翌日の昼休み、食堂でアラタと共に食事を取っていたセイは困惑していた。
「なあ、アラタ……どういう事だ?」
「俺が訊きたいぐらいだ……」
アラタとセイが完全に困惑しきっていた理由。それの原因は――――アラタの隣に座りずっとアラタを見つめているアリンだった。
「じぃーーーーーーーー」
アリンの視線は授業が終わった後も続いていた。アラタと共にトイレに向かおうとした時も続いていた為、流石にアラタがストップをかけた。
「いやいやいや!!流石にここはダメだろ!」
「私は構わないわ」
「俺が構うわっ!!」
「難しいのね……」
「全然難しくないだろう……」
セイは今日、珍しく魔術の研究をしていなかった。アラタに魔道のレクチャーを頼まれたからだ。そして部屋に戻ると――――リリスとセリナ、そしてレヴィがいた。
「で、何で俺たちの部屋にお前らがいるんだ?」
「取材です!」
「その野次馬っス」
「ゴホンっ!わ、私はこんな時間に女子が男子の部屋にいるというのが教師として見過ごせず……」
「いや……リリスもオレと同い年じゃねーか」
「ですが立場は教師ですからっ」
「……とりあえず、レヴィ。お前は後で説教な」
鍵を持っているのがセイとアラタだけな上に、入ってくるのにアラタが鍵を開けたのだ。この状況で鍵を開けて入れるのはレヴィだけだ。
「ま、まぁ、それは良いじゃないッスか」
「はぁ……それで?なんでこの部屋に?」
「取材です!魔王候補はみんなの注目の的ですから!」
「ふぅ……ここでもか……。そうだな、好きな食べ物は唐揚げだ」
「ですってよ!リリス先生!」
「どうして私に振るんですか!セリナさん!」
それは言わぬが華だろう。と思いはしたものの、口にはしなかった。何をされるか分かった物ではなかったからだ。
「忍者特性唐揚げ……食べてみるっスか?惚れ薬入りっスけど」
「ぜひっ!」
「アラタ!」
「惚れ薬入りでいいんですか?」
「まぁ、滅多に食えるもんじゃねぇしな」
「では惚れ薬で野獣化したら、まず誰を襲うんですか?」
「そうだなぁ……胸の大きい順じゃないか?」
アラタがそう言った瞬間、リリスは胸を隠した。それ、逆効果だって気づいてないのかな……?とセイは思っていた。口にはしていない。オチが見えてるから。
「アラタッ!本当にあなたって人は!」
「まあまあ、みんな悪ノリしてるだけじゃねぇか。そうだ、部屋に来たついでに魔道について教えてくれよ」
「え? あ、はい……」
そんな二人のやり取りを見て三人でしゃがみこんで語り合っていた。
「リリス先生……さすがにちょろ過ぎるだろ」
「リリス先生は、根っからの教師ですからねー」
「ああやって上手く勉強に持っていかれると、弱い訳っスね」
「だめよ……こんなのいけないわ……私達、教師と生徒なのよ?」
「オレ……リリスのこと、もっと知りたい……!!」
「アラタ……」
「――――という夜のレッスンにゆくゆくは……」
今のはレヴィが全部吹き替えでやった。あまりにそっくりだったので、正直セイはドン引き状態だった
「なりませんっ!!」
「それにしてもリリス先生いじり、可愛いです」
「萌えリリスっスね」
「あなたたちはっ!」
「まあまあ……落ち着いて下さい」
「なぁリリス、コイツはそもそも一体何なんだ?」
「…………」
そう訊いたアラタに対してリリスは口ごもっていた。流石にビッグネーム過ぎるからだろう、と判断したセイは先んじてその名を告げた。
「アスティルの写本……でしょう?リリス先生」
「セイさんはさすがに知っていましたか……」
「伝説の魔道書の一つですよ?知らない訳がありません。……とはいえ、確証はないですけど」
「アスティルの写本!?」
「……それって本当なんっスか?」
「……あくまで学園長が言うには、ですよ?」
あの人が言うなら十分すぎる証拠だと思う、とセイは思った。あれでも世界で五指に入るほどの
