夢を目指す魔道士   作:シュトレンベルク

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決めた魔道士

「セイがいないってどういう事なんだよ!学園長!」

 

リーゼの一件から学園に戻ってきたアラタたちは、意識のないセリナとその治療のためにいないユイを除いて学園長に呼び出されていた。そして、セイの姿が見えないことから学園長に聞いたアラタたちは、セイが戻ってきていない事を知った。

 

「まあまあ、落ち着いてくれよ、アラタ君。こちらも捜索隊を準備しようとは思ってるんだ。でも、君たちがその状態ではまだ暫くかかりそうだね」

 

魔王因子を手に入れたリーゼによって、アラタも他のトリニティセブンも最悪の状況にある。なにせアラタは魔力の大部分を奪われ、トリニティセブンにしても消耗している。

 

リーゼが無力化されたわけでもない以上、今のアラタたちを動かすのは危険すぎる。それに動かせるような状況でもないだろう。そもそも、セイがどこに行ったのか誰も知らないのだから。

 

「それにしても、リーゼチャンが魔王因子をねぇ……世の中、何が起こるか分からない物だね」

 

「そんな暢気な事を言っている場合ではありませんよ、学園長!」

 

「分かってるよ、リリスちゃん。でも、ぶっちゃけ今は笑うしかないような状況だよ。状況的に言って、ほぼ壊滅状態だからね」

 

「それで何か対策はあるのですか?」

 

「うぅん、対策か……そうだね。まずはアラタくんの戦力増強かな。アキオちゃん、アラタ君に君の魔道を教えてあげてくれないかな?」

 

真言術(マントラ・エンチャント)を?……確かに、今はそれが一番効率的かもしれませんね」

 

「まずはアラタ君を強くして、リーゼちゃんを撃退する。セイ君の捜索はその後だ。なぁに、心配する必要はないさ。彼が強いのは君たちも知っているだろう?今もどこかでちゃんと生きているさ」

 

「……まあ、確かに先輩に限って死ぬことはないでしょう。あれでも検閲官次席(セキュリティセカンド)を勤めたこともある身ですし、外傷によって死ぬことはないでしょう。先輩の魔道的に」

 

「そうなのか……?まあ、そこまで太鼓判を押すって事は、きっとセイも生きてる可能性が高いって事だろ。それなら大丈夫かもな。よし、修行よろしく頼む!」

 

「おう、任せとけ。加減はしねぇから覚悟しろよ?」

 

「望むところだぜ」

 

「よし、それじゃあ早速始めるか!行こうぜ、大将!」

 

「え?休憩もなしにですか?」

 

リリスのその呟きを無視して、アラタとアキオは学園長室を出た。ミラもため息を吐きながら部屋を出て行った。そしてリリスとアリンがセリナの容体を確認しに保健室に向かった。その場には学園長とレヴィだけが残っていた。

 

「学園長もお人が悪いっスね~」

 

「……さすがにレヴィちゃんは騙されてくれないか。分かってはいたけどね」

 

「あの魔力量……明らかに秘奥義(ラスト・クレスト)クラスっスよ?でも、知る限りセイさんにそこまでの魔力はなかった筈っス。どういう事なんっスか?」

 

「……これは他の子たちには黙っていて欲しいんだけど、実は彼は危機的状態にあるんだ」

 

「……どういう意味っスか?」

 

「レヴィちゃんも分かっているとは思うけど、基本的に魔道士は自前の魔力で魔術を使ってるよね。でも、今の彼には外部タンクのような物があるんだ」

 

「そんな物があるんっスか?」

 

「爆弾とそう大差はないけれどね。彼の容体は他のどんな魔道士よりも危険な状態にある。一秒後には死んでいてもおかしくはないんだ。だから、出来る限り彼の探索を急がせたいんだ。よろしく頼むよ」

 

「……まぁ、自分も言いたい事があるんで良いっスよ。でも、当てはあるんっスか?」

 

「それは追々何とかしていくよ」

 

「ノ-プランってことっスね……セイさんに訊かれたら間違いなく怒られるっスね」

 

「否定しきれないなぁ……まあ、とにかく今はレヴィちゃんも休んで。リーゼちゃんとの戦いの傷も治ってないんでしょ?こちらが言いたい事は言ったし、これ以上気にする必要はないよ」

