ハリー・ポッターという恐ろしい世界で   作:リクタスセンプラ

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第三話 ダイアゴン横丁で 後編

 マダムマルキンの洋装店からドラコが出てくるのを確認した俺は、心と身体が喜びに包まれるのを感じた。

 俺が服を仕立てている間、ハリーは洋装店にやって来なかった。そして原作の修正力というモノがあると聞いたことがあった俺は、ドラコの仕立てが終わるまで洋装店の外で待っていたのだが、その間もハリーはやって来なかった。時間稼ぎは上手く行ったのだ。

 ハリーが来た場合どういった会話になるのか分からないが、ハリーにドラコと同じような人間だと思われる可能性がなくなったということだ。顔を合わせるだけで俺の立場が大きく変わるとは思わないが、用心するにこしたことは無い。

 

「ごめん、待たせた。ーー父上たちのところに戻ろうと思うが、いいかな?」

 

 ドラコの問いかけを聞いた俺は魔法製の腕時計を見た。

 

「そうだな。そろそろ戻った方が良いかもしれない」

「じゃあ、行こうか」

 

 ドラコが歩きながら俺に話しかけてくる。

 

「杖を買った後に動物を買いに行こうよ」

「あぁ、いいよ」

 

 動物か……。魔法界には賢い動物が多いんだよな。愛玩としてだけでなく、生活の役に立つことがある。気に入った動物がいれば買うのもいいかもしれない。

 

「僕はふくろうが欲しいな。遠くまで手紙を送れるような強い奴。いや……スピードが出る奴でも良いかもしれない」

 

 確か原作でドラコは大きいふくろうを飼っていたな。カッコいいからみたいな理由で選んだと思っていたが、機能性を重視していたのか。

ドラコは子供っぽいという印象があったが修正した方が良いかもしれない。

 

「ダレンはどんな動物がいいんだい?」

「そうだな。んー、忠誠心が高いのを選びたいかな」

 

 きっと魔法界の動物の躾は難しい。色々な役割を与えることになることを考えると、生半可な躾だと駄目だと思うし。

そういうことを考えると最初から忠誠心が高くてやりやすい方が嬉しい。

 

「……忠誠心か。確かに大切だね……」

 

 ドラコに引かれたようだ。

役に立つと言ってもあくまでペットになのだから、忠誠を求めるのは見当違いなのかもしれない。

 

「まぁ、実際に見てみなきゃ分からないけどな」

「確かにそうだね」

 

 俺たちは店の商品や買い物客の様子を眺めながら、ルシウスたちの元へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 「随分と時間がかかったな」

 

 店に戻って来た俺たちにルシウスが声を掛けた。

 

「すみません。俺が色々な店を見て廻ってしまったんです」

「ほう……。意外なこともあるものだ」

 

 ルシウスは僅かに目を大きく開きながら言った。

 

「面白いモノでもあったのか?」

 

 ルシウスは興味深そうな顔をしている。

 

「えー、どれもこれも面白かったですね…」

 

 ーーこれは困ったな。

 まさか会話を引き延ばされるとは思っていなかったから、返答を考えてもいなかった。

 

「ダレンはくだらないと思う商品でもじっくりと観察していました。こういうところが天才と言われる理由なのでしょうね」

 

 驚くべきことに、ドラコがフォローを入れてきた。

 チラリと隣を見ると、ドラコが目が合った。そこで俺はフォローの理由を察した。ドラコは俺と一緒に叱られるのが嫌なのだ。

 

「なるほど……。確かにそうかもしれない」

 

 一体何を納得したっていうんだ。

……もしかしたらルシウスみたいな偉い人になると雰囲気で納得しなきゃ行けないときがあるのか。たぶんそうだ。立場ってやつがあるのだ。

 

「このままオリバンダーのところに杖を買いに行くぞ。少し時間を押している」

 

 マルフォイ家が誰かを卑下することが多いのはそういったストレスがあるからなのか? ……流石に違うか。

 というか、なぜ俺は深読みしているんだ。

 

「わかりました」

 

 ルシウスの顔を見るのが何だか恥ずかしかった俺は、ルシウスから目を逸らしながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリバンダーの店は狭くてみすぼらしいかった。扉に剥がれかかった金色の文字で書かれている紀元前三八二年創業という文字は、伝統を感じさせると言うより古臭さを感じさせる。

 だがこの店は多くの魔法使いたちに支持されている。この店で作られた杖はどれもこれも最高の杖であり、一生使用する人も多いのだ。

 オリバンダーの店の実績と信用は代々引き継がれており、杖を買うならオリバンダーの店という言葉が定着するほどになっている。

 

 中に入るとカウンターの奥の方でベルが鳴った。六人もの人間がいるせいで、ただでさえ狭い店内がさらに窮屈に感じる。

 

