夢を目指す魔道士   作:シュトレンベルク

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魔王候補との出会い

陽気な日差しが降り注ぐ中、左眼を眼帯で隠している青年が廊下を歩いていた。青年は魔道士の集まる世界に五つだけある学園の内の一つ――――王立ビブリア学園にいた。

 

王立ビブリア学園は各国からの資金供給により運営されている、全寮制の超秘密教育機関。極秘裏で未解決事件や魔道的事件を調査・解決するための魔道士(メイガス)を育成するという目的がある。

 

他にも王立リベル学園、王立アカーシャ学園などが存在する。しかし、教育方針の違いによってそれぞれが協力し合うような事態は皆無となっている。

 

「号外!号外ですよ!今日、この学校にやってきたのは、なんと!魔王レベルの魔力の持ち主!『世界構築』までしたんですよ!」

 

金髪の少女――――セリナ=シャルロックが何かが書かれた紙をばら撒いているのを見つけた青年は、屈んで落ちている紙を拾った。そこに書かれていたのは新しく来た転入生の話だった。

 

「魔王候補、ね……あいつなら喜んで突っ込んでいきそうだな」

 

「セイさんは興味なさそうっスね」

 

「……心臓に悪いから急に後ろに現れるのは止めろ、といつも言っているだろう。いい加減、学べよレヴィ」

 

「しょうがないっスね。なにせ自分、忍者っスから」

 

青年――――セイが後ろを振り返ると手裏剣をかたどった髪留めでポニーテールというヘアスタイルで、左目部分は髪で隠れている少女――――風間レヴィがいた。

 

「忍者だからってやって良い事と悪い事があるだろ。まったく……これで実力は世界トップクラスで、戦闘能力に限定すれば五本の指に入るなんてどうかしてるぞ」

 

「まあまあ、それは良いじゃないっスか。それよりも、その転入生さんの事気にならないっスか?」

 

「ならんよ。確かに天然の魔王候補なんて珍しいだろうがな。それでも、まだずぶの素人だろう?それほど気にかける必要はないだろう」

 

「淡白っスね~もしかしたら同室になるかもしれないのに。本当に気にならないんっスか?」

 

「そうか……そういう事もあるか。完全に失念していたな」

 

「セイさんって偶に自分の特異性をコロッと忘れるっスよね……。まあ、それはそれとして。一緒に顔を見に行かないっスか?」

 

「それが言いたかっただけか。……まあ、良いか。後で学園長の所に行くんだろうし、その時で良いなら良いぞ」

 

「別に良いっスよ。それじゃ、また後で」

 

レヴィが自分の教室に向かうとセイは手元にあった紙を握り潰し、投げた。すると、紙は跡形もなく消えた。それを確認すると、窓の日差しに目を細めた。

 

「魔王候補……か。まあ、碌でもない事が待ち受けているんだろうな」

 

やれやれ、と嘆息しながらセイも自分の教室に向かった。

 

そして放課後、セイは学園長室に向かっていた。レヴィを迎えに行ったのだがいなかったので、どうせ先に行ったんだろうと判断した。そして予想通り、既にいた。

 

学園長室の前にある廊下でレヴィと見覚えのない男子生徒、そしてこの学園で最も若くして教師になった女性――――浅見リリスがいた。

 

「レヴィ」

 

「あ、丁度良い所に来たっスね。アラタさん、こちらが響セイさんっス」

 

「勝手に人の紹介をするな。まったく……改めて自己紹介だ。俺は響セイ。名前で呼んでくれて構わない。これからよろしく、魔王候補くん」

 

「俺は春日アラタ。よろしく頼むぜ、セイ。学園長から話だけは聞いてたけど」

 

「へぇ……あの人の事だから碌でもない事だったんじゃないか?」

 

「セイは魔道士(メイガス)の中でも特殊で例外だ、って聞いたんだ。確か、複数の魔道を研究してる(・・・・・・・・・・)んだよな?」

 

額を指で抑えながら首を振る。セイは学園長の魔道士としての力量は認めているが、人間としては偶に殴りたくたいと思っている。こういう秘密をペラペラと話すからだ。

 

「なるほど。リリス先生、あの人の口の軽さってどうにかならないんですか?」

 

「残念ながら、無理だと思います。アラタ、先程の学園長の話を参考にしない方が良いですよ」

 

「なんでだよ?複数の魔術が使えるってことは、それだけ魔術のコツを抑えてるって事だろ?ならそれを教えてもらえれば、聖を早く助けに行けるだろ?」

 

「そういう問題ではないんです。良いですか?普通、魔道のテーマを複数持てる者はいないんです。たとえコツを訊いても、実践できないんです」

 

「正確に言うなら、今まで実践できなかった者しかいないという事さ。お前が数少ない例外かどうかは知らんが、習っても無駄な確率は高いだろうな」

 

「それでも、魔道は可能性の塊なんだろ?だったら、俺はあきらめない。たとえ一パーセントでも可能性があるなら、俺はそれに賭けたいんだ」

 

アラタはそう言いながらセイを見た。セイはアラタのその真摯な眼を見て、考えを改めた。少なくとも、アラタには何か大きな目標があり、それを手に入れるために必死なのだと。

 

「そうだな……教える事自体は吝かではない」

 

「本当か!?」

 

「セイさん!?」

 

セイのその言葉にリリスは驚きを隠せなかった。この才能を持っているが故に、今までセイが嫌な想いをし続けてきたことを知っているからだ。

 

「だが、お前はまだ魔道士(メイガス)を目指し始めたばかりの素人だ。そんな状態のお前に教える事なんてないぞ」

 

