夢を目指す魔道士   作:シュトレンベルク

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説明する魔王

急に現れた心臓に槍を突き立てる白髪の男とその槍を辛うじて防いでいる金髪の男。アラタたちにとって、そう表現するのは最も分かりやすかった。

 

金色の槍は魔力という形でその猛威を振るう。膨大な魔力の波は保健室の壁を吹き飛ばし、その場にいた全員が腕で顔を覆い隠した。

 

そして槍は徐々に金髪の男の鎧を貫き、最後には心臓を射抜いた。すると、白髪の男は槍を引き抜き、心臓を抉り取った。そしてそれを見下ろした後、ようやく周りの人間に気が付いた。

 

「あれ?ここは……保健室、か?」

 

「まさか……セイ、か?」

 

「ん?よぉ、アラタ。こうして顔を合わせるのは久しぶりになるかな?」

 

確かに久しぶりの出会いではあった。しかし、互いの立場はまったく変わっていた。セイはかつての記憶を取り戻し魔王に至った。アラタもまた一度は魔王に目覚めた身の上。しかし、その格の違いは歴然だった。

 

「……ほぉ。アストラルに至ったんだな。アラタ」

 

「知ってるのか?」

 

「ハハハハッ。今の俺を何だと思ってるんだ?魔王であるのなら、俺の知らない魔王はいないさ」

 

魔王である限り、太古から存在する魔王に分からない訳がない。長き間、魂が擦り切れそうになるほど輪廻を巡ってきた魔王に分からない筈がない。

 

「久しぶりね?セイ。ちょっと姿が変わっちゃってるみたいだけど……」

 

「確かに久しぶりだな。お前が姿を消して以来だ。それにしてもその身体……セリナか」

 

「あら、よく分かったわね?」

 

「当たり前だ。その身体とお前の魔力がマッチしてない。双子だからか、なんとか成り立ってるみたいだがな。お前、一体何をしたんだ?」

 

「ちょっと、魔道極法(ラスト・クレスト)を使っちゃってね。出られなくなっちゃったのよ」

 

「……ああ、時空裂壊(バアル・ペオル)か。まったく……お前らはどうしてあんな紛い物に手を出すのか。もっと本質をちゃんと見ろよ」

 

額を指で押さえながらそう言うセイに対して、リーゼは眉を顰めた。自分が努力した末に手に入れた力をそんな風に言われれば、怒るのも無理はないだろうが。

 

怠惰(アケディア)魔道究極術(ラスト・クエスト)っていうのはな、こうするんだ」

 

セイの周りに無数の数式が出現した。一瞬で出現したそれに驚いていた者たちを差し置き、中指と親指を擦り合わせてパチンッと鳴らした。

 

「開け――――次元を呑みこむ時空間(ベルフェゴール)

 

数式が一瞬で世界を呑みこんだ。すると、先程までアラタの傍にいたリーゼがセリナに戻った。そしてセイの足元にリーゼが尻を付いて座り込んでいた。座り込んでいたリーゼを立たせた。

 

そして再び指を鳴らすと空間は解除され、しかしリーゼはそのまま残っていた。そんな状態で混乱していたリーゼをセリナに押し出した。リーゼが足を引っ掛けてセリナに倒れ込んだ。

 

「きゃあっ!?」

 

「痛っ!?」

 

二人が驚きながら額をさすりつつ、それが真実であると認識した。その事実に喜びつつも、けれどそれを為したセイに疑惑の視線を向けた。まるで片手間のようにアーカイブの秘奥を使いこなすその技量に。

 

「セイさん、先程なんと言いましたか?」

 

「……?何のことですか?」

 

「先ほど魔道極法(ラスト・クレスト)ではなく、魔道究極術(ラスト・クエスト)と言いませんでしたか?」

 

「ええ、確かにそう言いましたが?」

 

「そんな術は聞いた事がありません。第一、それは一体何なのですか?」

 

「ああ……なるほど。そういう事ですか。まあ、知らないのも無理はありませんが。お前なら何となくでも分かるんじゃないか?聖」

 

「……どういう意図でそう言っているんですか?」

 

急に自分に話を振ってきたセイに聖は困惑していた。確かにトリニティへと至った身ではあるが、セイの言っている事の意味が分からなかった。

 

「お前は見たんだろう?輪廻のように、メビウスの輪のように、続くこの世界の姿を。だったら俺の言っている意味も分かるだろう。総ての物事には始まりと終わりがある。それがこの世の道理だ」

 

「まさか……」

 

「アーカイブにもまた原点がある。始まりの世界に存在した魔王の弟子たるトリニティセブンが創りだした秘奥義。それこそが魔道究極術(ラスト・クエスト)。今も残っている魔道極法(ラスト・クレスト)は、その上澄みでしかない」

