黒狼狐己録 -Life Harboring- 作:ふーか
遅れて申し訳ない。
性的な描写、シリアス描写あり。
活動報告にも記した通り、季節を大幅に過ぎているのであまりハロウィンは意識しておりませぬ。
「えー…っと……」
肌寒い季節の昼下がり。大きな寺を前に、立ち尽くす狼一匹。姿は戻した。
参拝客もちらほらと見え、時おり会ったことのある一部の人間たちが挨拶を交わしてくる。なんやかんやと始めてくるこのお寺…妖怪ばかりが来てそうなイメージがあるが、そういう訳でもないらしい。だが…その割には、此処に住んでいるであろう妖怪達がいない。やはり奥まで進まなければならないか…会ったこともない、堅物そうな面子達相手に悪戯を吹っ掛けるのもおかしい話なんだけど…。色々考えて苦笑し、歩き出した瞬間、目の前に何かの影が現れる。驚いて周囲に居た人間が下がった。まぁ…わかる、わかるよ。見ない妖怪がいきなり跳ねたら、そりゃあそうなるよね。
「…ん、幽谷 響子…かな。山彦さんが、私に何か用かな?」
「見知らぬ妖怪ー、私はー…ってあれ? 私を知ってるの?」
…なんか、キャラ作りの邪魔しちゃったみたい。
「私は咬音 狼戈。ちょっとね…外の世界のイベントを此処でもやろっかなって」
「外の世界のイベント?」
興味津々といった響子に、ちらと笑う。ただ…どうしようか。ここの方々…「お菓子くれなきゃ」と言った時点で潰しに来そうなのだけれど。宗教等がよくわからない自分としては、理不尽極まりない。いやまぁ、やってることはカツアゲだからわかるんだけどさ、怒られるのも。ただ座禅とか滝うちとか嫌だから。
「お菓子くれなきゃ悪戯するぞーって言って、子供が色々な家を回るのさ」
「ふ~ん…ってそれ理不尽にお菓子を奪われるだけじゃない」
「でも、そういうイベントとして皆認めてるから、咎なんてないよぉ?」
んむむ…と考え込む響子。可愛らしい獣耳をくすぐってみたいという悪戯心にかられながらも、からりと下駄を鳴らす。ここで足止めを食らっていては、時間が無くなってしまう。告げては来たが、あまり遅れて椛に襲われるのも嫌だし。
「じゃ、私は奥行くよ。なぁに、怪しい者じゃないさ」
「あ、ちょっと……咬音…狼戈? 聞いたこと…あるような……」
◇◆◇
「見渡す限り参拝客…鼠とか虎とか船長とか居ないのかなぁ、此処」
「そんな具体的に言われましてもね…鼠さんは此処には居ませんし…
虎さんも参拝していただいた客の相手をしているので。それで、狼戈さん…何のご用で…?」
建物の中をあっちこっちと移動している最中、掛かるのは綺麗な女性の声。振り向けば其処に居るのは想像通りの人物…まっすぐな瞳に、いかにも清楚で礼儀正しい立ち振る舞い…会うのは初めてか。
「聖白蓮…ちょっと遊びに来ただけだけど…私を知ってるの?」
「参拝客から、時折耳にしますので。それに…妖怪の山の事件も、小耳に」
ちらと見てみても、微笑みを浮かべただけの聖。今更言い訳をするつもりもなく、小さく頷いて微笑する。何度も悔いた。何度も泣いた。何度も崩れかけた。それでも…今私は此処にいる訳で。私のせいで逝ってしまった者の分も…生きる為に。
「…そうだね。忘れたくても忘れられない…忘れちゃいけない事件。
…でも、貴女にとやかくと言われる筋合いはない。それは…放っていてくれる?」
「そういう訳にもいきません。貴女は優しい妖怪…でも、同種を殺すような輩をそのままには…っ…!?」
