ハリー・ポッターという恐ろしい世界で 作:リクタスセンプラ
それでは、第一話をどうぞ。
オカシイと気がつくのは早かった。
交通事故に遭い、自分の頭から流れていく大量の血を眺めながら意識を失ったはずの俺が、目を覚ましたときには赤ん坊の姿になっていたのだから。これをオカシイと思わない人間はどうかしている。
小さな手を見て、小さな足を見て、外国人の男と女を見て、その二人が自分をダレンと呼ぶのを聞いて、俺は混乱した。パニックになり、泣き叫んだ。
状況をまともに把握出来ていなかった俺だったが、自分は転生したのだ、と心の底で分かっていた。
それはネット小説の影響だったかもしれない。信じてはいなかったがそういう宗教があることを知っていたからかもしれない。
とにかく、働き盛りの年齢だった自分は事故に遭って死に、それから新たな命を授かったということは認識していた。
時間を置いて、しっかりと状況を受け入れたた俺は転生したことを喜んだ。
前世の父と母と別れたことは悲しかったし、先に死んだことは申し訳なかったが、知識と記憶を引き継いだ状態で赤ん坊からやり直せることは非情に魅力的だった。それに過去の自分が日本人であったこともあり、外国人としての人生に興味がわいた。イージーモードで生きていけると思った。
しかし、今俺が生きている世界が前世の世界と大きく異なる世界だと知ると、その考えは変わった。
まさか『ハリー・ポッター』の世界で生きているとは思っていなかった。それもヴォルデモートが赤ん坊に倒されたばかりの時期に。
イージーモードなんてとんでもない。俺の人生はヘルモードだった。転生の喜びは絶望に変わった。自分がハリーと同い年だと知ると尚更。
『ハリー・ポッター』の原作は何度も読んだし、映画は台詞を所々覚える程見た。俺はそれ程、『ハリー・ポッター』が好きだ。
それでも自分が『ハリー・ポッター』の世界に入ったことは全く嬉しくない。なぜなら、死で満ちあふれている世界だからだ。
ハリーの周りだけでもあんなにも多くの人が死んでいるのだ。原作には詳しく書かれていなかったが、多くの人がヴォルデモートたちに殺されているのだろう。そんな世界、恐くて仕方が無い。
転生したからと言って死が恐くなくなる訳ではない。むしろ、次に死んだとき自分はどうなってしまうのかを考えてしまい、前世よりも死を恐ろしく思っている。
俺は四歳にして、死なないためにはどうすれば良いのか考えるようになった。
最初に考えたのは、原作組と関わらないようにすることだ。彼らと関わるだけでどれほど危険度が増していくことか分からない。
原作組と関わらないようにするために肝心なことは、グリフィンドールとスリザリンに入らないことだ。それだけでリスクが大幅に減る。
自分が心優しき者ではないことは分かっているから、ハッフルパフに入れるとは思えない。俺は若干スリザリン気質だと思う。
そこで俺は、レイブンクローを狙うことにした。あそこは勉学の才能を持つ者だけではなく、努力で知恵を得た者も選んでくれる。
俺は四歳から魔法の勉強し始めた。
両親が教育熱心なこともあり、大量の本や魔法薬の材料を用意してくれた。本来なら駄目なことらしいのだが、杖を貸してくれることもあった。
家族の支援と、大人の理性と子供のスポンジのような記憶力を利用して、俺は瞬く間に魔法の知識を身につけ始めた。
家族は俺を天才だと思い、褒め称えた。そして俺のことを周囲に自慢し始めた。過剰すぎる程に。
八歳の時に、俺は一人だけでマルフォイ家に招待された。恐らく俺が天才児という噂が流れていることが気に入らなかったのだろう。教育熱心のうえに親バカのルシウスのことだからあり得る。
関わると碌なことにならないことが分かっているルシウスに目をつけられたくなかった俺は、自分は天才ではないと何度も説明した。
それでもルシウスが薄ら寒い笑みを消さなかったので、ドラコのことを何度も褒めた。画面越しでなく、目の前に座りながらルシウスと話したことで、雰囲気に圧倒されてしまい、ドラコのことを上手く褒められたか不安であったが、ルシウスは胡散臭い笑みを引っ込めたのだからきっと上手く行ったのだろう。
そのあと夕食をマルフォイ一家と共にし、何事も無く家に帰らせてもらった。
マルフォイ家の家に行ってから数ヶ月経った頃、俺が天才であるという話しが勢い良く広まり始めた。
両親は喜んでいたが、俺は辛くてたまらなかった。家に訪れる人は俺を変な目で見るし、他所の家のパーティーに何度も招待されるようになったからだ。見せ物になるのは嬉しくない。それに日本人だった過去を引き摺っている影響でパーティーには苦手意識がある。
どうしてこうなったのかを聞いてみれば、ルシウスが俺を天才だと広めているらしい。訳が分からない。俺が何度も天才じゃないと説明したというのに。
恐らくだが、俺がドラコをあまりに褒めたせいで気を良くし過ぎたのだ。ドラコからめんどくさい手紙が届くようになったし、取り巻きにでもするつもりなのかもしれない。
原作組に関わらないように努力したが、かえって関わるようになってしまった。
「ダレン、準備は出来たの!?」
下の階から母の声が聞こえる。俺はその声を聞いて、とんでもなく憂鬱になった。
十一歳になり、ホグワーツから入学を奨める手紙が届く。ホグワーツに入学を希望し、教科書と必要な教材をダイアゴン横丁に買いにいく。ここまでは良かった。だけどマルフォイ家と一緒にダイアゴン横丁に行くってのは可笑しいだろ!? ドラコとそこまで仲がいい訳じゃないし、不自然すぎる! やっぱりルシウスに目をつけられてるんだろうか……。
「ダレン、早くしなさい!」
「分かりました! 今行きます!」
ハリーと顔を会わないようにしなきゃ。はぁ、憂鬱だ……。
下の階の部屋に行くと、余所行き用の洒落た服を着た両親が待っていた。
「遅かったな。何かあったか?」
父は自分の服を弄りながら答えた。
父がダイアゴン横丁に行く理由は、息子の買い物に付き合うためではなく、ルシウスとの仲を良くするためなのだろう。大人気ないが、少し寂しく感じた。
「いえ、少し準備にもたついていただけです」
「そうか。すぐに出発するがいいか?」
「はい」
父は俺の返事にうなずくと、部屋に設置された暖炉に近づいた。そして暖炉の横に付いている鉢から
父は勢い良く燃え上がる緑色の炎の中に入り込むと、小さな声で行き先を告げた。
「ダイアゴン横丁」
父の姿が一瞬揺らぎ、そして消えた。
「さぁ、あなたの番よ」
俺は煙突飛行が苦手だ。家にある暖炉は高級品で酔いにくいそうなのだが、それでも気分が悪くなる。いつも思うのだが、回転しない方法は無いのだろうか。
心の中で文句を言いながら、鉢から
俺は煙突飛行が苦手だ。けど嫌いじゃない。
なぜって、カッコいいからに決まってるだろ。
「”ダイアゴン横丁”!」
俺は鋭い声で言った。
今回はダレンのヘタレ要素と厨二病要素を書いてみました。
さて、この要素はどのような影響をもたらすのでしょうか?お楽しみに