 

「どうしてそんな事をあなたが知っているの?」

 

「……まあ、教えても構わないか。だが、その前に」

 

セイは手元にある心臓を握りつぶした。その影響で血が周囲に散らばったが、気にすることなく掌を開いた。そこには六角形の結晶体があった。

 

そしてそれを胸に押し当てた。すると結晶自体が光を放ちながら鎧に呑みこまれた。誰もがその様子に驚きの表情を浮かべる中、セイは胸を抑えながら膝を付いた。その様は聖がかつて見た光景と同じだった。

 

セイの身体に血管が浮かび上がり、その血管一本一本に魔力が流れていくのを感じていた。魔王の肉体ですら受け止めきれない力がそこにはあった。

 

「……ッ!?先輩の不浄な魔力が高まっています。そんな、これだけの魔力に肉体が耐えられる訳がない!」

 

ミラがそう言った瞬間、セイの背中に龍の翼が現れ、その翼から校舎を呑み尽しても尚足らない魔力が溢れだした。その影響で校舎の外に崩壊現象の証である黒い太陽が現れた。

 

「これは、崩壊現象!?しかし、何の影響もないようですが……?」

 

「……………ハァッ。まさかこんなに影響を受けるとは思ってなかった。力が溢れすぎて困るな」

 

左手を何かを撫でるように振ると――――その先にあった壁、そして教室が跡形もなく消し飛んだ。それでも尚、納得いかないような表情を浮かべるセイにその場の者たちは例外なく恐怖を抱いた。

 

「……まあ、良いか。俺の目的のために威力調節の必要はないしな」

 

「何をする気なんだよ、セイ!そんな力を一体何に使おうって言うんだよ!?」

 

「……まあ、ここにいる面子には話しても良いか」

 

「その前に教えて下さい、レイ。前にあった時に言った言葉の意味を。私とアラタさんのため、ってどういう事なんですか!?」

 

「……っ!?なんだよ、それ。どういう事なんだよ?」

 

アラタはセイと聖が知り合いであった事に驚いていた。一体どういう繋がりなのか気にもなったが、それ以上に聖の言葉の方が衝撃だった。セイが自分たちの為に何かをしようとしているという事実が。

 

「アラタ。お前は思った事がないか?何故、自分が魔王候補なのか、って」

 

「そりゃあ……思った事ぐらいあるけど」

 

当然の疑問だ。寧ろ思わない訳がない。魔王などという存在がどうしているのか、疑問に思わない方がおかしい。

 

「元々、魔王というシステムは世界のリソースが足りなくなった時に動き出す。つまり、本当に末期となった時、一度世界に存在するあらゆる生物や植物などを破壊する事で新たなリソースを創りだすという仕組みだった」

 

「……では、魔王は世界の自浄機能という事ですか?」

 

「そうだな。そうとも言える。だが、そんな事はそうそう起こらない。何故なら、世界のリソース――――エーテルを操作できる者などそういないからだ。そして個人が幾らかエーテルを使ったところで、そうそう滅びたりはしないさ。消費する量よりも増える量の方が多いからな」

 

「……?だったら魔王なんて必要ないんじゃないの?」

 

「確かに、ユイの疑問ももっともだ。だがな、数が増えればその限りではない。魔術の発展により、誰もがエーテルを使用できるようになった時代、多くの者がその利便性ゆえにエーテルを使い始めた。そうすればどうなるか、火を見るより明らかだったのにな」

 

まるで遠い昔を振り返るようにそう言うセイに、誰も何も言えなくなった。事情はよく分からないが、邪魔をしてはいけないという事だけは分かったからだ。

 

「……その時、抑止(ガイア)終焉(ウラノス)は最早変革の時だと悟った。しかし、そこで意見が分かれた。植物や大地などは残そうとした抑止(ガイア)。総てを綺麗さっぱり消し去ろうとした終焉(クロノス)。真っ向から対立した事によって諍いが生じた」

 

世界を存続させている二つの存在は、決して意志のある生物を生かそうとはしなかった。何故なら、その意志のある生物によって世界は滅びかけているからだ。

 

「なぁ、どうして終焉(ウラノス)は世界を滅ぼそうと思ったんだ?それじゃあ、世界を再生させる事なんて出来ないと思うんだが」

 

「宇宙っていうのは、エーテルの塊なんだ。一度世界をエーテルの海に戻し、それからまた世界を創造する。手間を踏んでいるように見えるけど、実はこの方が手っ取り早いんだ。抑止(ガイア)のやり方だと立て直すのに相当な時間がかかるし、下手をすると残していた植物や大地が壊れるからな」

