夢を目指す魔道士   作:シュトレンベルク

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戦う魔王と魔道士たち

大気中にエーテルが溢れ、その影響によって徐々に消滅していく世界を見つめながらセイは佇んでいた。今にも滅びそうな世界であっても、変わらずに空は青かった。

 

セイがかつて世界を滅ぼした時にも似たような光景を見た。英雄に胸を槍で貫かれ、もはや死を待つだけだった状態で空を見上げた時に見た景色――――蒼天がそこにはあった。

 

「……まったく世界が変わっても景色は変わらないんだな」

 

肉体に馬鹿みたいに魔力が溢れている状態。正直な話、誰が敵に回ったとしても一瞬で消されかねないほどの力がセイにはあった。

 

そうして一人で立っていると、後ろから足音が聞こえてきた。振り返ると、そこにはビブリア学園・リベル学園双方の学園長がそこにいた。この世界でも有数の魔力の保持者である大魔公(パラディン)であるからこそ、ようやく耐える事が出来るレベルだった。

 

「おや、御二方。何か御用でも?」

 

「いや、なに、最後の時ぐらいは謎解きでもしようかと思ってね」

 

「魔道の賢者と話せるとあっては逃す手もあるまい。それが自らの命の終わりの直前であってもの」

 

「ハハハハ……流石は現代に残る大魔公(パラディン)。魔道に関する執着心は変わらない、と言ったところですかね」

 

「ほう?それはお主の時代にも大魔公(パラディン)がおった、という事か?」

 

「それは勿論。そもそも俺が生まれた世界では魔道と科学が融合し、まさに魔導科学という分野の最盛期でしたから。俺がアーカイブのシステムを作った時、それまで賢者と呼ばれてきた者たちは大体が大魔公(パラディン)になりましたよ」

 

「それで、どれぐらいいたんだい?百人とか?」

 

「いえ?流石に正確な数なんて覚えてませんが……千人は超えていたんじゃないかな?」

 

千人もいた大魔公(パラディン)がいまやたった三人しかいない。この部分もセイにとっては時代の変化を感じる要因だった。それも今となってはどうでも良い事だった。

 

「……そんなにかい?」

 

「そうだ。そもそもアーカイブというシステム上、魔道に限界はない。研究が進んだことで一定量の魔力に達した者が大魔公(パラディン)という位階に至る事が出来る。たったそれだけの事だ」

 

魔力が人格を犯す。肉体に籠められた魔力が魂に干渉を始めた。それに気付いたセイは英雄の力を強める事で双方の力を均等にする。その天秤が崩れないように均衡を保つ。

 

それと同時に体内から放出されるエーテルの量も増加した。だが、それでも抑えきれないのか手の中にある槍に魔力を注ぎ込み、力任せに振るった。すると、その先にあった土地を破壊し、挙句の果てに次元の教誨すらも斬り裂いた。

 

「ハァ……ハァ……クソッ。自分たちの悲願が目の前だからってはしゃぎやがって……調子に乗るなよ!人間の手助けがなきゃ世界を壊す事も出来ないエーテル風情が!」

 

セイはそう吐き捨てると、息を切らしていた。消費した魔力もそうだが、両方の力を強めてその均衡を魂で保たなければならないので消費が激しいのだ。

 

しかし、悪態をつきたくもなるだろう。いきなり終焉(ウラノス)が魔力を大量に送ってきたため、完成されていたトリニティが崩れてしまったのだ。それでは望みである世界の崩壊をすることが出来ない。それでは、セイが自分の身を犠牲にする意味がない。

 

ただでさえ、完全な魔王化を防ぎながら英雄の力を制御しているのだ。セイにかかっている負担は途方もない。そんな状態でこんな事をされれば、怒りたくなるのも必然だろう。

 

「魔力供給源でしかないくせに……こっちのやる事に口を出すなっての。まったく、苛々する」

 

「「………………」」

 

