西方十勇士+α   作:紺南

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ようやくA5発売。
素晴らしいですね。私のお気に入りは旭さんです。


十三話

川神学園二年F組。

 

風間ファミリーの大多数が所属することから分かる通り、そこは変わり者の巣窟。

勉学の優秀さではなく強烈な個性。一に秀でた者が多く、S組とは別の意味で性質が悪い。

 

類友のS組と仲が悪く、なにかにつけては勝負をしかけ優劣を競っていた。

 

そんなF組に本日、転校生が現れた。

 

「諸君らの中には知っている者もいるだろうが」

 

今年度三度目になる転校生。

さすがにそう何度も繰り返されれば慣れてしまうものだが、本日の転校生はこれまた一味違った。

 

担任の小島梅子は、唖然とする生徒たちを半ば無視して紹介を始める。

 

「天神館からの転校生の橘剣華だ。みな、仲良くするように」

 

鋭く、冷たい目を見せる女子生徒。

艶のある黒髪は肩よりも少し長い。

 

元は天神館生徒だった橘剣華は、殺気にも似た気を撒き散らしながら自己紹介を始めた。

 

「橘剣華。限界が近くて、殺気だっているけど触れなければ大丈夫だから。よろしく」

 

その意味をきちんと理解できた人間はその場には居ない。

突然の元敵方の来訪にきちんと頭が働く人間は少ない。

 

疑問を抱いた生徒はいるも、それ以上は辿れない。

解きには程遠く、空気に流される。

 

「……驚いたな。天神館から転校生とは」

 

かつて、東西交流戦にて矛を交えたことのあるクリスは、吐息交じりにそう言った。

周囲の生徒もそれに同意する。

 

剣華は初対面の印象に反して、親切にもその疑問に答えた。

 

「前々から、川神学園に転校する話はあったの。でも、何かと障害が多くて。最近ようやく話が纏まったから」

 

小笠原千花が「障害?」と口に出す。

剣華は短く「九鬼」と答えた。

 

ほとんどが「あぁー」と納得した。

唯一、京と大和だけが「なぜ九鬼が障害になるんだ?」と疑問を持つも、二人はそれを声には出さず胸の内にしまってしまう。

二人の視界の隅で、空気の読めなさに定評のある子が、うきうきと立ち上がったからである。

 

「ふふん。どんな理由があれ、自分にとっては都合がいいぞ」

 

言いながら、クリスはワッペンを叩きつけた。

 

「勝負だ、橘剣華! 交流戦の借りを返してくれよう!」

 

手荒い歓迎。

自分の時にやられたそれを今度は自分がやるのだと、以前負けたことも相まって、気合十分に決闘を申し込む。

 

しかし、当の剣華はワッペンをじっと見て、それから困ったように口を開いた。

 

「これ、どうしても受けなきゃダメ?」

 

当然の様にF組の生徒たちは肯定する。

 

「これ受けなきゃ仲間にゃなれねえな」「決闘で分かりあえることもあるしー」「頑張って橘さん!」

 

好き勝手に述べられた言葉たち。

剣華は迷い、窓の外に視線を向けた。誰もいないグラウンドが眼に入る。

 

数秒それを眺める剣華。

そして諦めたように溜息を吐いた。

 

「……わかった」

 

声音は渋々と、しかしその表情は妙に引き攣っていた。

それは、傍目には笑わないように無理をしている様に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

F組の生徒たちは全員グラウンドに移動していた。

少し離れた場所で各々が見学している。

 

グラウンド中央には、剣華とクリスがほどほどの距離をもって睨みあっていた。

クリスはレプリカの細剣を持ち、剣華は素手。

その構図は東西交流戦を彷彿とさせた。

 

一方、F組が決闘を行うと校内放送で知った他クラスの生徒たちは、それぞれの教室からその様子を覗いている。

その中には川神百代や松永燕、葉桜清楚を始めとしたクローン組の姿もあった。

 

「どっちが勝つと思う?」その燕の質問に、百代ははっきりとは答えなかった。

ただ、「たぶんあっちだろう」とだけ答えた。

 

「立会人は私が行う。時間制限あり。勝敗はどちらかが気絶、あるいは戦闘続行不可能と私が判断するまで。命の危険がある場合も止めに入らせてもらう。いいな?」

 

小島梅子は鞭を取り出しながらそう言った。

その眼は主に剣華に注がれている。

 

クリス、剣華、両者ともに頷く。

 

「では、はじめ!!」

 

梅子がホイッスルの代わりに鞭をしならせ地面を叩いた。

瞬間、クリスが疾走する。

 

