夢を目指す魔道士   作:シュトレンベルク

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連続投稿です。前話を見ていない方はそちらを先にどうぞ。


エピローグ

今も鳥の鳴く声が聞こえてくる暖かな朝。外に広がる自然を眺めながら、青年はすぐ傍でリンゴの皮をむいている美女に話しかけた。

 

「……なぁ、俺は一体何時までここに籠もっていれば良いんだ?」

 

「少なくとも身体が回復しきるまでじゃない?」

 

その美女――――春日聖の答えに青年――――響セイはため息を吐いた。

 

あの日、セイはアラタたちに敗れた。最終にして最強の手段であった最終試練(ラスト・エンブリオ)が破られ、その想いを認めざるを得なかったからだ。

 

そしてアラタたちは次にどうするのかを決める事になった。全員にパスを繋ぐ事になり、さらにセイが全員に魔道究極術(ラスト・クエスト)を教え込む事になった。

 

「あれから三年近く経ってるのか……それはそれとして、暇だな」

 

「まぁ、セイは未だに身体が治りきってないしね。身体も弱ってるし、寝たきり状態なのも仕方がないんじゃない?」

 

「傷ならもう治ってるじゃないか。皆大げさなんだよ。ちょっと散歩してたぐらいで大騒ぎするし……」

 

「あの時は完治してなかったでしょ?勝手にそういう行動をとるから、皆に信用されないんだよ」

 

「ずっと寝たままの生活は暇なんだよ。お前ら、俺が本を読んでたら奪っていくじゃないか」

 

「そんな状態になっても魔道の本を読んでるからでしょ。偶には関係ない娯楽のためだけの本を読めばいいのに」

 

「そんな事したら面倒じゃないか。俺が買い物するだけで、なんか経済に影響があるとか聞いたし。おちおち買い物も出来やしない」

 

「まぁ、あれから社会もかなり変わったし、仕方ないんじゃない?」

 

腕を枕にして寝転がるセイに聖は苦笑を浮かべる。

 

あの時、全員の魔道究極術(ラスト・クエスト)によって元からあった世界と新世界は混ざり合った。全員による対界魔術によって世界の均衡は崩れ、世界に寄生していた抑止(ガイア)終焉(ウラノス)の力も消えてなくなった。

 

それにより、世界中に莫大な量のエーテルが行き渡るようになった。問題は二つの世界が混ざり合った事で、世界に混乱が起きてしまった事だった。

 

そんな社会に爆弾が投げ込まれた。それが魔道というシステム、そしてそれを扱う魔道士(メイガス)たちの存在だった。社会に公表されたそれらは当然、世界に混乱をもたらした。

 

しかし、アラタたちが率先して災害救助などの活動を始めたおかげか、次第に社会に受け入れられ始めた。一部の宗教家は未だに批難しているが、それも直に納まるだろう。セイはそう思っていた。

 

そう言える理由は、同時に公表された魔導科学が理由だ。より世界に繁栄をもたらす装置。それを前にすれば、批難などする者は少なくなる。実際、公表されたそれらによって社会の混乱は収まり始めていた。

 

エーテルを利用したシステムは環境に被害を与えることなく、それ以上にエネルギー効率などが核燃料よりも良かった。ある意味、科学者泣かせのエネルギーといえた。

 

今、セイと聖がいる家も総てがエーテルによって賄われていた。更に、エーテルをただ消費するだけでなく太陽や月の光を使ってエーテルを生成させてもいた。

 

このシステムは全家庭で行われ、そうする事でサイクルを保てるようにしていた。世界がその力をただ浪費するのではなく、生産と消費のサイクルが出来るようにする。もう二度と同じ過ちを繰り返さないために。

 

「アーカイブというシステムを創りあげた天才魔道士、空木レイね……まさか昔の名前をこんな風に使う事になるとはな」

 

「そしてそのシステムを継いだ十二人の若き天才たち。そんな呼び名を持つことになったなんて……世の中分からない物だね」

 

アーカイブというシステムによって生み出した天才魔道士。そしてその力を振るう十二人の弟子。それがセイと聖を含めたあの場所にいた魔道士たちの役割だった。

 

空木レイと言うのは魔王として、そしてこの世界に生まれた時に与えられた名前。そしてセイと聖、そしてアラタとトリニティセブンとルーグ、そしてもう一人の少女。魔道究極術(ラスト・クエスト)を学んだ者たちはそう呼ばれるようになった。

 

「世に潜んでいた魔道士たちは社会に出られるようになったのも大きいよな」

 

「崩壊現象もほとんど無くなったし、起きても自然災害として対処できるようになったよね。エーテルにそんな力があるとは思わなかった」

 