なにこいつ、怖い。それが、二人がセイに抱いた感情だった。しかも普段の落ち着いた感じは消え、どことなく荒々しい雰囲気になっている事が拍車をかけていた。

 

「……ハァ。それで、なんでそんなに距離を……?」

 

エーテルの海の中は即ちセイの有する支配空間。その空間の中で何かしらの魔力反応があれば、セイに分からない筈がない。しかも、それが一度感じたことのある物であればなおさらだ。

 

セイの振り返った先には、つい先ほど新世界に送ったアラタたちがいた。その顔を見た瞬間、セイは若干顔を曇らせたがすぐさま眼を細めた。

 

「……なんで戻ってきた?」

 

「決まってんだろ。お前を――――救うためだ!」

 

「……ハァ。余計なお世話だ。誰もお前たちにそんな事を頼んではいない」

 

「頼まれたから救うんじゃねぇ。俺が、俺たちがお前を救うと決めたから救うんだ。お前風に言えば……『問答の余地などない』、かな?」

 

「………………」

 

アラタのセイの顔真似に絶句していた。こんな今にも身体が消し飛んでしまってしまいそうな状況で、そんな余裕とも言える態度を取れるアラタに何も言えなくなっていた。

 

「おいおい、どうしたんだよ。魔王になったんだろ?だったらそんな物じゃないだろ」

 

「……クックックッ。ああ、やはりお前はお前なんだな。だが、どうするつもりなんだ?そうやって強がりを言うのは結構だが、たとえお前が魔王に目覚めて世界を滅ぼしても何も変わらないぞ。それどころか、唯一の機会を逃す事になる」

 

「そんなの知った事じゃねえ。俺は俺がやりたい事をするだけだ。それを邪魔するなら、魔王だろうが英雄だろうが神だろうが支配してやる。俺は世界の言う事になんて従わねぇ。俺は俺のやりたい事をするだけだ」

 

「ハハハハハッ!なるほどなるほど。だが、どうやって俺に勝つつもりだ?魔王に目覚めたって俺には勝てやしないぞ。お前は俺に勝つ事なんて出来る訳がない」

 

「何言ってんだよ。お前は一人だけど、俺には皆が付いてる。たった一人で戦うお前が、俺たちに勝てる訳ないだろ。それに……魔王は最後にやられるのが役目だろ?」

 

「言ってくれるな!自分の身の程を弁えない愚か者を殺す事も魔王の役割だ。皆で力を合わせればどんな状況も打破できる、なんていうのは夢物語だ。現実はそれほど甘くはない。最後には強い者が勝利する。それが道理なんだよ!」

 

空間を軋ませるほどの魔力を放出し、アラタたちを威嚇する。重力が増したかのような感覚を味わいながら、アラタたちは笑みを浮かべる。

 

さっきからセイはアラタたちを見ているようで見ていなかった。総てをあるがままに受け入れていた。しかし、アラタたちが敵になった事で、アラタたちの事を見るようになった。

 

まず第一の目的を果たした。アラタたちはまずセイと戦うに当たって、様々な作戦を立てた。後は自分たちが頑張るほかない。

 

傲慢(スペルビア)のアーカイブに接続。テーマを実行するぜ!」

 

色欲(ルクスリア)のアーカイブに接続。テーマを実行します!」

 

憤怒(イラ)のアーカイブに接続。テーマを実行するわ!」

 

嫉妬(インウィディア)のアーカイブに接続。テーマを実行するっス!」

 

強欲(アワリティア)のアーカイブに接続。テーマを実行するよ!」

 

傲慢(スペルビア)のアーカイブに接続。テーマを実行します!」

 

暴食(グラ)のアーカイブに接続。テーマを実行するぜ!」

 

怠惰(アケディア)のアーカイブに接続。テーマを実行するわ!」

 

怠惰(アケディア)のアーカイブに接続。テーマを実行します!」

 

