なんもかんもマイソロとゼノバースが悪い
「………つまり、先日のイアハートを呼び出したことと、パスカが来ることになったハロルドの実験失敗の影響で世界同士の境目が不安定になっている。そういうことね、ニアタ?」
『うむ………すまない。まさかこんな形で世界間の移動が裏目に出るとは』
「あなたを責めはしないわ。あなたもハロルドも、狙ってやったわけではないのだし」
『見たところ、規模はそこまで大きくないようだが、我々も警戒を強めておくとするよ』
「ええ、お願いね。さて………私たちも頑張らなきゃ」
◇◆◇
雄大な大樹、世界樹の生み出す
そのルミナシアを襲った事件からしばらくの月日が過ぎ、自由のギルド「アドリビトム」の本拠地、バンエルティア号は今日も世界各地を回っている
「帰ったぞ」
「お帰りなさい」
アドリビトムのリーダー、アンジュ・セレーナが寄せられた様々な依頼の資料に目を通していると、甲板からの扉が開き、そこからアドリビトムの稼ぎ頭の一人である長身の青年が現れた
蒼い髪を後ろで一つに括り、右は金、左は赤色の瞳を持った彼の名は「ルスト」
このルミナシアに生まれ落ちた救世主「ディセンダー」と呼ばれる存在である
「魔物退治と移民達の護送、無事完了した」
「ご苦労様。これで、次のオルタ・ビレッジの準備も出来たわね」
「………心なしかオレにやたらとハードな依頼ばかり回してないか?」
「やだなぁ、そんな人聞きの悪い。個人の実力に見合ったものを選んでるだけよ?」
「ものは言いようだな。別に構わないが」
「ルスト、おかえり!」
ホールから続く梯子から、一人の少女が降りてくる
カノンノ・グラスバレー
今では総勢80名を越えるアドリビトムの中でも最古参の一人てあり、立役者の一人でもある
「あぁ、ただいま。カノンノ」
「一人で大丈夫だった?ケガとかしてない?」
「前から言ってるが、心配しすぎだよ。オレが簡単にケガするとでも?」
「だって………」
「大丈夫だ。カノンノが心配するようなことは無い」
「ぁ………」
「もしもーし。二人だけの世界なら人目の無い所で作ってもらえる?」
「ひゃあっ!?ご、ごめんなさいアンジュさん!」
「もぅ………しょうがないなぁ。帰ってきたばかりで疲れてるでしょ?休んでらっしゃい」
「いいのか?」
「あら。まだ仕事がお望みなら回してあげるよ?疲れた身体に鞭打つようなハードなものを♪」
「行こうか、カノンノ」
「う、うん………あの、アンジュさん………」
「はいはい、ごちそうさま。ゆっくり休んでね」
含みのある笑みを浮かべたアンジュを横目に、カノンノを連れて操舵室へと上がるルスト
去り際に聞こえた「シェリアがはしゃぐ気持ち、わかるなぁ」という呟きには聞こえないふりをしておいた
◇◆◇
『戻ったか、ディセンダー』
「あぁ、ただいま」
操舵室に上がった二人を出迎えたのは、人型の機器
ニアタ=モナドと呼ばれる異世界の賢人達の総称であり、かつてルミナシアを救う標を示した存在
「イアハート達はまだ戻ってないみたいだな」
『うむ。この世界に来てしばらく経つが、まだまだ目新しいものばかりで、仕事のついでに散策を続けているようだ』
「そうか」
「こことは違う世界かぁ………そこも、ルミナシアみたいに素敵な世界なのかなぁ」
スケッチブックを抱き締めながら、ぽつりとカノンノが呟く
根源の世界樹からの記憶を受け継いでいるカノンノには、幼い頃からその風景が度々眼に映っていた
「………いつか、行ってみたいな」
「うん………その時は、一緒だよ?」
「ああ」
「ふふっ………そうだ。絵、描いたの」
「そうか。………見ても?」
「もちろん!あなたに見てほしかったんだ!」
開かれたスケッチブックに描かれた絵を、肩を寄せ合って見る二人と、その様子を静かに見つめるニアタ
そんな穏やかな時間は、アンジュからの呼び出しがかかるまで続けられた
◇◆◇
『霊峰アブソールの生態系が?』
『ええ。何でも、かなり特殊かつ強力な魔物がここ最近暴れてるらしいの』
『そういうことなら仕方ないな。で、メンバーは?』
『あなたが自由に選んでいいわ。ただし、ちゃんと帰ってこれるっていう確証が得られる人に限るけど』
『了解した』
『余所のギルドの人達との合同任務ってことになるけど、くれぐれも失礼の無いようにね』
そんな依頼を受けたルストが選んだメンバーは、万が一の余計な負傷者を減らすために、自ら志願したカノンノと暇を持て余していたゼロス・ワイルダーの二名
「う~、寒ぃなぁ」
「大丈夫か、カノンノ?」