「自然の魔力が魔道士の魔力に負ける事なんてそうないしな。あったとしても、その場の全員が死ぬなんて事にはならないさ。大体、脱力感のせいで動けなくなるぐらいだ。まったく奇跡みたいだよな」

 

「この状態が良くも悪くもセイの暴走のおかげだと思うと、なんだか悲しくなってくるね」

 

「おいおい、人聞きの悪い事を言うな。それと、俺のおかげなんかじゃないさ」

 

「……?」

 

「お前たちが頑張ったからさ。世界を、そして俺を救ってくれたのはお前たちだ。……本当に感謝しているよ」

 

「なっ……きゅ、急にどうしたんですか?身体が弱ってるから心も弱ってるんですか?」

 

「……失礼な奴だな。偶には感謝の言葉ぐらい言うさ。そうじゃなきゃ、お前たちに申し訳ないだろ?」

 

「………………」

 

顔を真っ赤にした聖はセイの視線から逃げるようにリンゴに意識を集中させた。そんな聖に首を傾げつつも、セイは改めて外を眺めた。そんな風にしていると外に出たいな、という想いに襲われる。

 

「……なぁ、聖」

 

「……なんですか?」

 

「庭に出るくらいは良いだろ?こんなに天気が良いのに部屋に籠もってるんじゃ気が滅入るばっかりだ。お前が傍にいても良いからさ、外に出たい」

 

「……しょうがないですね。良い時間ですし、庭でティータイムにしましょう。テーブルとイスは置いてありましたよね?」

 

「俺の記憶が正しければ、あったと思う」

 

「それなら良いですね。お茶を持っていきますから、先に座って待っていてください。くれぐれも、庭から出て行かないように」

 

「しないよ。まったく心配性だな」

 

「心配もします。まだあれだけの力を使った反動は残ってるんですから……」

 

英雄との戦い、そしてアラタたちとの戦いによってセイの肉体には相当の負担がかかっていた。それはたとえ魔王の身体であっても、容易に治すことは出来ないほどの物だった。

 

しかし、表面上はそれを圧し殺してセイは行動していた。情勢が一定の安定を見せると、セイは倒れた。その時になってようやく、アラタたちはセイが無理をしていたことに気付いた。

 

本来は聖もアラタたちと同じく、まだ行動をしていなければならない。だが、放っておけばすぐに無理を繰り返しそうなセイのお目付け役として家に残っていた。

 

それでは不満も残るので、交代制になっているが基本的に聖がその立場に着いていた。何故かと言うと、セイの周りにいる女性陣の中でその世話が一番上手いのが聖だったからである。

 

セイは着替えを済ませた後、庭に置いてあったイスに座って暖かな日差しを浴びながら空を見上げた。そこには雲一つない空があった。それを見ながら、ふと今までの道行きを思い出していた。

 

「……はっ。我ながら爺臭い……思い出に耽るなんて、こんな歳でするような事じゃないだろうに」

 

だが、それでもやらずにはいられなかった。セイのように濃密な人生を経験した者など、そうそういる訳がない。一度は世界を滅ぼし、その終止符を打とうとしたら邪魔された者などそうそういる訳がない。

 

「今でも思うんだよな……あの時、俺は正しかったのかと。自分のために力を欲した。言い訳はしない。ただ俺は、自分が創ったシステムを極めたかった。本当の意味で、魔王――――魔道士の頂点になりたかった」

 

魔王とは魔道という物を極めた者が至る場所。あの当時、魔道士であれば誰もが夢見た極点。そんな場所に至りたい、その場所で見る光景が一体どんな物なのか気になった。

 

「でも、まぁ……考えてみれば当たり前だよな。どれだけ努力を重ねてその極点に至っても、見る光景が変わる訳ではない。そんな物で変わる物なんて、そうたいした物じゃない」

 

実際、至った事で変わった物は大した物ではなかった。正確に言えば、当時のセイにとっては塵にも劣る何かだった。こんな物が見たかったのではない、そう当時は思ったほどだった。

 

その時見た光景も今日のような青空だった。それを言ったら、世界を滅ぼした時もこんな天気だったな、と苦笑を浮かべた。そうして日向ぼっこをしていると、後ろから誰かが抱きついてきた。

 

「……リーゼか」

 

「ありゃ、バレちゃった」

 

「そりゃあ、バレない訳がないだろ?ともかく、お帰り。隠れているレヴィとユイもな」

 

そう言うと、セイに抱きついている美女――――リーゼロッテ・シャルロックは後ろを向いた。すると、後ろの空間が歪み、そこから二人の美女――――風間レヴィと倉田ユイが現れた。

 

「自分たちもバレてたっスか。まったく、リーゼさんの所為っスよ?」

 

「そうだよ~。せっかくユイもセイお兄ちゃんをビックリさせようと思ってたのに……」

 

