西方十勇士+α   作:紺南

36 / 46
三十三話

剣華が松永燕と協力関係を結んでから数日。

若獅子戦の開催が日本のみならず世界に向けて告知された。

わざわざ特番を設けてまで行った告知を、各テレビ局がこぞって取り上げている。

 

参加資格は25歳以下の男女。

11月に予選を行い、その一か月後の12月25日に本戦が行われる。

優勝賞品は現物での豪華な品々。九鬼財閥での重役待遇確約証文。さらにはエキシビジョンマッチで武神・川神百代と戦う権利。

 

魅力的なそれらに、全世界からひっきりなしに参加希望者が集まっている。

もちろん、それは川神学園でも同じことだった。

 

喧々諤々と一年生から三年生まで。

一日中その話題で持ちきりだった。

大和の周りでも早速参加を表明する者がいる。

一子、クリス、翔一、岳人。

一先ずその四人が即行で参加を決めた。

 

「ワン子とクリスはともかく、キャップと岳人は無謀じゃないか?」

 

「まあ、確かにな」

 

教室で大和がそう言う。純粋に友人を心配してのことだった。

先ほど、若獅子戦開催の発表と同時にクローン三人、――――義経、弁慶、与一の出場も一緒に告知されていた。

正直あの三人に翔一と岳人では歯が立たないだろう。

義経と弁慶は言わずもがな、与一ですら弓の腕は京に勝るとも劣らない腕前である。

いくらリング上の戦いとは言え、たかだか一生徒に過ぎない二人では勝つことは難しい。

翔一もそれを分かっていて頷いた。

 

「だけど、こんな滅多にない機会見逃してちゃ男じゃねえだろ。勝てるか負けるかはともかくとして、折角だから楽しく行こうぜ」

 

「そうだぜ大和。女ばかりが強いこの時代。優勝は無理にしても、多少活躍すれば注目も集まる。そうすれば全国から俺様の筋肉に魅了された美人なお姉さん方からファンレターがくるかも……!」

 

それぞれ思惑はあるようだが、参加の意思は固かった。

そこまで言うならもう何も言うまいと大和もそれ以上は止めない。

 

「それより大和。他に出場決めてるの誰いるんだ?」

 

「いや、他にはまだ……」

 

「おいおい軍師殿。さっきから熱心に携帯弄ってんだ。少しは情報集まってんだろ? 聞かせろよ」

 

「そう言ってもな……」

 

まだ告知からそう経っていない。

出るか出ないか、迷ってる者が大半だろう。

予め決まっていた義経たちはともかく、他に出る人間と言えば……。

 

「ああ、橘さんは出るらしい」

 

「橘が?」

 

三人が剣華の方を見る。

林冲と何か話し込んでいた剣華は三人の視線に気づき首を傾げた。

岳人がでへっと鼻の下を伸ばす。

 

「それと工藤先輩も」

 

「工藤先輩っつうと、天神館の?」

 

「おいおい、あれ出てくるのかよ」

 

三人の脳裏に浮かんだのは、百代の川神波を握りつぶした光景。

ヒュームと睨みあい、クラウディオと一触即発の空気になったあの男。

 

「ワン子やクリスでもきついのに、あの人まで出てくるってなると、なおさら優勝は厳しいな」

 

「まあなあ……」

 

一子やクリスであってもあれに勝つのは難しいだろう。

勝てるとしたら百代や燕のような人間止めてる人たちぐらいだ。

 

「そう言えば、燕先輩はどうよ?」

 

「いや、その辺の情報はまだ」

 

入ってないと言おうとした大和の代わりに、別の人間が答えた。

 

「燕は出ない」

 

剣華が三人のすぐ近くまでやってきていた。

隣には林冲もいる。

 

「まじで? 燕先輩出ないの?」

 

「出ない」

 

どこからの情報だろうと大和は不思議に思った。

その内心を読み取ったように、「燕から聞いた」と剣華は補足する。

 

「これは朗報と捉えるか悲報と捉えるか……」

 

「ん? どういうこと?」

 

「だってよ、燕先輩と試合であたったら合法的に色々触れるんだぜ? ひょっとしたら弾みで胸触っちゃったりとか……。そのチャンスがなくなったのは悲しいだろ」

 

性欲で動きすぎだろと大和は思った。武道にスケベ心を持ち出すなんてけしからん。

案の定、その欲望は女子からの受けは最悪らしく、聞いていた林冲が顔を顰めている。

後で百代にきっちり〆といてもらうかと心のメモ帳に記録しておく。

 

「林冲たちは出ねえの? 若獅子戦」

 

翔一が林冲に聞いていた。純粋に興味からのようだ。

林冲は首を横に振って否定した。

 

「私たちは出ない。仕事がある。そちらを優先しなければ」

 

「仕事って?」

 

「……」

 

翔一の問いかけは成り行き上当然のもので、そこに行き着くようにしてしまったのは明らかに林冲の失言だった。

何と答えたら良いか、林冲は言葉に詰まって剣華に助けを求める。けれど剣華は努めて無視した。

まさか無視されるとは思ってもみず、あわあわとパニックになる林冲。傍から見て、その林冲を前に剣華と大和が沈黙を貫き一切関わろうとしないのはいっそ不自然だった。

 

