西方十勇士+α   作:紺南

30 / 46
ゴールデンウィーク素敵


二十七話

「あーん」

 

「あー」

 

食堂で遠巻きに見られる三人は、周囲の目などお構いなしに仲良くやっていた。

剣華が持ってきた饅頭を武松に与え、武松はそれを一口に半分ほど齧って、もぐもぐと頬をふくらます。

 

じっと見ているとリスみたいだ。

剣華は口が空くのを待ちながら思った。

 

「あーん」

 

「あー」

 

すぐ隣で公孫勝がバカを見る目で二人を見ている。

ちゅーとストローで紙パックのジュースを啜っていた。

「公孫勝も食べる?」と食べかけの饅頭を差し出して、「いらない」と素っ気なく断られる。

「そっかー」剣華は最後の一欠けらを武松の口に放り込んだ。

 

「はやくかえりたいー。げーむやりたいー。新作ゲームー」

 

「入雲竜。任務を忘れるな」

 

はて。任務とは?

首を傾げる剣華は、いまだに任務の内容を知らない。

 

「その辺は遠目に観察させとけばいいじゃん。どっちにせよ九鬼の監視がきつすぎてそんな動けないよ」

 

「それでももしものことがある。すぐに駆けつけられる場所に居る必要がある」

 

梁山泊と曹一族が川神に入ってから、大半の構成員に九鬼の監視が付けられた。

身を隠すことなく川神学園に編入した林冲たちはもちろん、身を隠して川神にやってきた者も、大半が監視されている。

 

さすがは九鬼と言うべきか、どうやら日頃の歩き方や姿勢と言った身のこなしで、傭兵か否か判断しているようだ。

監視が付けられていないのは武術を修めていない僅かなサポート要員だけだが、この任務においてそれらが単独で役に立つわけもない。

早々特定されてしまうだろう。もちろん、もしものことを考え監視外の駒は残すつもりだが。

 

「直江大和が学園にいる以上、我々が帰る訳にはいかない」

 

「はーっ……。ブショーは頭固いなあ。リンたちいるから平気だってば」

 

駄々をこね続ける公孫勝から目を離し、武松は剣華を見た。

剣華は次武松に何を食べさせようかとコンビニの袋を漁っている。

 

「わからない。何があるかは」

 

次プリンなんかどう?

剣華の言葉に、武松は全力でうなずいた。

 

封を解く剣華の横で、公孫勝はまた溜息を吐いた。

 

「リンたちなにやってんのかなー……」

 

武松も剣華も答えない。

直江大和と何か話しているらしい。

どんなことを話しているのかは当人たちにしかわからないが、予感があった。

 

空気がどろっとしていて、何とも薄気味悪い感じがする。

嫌な予感。ただしそれほど致命的ではない。

勘と呼ぶ次元で、二人は揃って理解していた。

これはたぶんあいつが関わってる。

 

それを言葉にすることはなく、ふたりは目を逸らした。

プリン食べよう。

剣華がスプーンを構えて武松が口を開ける。

 

ちゅーっとジュースを啜る音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドまで走って来てどれだけ経っただろう。

体感ではそれほど経ってはいない。

しかし大友の息の荒れ具合を見るに結構経ってる気がする。

 

土ぼこり舞う中太陽を見上げる。

日はまだ高い。

そう言えば今昼休みじゃなかったっけ?

 

「へーい。どしたー。息切れてんぞー」

 

「うるっさいわぁ!!」

 

適当な挑発に対して、精一杯怒鳴り返されながら大友の拳は空を切る。

紙一重で避けた拳は少し髪にあたったらしい。

 

あらま、と反撃するふりをして半歩踏み出すと、大友はすぐに間合いから遠ざかった。

手を伸ばしても届かない距離。蹴りでもギリギリ。

表情はこわばって、なんか凄い怖がってる。

そのせいであと一歩が踏み込めてない。

惜しいなあと思うが、本職はストライカーではないから仕方ない部分もある。

 

「へーい。へーい。へーい」

 

拳と蹴り。

蹴りの方がリーチが長いから、大友もちょこちょこ打ってる。

受けるか躱すかするたびにパンツが見えてしまう。

 

いつもスパッツ履いてたと思ったが、今日のこれはなんだろう。

トレーニングパンツとかそう言う類の見せパンなのか。色気ないなあ。

 

