夢を目指す魔道士   作:シュトレンベルク

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第4話

セイはアラタと共に部屋から出ると伸びをした。

 

『一瞬で部屋を覆って異物を感知したのか。面白いテーマだな』

 

『あれ、アスティルの写本じゃん。あんた、なんでこんな所にいるの?』

 

『お前さんも同じだろ?カルナディア断片』

 

『私は成り行きみたいな物かな。マスターも中々面白いしね。あんたのマスターも中々面白そうだね。どんなテーマを選ぶのか、楽しみだよ』

 

「そうだ。なぁ、テーマを決めると何か良い事でもあるのか?」

 

『はぁ?お前さん、知らないで訊いてたのか?』

 

「訊こうと思った時に、結界が発動したんだよ」

 

「テーマと言うのは」

 

「ん?」

 

アラタが振り返ると、そこにはアリンが立っていた。セイは我関せずと言わんばかりに窓に凭れ掛かっていた。

 

「魔道士が生涯をかけて研究するものよ。その研究結果を『実行』する事で魔道士は自分の魔力を術式として使う事が出来るの」

 

「面倒な事をしてくれたな、アリン」

 

「やっぱり結界を張ったのはお前だったのか」

 

「まさかあんな方法で出てくるとは思わなかったわ」

 

「そりゃあな。まさかいきなりあんな事をされるとも思わなかったけどな」

 

「怒ってる?」

 

「いや。美少女が便意を我慢している姿……中々そそられた。ありがとう!」

 

「ドン引きだよ、お前……」

 

セイは本気で引いているような表情を浮かべながら、アラタを見た。

 

「オションが好きなの?……じゃあここで……」

 

「いやいや!それはマニアック過ぎだから!」

 

「そうなの?……難しいのね」

 

「アハハ!こいつ相手だとお前もすっかりツッコミキャラだな」

 

「ああ。なんか調子狂うんだよな」

 

「聖に似てるからか?」

 

聖。その名を聞いた瞬間、一瞬頭に痛みが奔った。しかし、一瞬だったのでそこまで気にしなかった。

 

「かもしれん」

 

アリンはアラタの手元にある魔導書――――アスティルの写本をじっと見つめていた。

 

「魔道書?」

 

「初めまして、だな。私は『アスティルの写本』だ。名前はまだない」

 

「私は神無月アリン」

 

「なるほどー、アリンちゃんか!よろしくな!」

 

「よろしく」

 

「いきなり親しげだな……ていうか何でいきなり部屋を閉鎖するような真似したんだ?」

 

「そりゃあ、お前が『魔王候補』だからだろうな」

 

「そのちょくちょく言われるんだが『魔王候補』ってそもそも何なんだ?」

 

「……悪い奴の親玉?」

 

「流石に安直すぎて説明になってないが……その通りだろうな」

 

「それがあなた」

 

「そこはもう少し説明してくれる所だろ……?」

 

「そう学園長が言ってたの」

 

「「学園長?」」

 

アラタとセイの声が重なった瞬間、セイは窓の外に魔力反応を感知した。窓から離れ、振り返ると明らかに不審者としか言えない男――――学園長が突っ込んできていた。

 

「呼ばれて飛び出ぐわばっ!?」

 

セイは身体を回転させながら、学園長(ヘンタイ)が窓を割ってきた瞬間に合わせて回し蹴りを放ち、錐もみ状態にして吹き飛ばす事で追い返した。

 

「「………………」」

 

「ふぅ……ん?どうした?」

 

「いや、まさかあんな風に追い返すとは思ってなかったから……」

 

「そんな事言ったって、どうせ放置するつもりだったんだろう?」

 

「流石に俺でもあれは対処できないからな。ツッコミ役のリリスの所に避難するつもりだった」

 

「だろ?悪ふざけはよく分からない領域で本気出すからな。本音か建て前か分からない時があるんだ。……まあ、今のは完全に悪ふざけだったけどな」

 

「なるほど。それじゃあ、俺たちはリリスの所に行って来るわ」

 

「そうか。それじゃあ、俺は散歩にでも行くかな。俺が一緒にいても仕方がないだろうし」

 

そうしてアラタたちと別れたセイは特に行く当てもなく歩き回った。そしてベンチに座ると、持っている魔導書を目線まで掲げた。

 

「それで?久しぶりに起きた感覚は如何だ?」

 

『うん?そうだな……マスター、随分と染まってきてるね(・・・・・・・・)

 

起きてから時間が経ったからなのか、きちんと目覚めている『カルナディア断片』がそう告げた。

 

「………………」

 

『ちょっと、黙らないでよマスター。あんたが振ってきた話題だろう?あれから魔道の研究も随分と進んでいるみたいだし、順調と言ってもいいんじゃない?』

 

「順調、ね……」

 

セイはまるで皮肉気味な言葉を告げられたかのように、セイは苦笑を浮かべる。

 

『浸食具合から言って……書庫(アーカイブ)が三つ或いは四つと言った具合かな?魔道士としての完成は近いと言っても良い』

 

魔道士としての完成。それが一体どういう意味なのか、セイは分かっていない。どういう道筋を辿るのか、そしてそれがもたらす結果がどういう物なのかも分かっていない。

 

しかし、それが望みなのだという事は分かっている。セイの望みではない。この魔導書を創りあげ、セイに与えた者はセイがその場所まで至る事を望んでいる。

 

だからこそ、この魔導書はセイがその場所まで到達する事を歓迎している。その結果、どうなるのかはこの魔導書も分かっていない。ただ、その場所に往きつく事が出来ればそれで良い。

 