 

「じゃあ、どうして抑止(ガイア)はそんな面倒な真似をするようになったんですか?」

 

抑止(ガイア)にとって、地面(子供)と繋がるそれらを切り捨てる事は出来なかったからだ。せめてそこにあるモノを守ろうとしたんだ。たとえ、それがどれだけ無駄だったとしてもな」

 

例えるなら抑止(ガイア)は母で終焉(ウラノス)は父と言ったところだろう。失う事を恐れないのは父で、その場を守ろうとするのが母だ。

 

「……まあ、今はそれは良い。肝心な事は両者がまったく別の人間を役割に任命したという事だ。抑止(ガイア)が選んだのは当時魔道士として世界を駆けずり回り、多くの人を救った事で【英雄】と称えられた男。終焉(ウラノス)が選んだのは当時魔道士として最高の知恵と力を持っていた事で【魔王】と称えられた男だった」

 

「……選ばれる前から【魔王】って呼ばれてたんっスか?」

 

「当時の魔道士たちにとって、【魔王】という言葉は魔道に対して深い見識を持ち、それを操る術を持った者の事を指す言葉だった。今のように滅びを齎す者の事を指していたわけじゃない。その【魔王】と呼ばれた男はその当時、既に四つのアーカイブをその手に収めていた」

 

「……それは相当な事なんですよね?」

 

「当時、魔道の知識という物は本という形で蓄積されていた。しかし、【魔王】はその知識を七つの大罪の形で分類し、高次領域に書庫(アーカイブ)という形で創造した。そうする事で、多くの者が簡単に魔術を使えるようになった」

 

「じゃあ、その当時は魔道という物は現在のように体系化されていなかった、という事ですね」

 

「その通りだ。そして終焉(ウラノス)によって見出された【魔王】は与えられた力によって掌握したアーカイブを六つに増やし、最後に残されたアーカイブの研究を始めた。ちょうどその頃、周りが【魔王】や【英雄】が突如得た力に疑問を突き付けてきた。

だが、当時の彼らにはそれが何故なのか分からなかった。何故なら、二人ともが抑止(ガイア)終焉(ウラノス)の声に応えただけだったからだ。それを鬱陶しく感じた【魔王】は姿をくらまし、【英雄】はその声を無視して救済を続けた」

 

誰にも答えられる筈がないし、何より答えられたとしても理解出来る筈がないのだ。そんな超常の存在がいるなど、どうやっても説明のしようがないのだから。学者であった【魔王】にはそれがよく分かっていた。

 

「姿を晦ませた【魔王】は辺境で一人、魔道の研究を続けた。しかし、【魔王】が姿を晦ませる前に教えた弟子であった七人の少女は分かっていたように【魔王】の元を訪れた。その後、七つ目のアーカイブの掌握を終えた【魔王】は弟子と共にそれぞれの分野における秘奥を創り始めた」

 

「七人の少女……それはまさか……?」

 

「そう、始まりのトリニティセブンだ。トリニティセブンというのは元々魔道極法(ラスト・クレスト)に辿り着いた者の事を指す言葉ではなく、【魔王】から薫陶を受けた者の事を指す言葉だった。そして少女たちが【魔王】と共に創りだした秘奥こそ、魔道究極術(ラスト・クエスト)だ」

 

魔道究極術(ラスト・クエスト)とはその名の通り、そのアーカイブにおける最終問題。世界に干渉する事すら可能となる魔術であり、その総てが分類で言えば対界魔術として分類される。

 

「しかし、当たり前と言うか魔道究極術(ラスト・クエスト)はあまりにも強すぎた。だからこそ、【魔王】はそれをアーカイブの中に封印した。本当にそのアーカイブに理解のある者でもない限り、触れる事すら叶わない深奥にな。だからこそ、それに触れ上澄みとはいえ手に入れることが出来るようになった者はトリニティセブンと呼ばれるようになった」

 

「そうなんだ……」

 

「だがな、そんな代物を【魔王】の力を借りたとはいえ創りだせた者が注目されない筈がない。そして注目されたが故に、迷惑を被っていた弟子たちを見て【魔王】はこう思ったんだ。邪魔だな、と」

 

秘奥義を創りだせるほどの才能を持っていた弟子たちだ。【魔王】自身もその才能を認めていたし、嫌いでもなかった――――というより、気に入っていた。そんな弟子たちが辛い目に遭っていたのだ。何とかしてやりたいと思うのは師として当然のことだろう。

 