辺りを駆け抜ける振動。その力の強さに耐えきれず、壁や柱がみしりと音をたてる。人間の参拝客ですら、外で騒ぎ、震え始めた。何事だと外に居た妖怪…ここに住んでいない妖怪までもが全員集まってくる。それもそうだろうな…今の私がやっていることは…。ここにいる妖怪全てを敵に回しかねない行動。幼く小さい体から溢れていく妖気は、限りなく無限に流れていく。
「そうだねぇ…今更さぁ…巻き戻す事なんて出来ない。でもさぁ……お前に何がわかるんだ」
細い瞳孔が睨み付ける、冷や汗を滲ませる聖の姿。攻撃体勢に入る一部の妖怪達を手で制し、聖はただ此方を見据えてくる。
「…どれだけ悔いて、どんな心境になって、どれだけ泣いたのか…お前にはわからないさ。
仲間を守る為に、その仲間を殺した罪…否定なんてしない。でも…誰が好きで殺すんだ」
流れる沈黙、静寂。一部の妖怪達から向けられていた殺意は色を変え、段々と恐怖の色へと姿を変えていく。今もなお止まらぬ妖気の流れに恐れを成したのか、立ちすくむ者ばかり…でもまぁ…本音を言えば好都合だ。元より相手をする気は一切ない…恐怖で錯乱して襲い掛かってきても面倒だが。
「…別に、争いに来た訳じゃないんだ。怯えなくていいよ…感情的になったね、ごめん」
「いえ…何も知らずに軽口をたたいてしまい、申し訳ありませんでした…」
丁寧に頭まで下げる聖に苦笑しながら、ちらと周囲に居る妖怪を見渡す。がっちがちという訳でもないが警戒されているようで…仕方がないが、ハロウィンに関してはどうしようもない。少し話すか何かした後に、ひっそり地底に戻るとしようか…いや、その前に。久々に···あの緑巫女にでも会いに行こうか。まぁ…妖怪の山の中は死んでもお断りだ。たまに合掌しに行く程度だし…。
「…したかったこと出来なかったけど、私は行くよ。迷惑じゃなかったらまた来るね」
「あ…はい。いつでもどうぞ…」
少し困惑気味の聖に首を傾げつつ、地を蹴る。一瞬にして姿の見えなくなる寺…向かうのは神社。早苗にでも毛繕いしてもらおう…そう考えながら、下駄の歯に力を込める。そんな私の背中を化けた狸が眺めていたのは、また別のお話。
「放置で···良かったんですか?」
「あの優しい瞳に、言葉などいりませんよ···それに、私達じゃ勝てない」
「私達···か······」
◇◆◇
「でも、妖怪相手にやっても襲われるんですよねぇ···」
「いや、当たり前でしょうに」
早苗と楽しくお喋り日和。ハロウィンを知っているのが今のところ彼女に、恐らく紫辺りはわかるか。ちなみにお菓子をくれないと~と元気いっぱいにいい放ったところ、無理矢理に酒を飲まされそうになったためお断りしておいた。というか···彼女の場合お菓子くれないと滅するぞの方が似合うのではなかろうか。いや···違うか。お菓子くれても滅するか。うわぁ、理不尽。
「んにゃ···あー···気持ちいい」
「そうですか? こんなもふもふ尻尾···触れて幸せですよ」
櫛で尻尾の毛繕い。
何故か慣れたような手つきの早苗に猫撫で声で甘えつつ、特に宛もなく駄弁る。神奈子と諏訪子は見当たらないし···時間が経ちすぎると帰ったときに地獄を見るし、少ししたら帰るとしよう。此処に来た理由としては···ただ暇だからというべきか、久々に会いたかったというべきか。ただそれだけだが···
「それにしても···全然成長しませんね、狼戈さんの体」
「まぁ···うん。かれこれ先年以上生きてるけど···自分で分かるような成長はしてないや。
ちょっと大きくなった気もするけど、気のせいなのかなぁ···」
妖怪だからで終わるこの世界。どこぞの吸血鬼は、成長を止める代わりに寿命が云々と···覚えていないが。そう考えると···霊夢や魔理沙とは、いつかお別れが来るのだろうか。咲夜と早苗は···正直気にしていない。だって···数百年経ってもけろっと生きてそうだし···いや、案外霊夢達も······いや、それはない、か。あの子達は···自ら寿命概念を捨てたいと、誰かに頼む性格じゃないものな。