だからこそセイ()を成長させてくれるなら、どのような事態でも許容する。そう、それがたとえ――――世界の滅び《崩壊現象》であっても。

 

「……崩壊現象。発生源は……保健室か!」

 

発生源を瞬く間に感知し、その場所へと向かう。それが一体、どういう事態を招き寄せるのか知らない訳ではないと言うのに。

 

そうして保健室に辿り着くとそこには――――膨大な魔力を撒き散らしているアラタの姿があった。銃を構えるリリスとそれを遮るアリンの姿も。

 

「やはり、か……」

 

覚悟はしていた。崩壊現象とはそう易々と起きる現象ではない。膨大な魔力が発生させるそれを起こす事が出来る、という条件を持っているのは数少ない。アラタはその数少ない者の一人である。

 

『アハハハハッ!流石に警戒心がなさすぎるんじゃないの?アスティルの写本』

 

『カナルディア断片……!』

 

『マスター、この場合どうするべきか……分からない訳じゃないでしょう?』

 

「……ああ、分かっている。この時にするべき行動は……」

 

セイの手元にある魔導書が光り始める。それは『カルナディア断片』の代替と呼ばれた魔導書であり、セイの魔道の研究を一手に担っている魔導書。

 

傲慢(スペルヴィア)書庫(アーカイブ)に接続――――テーマを実行する」

 

魔導書が姿を変え、魔道士が魔術を使う上で最も使いやすいと思う姿――――メイガスモードにセイの姿を変化させる。そして魔術が発動させようとした瞬間、リリスの背後から壁を破砕するような音が響いた。

 

「なるほどな。そいつを止めるだけでいいのか~」

 

「あ、あなた方は王立図書館検閲官首席(グリモワールトップセキュリティ)の山奈ミラさんと検閲官参席(セキュリティサード)の不動アキオさん!」

 

リリスがそう叫ぶ中、セイは二人に何をしに来たのかと言わんばかりの視線を向ける。セイ(自分)がこの学園にいるのは、こういう事態に対処するためだと言うのに――――

 

「……こりゃビックリだな。崩壊現象を止めて帰ってきたら、まさか学園でも発生してるとはな」

 

「そんな……確か検閲任務中のあなた方が、何故ここに!?」

 

「そんなもん瞬殺で帰ってきたよ」

 

王立図書館検閲官(グリモワールセキュリティ)の首席と参席ならば、一切おかしくない事ではある。しかし、リリスは動揺を隠せなかった。ある意味で、その有能さが問題となっているのだから仕方のない事ではあるのだが。

 

「崩壊が、停止させられている……」

 

「私の魔術で、同等の崩壊の力をぶつけ、中和しています」

 

「っ!?」

 

「私の『傲慢(スペルビア)』の書庫(アーカイブ)に属するテーマ『正義(ユースティア)』の名の下に、私の前で一切の不浄は許しません!!」

 

山奈ミラ――――傲慢(スペルビア)書庫(アーカイブ)を司るトリニティセブン。そのテーマである正義(ユースティティア)を持っている彼女は魔の象徴たる魔王候補を肯定できない。

 

「アキオ、そこの男を殺して下さい。その男が『崩壊現象』の基点です」

 

「アッサリ言ってくれるぜ」

 

そう言いながらも笑みを浮かべながら、アキオの魔術――――真言術(マントラ・エンチャント)を発動させる。それによって右足が光り出した。

 

「いけません!アキオさん!」

 

「……ッ!体が……動かないわ」

 

「悪く思わないでくれよ?『魔』を討つのが私の役目なんでねっ!」

 

 

「なら――――今、それを阻むのが『友達』の役目だよな?」

 

 

アラタを中心に置いた六角水晶が出現する。それを見た瞬間、アキオは攻撃を止めた。それが一体どういう魔術で、それに攻撃するという事がどういう事を意味するのかを知っているから。

 

「セイ……お前、どういうつもりだ?」

 

「どういうつもり?そんな事を問うてどうする?俺のテーマが何で、それがどういう意図で作用するのかなんてお前は良く知っているだろう?」

 

「……ああ、よく知ってるさ。よく考えれば条件もぴったりだな」

 

セイのテーマ。それは――――

 

「『支配(インペル)』。誰かを守るために支配する。それがお前のテーマだものな」

 

――――守護のための『支配』。

 

覇王のように攻撃的な『支配』ではなく、まるで英雄のような守護的な『支配』。攻撃的な『支配』であれば誰もが簡単に想像できるだろう。大きく見れば王。そして独裁者。小さく見ればガキ大将。いじめっ子のトップ。

 

だが、守護を代弁する『支配』とは何だろうか?化け物を殺す英雄か?それとも世界を救う勇者か?或いは人々に教えを行う聖人か?どれにしてもそれは民の味方であり、力無き人々が尊敬の念を向ける対象だ。

 

しかし――――忘れる事なかれ。魔道の本質(テーマ)とは術者の本質の『否定』である事を。術者から最も遠い事柄こそがその人物の本質(テーマ)となるという事を。

 

「そうだ。これこそが俺のテーマ。そして俺がそのテーマを捨てない限り、俺がそれを止める気はない」

 

そう、その魔術こそが証明していた。セイの歪さを。己が決して正義ではないと断じながらも、何の痛痒も感じていないその歪みを。

 

「どうせ見ているんだろう?ユイ!」

 

セイは徐にそう言った。すると――――

 

『何?セイお兄ちゃん』

 

「アラタの事を任せた。お前ならそれぐらいは出来るだろう」

 

『分かった!」

 

その返事が聞こえるのと同時にアラタの身体は跡形もなく消えるのだった。

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