憤怒(イラ)のアーカイブに接続。テーマを実行します!」

 

嫉妬(インウィディア)のアーカイブに接続。テーマを実行するであります!」

 

アラタが、リリスが、アリンが、レヴィが、ユイが、ミラが、アキオが、リーゼが、セリナが、聖が、ルーグがメイガスモードになる。命を賭けてセイを止める。それがその場にいる全員の意志だった。

 

「ハハハハハッ!素晴らしいな。来い、魔王()はここにいるぞ!」

 

魔王は吼える。世界を救わんとする勇者たちに向けて。己を救うなどとのたまう愛しき愚か者たちに向けて。己の存在を誇示するように。己はここにいるのだと、高らかに謳う。

 

目の前にいる愛しき隣人たち。救おうとしているのに、目の前にいる者たちは自分を救うなどと言う。こちらの厚意を受け取ろうとしない事に怒りはある。しかし、それ以上に喜びがある。

 

こんな異形になって尚、自分を救おうとした者がいた。たったそれだけの事実が、セイを救っていた。ああ、その思いやりだけで十分だ。だからもう、俺のことは見捨てていってくれ。

 

世界を滅ぼす事に躊躇いはない。それは今もそうである。けれど。ああ、けれど、何故だろう。目の前にいる輝きをもっと引き出してやりたい。その魂をもっと見たいとすら願っている――――!

 

「全アーカイブに接続。テーマを実行する!」

 

傲慢(スペルビア)嫉妬(インウィディア)憤怒(イラ)怠惰(アケディア)強欲(アワリティア)暴食(グラ)色欲(ルクスリア)――――総てのアーカイブの力が一点に集中する。アーカイブというシステムを創りだした魔王がその全力を発揮する。

 

「さあ、初手だ。凌いで見せろ」

 

顕現する大罪は色欲。そこから現界する罪は――――消滅。

 

黒い球体が総てを消し去らんするために、アラタたちに向けて放たれる。その球体を前に立ち向かうのは――――カメラを構えたセリナと神話武装を手にするルーグ。

 

「いきます!」

 

セリナのカメラによって撮影された消滅の力を宿した球体が『束縛』される。そして『誠意』に繋がる神話武装が球体を両断する。そして後続に道を作るべく動き出そうとした瞬間――――突如現れた壁に衝突した。

 

「悪いが、お前たちはそれ以上動くな」

 

顕現する大罪は憤怒。そこから現界する罪は――――創造。

 

足を、腕を、肉体を縛り付ける鎖が地面から現れて肉体を縛り付ける。ただでさえ、エーテルによる負担が襲ってきているのだ。鎖を振りほどく程度の膂力も発揮することは出来ない。

 

「だったら次は――――」

 

「―――私たちの番だね!」

 

暴食(グラ)強欲(アワリティア)のトリニティセブン、アキオとユイのコンビが挑みかかる。真言術(マントラ・エンチャント)重唱術(アーク・シンフォニー)の魔術が魔王を襲う。

 

「おりゃああああああっ!」

 

重唱術(アーク・シンフォニー)によって強化された真言術(マントラ・エンチャント)の蹴りが魔王に叩き込まれる。その攻撃を翼によって防ぎ、吹き飛ばした。

 

「おわっ!?」

 

「良い蹴りじゃないか。だが、その程度じゃ俺の守りは破りきれないな」

 

創造の魔術の別名は『バルドルの祝福』。北欧神話において、ヤドリギ以外に殺すすべのない神バルドルの祝福が強化されたとはいえ、たかが蹴りで破れる筈がない。

 

「いてて……あれ、なんだよ?」

 

「あれはおそらくバルドルの祝福ですね。……アリンさん、あれは破れますか?」

 

「出来るけど、時間が必要よ。でも、そんな時間を与えてくれるとは思えないけど」

 

「その通りだ。俺を相手にして立ち止まれると思うなよ」

 