 

学園長がそう言うと、レヴィは学園長室を退出した。それを手を振りながら見送ると、窓から外を見た。一抹の不安を抱えながら、学園長は何もしないという選択を取り続けるのだった。

 

一方、件のセイはと言うと――――

 

「ぐ……おおおぁぁぁぁぁ……っ!」

 

「そうそう、その調子だよ。それにしても、精霊の協力なしでこれは凄いなぁ」

 

自身を助けてくれた少女――――アナスタシア=Lと心臓の制御に勤しんでいた。魔術での制御も彼女による助けもない状態で、英雄とレイがやった魔力制御技術を身に着けようとしているのだ。

 

「うん、とりあえずここまでにしよう。こういうのはコツコツとやるのが大事だからね」

 

「アナ、俺はまだ……」

 

「駄目だよ。明らかに消耗してるのに、これ以上の無茶をやらせるつもりはないよ。体力が完全に回復するまでは修行はお預けだよ」

 

まるで姉が出来の悪い弟に言いつけるようにセイに言うアナ。その言葉にはセイを心底心配している想いが籠っているからこそ、セイはそれに反発する事が出来ない。

 

「くっ……」

 

「……何をそんなに焦っているんだい?君だって分かっているんだろう。この手の物には回数を重ねるしかない、って」

 

「分かってる。分かってるけど、アレを知ればそんな事は言っていられない。俺は、何も出来ない自分が、何よりもそれを納得するのが嫌なんだよ」

 

止まっている自分が憎らしい。真実(・・)を知った今は特にそう思う。今の自分に出来る事があるのなら、それを早くこなしたい。そう思う自分がそこにはいたのだった。

 

「……そっか。君の事情は教えてもらったけど、尚更今は焦るべきじゃないと思うよ」

 

「アナには本当に感謝している。俺の治療をしてくれただけでもありがたいのに、こうして俺の修行の相手をしてくれている。本当に感謝してもし足りないぐらいだ」

 

「ふふふっ、どういたしまして。ボクも君の事を気に入ってるし、そんなに気にする必要はないよ」

 

「そう言ってくれると、こちらも心が軽くなるよ」

 

セイがそう言うと、後ろから髪を引っ張られたような痛みが奔った。振り返ってみると、羽根のついた球体――――精霊が浮いていた。まるで怒っているようにぶつかってきた。

 

「そう怒るなよ。お前たちにだって感謝してるさ。俺がこうしていられるのもお前たちのおかげだからな」

 

セイが精霊を撫でながらそう言うと、怒りが治まったのか、逆に撫でていた手に張り付いてきた。まるで小動物のような行動に、セイは頬を緩ませていた。

 

「この子たちも君が気に入っているみたいだね」

 

「らしいな。俺も精霊に触れるのは初めてだが、こんな感じだとは思っていなかった」

 

ここまで人懐っこいとは思っていなかった、セイはそう言った。精霊とは、要するに自然に存在する魔力が自我を持った存在だ。だが、自我を持っているからこそ、魔道士がその力を使うことは出来ない。

 

しかし、歴史上にただ一人、精霊の力を使うことの出来た魔道士がいた。それこそが『復活の聖女』と呼ばれた魔道士であり、アナはその血族にして『復活の聖女』の転生体である、らしい。セイ自身、それは半信半疑だったので結論を出していない。

 

「………………」

 

「……?どうかしたのかい?」

 

「いや……なぁ、お前はここにどれくらいの間いるんだ?」

 

「この世界に来てからかい?そうだね……少なくとも十年は経ってるんじゃないかな?ここは時計もないし、向こうがどういう流れになっているのか、分からないけどね」

 

「そうか……俺が現実世界に戻るとき、一緒に行くか?」

 

「え?」

 

「こんな何もない場所で何年も一人で居続けるなんて、俺には想像できない。でも、お前にもいるんじゃないのか?向こうで会いたいと思う奴が」

 

「……ありがとう。ボクの事を気遣ってくれて。でも、遠慮しておくよ。確かに向こうにはボクの友達がいる。でも、戻るときは自分の力で戻るよ。それに……僕は決して独りじゃなかったから」

 