「まあ無理には聞かねえけどよ。あんまり川神で好き勝手やると九鬼の人たちがおっかねえぞ」

 

翔一のその言葉に、林冲はあからさまに安堵の吐息を放つ。

 

「重々承知している。ご忠告感謝する」

 

どこか距離を感じる言葉に翔一は苦笑した。

 

梁山泊の面々が編入してきて幾日が過ぎた。

その間、幾人もの生徒が彼女たちとお近づきなろうと声をかけたが、誰も目立った成果を上げられず、現在真面な親交があるのは剣華と大和の二人だけだ。

 

剣華は元々梁山泊の一員だったと言うから除くにしても、大和と林冲たちの間にこんなに早く親交が出来ると言うのは、翔一を始め風間ファミリーの人間にとっては意外なことだった。

思い返せば、林冲は編入初日に「大和が気になる」と言う趣旨の発言をしている。林冲に限らず、梁山泊の面々は見目麗しい少女だ。そんな彼女らにそんなことを言われて、大和とて何も感じないはずはないだろうが、見るからに甘い香りを放つ餌に不用意に飛びつくほど愚かでもない。

かつて中二病を極めたがゆえの、詐欺師は笑顔と共にやってくると言う価値観が彼にはあるのだ。

だと言うのに、今回大和はさほど間も置かずに林冲たちと交友を深め始めた。餌に飛びついてしまった形だ。

これは長年躾けを行っていた姐貴分である百代としては面白くない。そんな簡単に尻尾を振るよう育てた覚えはないと怒り心頭だった。

 

一体どういうことだろうかと大和を除いた風間ファミリーは緊急で集会を開いた。

長い議論の末、何か自分たちの知らないことがあったのではないかと考え、大和自身が何も言ってこないのであれば、しばらくは注意して見守ろうと言う結論に至っている。

 

翔一の目から見ても、最近の大和の様子は少しおかしい。

必要以上に周囲に注意を払い、ふとすれば何かに怯えているような目をしている。

それに応じて、風間ファミリーと一緒にいる時間が少なくなったような気がする。

 

力になれることならば力になってやりたい。

翔一に限らず、ファミリーの面々は大和には色々と借りがある。

しかし、大和自身が何も言ってこないことを考えると、こちらから踏み込むべきではないのではと言う京やモロの意見が脳裏に浮かぶ。

もしこれが岳人や一子だったならば無理やりにでも聞き出していただろう。そう言う意味で、心と身体が直通しているタイプは分かりやすくていい。

しかし、実際こうなっているのは我らが軍師の直江大和だ。

武神の舎弟として散々に鍛えられた大和である。助けが必要となればすぐにでもファミリーに頼ってくるだろう。仲間なのだ。例えどんなことであろうと、必要があればそうするだろうし、そうしてくれると信じている。頼ってこないということは、まだその時ではないのだろう。なら待つしかない。

 

とは言え、そう理解していても感情はままならない。翔一は複雑な心境で林冲と大和を見つめる。岳人も同じ気持ちなのか、気が付けば無言で二人のことを見ていた。

別に何か探ろうとしているのではない。ただ見ていた。

その二人の目に、林冲を始めとした梁山泊はもちろん、大和自身気が付いている。けれど何も言わない。言うべきではないと思っているから。

 

いつの間にか場は沈黙していた。

微妙な空気が流れている。

 

その空気を払拭しようと、大和が口を開き何かを言いかけた。

それを遮るように、剣華と林冲が突然廊下の方を振り向く。

二人そろって閉まっている扉を凝視した。

 

なんだ?

剣華たちの異常な顔色に触発されて、大和たちも扉を見つめた。

じっと見ていると気が付く。その向こうから漂う威圧感に。

誰かがごくりとつばを飲み込み、扉が開いた。

 

「我、降臨である!」

 

そんな言葉と共に入ってきたのは、大仰な言葉と尊大な態度とは裏腹な、ちんちくりんな子供だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少しだけ遡って、場は1-Sである。

そこにはとても高校生とは思えない体躯の生徒がいた。

光り輝く銀髪は足まで届き、学園指定の制服ではなく和服を着、手には軍配団扇。上着に陣羽織を羽織ると言う中々に目立つ格好。

その名を九鬼紋白。九鬼財閥統帥九鬼帝の次女である高貴なお嬢様。川神学園の1-Sに所属する立派な高校生であった。

彼女は今、傍らに護衛のヒューム・ヘルシング――――同じく1-S。明らかに老け顔――――を置き、若獅子戦開催の報に対するクラスの反応を観察していた。

 

「うむ。話題一色。どこを見てもその話しかしておらん。中々良い発表になったのではないか?」

 

「そうでしょうとも。そうでなければわざわざ番組を一つ作らせはしません」

 

「ふっはっは! 宣伝効果は抜群である!」

 

世界から出場選手を募る必要があるため、若獅子戦の発表は大々的に行われた。

世界的に注目されているクローンと言う餌を使ってまで、九鬼は世界の注目を集めたのである。

 

