西方十勇士+α   作:紺南

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二話

神奈川県川神市。

川神学園があるそこは常に誰かしらの闘気が満ちているおかげか、自生する植物や動物に他では見られない特徴が山ほど見られる。

それもすべて川神さん家の川神さんのおかげである。川神さんまじぱねえっす。

 

そんな川神だが、我らが天神館のある福岡とはかなり距離が離れている。

であるからして移動には飛行機か新幹線しかないのだが、どこぞの石田鉄鋼のお坊ちゃんが、

 

『この俺に5時間もかけて川神にまで行けと言うのか!』

 

と不満を露わに怒りを発露させたので飛行機に決定した。どうせ値段はそんなに変わらん。数千円で二時間買ったと思えばいいんじゃないかね。

 

「そう思えば、まあ得したのか?」

 

「がっはっは。そうかもしれんな」

 

「うむ。時間は取り返しが効かぬ。大切に使うべきだ」

 

「ふん、この俺に5時間も窮屈な思いをさせるなど…………いや、待て。なぜお前がここにいる。そして長宗我部、鉢屋、貴様らも何を当然のように振舞っている」

 

客室乗務員さんにジュースを貰いつつ、横にいる野郎どもに飛行機で行くことのメリットを語ったら、同意されつつ疑問の言葉を投げかけられた。

 

「離陸間際でようやくか。お前もまだまだだな」

 

「誰が俺の質問に侮辱で返せと言った? 貴様ふざけているのか」

 

「このジュースは美味いなあ。お前も飲むか? いや、これもともとお前の分だけど」

 

「そうか。やはりふざけているな。……いいだろう」

 

「御大将。少し落ち着いて下さい」

 

どこか怒りの境地に達してしまった石田は、つい今までの怒気はどこへやら。冷気と殺気を纏い始めた。……一皮むけた、のか?

そしてフラフラと今にも席から立ち上がろうとしている所を島に制止される。

 

お前の剣は空港で、他の武器と一纏めにして渡したと言うのにどうやって俺に勝つつもりなのか。いくら一皮むけたと言っても無謀にもほどがある。本当に面白い奴だな。

 

「ふっ。美しければ全て許される」

 

「良い事言うね、毛利ちゃん」

 

「黙れ!!」

 

プッツンと激昂する石田。そしてついに席を立つ。

 

「だいたい貴様は三年だろうが! 三年生に与えられた席に座っていろ!」

 

「馬鹿言うんじゃない。俺は俺の好きな席に座る」

 

「何ぃ……?」

 

「この場所が近すぎず遠すぎず、いざとなればすぐ行動出来て丁度いいんだ」

 

「……何を言っている?」

 

「石田。お前はもっと人の話を聞いた方が良いぞ」

 

石田の無知っぷりに長宗我部が心からの忠告を投げかけるが、違うぞ長宗我部。石田は悪くないんだ。

こいつは俺がくれてやった模型に夢中だっただけだ。偶々その時に話したんだ。そういう策略だったんだ。

 

「工藤殿。元々そこは龍造寺の席だったはず。奴はどうしたのですか?」

 

「女の園に放してやった。泣いて喜んでたぞ?」

 

「まあ、確かにあ奴はそう言う性格ですが……」

 

「そんなことより大村、ネット見ようぜ。俺、太ももな」

 

「そういうことなら任せてくれ」

 

大村ヨシツグ。ネット関係ではこいつほど頼りになる奴はいない。ブックマークしていた数あるエロサイトの中から、迷わずに目的のものをクリックするその姿は何と心強いことか。

 

「あ、晴……。お前にはちょっと早いか?」

 

「ばかにするな。ぼくももう17だ」

 

大村を挟んで向こうにいる晴を気遣ったが、そんな必要はなかったようだ。

17と言ったら立派な男。むしろ気遣いなど失礼にあたってしまう。

だから、それ以上はもう何も言わずに無言のままに大村の方に寄った。

 

「これ何かどうだ? 俺は好きだが」

 

「うわあ……」

 

「うーむ。この演技っぽさがもう少し抜けてくれれば」

 

「ではこれは?」

 

「おお……」

 

「顔が好みじゃない」

 

「難しいな」

 

映像の女優よりも、顔を真っ赤にしている晴君が可愛すぎて辛い。

こいつは男だこいつは男だ。立派な男だ。

でも何かに目覚めそう。

 

「ではこ、ごほっごほっ!」

 

「あ、だいじょうぶ、ってだいじょうぶか……」

 

「本気なのか演技なのか分かんらね」

 

急に咳き込む大村に冷たい二人。

どうせいつもの演技だろうと危機感などありはしないが、しかしもしもということもあるのか。人間いつ病に倒れるか分からないからな。朝挨拶を交わした友人が夕方にはぽっくり、なんてこともある。

 

まあ、もしもの時は気の乱れで演技か本気か分かるから安心するがいい。それはそれで面倒だから、スルーしてしまう可能性も無きにしに非ずだが、多分大丈夫。安心しろ大村。

 

「はるはるにも良い刺激になったし、この辺でビデオ鑑賞は止めておくか」

 