「よいしょっと」

 

ぴょんと後ろに跳んで距離を取り、大友はそれを追ってこなかった。

上がった息を整えてる間、仁王立ちして観察する。

悔しさに歪んでいる顔は「筒があれば……」と内心思っていそうな顔だった。

筒があれば……あったところでどうだというのか。

もっと善戦出来たのかな。

 

筒があったところで何も変わらないと断言できるが。

というか久しぶりに筒なしでやりたいから長引かせてるだけで、筒があったらうるさいし壊れるしでとっくに決着つけに行ってる。

 

「筒がないとこんなもんか」

 

内心とは裏腹に挑発を続ける。

俺は手足だけでなく口も達者だ。

決闘の時はだいたい口を開いて戦っている。

いっそ攻撃より口撃のほうが多いくらいだ。

口も武器だし。でも最近武器の性能を見つめなおす機会があって、ちょっと控えようかとも思ってる。

 

「ふっふ……。口ばかり達者の先輩には分からないかもしれんが……」

 

「なあに?」

 

「我が秘策成れり!」

 

「んー」

 

あー、これ秘策なんだぁと何とも微妙な表情になる。

直後、背後頭上から飛来した剣戟を手刀で迎撃して、なんか来たと内心思った。

 

「ふははは!!」

 

高笑い。振り向くまでもなく、分かる。あいつまた笑ってる。

 

「卑怯者……」ぼそっと呟いた言葉は、特に聞かせる意図はなかった。しかし聞こえたらしい。

 

「卑怯だと? 何とでも言え、勝てばいい!!」

 

そう言い募ったのはもちろん御大将石田三郎。

ゆらりと剣を構える姿は堂に入っている。

これを見て十勇士を馬鹿にする奴もそうそういないだろうが、直前の勝てばいいを聞いたら馬鹿にする奴は出てくる気がする。

現に俺は指さして小悪党と罵った。

 

「大友殿!」

 

俺と石田が舌戦するのを尻目に、前方では大友の筒を抱えた島が駆けつけていた。

 

「すまん、島」

 

「なに。これしきのこと」

 

いつ応援を呼んでいたのか。追いかけっこしてる最中ならいつでも呼べそうではある。

 

砲口がこちらを向く。横で島も槍を構えた。

臨戦態勢が敷かれた中で頬をかいて状況を確認する。

前方には島と大友。それぞれ前・後衛。

後方には石田。前衛だが、まだ光龍覚醒は使ってないらしい。

 

「勝負はこれから?」

 

「むしろ結末が見えたな!」

 

背後の石田。

こいつの調子に乗る癖はいつ治るのだろうか。

せっかく背後取ったのだから、最高の一撃を放てばよかったのに。

いや、こっそり背後取ってることは気づいていたけども。

 

眼を眇めた。

最初は鬼ごっこだったのが、援軍が入り武器を手にしたことで当初の目的はどこかに行ってしまった。

ただの決闘になっている。まあそれでもいいけど。

 

「お情けで十勇士になれた奴が偉そうだな」

 

「黙れっ」

 

少しの挑発で石田はすぐに怒る。

この沸点の低さは弱点と言って差し支えない。

 

「御大将!」

 

島の諌める声に石田は多少冷静になったようだ。

 

「いつもの手です。乗ってはいけません」

 

「……そうだな。ああ、そうだとも。いつもの卑怯な手だ」

 

渋面を作った石田はギリッと歯を食いしばる。

バチッと漏れ出た闘気が電気を放電した。怒気を抑えきれていない。

 

「ううむ……。石田に前衛を任せるのはそこはかとない不安が……」

 

気持ちはわかる。無勝だしな。

 

「いま百連敗ぐらいか?」

 

「もっといっているのでは?」

 

「そこ、うるさいぞ」

 

ちょっと口調が落ち着いたな。

よかったよかった。

 

「じゃ、残り短い時間だけど楽しんでやろう」

 

「ほざけ!」

 

前後から同時に島と石田が襲い来る。

島の槍の方がリーチ長い分少し早い。

 

顔狙いの突きを躱す。

 

「ふっ!」

 

石田の剣は斜め横に薙がれた。

躱すには上半身を反らすかいっそ跳ぶかの二択。

 