「うん、平気だよ。この寒さには慣れたし」
「そうか、だがあまり無理はするなよ?」
「うん、ありがとうっ」
「ちょっとお二人さ~ん、俺様も少しは心配してくれない?」
「寒がりなレイヴンや楽観主義なノーマも風邪を引いたことはないから大丈夫だろ、お前も」
「それ遠回しに俺様のこと馬鹿って言ってねぇ?」
そんな軽口を叩き合いながら山頂への道を進む三人
道中現れた魔物を蹴散らしながら進んでいると、前方から複数の気配が近づいてきた
「たっ、助けてくれぇぇぇッ!」
「無理だ!あんな奴に勝てるわけがないんだぁぁ!」
その人物達は、目の前のルスト達に気付くことなく一目散に山を駆け降りていった
「………今のは」
「一緒に行動するはずだったギルドの人達だよね?」
「こりゃ、腹括っていくしか無いみたいだぜ?」
「そのようだな………急ぐぞ」
◇◆◇
走ること数分
山頂へと到達した三人の眼に移った光景
多くのギルドメンバー達が倒れ、かろうじて立っている者も傷がかなり深い
その先には、以前ルストも退治したことのある紫色の魔物
「ケイブレックス………!」
「おいおい、ケイブレックスって森林地帯にしか生息しねぇんじゃなかったのか?」
「たぶん、餌を求めて色んな所を回るうちに、寒冷地に適応したんだと思う」
「それだけの経緯だ、たぶん前に戦った個体よりも厄介かもな………カノンノ、ゼロス!」
「うん!」
「さて、やりますか!」
それぞれ武器を構えながら突撃する
カノンノは紅い両手剣、ゼロスは剣と盾を
そして、ルストはその両手に双銃を
ケイブレックスが雄叫びをあげる
それが死闘の幕開けだった
「バーンストライク!」
───長く続いた闘いの果て、決着は数瞬の内だった
カノンノの放った炎弾が暴竜の身体を抉る
出来たばかりの傷を灼かれる激痛に、一瞬の隙が生まれた
「食らえっ!」
上空へ飛び上がったルストの構えた銃
そこから一筋の閃光が放たれ、それがケイブレックスの顔面に炸裂した
「ゼロスっ!」
「止めを!」
「待たせたな………食らいなぁ!」
───ディバイン・ジャッジメント!!
天から降り注ぐ無数の閃光
「神聖なる断罪」の名を冠するゼロスの奥の手は、ケイブレックスの身体を限界まで追い込み………そして
「………終わったな」
「ふぅ………」
「俺様もうクタクタなんですけど~」
か細い唸りを上げて地に沈んだケイブレックスを見据えながら、各々が構えを解く
「さ、流石はアドリビトムの方々!お見事でした!」
「怪我人は?」
「は、はい。無事、動ける者達と共に下山できました。全員、傷は深いですが命に別状はありません」
「そうか」
「おーい、終わったならさっさと帰ろうぜルストくんよー」
「あぁ。………カノンノ?」
ギルドの者達に続いてゼロスが下山していく中、ふと倒れたケイブレックスにカノンノが手を添えているのに気付いたルスト
「………この子も、ただ生きたいだけだったんだよね」
「………あぁ。だが、ヒトと同じだよ。自分が生きるためだけに、他の命の営みを邪魔していいとは限らない」
「わかってる。わかってる、けど………」
「………帰ろう、カノンノ」
「うん………おやすみ」
立ち上がると、二人は踵を返して歩き出す
───ふと、微かな物音にルストが振り返った時だった
「っ、カノンノッ!!」
「え………?」
───倒した筈の魔物の顎が、カノンノを狙っていた
後方から駆け寄ってくるゼロス
目の前の少女に、必死に手を伸ばすルスト
死に際の魔物の、その圧力に硬直するカノンノ
三人の中、そしてこの空間だけ、世界から時間諸共切り離されたようだった
◇◆◇
『………む?』
「ニアタ?どうかしたの?」
『これは………空間が………』
「まさか、世界間の境目が?」
『あぁ。しかも、この位置は………!』
◇◆◇
ガチリ、と
鈍い音が響いた場所の少し手前
命の危機に瀕していた少女は、大切な青年の腕の中にいた
勢いで引っ張ったために、ルストは地面に仰向けに倒れ、カノンノはその上でルストにしがみつきながら微かに震えている
「しぶとすぎるだろこいつ!」
「ゼロス、カノンノを頼む!」
「お前は!」
「仕留める、今度こそ!」
気合いと共に、ルストの全身から蒼い光が迸る
限界を超えた力、オーバーリミッツ
双銃を構え直し、走り出すと同時に弾丸を暴竜へと叩き込んでいく
「うおおおおおおおおっ!!」
弾丸、爆炎、閃光
圧倒的な数の攻撃が撃ち込まれているにも関わらず、それは一切倒れる気配を見せなかった
───侮っていた!