細剣を持った彼女の戦闘スタイルはフェンシングである。

ゆえに、攻撃方法は突きだけだ。正面直ぐに走り行き突く。

交流戦の時と寸分たがわぬ戦闘スタイルである。

 

状況によっては他の攻撃方法も使うだろうが、それでも今この瞬間において彼女が選択したのはそれであった。

三か月前と同じ。その常人では決して避けえない突きを、剣華は片手であっさりと捕まえた。

 

「え」

 

クリスの口の端から言葉が漏れた。

 

驚きでクリスの動きは完全に止まる。止まらざるを得ない。勢いは完全になくなった。

疾走分の速さと、細剣を突くのに使った全身の力。それらは全て、剣華の腕力一つで相殺された。

 

もう、細剣はピクリとも動かない。

 

「それは見飽きたの」

 

剣華はそう言って、細剣ごとクリスを遠くに放った。

放物線を描きながらクリスは10メートルほど投げ飛ばされた。

 

途中で体勢を整えられたので地面に激突こそしなかったが、立ち上がったクリスの顔色は悪い。

内心の衝撃は整理できていない。

 

いつの間にか頬を伝っていた汗。

表情は厳しく、余裕はとうにない。

 

交流戦の時も、剣華は強かった。

自分と同等か上。

あの時はそうだった。

しかし、今は剣華の方がはるかに上だ。

 

自分など及びもつかぬ強者であると、クリスは悟った。

 

だからと言って諦めることはしない。

この決闘が自分から挑んだものであるとか、負けたらF組の面子に関わるとか、そんなことは少しも考えていない。

 

ただ、武士娘とは総じて負けず嫌いなのだ。

やられっぱなしでいられるか。

 

クリスは今一度突撃する。

今度は馬鹿正直に真っ直ぐ行くのではなく、フェイントや歩幅の緩急を付けつつ、渾身の力で突いた。

 

剣華は躱す。

クリスの高速の突きをただ躱す。

クリスの攻撃は鋭く重い。一撃一撃に必殺の威力が込められている。

 

反して剣華は極めて脱力していた。

プラプラと腕を垂らし、動きに鋭さは微塵もない。

ただ緩慢に足を動かし移動している。

 

当たればただでは済むまい。

 

決して早くない動きで、クリスの突きを躱し続ける。

通常不可能なことを剣華はやってのけている。

どうやって?

 

クリスが攻撃する前に、剣華は回避している。

動きが完全に読まれている。

 

「くっ……」

 

最初剣華は見飽きたと言っていた。

それはつまり、クリスの動きを十分に知っていて十全に予測できると言う事。

 

三か月前、剣華に敗北してからクリスは鍛錬を怠ってはいない。

どころか一層努力した。間違いなくあの時より成長している。

だと言うのに、剣華は読み切っている。

三か月前からお前は何も変わっていないのだと言われている気がした。

 

「なめるなあああ!!!!」

 

怒り。

クリスの動きがより速く強くなった。

三か月前と同じだ。

 

そのせいで、クリスの視界が一瞬狭まった。

怒りで一瞬思考が途切れた。

 

気付けば剣華の姿を見失っていた。

誰もなく、何もない場所に空ぶった細剣。

 

おかげで行動は一拍遅れる。

 

「怒ることで戦闘力が上昇する。交流戦の時と同じね」

 

後ろから声がした。

振り返るより早く背中に衝撃。

息が詰まる。

 

続けざまに衝撃。

何回も何回も、掌打を浴びせられる。

 

十数に及ぶ掌打を受けて、クリスは倒れた。

敗北者を剣華が冷ややかに見下ろしていた。

 

「お嬢様ぁ!!!」

 

叫びつつ猛スピードでやってきたのはマルギッテ・エーベルバッハ。

クリスのお目付け役である。

 

決闘に敗れたクリスの身を案じて、クラスを飛び出しいの一番に駆けつけた。

その表情には、常の彼女には見られない動揺と焦りがあった。

 

「安心しろ、気絶しているだけだ。骨も折れていない。傷も打撲程度だな」

 

容体を確認していた梅子がマルギッテを安心させるように言った。

マルギッテはほっと胸をなでおろす。

 

クリスの無事が確認され、外野は息を撫で下ろすと共に剣華へと称賛の声を送った。

 

中身がどうあれ、クリスはまごうことなき猛者である。

それに勝ったのだ。嫌でも剣華への関心は高まろう。

特に、武人としては手合せを願いたいレベルの強さだ。

 