「は、い、いや、しげきになんか!?」

 

「はるはるまじかわゆす」

 

顔を真っ赤にする晴の姿は、俺に「男でもいいんじゃない?」と自問させるには十分な威力を持っていた。

あかん。あかんで。男に目覚めてまう。

 

「いかん。このままだといかんぞ石田ァ!」

 

「……何故そこで俺に振る?」

 

「馬鹿者! エロに話がシフトした途端噛みつくのを止めたお前なら、この危機感分かるだろ!?」

 

「分かるかたわけめ!!」

 

再び激昂する御大将。良いね良いね。石田君いいよ。このいじり具合本当に最高。気も逸らせて一石二鳥じゃないか。けけけけけ。

いじられキャラが定着してきた石田の面白さに、ついつい笑いが零れてしまう。

 

「何と言う美しくない笑いだ」

 

「あの石田をここまでこけにするとはな。さすがの俺にも真似出来ないぜ」

 

「工藤殿。これ以上御大将をからかうのはお止めくだされ。さもなくば――――」

 

「おっけー! 止める止める! だから物騒な物しまおうぜ!」

 

島から本気の闘気と殺気が溢れだしたのでここらでやめとく。こんな所で戦うのは他の人に迷惑だし。

こ、怖くなんかねーし。こここ怖くねーし!

 

「悪い悪い。今度プラモデルやるから機嫌治せよ」

 

「ふん。そんなもので易々とこの俺が釣れると思っているのか」

 

「お前が欲しいの三つまでなら買ってやるよ」

 

「……………………いいだろう。俺は寛大な心を持つ男だ。貴様ごときのくだらないおふざけなど、笑って水に流してくれるわ」

 

どかっと、尊大に椅子に座りなおす石田を慈愛の眼で見つめる。ちょろい。

 

「島も悪かったな」

 

「そう思うなら自重してくだされ」

 

「前向きに善処しよう」

 

島が溜息を吐いた瞬間、体に掛かる圧力が変化した。殺気が減ったとかじゃなく、どうやら飛行機が動き出したことでの変化らしい。

何分待たされたことか。このままとっとと空港まで頼みますよ、飛行機さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

約三時間の空の旅を満喫して、空港に降り立った。そこで微妙に席が離れていた女子組の宇喜多、大友、尼子(姉)、剣華の四人と合流する。

 

「離陸するとき何やら闘気と殺気を感じたが、何かあったのか?」

 

「何もなかった」

 

大友の質問にするりと出る嘘。いや、嘘じゃないか。特別なことは何もなかったし。

 

「どうせ、いつも通り先輩が御大将をいじって島が怒ったんでしょ?」

 

「ハル、正解」

 

「ああ……。納得した」

 

察しの良い姉晴と理解の早い大友。話が早くて助かります。

 

「駄目だぞ先輩。島を怒らせたら」

 

「そうだね。唯でさえ島は苦労人なんだから、少しは気遣ってあげないと」

 

「ハルに言われたら仕方がない。島ー! 飲み物いるー? 宇喜多が奢ってくれるってー!」

 

「お? 別にええけど、後々返してもらうで。倍プッシュや」

 

「けち」

 

「いやいや。先輩やから遠慮するとか思わんといてや。誰やろうと取るもんは取る! それがウチのぽりしーや」

 

「お前は大友並に扱いずらいな」

 

「む。なぜそこで大友の名前が出たのだ?」

 

「だってお前、火力極振りバカだから」

 

戦闘でも役に立たないこと多いよねー、と同意を求めたらちょっと怒った大友に筒を向けられ、それから逃げるように石田の後ろに隠れ、島が間に入り、結局は巡り巡って毛利が矢尻に立った時、ようやくお目当ての人物というか引率者が現れた。

 

「おう。てめえら揃ってるか」

 

「おっそ」

 

「おそい」

 

「遅いで」

 

「遅いぞ」

 

「遅いね」

 

「遅い」

 

「遅いな」

 

「遅いわな」

 

「遅すぎますぞ」

 

「この俺を待たせるとは、万死に値する」

 

「この連帯感。美しい」

 

きらきらっと毛利が締めた。

 

「楽しそうで何よりだぜ」

 

全く堪えていない館長に、漢と言うものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、龍造寺がいねえな」

 

先ほど館長が全員居るのを確認したのではなかったのかとつっこみたいが、どうせ笑って流されるに決まっている。

そう、細かいことは気にすんなとか言って済ませちゃうような人なのだ。このおっさん。

 

「ぬ、そう言えばそうだな」

 

「どうせまた女の子をナンパしに行ったんじゃない?」

 

辺りを探った鉢屋に、ハルがどうせいつものこととばかりに言う。確かにいつものことはいつものことだが、遠い地に来てまでやられたら迷惑の度合いがより大きい。

これは後でお仕置きです。

 

「鉢屋行ってこい」

 

「仕方がない」

 

さっと消えるはちやん。あの忍者がさっさと探してきてくれるだろう。

二人が合流するまでの間、少々口数が増えてきた剣華とコミュニケーションをはかる。

 