「あははは、ごめんごめん。それで、セイ。どうしてこんな所にいるの?」

 

「これからここでお茶にするんだ。三人とも疲れてるんだったら休んでいれば……」

 

セイが三人とも疲れているだろうと思ってそう言おうとすると、リーゼに口を人差し指で抑えられた。

 

「すぐに着替えて戻ってくるから待ってなさい。お土産もあるし、それを茶菓子にしましょう。忍者もユイもそれで良いわよね?」

 

「自分は構わないっスよ」

 

「ユイもそれで良いよ」

 

「よし、それじゃあ聖にお茶の追加を頼んでおくから、セイは待っててね」

 

「分かった。急いでないから、三人ともちょっとゆっくりしなよ。もう大体の仕事は終わったんだろ?」

 

「ええ。暫く休みが取れたし、家でゆっくりさせてもらうわ。それじゃあ、また後でね」

 

セイの頬にキスすると、リーゼは家に戻って行った。レヴィもユイも同じように頬にキスすると、家に入って行った。その後ろ姿を見送ると、セイは再びイスに座ろうとした。しかし、そこで入り口に視線を向けた。

 

そこには黒髪の美女――――アナスタシア=Lが立っていた。微笑を浮かべながらセイを見つめていたアナを見たセイは軽いため息を吐いた。

 

「……なんでそんな場所で立ち止まってるんだよ。お前も入れば良いだろう?」

 

「うん……何と言うか、未だにちょっと信じられないんだよね。ボクに帰る家があるっていうのが」

 

「まだ言うのかよ。お前はこの家の一員だ。これは前にも話しただろう?」

 

「うん、分かっては……いるんだけどね。幸せなんだけど、どうも現実味がないんだよね」

 

「十数年も一人で過ごしていたせいじゃないのか?」

 

「そんな事はないと思うけど……まあ、そうだったとしても悔やんではいないけどね」

 

「それなら別に良いじゃないか。誰もお前を拒んだりはしない。だから、気にするな」

 

「うん……」

 

「……はぁ。まったく、こういう時は聞き分けのない奴だな」

 

セイはアナの前に立つと、顔を両手で優しく包み額をぶつけた。そして言い聞かせるように呟いた。

 

「お前はここにいる。どれだけ現実味がなくても、それが真実だ。それを誰も責めたりはしない。お前は幸せになるべきなんだ。誰に構う事もなく、自分の幸せのために動けば良いんだ」

 

「僕の幸せのために……?」

 

「そうだ。辛かっただろう?苦しかっただろう?だったら、その分お前は幸せにならなきゃ嘘だ。誰もお前を拒まない。アラタやトリニティセブンの皆がお前にきつく当たったりしたか?」

 

「……ううん。そんな事はなかったよ」

 

「だろう?皆、お前の事を仲間だと思ってる。俺だってお前を大切な奴だと思ってるんだ。その皆の想いを、どうか嘘だとは言わないでくれ」

 

「そんな事は言わないよ。ただ、正直な話、ちょっと信じられないんだ。この間、新設された魔道学園に行ったんだ。そこで、子供たちの笑顔を見たんだ。その光景が、ボクには眩しく見えたんだ」

 

魔道という物は、決して人に優しくはない。それは時として人を不幸にする事すらある。アナは実際にそうだったのだから。

 

だが、目の前の少年たちはそうではないと信じていた。魔道は確かに人を救う。人を幸せにすることが出来る力だと信じていた。その光景はとても眩しくて。アナは涙をこぼしそうにすらなった。

 

「だったら誇れよ」

 

「誇る?」

 

「そうだ。子供たちがそういう顔を出来るようになったのは、俺たちが世界を変えたからだ。俺たちの頑張りが、子供たちにそういう顔をさせる事が出来るようにしたんだ。だったら、俺たちはそれを誇るべきだ」

 

そう告げると、セイはアナの額にキスをした。呆然とするアナに微笑を浮かべながらセイは告げる。

 

「お前はもう無力じゃない。何も出来ずに世界の流れに巻き込まれてしまったアナスタシア=Lという少女はもういない。ここにいるのは、子供に笑顔を振りまく事が出来るアナという一人の人間だ」

 

「ボクは……」

 

「ほら、さっさと戻れ。お前は、俺たちの家族なんだから」

 

アナを家に押し入れ、セイは自分のイスに戻った。そうして再び青空を見上げ、こう呟くのだった。

 

――――Acta est fabula(物語は終わり)と。




これで夢を目指す魔道士は終わりになります。これまでご愛読いただいた皆様、本当にありがとうございました。
自分の思い付きで始まった当作品ですが、きちんと完結させる事が出来ました。これも皆様の力あっての物だと思います。
それでは皆様、このような駄作に最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。
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