「んっと、終わりましたよ」
「おー、ありがとー···何かお礼すべきかなぁ?」
「いえいえ、いいんですよ」
謙虚に笑う早苗にそう? と返しつつ、何をしようかと軽く思索する。神社で出来ることなど限られているし、変に盛り上がって時間を忘れれば地獄を見る現実。今更ながら···私拘束されすぎではないだろうか。幻想郷のルールはしっかり守っている(破ると紫に連れ去られた後三日三晩藍に襲われる上、帰ったら帰ったで三日切り離されたことにより狐火鴉と椛から襲われる始末故最近は自重)。だが……狐火鴉達には少々自重して欲しいものだ。
「じゃぁ······むぎゅーっ♪」
「ひやっ!? な、なにするんですかいきなり!?」
少し赤くなりながら、びくっと飛び上がる早苗。子供らしい反応は彼女の経緯故か。もう可愛いとは言い慣れているが、私より可愛い輩は確実に、大勢いるー。狐火鴉達ももっと良い人を見付けて、お嫁に行けばいいのに……私は……どうだろうか。いつか嫁入りすることがあるのだろうか。良い人がいいな…とは、思ったが、この体質だと無理な気がしてきた。狐火鴉達女性はともかく、男性に襲われるのは……取り返しがつかなくなる。
「えへへ、お礼よお礼。もう帰らなきゃだし……」
「そ、そうですか……いきなりは驚きますよ。てへへ……」
照れ笑いをする早苗に再度抱きつき、別れの挨拶を告げる。そろそろ狐火鴉達が私の名前を口に出し始めるであろう頃。少し苦い笑みを浮かべつつも、下駄に力を込めた。
「ちょいと其処の狼よ。ちょっといいかね?」
「っと……あら、化け狸さん。私に何かご用かしら」
突然の妖怪出現に目を輝かせる早苗。粗方退治だ退治だと騒ぐ気だろうが……申し訳ないが今回のお相手のご指名は私。少し引っ込んでいて頂こう。
「……二ッ岩マミゾウ……私何か悪いことしたかしら」
「おや、儂を知っておるのか。嬉しいの」
微笑みを浮かべながら不用心に近寄ってくるマミゾウ。やはり私の身長が低いために少し見上げる形になるが…年季の差とでも言うのか、威圧感を凄く感じる。まぁ彼女が何才かはわからないが、種族や喋り方を見るに私よりは年上だろう。これでも千年以上は生きているのだけれど。
「……まぁ、名前はね。それで、目的は何さ」
「そんなに喧嘩腰になることもないじゃろう……。
そうじゃな、名前しか知らんが、一度会ってみたくての」
……そこまで私の名が知れていることに驚くべきなのだろうか。
太い大きな尻尾を揺らし、まじまじとこちらを見つめてくるマミゾウに、少し照れ気味に、見やすいように動きを止める。ぶんぶんと尻尾が揺れているのは、ほぼ無意識な訳で。
「ふむ……見たものより遥かに小さくて可愛らしい」
「ひ、ゃぁっ……っ⁉︎」
背後に回ったかと思った刹那、尻尾を根元からなぞるように撫でられ、びくっと体を震わせる。強張る体で向きを変え、にやりと笑うマミゾウを睨んだ。
「…………何すんのさ」
「いやはや、可愛い反応というのはみた通りじゃな」
……どこから知れたその情報。情報元は潰さなければ……いや、そもそもの情報元は私か。ぐぬぬ。
座り込んでびくびくと快楽の走る尻尾を繕いつつ、蚊帳の外だった早苗をちらと見る。獲物を見る目をしていた早苗を手で制し、ゆっくりと立ち上がった。それにしても、快楽には慣れがくるというが、私は慣れるどころか敏感になっていく一方なのだが。痛みには強くなったが……どういう体なんだろうか、この体。