精霊を撫でながらそう言うアナに、余計なお世話だったかとセイは思った。余計な事を言う前に自分が出来る事をしよう、セイはそう思った。同情するのではなく、アナの想いを尊重するべきだと思ったが故に。そんなアナを見て、セイは決めたのだ。

 

――――もう眼を逸らすことはしない、と。向かい合うべき時が来たのだ、と。

 

決めたが故に、セイは自らの意識を沈めていく。無我の境地などという意識の枠を超え、人間の存在の根幹とも言える魂に触れる。そこに存在するモノと会うために。幸い、触媒(心臓)があるのだから、失敗するはずもない。

 

辿り着いた場所は魂の深奥。自分の心象と呼んでも差支えない場所。そこは何処にでもあるような一般的な市街。だが、そこにはある物が欠けていた。そう、人の気配がまったくないのだ。たった一つを除いて。

 

「よく来たな。まさかお前の方から出向いてくるとは思わなかったぜ」

 

「………………」

 

「おいおい、せっかく来たってのにだんまりはねぇだろ。会話しようぜ?なにせここに誰か来るのは初めてだからな。ちょっと興奮してんだ」

 

「……俺の中にいたのがこんな奴だったのか、と思っただけだ。大体、俺以外にここに来れる奴なんているのか?」

 

セイの視線の先にいたのは全長数百メートルにも及ぶ、巨体のドラゴンだった。流暢に話しながらも何処か飄々とした気配のソレは、忌々しくも自信あり気に言った。

 

「いるぜ。お前も知ってるあの英雄様さ。最も、ここじゃ俺の方に分があるからあいつも入ってこないがな」

 

「そうかい。それで、俺はお前の事を何て呼べばいいんだ?」

 

「何でも良いぜ。俺はお前の中にいるもう一人のお前だ。もっとわかりやすく言えば、お前がそうなる前のお前をコピーした存在だ。だから俺に名前はない。好きに呼べよ」

 

「……なら、お前のことは零って呼ばせてもらう」

 

「零、か……良い名前じゃねぇか。それじゃあ、俺はこれから零と名乗らせてもらうぜ。それで?何の用事で来たんだ?宿主」

 

「……お前の事を知るために来た。俺はもう、逃げる訳にはいかないから」

 

「へぇ……お前にその覚悟があるのか?真実は何時だって残酷で、運命は何時だって軽薄だ。この世に救いはなく、誰もお前を助けてはくれないぞ?」

 

「それがどうした。俺は、誰かに救ってもらいたい訳じゃない。助けてもらいたい訳じゃない。俺は真実が知りたいんだ。優しさに満ちた嘘なんていらないんだよ!」

 

「……クククッ。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!よくぞ言った!それでこそ、俺の宿主に相応しい。そうだ、優しさに満ちた嘘なんていらない。俺たちに必要なのは、身体を切り刻んでも尚足らない、非情なまでに残酷な真実だけだ」

 

現実に立ち向かう強さが人には必要なのだ。誰かと共にあれるその温もりは必要な物かもしれない。しかし、人は最後に己の意志で立たなければならない。誰かに寄りかかっていてはいけないのだから。

 

「ああ、俺はお前に真実という名の知恵をやろう。何物もねじ伏せる力をやろう。どんな逆境でも立ち上がる強さをやろう。その代わり、お前には至ってもらう。あらゆる生物を超えた位階に『――』にな」

 

「ああ、分かっている。それが俺たちに与えられた役割で、俺が最終的に上り詰める場所だ。お前に言われずとも分かっている。さあ、寄こせ。俺をそこまで至らせる力を」

 

「やるよ。だが、それにはいくつかピースが欠けている。それを埋める方法は……分かるだろう?」

 

「……分かってる。俺は理想のために、役割のために俺にある総てを捨てなければならない。一握りのために俺は――――」

 

それは呪い(しゅくふく)。それは祝福(のろい)。世界に舞い降りた新生児への呪い(しゅくふく)。新生児へと与えられる最後の祝福(のろい)

 

その祈りをもって、新生児のこの世界への誕生の証としよう。新生児の誕生を祝おう。さあ、世界の祝福(のろい)を持った新生児よ。己の役割を果たすがいい。

 

「俺は――――世界を壊す」

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