一対一なら跳んで回し蹴り食らわすのもありだった。

しかしこの間も島が連撃に続けようと構えている。

跳ぶのは悪手。

 

身体を思いっきり反らして躱した。

 

「ぬんっ」

 

上から下へ抉る様な槍払い。

体勢が整ってないから無理しないと避けれない。

両腕をクロスさせて防御。

 

力を受け止めきれず地面に倒された。

 

「もらったぁ!」

 

石田の容赦ない唐竹切り。

これも防御。ていうかこれ闘気無かったら余裕で死ねるかも。

 

気合を入れたおかげで鋼鉄同士がぶつかる音がする。拮抗する腕と剣。

叩きつけられた力で、ずんっと身体が埋まる感触。

 

石田が忌々しそうに舌打ちしている。

一拍あって聞こえてくる声。

 

「国崩しでりゃあああああ!!!!!」

 

そう言えばいたな。

石田と島はとっくに離脱している。

俺も離脱しようとして、身体が地面に埋まっていて一瞬行動が遅れる。

致命的だった。

 

ドンッ!

 

衝撃と爆音。視界が煙に塞がれる。

何発も続けて着弾しているらしく、見えないそこかしこで爆発している。

 

ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 

衝撃で身体が揺れてる。

火薬の匂いで鼻が利かない。

相手の動きを探るには気配を読むしかないが、すでに二人とも攻撃に移っていた。

 

花火が止んですぐ、煙の向こうから一突き。

 

「お覚悟!」

 

「やってから言うのは凄くいいぞ」

 

とは言え、島では力不足。

火薬に頼る大友も同じだ。

俺にダメージ受けさせるには石田しかいないが。

 

槍の穂先を掴んで、島の腹に一発打ち込む。

崩れ落ちる島。煙の向こうで、雷光が輝く。

 

「――――光龍覚醒」

 

「やるのかそれ」

 

最初からやっとけは置いといて、未熟すぎて命すら縮む技を使った気概は買おう。

掴んでいた槍を捨てて一騎打ちに持ち込もうとする。

意に反して動かない足。

島が俺の足に縋り付いていた。

 

「逃がしませぬ」

 

「あー……」

 

こいつどうしようか。

蹴って捨てて良いのか。

力加減はどれぐらいだろう。考えた分判断が遅れる。

 

「国崩しでりゃあ!」

 

「は?」

 

さすがに驚いた。声の方を向く。

空中ジャンプで空に居る大友。砲身はしっかりこっちを向いていた。

石田はまだ遠いから当たらないが、どう考えても島は巻き添えを食らう。

そういう作戦?

 

いざとなれば吹き飛ばしてやろうと腰を落として構える。

大友が放った砲弾は俺をあざ笑うように、わずかに俺たちを逸れて、俺の背後に着弾した。

 

余波を背中に受けながら、俺自身が盾になって島は被害を受けていないことを知る。

 

「終わりだ」

 

石田がすぐ目の前にいる。

光龍覚醒した石田は壁越えにほど近い。

ちょっと目を離すとすぐ見失う。

 

余波を受けている身体は動きを制限されている。

下半身は島に縋られて動かせない。

 

なるほど。

 

「やるじゃん」

 

気を放出して石田と島を吹っ飛ばしつつ余波を相殺。

少し遠くにいる大友はデコビンで気弾を飛ばして制圧。

島は腹への一撃が大きくて動けてない。

唯一残った石田は受け身を取った直後を狙って、超速で背後を取って一撃。

唐竹のお返しに上から拳を叩きつける。

 

「ごふッ!?」

 

地面に倒れた石田の髪が黒に戻る。

 

決闘終了。

勝者俺。終わってみれば呆気ない。でも結構苦戦した。

舐めプしたせいだけど。

 

「封印してた闘気使わせるとかやるじゃん」

 

「……」

 

聞いていたのは唯一島だけ。

立ち上がろうと呻きながら石田を気にしている。

大友も含めて気絶してるだけだから安心しろ。

 

「ヴィクトリー」

 

弱い者いじめした結果が勝利と言うだけで感慨もへったくれもない。

十勇士の内三人いてこれだ。

あと一人、大村がいれば少しは違っただろうか?