証明するように、周囲の人垣から一人の少女が躍り出る。

 

「次はあたしと勝負よ!」

 

川神一子。

クリスと同程度の力量の持ち主は、うずうずとした様子で勝負を挑んだ。

 

剣華は顔を上げ、一子を見る。

その剣華の表情を見て、外野の男連中がどよめいた。

 

頬を染め、息は荒い。

瞳は潤んで眉尻は下がっている。

何処か苦しそうで、それでいて切なそうな表情。

 

それは童貞には毒すぎる、色っぽく艶めかしい表情だった。

 

「え、ちょ、どうしたの?」

 

そんな表情を見て、一子は慌てて声を掛けた。

剣華は何でもないと首を振る。

 

何でもないわけないじゃない!

続く一子の言葉は、その場にへたりこんだ剣華には届いていない。

 

駆け寄ろうとした一子。

それを「近づくな!!」と梅子が制する。

 

一子は止まり、梅子は離れるように指示を出す。

戸惑い、一子が指示に従う前に異変は起きた。

 

「ふふ、ふふふ。あは、はは……。あはははははは!!!!!」

 

笑い声。

面白くて面白くて仕方がないと言う風に、突如剣華は笑いだす。

それに呆気にとられる暇もなく、剣華の身体からは濃密な闘気が溢れだした。

気は暴風となり周囲の人間を呑み込む。

 

最も近くにいた一子は吹き飛ばされぬ様に身を落し踏ん張った。

後頭部に纏めた髪が風にあおられ激しく靡く。

 

意識のないクリスには梅子が覆いかぶさり、その二人を庇うように前面にマルギッテが構えていた。

前が見えないほどの暴風は離れたF組の生徒たちにも及んでおり、彼らは一様に状況がつかめないでいた。

 

ようやく風が止んだとき、その原因たる剣華は静かに立っていた。

恍惚とした表情で空を仰いでいる。口元は弧を描いている。

 

「ああ……いっちゃった……」

 

ぶるりと身体を震わして、剣華は己の身体を抱いた。

 

彼女から感じられる気の総量は、暴風の前後で著しく変化しており、今は壁越えと同等の気を放出している。

その気を察知して、百代や燕、義経や弁慶。果ては九鬼従者部隊序列0番ヒューム・ヘルシングまでグラウンドに降り立った。

 

ほとんどが険しい表情をし、唯一百代だけが好戦的な表情で剣華を見ていた。

剣華はその幾多の視線を嬉しそうに受け止め、だらしない笑みを浮かべた後、覚束ない足取りで校門へと歩き始めた。

フラフラとその場を後にしようとした。

 

「よく……、わからないけど」

 

背を向け、学園から出て行こうとする剣華。

それを見て、一子は薙刀を構えた。

 

「今の橘さんを放っては置けないわ!」

 

斬りかかる。

前を向く剣華へと背後から。

 

技はなくただ強く当てるだけ。

無力な人間を気絶させるためだけの攻撃。

今の剣華は反撃も出来ないだろうと思ったからこその優しい一撃。

 

気付けば、その優しさは薙刀と共に真っ二つに斬られ、一子の身体は吹っ飛んでいた。

 

「つぅっ……!」

 

落下地点に先回りした百代が一子を受け止める。

苦痛に顔を歪める一子は、百代の顔を見ても何が起こったのか理解できていなかった。

 

「お、お姉さま……? なにが……」

 

「安心しろわんこ。私たちが止める」

 

今も剣華の歩みは止まっていない。

これは早く止める必要があると百代は判断した。

 

一子には見えなかったが、百代には見えていた。

手刀で薙刀を切り裂き、掌打で吹っ飛ばす。

特にあの手刀はまずい。

剣華がその気だったのなら、薙刀ごと一子の身体は真っ二つだったはずだ。

 

あれがどういう状態にしろ、放って置いたら惨事は免れまい。

さしあたり、燕と連携して意識を刈り取ることにする。

百代は燕にアイコンタクトを飛ばした。

燕は意図を察し頷く。

 

二人、脚に力を込め疾走しようとした時。

唐突に剣華が足を止めた。

 

見ると、いつの間にか剣華の眼前には人間が一人。

校門に来客が訪れていた。

 

「おお、何か大変なことになってるな」

 

校門から堂々と訪れるその人物。

この場に居る大体が知っていて、且つこの状況を意図的に作り出した人物。

 

「なーんかいいことあったかい、剣華?」

 

天神館の工藤は、横に長宗我部を引き連れ川神学園を来訪した。

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