それでも、アラタが魔王候補であるという事はやはり偶然ではないのだと確信した。魔王候補と伝説の魔導書が偶然一緒にいた、などという言葉を信じる事はセイには出来ない。
「……そんな大層な代物なのか。って、寝てるし」
「……爆睡だな」
「その写本については、本当に詳しいことは分かっていないんです。何せ存在自体が伝説のようなものでしたから」
「それに普通、魔導書は自分で探す物だ。アラタの場合はあくまでも例外って事だ」
「そうなのか?それじゃあ、セイの魔導書って……」
アラタがセイの魔導書に関して問おうとした瞬間、巨大な音が響き渡った。そしてそれと同時に、大きな揺れが生じた。しかも、その直後に部屋が真っ暗になった。
「うわわわわわっ、一体何なんですか!?」
「地震と停電!?」
アラタがそう言ったが、セイは内心では違うと確信していた。何故なら、前兆のような物が一切としてなかったからだ。
「ちょっと!? どこ触ってるんですか!?」
「んん……っ。そこは違うっスよ……」
「お、重い……!」
「どうやら結界に閉じ込められたっぽいな……ちっ、しょうがねえ」
魔導書がそう言うと、辺りが明るくなっていった。どうやら魔道書自体が発光して、部屋の灯り代わりになってくれているらしい。部屋が明るくなったことにより、周りの様子も明らかとなっていく。
現在の状況を説明すると、アラタはリリスのおっぱいを鷲掴みにしていた。そしてセリナはレヴィとリリス、そしてアラタの体重を一人で受け止めていた。ちなみにセイだけは何とか踏ん張って衝撃に耐えていたので、一人だけ立っていた。
「……きゃあああああああっ!!」
もちろんというか当たり前と言うか、リリスの悲鳴と同時に甲高い音が鳴り響いたのは言うまでもない事だろう。リリスに一発痛いのを貰ったアラタは全員で部屋の状況を確認した。
「……ノブすら回らないな」
「窓も開かないっス」
確認したが現状、脱出する手段がまったくない事が判明しただけだった。アラタは手元にあった魔導書に訊いた。
「ふむ……結界ってのは?」
「お前さんが作った異世界の、かなりスモール版さね」
「ああ……箱庭作りみたいなもんか」
魔道書からの説明を、サラリと受け流すアラタ。スモール版とはいえ閉じ込められてしまっているのは、あまり宜しくない状況だった。
「ず、随分あっさりと凄いこと言ってますね……」
「よく分からん以上、動揺しても仕方ないだろ。なぁ、セイ?」
「その通りだな。不安に思っても時間の無駄さ」
「ホント、動じない人達っスね……」
「結界で空間が断絶されている……とかでしょうか。長年通ってますが、こんなのは初めてです……」
「まっ、その辺りを考えて脱出するのが、今回のゲームなんだろうさ」
「ゲーム?お前、ひょっとして脱出方法知ってるだろ……?」
「そういう事か……まったく面倒な事をしてくれるな」
セイは扉の方を見つめながらそう呟いた。いや、扉を見ているというよりはその向こうの誰かを見ていると言った方が正確だろう。実際、見ていた学園長は苦笑を浮かべていた。
「いやぁ、流石はセイくんだ。こちらの意図に気付いたみたいだね。まあ、彼ならこちらの要望通りに動いてくれるだろうから、心配いらないか」
「ちょっと考えればすぐに分かるようなレベルだから、心配はいらないさ」
アスティルの写本なんてビッグネームにそんな事を言われても、セイにとっては気休めにもなっていなかった。
「ふあー……そんな訳だから、クリア出来たら呼んでくれ。お休み……」
「まだ寝んのかよ!?」
アスティルの写本が眠りにつくと、保っていた光も消えてしまった。アラタはため息を吐きつつも、アスティルの写本に語りかけた。
「おい、魔道書。寝るのは構わないけど、灯りだけは何とかしてくれ」
「あいよー」