「ふむ。しかし義経たちを参加させる件、よくマープルは許可したものだ。難色は示さなかったか?」

 

「はい。いくつか小言は言っていたようですが、マープルもおおよそ賛成したようです。義経たちの実力を世界に示すには絶好の機会ですし」

 

「そうか。交流戦の映像だけではちと足りぬか」

 

「新鮮な話題の提供という一面もあるでしょう」

 

二人はクラスの反応に満足して廊下に出た。

廊下にたむろする生徒はいずれも興奮した様子で話している。聞くまでもなく若獅子戦の話である。

ちょこっと他クラスを覗けば、どのクラスでも同じ表情で同じ話題を口にしている。

大いに学校中を駆け巡っているこの結果に、紋白は大層満足した。

 

後ろに控えるヒュームは少しだけ声を落とし口を開く。

 

「そう言えば、例の依頼。松永燕の件ですが」

 

「ん」

 

「やはりまだ準備が足りないようですな」

 

「……そうか」

 

満面の笑みを浮かべていた紋白の顔に影が差す。

 

「松永燕には少し酷な依頼をしてしまったな……」

 

「申し訳ありません。この期に及んで奴が出てくるとは、私としても予想外でした。あれはとっくに腐り切ったものとばかり思っていましたので」

 

ヒュームの言い様に紋白は困ったように微笑んだ。

「よい」と答える口調には懐かしさや嬉しさが籠っている。

 

「腐っていなかったのは素直に嬉しいことだ。ただ、タイミングが少し悪かったな」

 

「依頼の内容を変えることもお考えになられては? 現状の依頼が達成困難とは言え、松永燕は有用な人材です。手元に置いておいて損はないでしょう」

 

「そうだな。考えておこう」

 

それでその話題については切り替えたのか、紋白は団扇で口元を隠すようにして笑った。

 

「しかし燕には悪いが、我には願ったりかなったりの展開だ。我が念願、叶うやも知れぬ」

 

「残念ですが、そうとも限りません」

 

「む……」

 

ヒュームの否定に紋白は不機嫌そうに目を細める。

 

「あずみの聞き出したところでは、奴の今回の狙いはあくまでも橘剣華。川神百代については積極的に挑もうと言うつもりはないようです」

 

「むう……そうなのか……」

 

団扇で額をぺちぺちと叩く仕草を、ヒュームは優しく止めさせる。

紋白はそれを意に介さず、不満たらたらな表情で廊下の先を睨んだ。

そこに誰も居なかったのは幸いだろう。

もし誰かいたのなら、紋白――――と、その隣のヒューム――――に目を付けられたと泣いて詫びかねなかった。

 

「橘剣華。元々梁山泊の傭兵だったのだな。いっそのこと九鬼に引き抜けないだろうか」

 

「止めておいたほうがよろしいかと」

 

丁寧ながらきっぱりと断言した後、ヒュームは理由を述べる。

 

「あれはもはや傭兵でも無ければ武人でもないただの赤子。九鬼にスカウトするほどの人材ではありません」

 

「お前がそこまで言うのは相当だな……。しかし腕は確かなのだろう?」

 

「武人とは心技体の三つが揃って始めて武人なのです。いくら腕が立とうとも、あの赤子には心が圧倒的に足りない。力だけの赤子など獣以下。目をかける価値すらありません」

 

そんなものかと紋白は頷く。

ヒュームの意見は分かった。しかしそれはあくまで一意見でしかない。

実際どうするかはその目で見て決める必要がある。

 

「ふむ。丁度よいな。では、ヒューム。2-Fに行くぞ!」

 

「かしこまりました」

 

ずんずんと進む二人。ひと気の多い廊下だと言うのに、紋白の歩みは一切ぶれなかった。

我が道、阻めるものならば阻んでみよと言わんばかりの堂々たる進軍っぷりに、道中の生徒たちは無意識のうちに道を開けていた。

 

廊下の真ん中を突き進む紋白の背中。

まだ小さい。しかし大きくなった。

年のせいだろうか。ヒュームは昔のことを思い出す。

 

王たる者、民を従え、民を導かなくてはならない。

そこに迷いなどあってはならない。ただ堂々と道を示し、先陣を切り突き進む。その姿を見て、民は自らの歩むべき道を見つけ、その背に続くだろう。

 

それこそが王たる器なのだと、いつかヒュームは述べ、それを鼻で笑った少年がいた。

その時のことを思い出し、ヒュームは不機嫌に鼻を鳴らす。あの時は確か制裁を加えたのだ。そして、それは間違っていなかった。紋白の背を見て確信する。

 

ヒュームが過去の記憶に浸っている間に、二人は2-Fに着いていた。

紋白が扉に手をかけ、勢いをつけて開け放つ。

クラス中の注目を集める中、然したる緊張もなく紋白は言った。

 

「我、降臨である!」

 

その背は紛れもなく王の器である。

だからこそ、ヒュームはあの時怒ったのだ。

 

『あいつはただの悪戯友達だよ』

 

恐れ多くも、そんなことを言う少年に。







  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。