「そうか……」

 

「そう落ち込むな。それに魔道を習うなら、トリニティセブンに訊いた方が良いぞ?」

 

トリニティセブン――――それは聖ビブリア学園において各書庫にある「秘奥義(ロスト・テクニカ)」を習得した七人に与えられる称号。「秘奥義(ロスト・テクニカ)」とは何か、という話はまたいつか。

 

「あ、そうだ。リリスと忍者以外のトリニティセブンって他にどんな奴がいるんだ?」

 

「リリス先生とレヴィ以外か?そうだな……あいつらがそうだぞ」

 

「ちょうど検閲任務に向かうところみたいっスね」

 

窓の外から下を見下ろすと、ビブリア学園の制服の上から白いローブを纏い水晶玉を持っている少女と昔のスケバン風の格好をしている女性がいた。

 

「純粋に能力だけなら、リリス先生以上の山奈ミラさん。そして攻撃力だけなら誰の追随も許さない不動アキオさんっス」

 

視線を感じたのか、ミラとアキオはセイたちの方を向いた。セイは二人に手を振ったのだが、ミラは不機嫌そうな表情で正面を向いて歩きだした。アキオはそんなミラに苦笑を浮かべ、セイに手を振るとミラを追った。

 

「ミラさん、相変わらずっスね」

 

「あいつも大概しつこいからな。まったく、困ったもんだ」

 

「不甲斐ないと思ってるんでしょうね。ミラさんはセイさんの事をとても尊敬していましたから……」

 

「リリス先生、そんな俺が悪いみたいな言い方は勘弁してもらえませんか?そもそも、俺が検閲官をしてたのはあいつの穴を埋める、っていうその場凌ぎの政策のせいじゃないですか」

 

「それはミラさんも分かっていると思いますよ?でも、理屈の問題じゃないんでしょうね……」

 

「お~い、俺をそっちのけで話を進めないでくれよ」

 

「あ、すいませんアラタ。そうだ、セイさん。アラタはセイさんと同じ部屋なので、仲良くしてくださいね」

 

「分かりました。これから色々とよろしくな、アラタ」

 

「ああ、よろしく頼むわ」

 

それからセイはアラタたちと別れ、図書館で研究に没頭した。そして食事も忘れて続けていると、徐に腹が鳴った。それを合図に研究を中断して食事を取った。

 

「あれ、アラタいないのか。……ああ、風呂か。折角だし俺も行くか」

 

そして風呂の準備をすると大浴場に向かった。すると――――腰にタオルを巻いただけのアラタ、そして後ろを向きながら顔を赤くしているリリスがいた。

 

「お前、何やってんだよ……」

 

「聞いてくれよ、セイ!風呂に聖が、俺の探してる奴がいたんだよ!」

 

「風呂?……ああ、アリンか。あいつ、また男子風呂にいたのか?」

 

「セイさん、知ってたんですか!?」

 

「偶に俺が出た直後とか入る前に出て行くのを見ましたけど……俺もあいつもまったく気にしてませんでした」

 

「ええっ!?お前、正気か!?」

 

「いや、別にアリンに欲情するほど飢えてないし。あれほどそそらない女も珍しいぞ?」

 

天然キャラな上にたとえ浴場で裸体を異性に見られても、一切恥じらいを見せないどころか怒ることもない。セイはそんな女に欲情する男がいるとは到底思えなかった。

 

「俺もあいつも、お互いをそういう対象として認識してないんだ。だから、欲情なんてするわけないさ」

 

「お前、枯れてんのか?それとも、ゲイなのか?」

 

「違うわ。今は研究で忙しいんだよ。そこまで飢えてない、っていうだけだ。俺らの世代なら皆、飢えているって訳じゃないんだぞ?」

 

「……って、それどころじゃありません!」

 

リリスは二人の漫才じみた会話を無視して入っていくと、そこにはタオルを巻いて牛乳を飲んでいる一人の少女――――神無月アリンがいた。

 

「アリンさんっ!こちらは男性用なんですよ!?」

 

「……誰もいないから静かでいいと思って」

 

「今まででも誰かいましたし、これからも誰かいるんですっ!!」

 

「私は気にしない」

 

「気にして下さい!!」

 

「ああ……きゃー」

 

「タイミングが違います!」

 

完全に棒読みのアリンとそんなアリンにツッコミを入れるリリス。余りに漫才じみた光景にセイは思わず微笑を浮かべた。そしてその在り様は、セイは頭に何かも何処かもわからない光景が頭によぎった。

 

「……っ!」

 

同時に起こった痛みに顔を顰め、頭を振った。しかし粘つくように張り付くその痛みは、中々剥がれなかった。まるでそれが本来の自分であるのだ、と告げているかのように……。

 

「はあ……魔道書よ」

 

「おいしかったな?」

 

「ん……?それがお前の魔道書か?アラタ」

 

「ああ、そうだぜ。これからよろしくな、セイ」

 

「お前、まさか……」

 

セイはその魔導書の正体が何か分かった。そして魔王候補という存在の特殊性もよく分かった。セイは魔王候補というのは世界から良くも悪くも干渉される相手なんだな、と思った。

 

「しかしトリニティセブン、ね……オレにとって重要な位置付けになる――――そんな気がする……」

 

「……そんな黄昏なくても良いだろうに」

 

「うるせぇな。良いだろ、別に」

 

窓を見上げながらそう呟いたアラタに思わずセイは口を挟んだ。

 

「キャアアア! ちゃんとズボンも履いて下さい!!」

 

「あ、忘れてた」

 

また漫才じみたそれがあった頃にはセイの頭痛も消えていた。




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