空気中に現れた大量の魔法陣が雨霰のように攻撃する。空気中のエーテルを使って制御しているため、魔法陣の構成に演算力を使っているだけだ。

 

「さあ、どうした?破る術はある。実行してみたらどうだ?――――出来るものならなぁ!」

 

もはや嵐と大差ない攻撃がアラタたちに襲い掛かる。それを迎撃するのは色欲(ルクスリア)嫉妬(インウィディア)のトリニティセブン、リリスとレヴィのコンビ。

 

忍法(シャーマニック・スペル)によって編まれた糸が大多数を防ぎ、錬金術(アウター・アルケミック)によって大量に生み出された銃が残りを撃ち落す。

 

「ほう……器用な真似をする。では、これはどうだ?」

 

存在する魔法陣の構成を一部弄る。そして発動した魔術はレヴィの編んだ糸を斬り裂き、リリスを襲う。その攻撃から聖が創造の魔法陣を展開して守る。

 

「そうか。そう言えば、お前もトリニティに至っているんだったな。崩壊、創造、分解……と言ったところか?」

 

見ただけでその者が属するアーカイブのテーマを見抜く。それがシステムを創りあげた者の力の一つ。彼の眼をして見抜けない魔道はこの世に存在しない。

 

その力ではなく、知恵こそが魔王の本領。ありとあらゆる魔道が彼の前では膝を付く。たとえアリンでは時間が掛かる事でも、彼の手にかかればノータイムで発動する。

 

「撃ち抜け、ヤドリギの若枝(ミストルティン)!」

 

かつて神話においてバルドルを射抜いた物。魔道によって再現されたヤドリギはその祝福を壊すべく突き進む。誰もそれを妨げる事など叶わない。何故なら、それは神殺しと呼ぶに相応しい御業なのだから。

 

「……これを見捨てる訳にはいかんからの」

 

大魔公(パラディン)……邪魔立てする気か?」

 

リベル学園の学園長――――マスター・リベルは聖の前に立ち、セイの攻撃を防いでいた。周りに存在するエーテルすらも使用して何とか防げているレベルだった。

 

「ここで何もせんかったら後で文句の一つでも言われそうじゃからな。まさか、この程度の助力で文句を言うほど狭量ではあるまい?」

 

「そう言われると怒る訳にはいかない。――――まあ、そんな星辰術の腕では長くは持つまいが」

 

「……ッ!?」

 

「よもや俺が星辰術を使えないと思ったか?たわけ。俺が魔王と呼ばれたのは、術に関する知識とそれを自由自在に操る力量があったからだ。他人の術に干渉するなど容易い事だ……!」

 

星辰術は星の力を操作する技術。星とは魔道士が何億人集まったところで比べようもない程の力を持っている。その力を一部とはいえ使いこなす事は、相当の難度を誇る。相手がセイでなければ、魔王であっても通用する技術だ。

 

「原初の魔王を舐めすぎだ。その程度出来ずして、何が魔王か!」

 

「……なら、その主義を私の『正義』が裁くだけです!」

 

ミラの手の中にある水晶が光り輝き、その水晶の中には創造の名前が記載されていた。

 

「ホワイト・ユニバース!」

 

ミラの必殺技である魔術が展開される。その一撃がミストルティンを吹き飛ばし、セイに向かって襲い掛かる。その様子を見たセイは――――笑っていた。

 

「テーマを読み取ったありとあらゆる魔道を迎撃する魔術……よく出来た物だ。だが、俺からすると読み取りに少々時間が掛かり過ぎだな」

 

槍に風が纏わりつき、放たれた魔術を抉り削り取っていく。息も止まらぬ速度で放たれる風はミラの必殺技を削りきり、跡形もなく消滅させた。そうして槍に纏わりついた魔力を薙いだ瞬間――――リーゼが目の前に現れた。

 

「なっ……時空計測(クロノ・カリキュレーション)か!」

 