「その言葉を、終焉(ウラノス)は待っていた。終焉(ウラノス)の担い手として選ばれた【魔王】が世界に生きる者たちの排除したいと思う事を。その言葉を口にしてしまったが故に、空にはあの黒い太陽――――そうだな。無の世界の門(タルタロス)とでも呼ぶべき物が創造された」

 

最初、それがなんであったのかは誰にも分からなかった。ただ、分かった事はただ一つだけだった。

 

「それによって地表の三割以上が消滅し、全生物の六割以上がエーテルに還った。眼に映るモノ総てが粒子状に分解され、弟子たちもその大半――――五人がエーテルに還った。そこで【魔王】は悟った。自分は手を出すべきではない物に手を出していたのだと。だからこそ、なんだろうな。残された二人の弟子を異世界へと転移させた」

 

「異世界転移!?そんな事まで出来んのかよ!?」

 

「出来るが……相当な量の魔力を使うし、再現できる者は当時誰もいなかった。そして二人を転移させた【魔王】は【英雄】と対峙する事になった」

 

「……?それは何故でしょう?そんな事をせずとも、願いは成就するのでは?」

 

「言っただろう。抑止(ガイア)終焉(ウラノス)の願いは異なると。世界総てを消滅させる事は抑止(ガイア)の願いではなかった。だからこそ、抑止(ガイア)の守護者であった【英雄】は終焉(ウラノス)の担い手であった【魔王】を討つ事になった。だが、それが間違いの始まりだった」

 

そう、それが間違いの始まり。ただでさえゴチャゴチャだった世界をさらに混乱させる要因となってしまった。

 

「結果的に言って、【魔王】と【英雄】は相討ちに終わり世界は跡形もなく消え去った。だが、【魔王】と【英雄】の戦いによって混沌と秩序の同時構成――――世界構築をなしてしまった。エーテルの塊ではない物体によって構成されてしまった物は意識体を持ったエーテルである抑止(ガイア)終焉(ウラノス)には関われなくなった」

 

エーテル体によって創られた物ではない世界には、エーテル体が創られた場合よりも少ない。最初はまだ何とかなるが、それでも後になればなるほどエーテル体はなくなっていく。

 

「そこで第二の魔王を創りだし、その魔王によって世界を壊させる事によって新たにエーテル体に戻す事にした。だが、【魔王】と【英雄】の激突によって創られた世界は、【英雄】の再生能力を持っていた。その所為で世界にエーテルを混ぜることは出来たが、介入することは叶わなかった。そして第二の魔王として選ばれたのが――――お前だ、アラタ」

 

「お、俺っ!?」

 

「そうだ。正確に言うと、春日アラタという魂だが。名前まで同じである訳ではない。だが、輪廻のような世界にも異変が生じた。アラタの魂は世界の終末にしか現れない筈なのにも関わらず、まだ余裕がある状態であってもお前が現れるようになった」

 

アラタが現れる時こそが終焉の時代。だからこそ、アラタは何かしらの方法によって魔道に関わるように運命付けられている。今回で言えば、住んでいた町を自らの手で崩壊させてしまい、その事実をなくすために街を創りあげてリリスとの繋がりによってビブリア学園に入学した。

 

「お前はどこの世界でも必ず魔王となり、世界を滅ぼした。だからこそ、魔王は世界を滅ぼすという伝承が伝わっているんだ。その姿をお前は見てきたんだろう?聖」

 

「……はい。私はアラタさんが起こした崩壊現象に呑まれ、見渡す限り何もない空間に飛ばされました。あそこはおそらく、魔王の手によって滅ぼされた世界だったんでしょう。そしてそこで見たんです。トリニティセブンと関わり、魔王となって世界を滅ぼす姿を。だから、私は……」

 

「……やっぱりな。しかし、世界の変化がそこまで進んでいるのか。俺がいる事もそういう事なんだろうな」

 

聖の言葉にそう呟いたセイは聖の頭に手を置いた。それは昔、セイがレイと名乗っていた頃によく泣いていた聖を慰めるためにやっていた事だった。

 

「残念だが……聖が世界を滅ぼしたところで、この輪廻は崩せないだろう。この世界は【英雄】に宿った再生能力によって元に戻る。それどころか、お前の魂も消滅する。それでは無駄骨という物だろう?」

 

「だったら、アラタさんに世界を滅ぼさせるって言うんですか!?それじゃあ、何の解決にもなってないじゃないですか!」

 

「……言っただろう。俺はお前らのために動くと。そうでなくでも、この問題は俺の手で解決しなくてはならない。始まりを紡いでしまった俺が決着をつけなくてはならない」

 

「まさか……お前がやるって言うのか?」

 

「そうだ。俺が、始まりの魔王たるこの俺が――――世界を壊す」

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