪いとは言わん…自重しろ。
「やっ…! ん…ぅ!! はなし…っ」
「私が折角あげた首輪なのに…まだ許してませんよぉ? 私を騙したこと…」
ぐぅの音も出ない…本格的に犯し始めるのではと身を捩った瞬間、全身が柔らかい何かに包まれて浮き上がる。何事かと惚け顔で辺りを見回せば、私を尻尾で抱く藍の姿。流石に止めてくれたらしい。尻尾の中でだらんと四肢を投げ出す私は、惚け顔かつ赤面、そして虚ろ目…おおう、酷い酷い。
「橙、流石に今はやめるんだ…今日の夜にでも、皆で遊んでやるとしよう」
「む~…しょうがないです……立てなくなるまで遊んであげます」
「おいこらちょっと待てこの親馬鹿狐と変態化け猫」
二人揃って笑い、頭を掻く。違う、そうじゃない。私は一切褒めてない。
「……で、やるの? やらないの?」
「ん~…折角だ。手合わせ願おうか」
「狼戈様、炬燵借りますねっ!!」
対峙する私達を後目に、橙がスキップで家の中へと入っていった…次の瞬間、また悲鳴が響く。幽々子様、そろそろ出てきていただけませんか。私そろそろ家の中身が心配です。胃に穴があくのでやめてください。
溜め息ひとつ、不敵に笑う藍を見据える。互いに使うは呪術…技のレベルでは勝てないだろう。私の呪術は、藍から教えて貰うか、見様見真似で身に付けたものが多い。つまり相手は本家…極端に言えば私は偽物なのだ。
「ルールは無用、だったな…始めるぞ」
宣戦布告と同時に黄金色の一閃。縦横無尽に振るわれる尾を避けつつ、どう攻めるかと思考を廻す。離れれば呪術が、近付けば尾の嵐。彼女の力があれば、捕まえさえすればその尻尾で八つ裂きに出来るだろう。いや、九つ裂き、かね。
「逃げてばかりじゃ終わらないぞ?」
笑みを溢しながら攻撃の手を休めぬ藍。一瞬の隙を見付けては突っ込もうとするが、見事に逃げ道も攻撃も塞がれる…どうすべきか。疲労は期待出来ぬだろうし、下手に呪術を撃たせると私の家が燃える。燃え盛る。萌える方がまだマシだ。
「椛之型…落葉紅斬!!」
椛、一々反応するな。椛は椛でも天狗じゃない。
上空高く飛び上がり、放つは深紅の葉。風に揺られて吹き荒び、辺りの空気すら切り裂いていく。勿論…此処で終わるつもりはない。
応戦する藍めがけ急降下。響く爆発は急加速…妖気の爆ぜる音。
流石に舞い落ちる木の葉を避けつつも私の攻撃を流しきるのは無理のようで、結構な数の傷をその衣服や肌につけている。蹴りから掌底へ、掌底からサマーソルトへと攻撃を連ね、追い詰めていく。
「…隙あり」
「っあ!?」
突き出した拳に絡み付く黄金色の尾。そのまま蛇のようにしゅるりしゅるりと巻き付いてきた後、九つの尾は全身を覆っていく。藍…絞め落として終わらせる気だ。もっふもふの手触りだった尾は痛みを伴い始め、やがて骨が軋み、血が止まるまでの強さになっていく。悶絶する私を眺め、藍は少し幸せそうに見えた。
「ぅ…ぁぐ…っ…!!」
「…早く降参した方が身の為だぞ」
降参? 敗北? そんなの……
ーーー狼のプライドが許さない。
妖気を最大解放、全力で尾を引き剥がす。少々やり過ぎたようで、藍がふらふらとしているが…知ったことではない。妖気の最大解放…いつぶりだろう? 少なくとも、野次馬が感嘆か驚愕の声を漏らす程度には妖気はあるようだ。
「…終わらせる」
「…やってみるがいいさ」
構える私を見据えながら、藍の両手に集まっていく強大な炎の渦。当たれば黒こげ…灰すらも残るか危ういその一撃。藍の本気…しっかりと見届けようか。