「そうよ。私がいるのを失念してたでしょ?セイ」

 

「……否定はしきれんな」

 

「だったら、言ってあげるわ。――――私を、私たちを甘く見るな、ってね!」

 

そう言いながら、リーゼはセイの頬を引っ叩いた。セイの頬に手形の紅葉色が付き、その余りに常識外れの攻撃にセイの思考は止まってしまった。その隙をついてと言うべきか、リーゼはセイの胸倉を掴んだ。

 

「あんたね、私たちを舐めすぎなのよ!私は、あんたの過去の代替品じゃない!」

 

「な、にを……」

 

「まだ気づいてない訳!?私はリーゼ。リーゼロッテ・シャルロック!ナル・フューネスタなんて知った事じゃないわ!私は私なのよ!そんな分かりきった事を言わせるんじゃないわよ!この馬鹿!」

 

「………………」

 

セイはリーゼの言葉に衝撃を受けていた。何故なら、セイの自覚はまったくなかったからだ。あくまでも、セイは今を見ているつもりだった。確かに過去に思いを馳せていた事は否定できない。しかし、それでも、今の彼女たちを見ているつもりだったのだ。

 

そんなセイを見たリーゼは胸倉を掴んだままのセイに顔を近付けた。そしてセイに熱烈なディープキスをかました。戦場で急にそんな事をし出したリーゼに誰もが混乱していたが、リーゼのしている事に気が付いたセイはリーゼを突き飛ばした。

 

咄嗟の事で加減が付かず、リーゼはアラタたちの所まで吹き飛ばされた。リーゼを受け止め、セイの方向を向いたアラタは眼を閉じて口と胸を抑えているセイに気が付いた。

 

「俺とパスを繋いだんだな?リーゼ」

 

口から手を離し、まるで親の仇を見ているような目でリーゼを睨むセイ。リーゼは咳き込みながら、勝ち誇ったようにセイを見た。

 

「お前……分かってるのか?俺とパスをつなぐ事の意味が」

 

「分かっているつもりよ。私とあなたはもう一蓮托生、と言ったところでしょう?」

 

「馬鹿が……ここで俺が滅べば、お前の魂もまた滅びるという事だぞ!?お前にはもう次の未来はない。次の世界でお前の居場所はもうないんだぞ!?」

 

パスを繋ぐ。それは使い魔を作る場合と同じ事だ。高い場所から低い場所へと力が流れていくように、高い場所(セイ)から低い場所(リーゼ)へ流れていく。それは力が流れる事でリーゼはセイの力の色に染まっていく。それはつまり――――セイと同種の存在になるという事だ。

 

セイと同種になる。それはつまり、世界から排除される対象になるという事である。そうなってしまえば、もはやリーゼには未来がない。世界によって消されるしかなくなってしまう。

 

「だから、何だって言うの?私はあなたが死んでも自分は生きる、なんていうのはごめんよ。あなたが死ぬなら、私も死ぬ。それで良いのよ。セリナには悪いけど、私は私の我が侭を通すわ」

 

「お前は……本当にそれで良いのか?」

 

「後悔なんてないわ。精々後悔しなさい。こんな重い女を受け入れてしまった事をね」

 

「……今、後悔してる真っ最中だよ。お前の気持ちを甘く見たことをな」

 

相当強烈なパスの結び方をしたのか、先ほどから何とか切断しようとしているが弾かれていた。どうも切断しようとするこちらの方法を解析して弾き飛ばしているらしい。力の供給が始まった事でどうしようもなくなったのか、セイは諦めた。

 

「馬鹿な選択をしたな、リーゼ。お前、もう元には戻れないぞ」

 

強すぎる力は一瞬で与えられた者の存在を書き換える。それはリーゼが魔王候補になった時とは比べ物にすらならない。意志を持った莫大な魔力(エーテル)がリーゼの力を底上げする。

 