「……それで、何がしたいの? まさか撫でられ損で終わる訳ないわよね?」
「ふふ、一目見て話したかっただけじゃ……まぁ、夜の相手がしたければ相手になってやるぞ? お前さんのような若いのを楽しませられるかはわからんがの……♪」
……これ絶対他にも入れ知恵されてるな。誰だ本当に。
にやにやと笑うマミゾウに大きな溜息ひとつ、からからと下駄を鳴らす。早苗に向かって別れの意味を込めて手を上げ、足に力を込めた。
「……もう、好きにするがいいさ。私は帰る。蛙」
「呼んだかい?」
「諏訪子、今更出てこないで」
◇◆◇
「……結局連れて来ちゃったよ」
「ふふふ、そう邪魔者扱いされるのは悲しいのう」
結局家にマミゾウを放置、一旦旧地獄に赴いて狐火鴉達に先に帰ると突拍子に告げた後、困惑する狐火鴉達を置いて家に帰還した……という訳だが。
……そもそも、私はハロウィンではしゃいでいたはずだが。なぜこんないつも通りのパターンになるのだろう。いっそのこと穴があったら入りたい。いっつも入れられ………いいや、なんでもない。
「家に来ても何もないよ。寛ぐのは自由だけど……」
「構わないよ。儂はお前さん目当てだからの……」
意味深な発言をするマミゾウをさらりとスルーし、ささっとお茶を差し出す。この時抑制剤でも入れておけばよかったと思うのは、また別の話。
「ん……美味しい茶じゃな」
「それはどうも。私とて伊達に生きてないわ」
……何故だろう。元々和風に建てた家だからか、椅子に腰掛けてお茶を飲むマミゾウの姿がとても風流に見える。写真に収めたい衝動に駆られながら、向かいの席に腰を掛けた……その刹那。目の前にいたはずのマミゾウは消え、すぐ隣の椅子に出現していた。この……化け狸……
「……さらっと尻尾を尻尾に当てるの……やめて」
「そんな可愛い反応をされたら無理じゃな……」
……ああ、だめだ。襲う気だ、この化け狸。
椅子から離れようとした瞬間、マミゾウの手が私の服を掴む。いつものパターンはお断り……どうせ実際は初対面。無理矢理に逃げようとした瞬間、太く滑らかな毛並みの尻尾が足元を掬う。盛大に胸から床に落ち、一瞬呼吸が出来なくなる。起き上がろうと床に手を付けた瞬間、尻尾を逆撫でされる感覚に脱力、どうにか逃げようとしたところで背中に乗られ、抵抗の術を無くした。
「手荒な真似はしたくないが……どうも体が止まらんな……ふふっ」
「っ……離、して……っ」
側から見れば、女性が少女の背中に馬乗りになり、尻尾を逆撫でする状況。押し退ける手には、向き的にも快楽的にも力が入らず、どうしようも出来ない。妖気を解放して威圧……した瞬間、ずらされる下着に入り込む指。幾度となく経験してきた快の楽、暴れてみても意味はなく、そもそも暴れることすら出来ていないのかもしれない。
「ひや、あぅぅっ…⁉︎」
「……んっ……♪」
左手で尻尾を、右手で体を、口で耳を犯される感覚に身悶え、涙目で震える体を動かそうとするが、もちろんそれが出来るはずもない。性感帯ばかりを責められて既に痙攣のようにひくひくと動く体では、もう何のしようもない。
「っ、ぁ、ぁぁっ……‼︎」
「……ん……可愛いのう、本当に……」
意識の高揚、そして白紙に還る頭。振りほどこうとした瞬間に再度始まる一方的な責め。次第に逃げることを諦めていく体、幾重にも重なる快楽の連鎖。それは日が巡るまでか、はたまた同居人が帰ってくるまでなのか……そんなことはまだ、知る由もなかった。
……尚、狼戈は襲われて喜ぶと、吐き気を催す程の嘘を幻想郷にばら撒いてくれた幻想郷の伝統ブン屋の姿が暫く見えなくなるのは、そのまた少し後の話。