「いくぞ…っ!!」
「雫之型…っ!!!」
◆◇◆
「…え、えっと、えとぉ…」
「…どうした?」
ーーー藍が八尾になりました。
嫌、割とおふざけではなく、現実の方向。放った技の勢いが余り、藍の尻尾の一本を見事に撃ち抜いた。粉々に吹き飛んでいた黄金に、どうしたものかとおろおろしている状況…どうすればいいんですか。
「…その…治すの…手伝う…」
「ああ、別にいいよ。こんなのはすぐ治せるさ」
笑う藍だったが、気まずい…勇儀の時は私も吹っ飛ばされたからいい。だが…今回、私の体に目立つ傷はない。それ故に…申し訳ない。
「気にしなくていい。それより、後ろのものをどうにかしたらどうだ?」
「…後ろ?」
背後を見れば眼前に広がっていた隙間。咄嗟に飛び退き、その隙間を睨む。苦笑する藍を後目に、再度妖気を滲ませた。
「…紫。説明願いましょうか。
ルール無視のこの戦い…引き起こした理由は、何故?」
私の問い掛けに、答が来ることはなく。流れる静寂に耐えかね、隙間めがけて妖気の塊を一発、全力で投げ飛ばす。隙間に消えていく弾幕に苛々を感じつつも、溜め息ひとつ。後ろを見る。
「あら、見付かってしまったわ」
「いいからさっさと理由を答えろっていう」
「誰の迷惑にもならないようにしてるし、今回は頼まれ事。私はただ受諾しただけよ」
頼まれ事…私を倒せと? その依頼者は一体誰なのか…。幾つかの候補はあるが、絶対にこいつだと言える犯人がいない。どうしようか…そう考えた刹那、吹き荒ぶ暴風。ぱたぱたとなびく衣服を押さえ、空を見上げれば…其処に居るは白黒魔法使い…成る程。やっぱりこの娘だったか。
「…さて、このよくわからない異変のようなものの理由は?」
「正真正銘、本気のお前と戦いたい。それだけだぜ」
「ふむ…何十の妖怪に襲わせて、本気を出させようと? 成る程ね…」
つまり…私は幾ら掛かって行こうが倒せないから、せめて数で攻めて本気を出させろと。私からすれば迷惑も良いところだが、別に悪い気はしない。まだいないがさとりも来るようだし、この調子ではレミリアだったりも来るだろう。そうなれば…やはり夜は宴コースか。妖夢に頼んでおいて正解だった。
「本気、ねぇ…一応、以前アリスの家で戦った時は本気よ?」
「…最初から本気じゃないと意味がないんだ」
魔理沙の瞳に映るのは、闘争心と、強い心と…人間の強さ、信じてもいいのだろうか。
「…私はね、怖いんだよ。大事な人なんて…些細なことで直ぐに消えていく。
失った時は、命は…宝物は…誰であろうと、戻すことなんて出来ないのだから」
私の言葉の意味を知る、燐達だけが気まずそうに私から視線を逸らす。意味や私の過去を知らぬ者達ですら、私を見て困惑の色を見せていた。皆は…知らなくていい。こんな過去は…私の中にだけで生きていればいい。
「狼戈の言うことは正しいよ。でも…私がそう簡単に死ぬと思ったら大間違いだぜ?」
不敵に笑う魔理沙。十人十色に見せる笑み…そんな笑みに微笑みで返し、強く頷く。
「…夜まで待ってね。私の本気…全力。見せてあげる」
ガッツポーズをする魔理沙にふっと息を吹き出し、空を眺める。魔理沙の目的は達成される為に、もう誰かの相手をする必要はないのだが…空を駆ける緑の巫女を見る限りは…まだ休めそうもない。まぁいいさ…何人来ようが、捻伏せるまでなのだから。
狼の宴は…まだ、始まったばかり。