「ふふ……そんな事で後悔するぐらいなら、私はここに立ってなんかいないわ」

 

「そうか……なら、俺も全身全霊を持って相手をしてやろう。お前たちを殺してでも、俺は自分の願いを完遂する。その道行きに一人ぐらいついて来ても構いはしないさ。お前たちをお前たちとして認めよう。そして、俺の全力を持ってお前らを殺す」

 

世界を敵に回す魔王の殺意。先ほどまでは幾らか遊びが混じっていたが、もはやそんな感情は消え去った。全員を殺してエーテルに還そうとしている。

 

完全にやる気になったセイを前に、リーゼはちょっとやり過ぎたかな?と思っていた。しかし、後悔はしていない。寧ろちょっと勝ち誇っていた。それを見たユイと聖はぐぬぬ……という顔をしていた。レヴィも表面上は落ち着いていたが、内心イラッとしていた。

 

「そこの三人、遊んでないで手伝ってください。さっきから魔力の圧力が酷くなってるんですが……!」

 

「あ、ご、ゴメンね?ミラちゃん」

 

「……リーゼさん。この後、話し合いをしましょうね?」

 

「そうっスね。ちょっと調子に乗ってるみたいっスからね」

 

「うわ、藪蛇?」

 

四人のそんな掛け合いをよそに、セイの魔力は跳ね上がっていた。完全に殺す気になっているセイの魔力は確実に目の前にいる敵を殺さん言わんばかりに、魔力で作られた剣に籠められる。

 

「穿て――――勝利を呼び込む剣(クラウ・ソラス)!」

 

森羅万象一切合切を断つ剣から放たれた光がアラタたちに向かう。不敗の剣と呼ばれたその剣から放たれる光は、直線上に存在する総てを薙ぎ払う。そんな光に対して、アラタはリリスと共に銃を構える。

 

『魔力は回復したぜ、マスター!』

 

『フルパワーでやっちゃってください、アラタさん!』

 

「ああ!行くぜ、リリス!」

 

「はい!顕現(リアライズ)、バスターモード!」

 

迫る閃光を前に二人は慌てることなく銃を向ける。銃にアラタの魔力が注ぎ込まれ、最高潮にまで達した魔力を閃光のその先――――セイに向ける。

 

「喰らい尽くせ、メテオドラグナー!」

 

銃から放たれた竜はアラタの『支配』の力で閃光に喰らいつく。真正面から激突した竜と閃光。情勢的に見て、優勢なのは――――閃光だった。

 

「ぐ、おおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

なんとか二人で踏ん張っているが、今にも押し返されそうな状況の中後ろから誰かが支えるようにアラタたちを押していた。

 

「頑張って、旦那様!リリス先生!」

 

真剣な表情でアラタたちの背中を押しているアリンを見て、ミラやアキオたちも背中を支えた。そして背中を支える人間が増える毎に、魔力が増えているような気がした。

 

「頑張ってください!」

 

「負けるなよ、兄ちゃん!」

 

「二人とも、頑張って!」

 

「正念場っスよ、アラタさんにリリス先生!」

 

「負けないでください、アラタさん!」

 

「当機も微力ながらお手伝いをさせて戴くであります!」

 

「ここで勝ったら大スクープですよ、二人とも!」

 

皆がいる。自分たちに力を貸してくれる。だったら、負ける訳にはいかない。皆の信頼に応えるために、皆の想いに応えるために。自分たちは絶対に――――

 

「――――負けられないよな、リリス!」

 

「はい!アラタ!」

 

竜は強化され、閃光を見事に打ち破った。セイとしても相当の力を注ぎ込んだ一撃が破られるとは思わず、竜の一撃をものの見事に食らった。肉体に喰らいつき、セイの魔力を喰らおうとしている竜を無理矢理弾き飛ばした。

 