「剣華ちゃーん。元気ー?」

 

「元気」

 

「お、声出てるね」

 

「私はいつも変わらない」

 

「そうかい」

 

お前ほど変化のあるやつはいないと思う。内心でそう呟くが、もちろん言葉には出さない。機嫌損ねたら後が怖いし。

 

「どうだい調子は。交流戦終わるまで耐えられそうか」

 

「耐えろと言うのならいくらでも耐えるわ」

 

「別に耐えなくていいさ。発散させたいときに発散させればいい。あのおっさんが相手になってくれるそうだから」

 

「いや、お前がやれよ。そういう約束だっただろうが」

 

「おっさん。約束ってのは案外脆い物なんだぜ」

 

「脆くしてんのはてめえだろうが」

 

ぎゃいのぎゃいのと会話をする。関西の人は基本的に大きな声で喋るので結構うるさい。

しかし空港っていうのもアナウンスや足音とかでかなりうるさいので、周りの人に顔をしかめられる程度で済んでいる。

 

駄目じゃん。

 

「それで、結局どちらが相手をしてくれるの?」

 

「俺」

 

剣華の問いに即答。もちろん俺です。今までのおっさんとの言い争いはただの暇つぶし目的の遊びだから。

そんなことはおっさんももちろん分かっている。

 

「ああ。こいつが交流戦期間中お前についてる。安心して暴れられるぞ。何の遠慮もいらねえ、全力で戦え」

 

「さすがの俺も交流戦中に覚醒されたらフォローは難しいと思うの」

 

「……確かに下手したら反則負けだな」

 

何も考えてないのかこのおっさん。交流戦に学年の違う生徒が乱入したらその時点で終わりだろう。まあ後々何か対策考えておこうか。

うちの馬鹿共はとにかく、全く関係ない生徒が巻き込まれたら可哀想だしなー。

 

「二年生は二日目だっけ?」

 

「ああ。一年生が一日目。二年生が二日、三年生が三日目だ」

 

「じゃあそれまでに何か考えておこう」

 

すでに一つ案が浮かんでいるが、これはあちらさんに掛け合わないと駄目だろうし、着いてから話そう。

 

「喜べ、剣華。また俺を殺すチャンスが来るぞ」

 

「そうね」

 

不敵に笑う俺と、静かに微笑する剣華。

冗談で言ったつもりだったのだが、意外にも同意されてしまった。

 

え、剣華ちゃんって俺の事殺害対象にしか見てないの?

 

当たり前と言えば当たり前なのだが、もう少し何とかならんもんかと頭を悩ませる。

 

 

 

 

 

 

 

「おう、龍造寺。覚悟はいいか」

 

「ふっ。いくら先輩でも俺の性は変えられんよ。この龍造寺、いついかなる場合でも、例え地獄に叩き落されようとも女を口説くことはやめない。それが俺だ」

 

「さっき女の園に叩き込んだときは若干泣いてたくせに」

 

「あれは恐ろしい空間だった。なぜブスに限って肉食なんだ」

 

全く懲りていないようだった。

 

「てめえら、とっとと乗りやがれ」

 

館長が手配したバスに西方十勇士と剣華に俺が乗り込み、川神学園に向けて出発した。

 

「しかし、なぜ大友達だけ川神学園に行くのだ?」

 

「挨拶に行くんだよ」

 

「大友達だけでか?」

 

「東西交流戦に参加する生徒は天神館だけでも600人。さすがにこれだけの人数で川神学園には向かえん。だから、我々西方十勇士が代表して向かうのだ」

 

ハルの単純明快な答えと鉢屋の捕捉に大友がなるほどと頷いている。西方十勇士じゃないのも二人ほど混じっていますが、それにはノータッチなんですか?

 

「あっちに着いたら挨拶回りっすよ大友さん。一発どデカいの期待してます」

 

「む。それは大友の筒に、と言う事か?」

 

「お前それ以外に自慢できることあったっけ?」

 

「ないな!」

 

自覚しているだけましなのか。これだけ開き直れるのは凄い事だと思うが。

大砲馬鹿。火力極振り脳内火薬の異名は伊達ではないようだった。

 

「ははっは! 楽しみやなあ。こっちでもぎょうさん稼いでやるでえ!」

 

「宇喜多。某たちは敵として行くのだから、そう簡単に商売は出来ぬぞ」

 

「ふっ。そないなことうちには何の障害にならへん。川神にも金に困っとるのは仰山おるはずや。うちはそれに声かければええねん」

 

「商売根性たくましいな……」

 

大友、宇喜多はいつも通り。島も不遜としている石田の横で皆を気遣っている。

大村はパソコンをいじっているし、毛利は鏡に映る自分の顔を見て恍惚としていて、長宗我部はハル晴コンビに四国の良さを語り、鉢屋は忍者だからそもそも心配する必要がない。龍造寺は気絶してる。

 

飛行機で長時間移動した疲れは見えない。これから川神学園に行くと言うのに、それに対する緊張は欠片もない。

さてさて、これは頼りにしてもいいものか。

 

東西交流戦がどういう結果に終わるのか、垣間見えた気がした。

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