すると、光が戻った。完全に役に立たない状態の魔導書をベッドの柱に立てかけると、全員で考え始めた。そんな中、セイはただ一人部屋に置いてあった本を読んでいた。
「……セイ、なんでそんなに余裕そうなんだ?」
「ん?何となく意図は読めてるし、これの目的は俺じゃない。それに最悪、全部しらみつぶしに探せばいい。慌てるだけ無意味さ」
「……閉じ込められたってのに、緊張感ないっスね」
「まあ、慌てても何もなんねーしな。さすがにセイほど余裕じゃないけど……とりあえずは出来る事を試すとしようかっ!」
アラタはそう言うと、傍に置いてあった椅子を持って扉に思いっきり投げつけた。力一杯投げられた椅子は粉々に砕け散った。
「アラタ!一体、何を……?」
「ふむ……椅子が壊れてしまったが、大した問題じゃないな」
「問題ですよ!! いきなり何を!?……あっ、なるほど。常識外れな行為っていうのを試しているのですね」
「ああ。自分の常識から外れた物が魔道だっていうなら、常識から外れた行為がこの部屋から出るキーだと思ったんだが……違ったみたいだな」
「おお……なんか格好いいですね!」
「問題は自分の常識から外れた物は証明する事が難しいという事だ」
「うわぁ……格好悪いですね」
「しょうがない……セイの言う通り、虱潰しで探すしかないか」
それからアラタたちは部屋を虱潰しで探した。しかし、まったく見つからなかったのでアラタはあきらめて寝るか、と言い出した。
「いやいや、諦めちゃ駄目でしょ!?」
「そうっスよ、アラタさん。それに問題が一つあるっス」
「?なんだよ」
「この部屋にはトイレがないっス」
「……大丈夫。いざという時は――――黙っておくから」
「そういう問題じゃないですよっ!」
アラタとレヴィたちがそんな掛け合いをしている中、ふとアラタがリリスの方を向くと床に座り込んでいた。
「……ん?どうしたんだよ、リリス」
「え!?い、いえ、なんでもありませんよ?」
「……!ま、まさか……トイレに行きたい、とか?」
「あ……いえ……あの……その……」
必死に誤魔化そうとあれこれ身振り手振りをするリリスだったが、急にまた大人しく黙った。これに慌てだしたのは同じ女性であるレヴィとセリナだった。
「た、大変ですよ!これは一大事です!」
「早く出口を探すっス!セイ!」
「……ん?もう良いのか?意外と早かったな」
セイは明らかに今までのやり取りを聞いていなかったようなリアクションを返した。そして本を机の上に置くと、鍵付きのタンスを開けた。そこにはアスティルの写本のように鎖で縛られている本があった。
「それが……セイの魔導書か?」
「そうだ。これが俺の魔導書――――『カルナディア断片』だ」
セイは魔導書を縛っている鎖を手に巻き付かせた。そして魔導書にデコピンを繰り出した。すると何処からか声がした。
「起きろ、
『んあ……おや、マスター。久しぶりだな。私はどれぐらい寝てた?』
「お前の顔を見るのは三ヶ月ぶりくらいだよ。お前の代替の方が優秀ってどういうことだよ」
『ニャハハハハ!そりゃあ、しょうがねえ。私はあくまでも戦闘を主眼に置いた魔導書だからな。研究なんて範疇にないんだよ』
「魔道士を真っ向から否定するなよ……まあ、今は良い。やるぞ」
『応よ、マスター!』
「
魔導書から鎖が外れ、魔導書のページが凄い勢いで捲られていく。セイの姿が変化したりするような分かりやすい物はなかったが、確かに変わった事をアラタは実感した。
「……レヴィ、そのベッドを上に吹っ飛ばせ!セリナは魔力基点のサーチ!リリス先生は結界の破壊を!」
「忍法、ちゃぶ台返し――――ベッドバージョン!」
「魔力サーチ……魔力基点発見!」
「結界破壊!」
リリスが出現させた銃で結界の大元である魔力基点を破壊したことで、結界が消えた。アラタがドアを蹴破ると、リリスたちは慌てて部屋を出て行ったのだった。