でもあいつもまだ壁越えてないしな。

 

全員がかりで、勝率1%あれば万々歳か?

 

壁越えてないとどうしてもそんなことになる。

壁越え相手にはただ数揃えても意味ないしな。

 

「んー……」

 

戦力にならない尼子姉弟に精神的動揺誘われたらもうちょっと勝率上がりそうではある。

弟が姉のふりして近寄ってきたら気持ち悪くてやってられないし、姉が変なこと言って来たら固まる自信はある。

まあ、VS西方十勇士とか卒業間近の今またあるかないか微妙だしな。

 

「動けるか?」

 

「……情けないことに、少し休まねば」

 

おっけおっけ。じゃあ運んでやるとしよう。

 

「寮と保健室どっちがいいよ」

 

「これしきの怪我、わざわざ診られるまでもありませぬ」

 

そうかい。強がりの様で不安な言い方だ。

さすがに数日流動食しか食えなくなるほど強く入れてないから大丈夫のはずだが。

 

「俺が治すか?」

 

「……結構」

 

あっそ。

武士の情けとかそんな気持ちで受けとっとけとは思うがね。

 

「じゃ、運ぶか」

 

大友と石田に手をかざす。

その行動に、何をしているのかと島は眉を顰めた。

まあ見てろとジェスチャーして意識を集中させる。

 

ビリッと空気に満ちる闘気が形作られる感覚。

経験で分かる。

 

「いけるな」

 

言葉と共に二人がふわっと宙に浮かんだ。

初めての試みは無事成功。ダメだったら素直に手で運ぶつもりだったが、成功したならちょっと楽が出来る。

問題はこれが他人にはどう見えているかということだが。

 

「これは……」

 

「新技。ていうか組み合わせ」

 

島は珍し気に大友と石田を観察している。

その眼はそこにある物を捉えられていない。

成功?

 

「もはや超能力の域ですな」

 

「お前が知覚出来てないだけだけどな」

 

むう……。

唸る島は普段険しい眉間をより険しくして二人を見ている。

見ようと思って見えるのかこれ。

 

「まあ、ほれ」

 

同じ要領で島も持ち上げる。

む、と驚いた声を上げた後、何かに気づいた様子の島。

俺を凝視していた。

 

「これは……火の巨人ですか?」

 

「ん。見たことあるっけ?」

 

「は……。いえ……」

 

まあ見たことあるなしは置いておいて、島の言う通り、浮かんでるんじゃなくただ持ち上げてるだけ。

なので本来なら驚かれることもないのだが、直に触れるまで視認できていなかったのは面白いな。

 

「なぜ、見えなかったのです?」

 

「しらね。そう言う技だからじゃねーの」

 

胡乱気な島。

言葉足らずは剣華が移ったかもしれない。

 

「こういう技使ってるやつがいたから真似しただけだよ。効果は似てても、中身全然別物かもな」

 

「…………」

 

島は天を仰いだ。

世の不条理を嘆いているようだ。

 

まあ、確かに才能って言うのは残酷だが、こんなことでそんな態度取ってたらこの先身がもたないぞ。

 

「島、世界ってのは広くてな。技を一目見て完コピする奴もいれば、とんでもない集中力で学習して練度上げたうえで返してくる人もいるんだぞ」

 

「某が身を置いている世界の険しさが改めて思い知らされました」

 

そうだろうそうだろうと頷く。

変に広いんだよこの世界。上には上がいると言うか、上に居る奴らのレベルが頭おかしいから。

 

「で、保健室と寮どっちがいい」

 

「では……寮でお願いできますか」

 

「もしダメっぽかったら館長に見て貰え。俺暫くいないから」

 

島はまた怪訝そうに問うてきた。

 

「どこへ?」

 

「川神」

 

「なにをしに」

 

なんて答えるのがベストだろうか。

空を見て考える。

浮かんだ答えは我ながら酷いものだった。

 

「遊びに、だ」

 

 




そう言えば、24話の後半工藤君一人称部分を改変してあります
他にも改変してるところがチラホラあったり、実は1話こっそり増やしたりしてます
増やした1話は、目次見ればすぐわかると思いますが十八話後編です
百代ちゃんの剣華ちゃん救出提案話の顛末を完全に忘れていたので書いときました

以上です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。