弾き飛ばされた竜は消え、その場には双方ともに息絶え絶えの状態の魔道士たちと魔王が残った。息を思いっきり吐きながら、セイはアラタたちを見つめた。

 

「ハァ……ハァ……やるじゃないか、アラタ。まさか勝利を呼び込む剣(クラウ・ソラス)を破られるとは思わなかった。いやはや、侮り過ぎたか」

 

「その……割には……余裕そうじゃ……ないか……」

 

「余裕じゃ……ねぇよ……ただ、俺にも……意地がある。こんな所で……負けて堪るか……!」

 

セイは背中に翼を出し、大空に羽ばたいた。そして右手を空の上に掲げる。すると右掌に巨大な魔法陣が現れ、そこに空気中に存在する莫大な量のエーテルが集まり始めた。

 

「さぁ、立てよアラタ。俺を救うと言うのなら――――この最後にして最大の試練を突破して見せろ!」

 

目の前に現れたのは絶望の顕現。世界総てを粉々にする魔王の最強の一撃。セイは世界中にエーテルを満たすことで、世界をエーテルの海に還しやすい状態にしようと思っていた。

 

しかし、そんな考えはとうに吹き飛んでいた。最大にして最強の一撃を持って、目の前に存在する敵を排除する。目の前の敵がそういう敵なのだと、理解したが故に。

 

「うわ、なんだあれ。もう凄すぎて何が何だか分かんないな」

 

「アラタはそこまで考えてないでしょう?」

 

「バレてたか?」

 

「ばれない訳がないじゃないですか……まったく。やっぱりアラタは私がいないとダメですね」

 

「どさくさに紛れて嫁宣言とは……中々やるっスね、リリス先生」

 

「堂々と浮気発言されたわ。リリス先生も抜かりないわね」

 

「え?い、いえ、違いますよ!?私はあくまで教師として……!」

 

「お兄さんもリリス先生も本当に面白いね!」

 

普段と変わらず掛け合いをするアラタたち。

 

「大将は混ざらなくていいのか?」

 

「な、何を言ってるんですか、アキオ!?」

 

「いや、なんか寂しそうな顔してたからさ」

 

「さ、寂しそうな顔なんてしてませんよ!」

 

「本当か~?」

 

「本当です!」

 

「私にはそんな風には見えないけど~?」

 

「ミラさんはアラタさんが好きなんですか?これはスクープですね!」

 

「だから違うんですって!」

 

寂しそうな顔をしながらアラタたちの方を見ていたミラをからかうアキオ。そしてそこに混ざるリーゼとセリナ。

 

「聖も混ざらなくていいのですか?」

 

「良いんですよ。アラタさんはアレで。通常営業という奴です」

 

「聖が良いのなら当機は構いませんが……」

 

「はい。良いんです。アラタさんはああやって笑ってられるのが一番良いんです」

 

「……そうでありますか。それなら当機も何も言いません」

 

アラタたちを見て嬉しそうな悲しそうな何とも言い難い顔を向ける聖、そしてそんな聖を見て納得するルーグ。

 

そんな仲間たちを見つめて本当に安心したセイは、掌の上にある力――――自分だけが振るう事を許された力である最終試練(ラスト・エンブリオ)を発動させる。

 

「これが俺にだけ許された魔道究極術(ラスト・クエスト)――――別名最終試練(ラスト・エンブリオ)だ。さあ、突破出来るものなら突破して見せろ。そうしたら認めてやろう。お前は確かに世界すら支配し、この円環を崩す事が出来るのだと!」

 

「上等だぜ!セイ、お前のソレを突破して俺は証明してやる。俺に支配できない物なんかない。俺は総てを支配する魔道士になる!聖もお前も何もかもを救ってみせる!」

 

「良い度胸だ。ならばこの試練を見事突破して見せろ!」

 

そうしてアラタたち向けられた魔法陣の輝きが最高潮を迎える。光が世界を包み、そして――――




まだ終わりじゃないです。
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