この魔物の生への執着
自分にとって生き辛い環境で生き抜いてきた、その生命力を
「がっ………!?」
振り抜かれたその尾が、ルストの胴を薙ぎ、弾き飛ばす
遠方へと叩きつけられ、肺の空気を全て吐き出したルストに、暴竜は一歩ずつ近づいていく
「ぐっ………死なば諸共、というわけか」
そして、その牙が剥かれる
全ての者が、ディセンダーの死を覚悟した
───覚悟せざるを得なかった
(だめ、か………カノンノ………)
「だめ………だめぇぇぇぇぇぇッ!!」
名付けるなら、それは奇跡だった
「よいしょおっ!!」
突如空から飛来した何かか、開いていたケイブレックスの口を強引に閉じる
覚えのある技、名を鷹爪襲撃
ルストの前に降り立ったそれは、ヒト
長い金色の髪を後ろの頭頂部付近で纏めて垂らしている
振り向いたその顔立ちはやや幼く、瞳の色は鮮やかな朱色の少女
「………おにーさん」
「………オレか?」
「うん。………勢いで入って来ちゃったけど、あれ倒していいんだよね」
「あ、あぁ………」
「よっし!」
そう言うと、少女は両腕に着けている籠手を打ち鳴らし、ケイブレックスへ向けて走り出す
「ボクに勝てると思った!?」
未だ状況を把握できていないらしいケイブレックスに、神速の連撃が撃ち込まれていく
───殺撃舞荒拳
一部の格闘家が用いる、比類無き最強の奥義
暴竜は反撃する間もなく次々と襲い来る打撃の暴風に晒され
「とどめっ!!」
紅蓮を纏った蹴りがその頭蓋を砕き
今度こそ、その息の根を完全に止めた
『………』
その場にいた、全ての者が呆気に取られていた
突然現れた謎の少女が、一瞬の内に荒れ狂う暴竜を沈めたのだから
そんな中で、最初に動いたのは
「ルストっ!」
カノンノが、今なお倒れたままのルストに駆け寄る
「大丈夫!?大丈夫だよね!?」
「あ、あぁ………」
「………よかったぁ」
そのままルストの肩に顔を埋め、嗚咽を漏らすカノンノ
そんな彼女の頭を優しく撫でながら、ルストはゼロスに駆け寄った少女を見据える
「ゼロスじゃん!こんな所で何してんの?」
「は?………あぁ、ごめんよハニー。君みたいな強くて可愛い子に知ってもらえてるなんて光栄だけどさぁ」
「?」
「俺様達………どこかで会ったか?」
「………なんかちがう」
陽気な口調、顔に似合った、ころころ変わる表情
初めて見るはずなのに、何故か他人の気がしなかった
「ゼロスもいるけどなんかちがうし、あの子はカノンノって呼ばれてるけどなんかちがうし………ねー、おにーさん」
「………なんだ?」
「そもそもここどこ?」
首を傾げながら訪ねてきた少女
君こそ何者だという言葉を飲み込みながら、ルストはひとまず………空を見た
◇◆◇
「ボクはシオ!よろしく!」
任務の報告のためにバンエルティア号に戻った一行
船を見るなり叫んだ、シオと名乗った少女はどうも異世界の住人らしい
「それで、連れてきたのね」
「あぁ。ニアタが言ってたことと関係があるんじゃないかと思ってな」
「そう。やっぱり」
「やっぱり?」
「ニアタが関知してたらしいのよ。時空の乱れ、とでも言えばいいのかな?霊峰アブソールでそれが発生したって」
「気付かなかった………」
「まぁ、規模は大きくないらしいからね」
「ねぇねぇ、お話終わった?」
「何で君の話なのに我関せずなんだ」
肩口からひょっこりと顔を出したシオが二人に尋ねる
落ち着きの無さを咎めるべきだが、どことなく小動物のような雰囲気と仕草に、ついつい強く言えなくなっている二人であった
そんな時
「ただいま帰りましたー」
ホールの扉が開き、一人の少女が入ってきた
「?あっ、カノンノ!」
「へ?………えっ、シオ!?」
「カノンノーッ!!」
白を基調とした涼しげな装いの少女、カノンノ・イアハート
異世界グラニデからやってきたアドリビトムメンバーの一人である
「し、シオ?何でここにいるの?」
「わかんない!」
「わかんないって………きゃっ、もう。くすぐったいよ~」
ルスト達を尻目にじゃれあう二人に、アンジュが声をかける
「あー、イアハート?その子、あなたの知り合い?」
「知り合いというより………大事な友達です。ほら、ルストには何度か話したよね?」
「は?」
「この子………シオが、グラニデのディセンダーなの」
「グラニデのディセンダーだよ!」ムフー
………
………?
………!?
「「はぁっ!?」」
うちのグラニデディセンダー(モンク)颯爽と登場
ちなみにカノンノとゼロスは医務室に行ってました
ルミナシアディセはガンマン