 天井近くまで積み重ねられている細長い箱を見ていると、ふと疑問が湧いてきた。

 何千もの箱の中には、遥か昔に作られ、未だ使用者を待っている杖があるはずだ。オリバンダーは杖が魔法使いを選ぶと云う。未だ使用者を待つ杖とは一体どのような人を選ぶのだろうか。

 

「いらっしゃいませ」

 

 急に目の前から声が聞こえた。杖の箱に気を取られていた俺はビクッと肩を跳ね上げた。

 目の前に老人が立っていた。この人がオリバンダーであろう。

オリバンダーが濁った目で俺を見つめてくる。

 

「ふーむ、貴方はディヴィス家の息子かな。優秀だという話は聞いておる」

 

 オリバンダーにまで届いているってどんだけ広がってるんだよ。最悪だ……。

 

「おぉ、グランヴィル! ディヴィス・グランヴィルさんか! 久しぶりだね……イチイに不死鳥の羽。三十一センチ。上質でしなやか。まだ使っているかい?」

 

 オリバンダーが俺の後ろにいた父に目を移した。原作に書いてあったように売った全て杖のすべてを覚えているようだ。

 

「ええ、一切の問題なく使っていますよ」

「そうか、そうか。それは良かった。あれは良い杖じゃ」

 

 オリバンダーが嬉しそうに何度も頷いた。

 

「それにルシウスさん。貴方のはーー」

「オリバンダー。見てわかるように子供たちの杖を買いにきたのだ。売った杖のことを思い出すのはいいが、私たちが帰った後にしてもらえるかね?」

 

 ルシウスが冷たい声でオリバンダーの会話を遮った。

 

「……。貴方がそうおっしゃるなら、そうしよう」

 

 オリバンダーは押し殺したような声で言った。気まずい雰囲気が流れたが、オリバンダーがすぐに話し始めたことでそれは払拭された。

 

「では、ダレンさん。拝見しましょう」

 

 オリバンダーは銀色の目盛りの入った長い巻き尺をポケットから取り出した。

 

「杖腕はどちらかな?」

「右腕です」

「では、腕を伸ばして」

 

 オリバンダーは巻尺で指先、手首から肩、腰、頭の周り、と様々な場所の寸法を採った。

 

「ほう、ほう」

 

 何やら頷いたオリバンダーが棚の間の狭い道を通って箱を取りに行く。そしていくつかの箱を持って帰ってきた。

 

「鬼胡桃にドラゴンの琴線。二十五センチ。上質で頑固」

 

 オリバンダーが杖を差し出してくる。俺は杖を取り、杖を軽く振ってみた。すると小さな火花が飛び出した。しかし、オリバンダーは俺の手から杖をもぎ取った。

 

「ふむ、惜しいな。これはどうじゃ。黒檀に不死鳥の羽。二十七センチ。頑丈。どうぞ」

 

 渡された杖を握ると、妙にしっくりときた。杖を軽く上げ、勢い良く振り下ろした。すると、杖の先から青い火花がシャワーのように飛び出してきた。火花は壁や地面に当たる前に消えて行った。

 

それを見て、皆それぞれ違った反応をして感嘆の声を上げた。

 

「素晴らしい。見事だった」

 

 皆の言葉を代表するようにルシウスが言った。

 

「ありがとうございます!」

 

 自分の杖を手に入れるというのは思っていた以上に嬉しいモノらしい。いつもより声をを強くして俺は返事をした。

 

 

 「ドラコの杖は私が選んでおいたわ」

 

 オリバンダーに杖を渡し、俺とドラコが立ち替わったところでナルシッサが口を開いた。

 

「母上が?」

「ええ、貴方たちが買い物に行っている間に選んでいたの」

 

 二人の会話を聞いて母が発言した。

 

「ナルシッサさん、本当に一生懸命選んでいたわ」

「そうなんですか……」

 

 ドラコが嬉しさを噛み締めているようだった。

 

「私もダレンのを選んでみたのよ? でも杖選びって思っていた以上に難しかったの」

 

 母が俺にそっと耳打ちした。

 俺が不満に思っているように感じたのだろうか。俺は母に不満を持っているのではなく、ナルシッサの凄さに感動しているだけなのだが。杖選びというのはそれ程凄いことなのだ。

 

「素材はザクロ、芯は一角獣のたてがみ。二十センチ、弾力がある」

 

 ナルシッサがオリバンダーから杖を受け取り、それをドラコに手渡した。ドラコは杖を握ると、頭の上まで持ち上げ、鋭く振り下ろした。

すると、杖の先から温かい光が溢れ出し、薄暗かった店内を明るく照らした。

 

「ブラボー!」

 

 オリバンダーが歓声を上げた。皆が上手くいったことを喜んでいた。

 

「素晴らしい。杖選びとは難しいものじゃ。それを一本目で当てるとは……。親子の愛じゃ。実に素晴らしい」

 

 その言葉を聞いてルシウスは満更では無さそうだった。

 

杖の代金を七ガリオンずつ払ったあと、俺たちは店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 その後、俺たちはイーロップふくろう百貨店に行った。俺とドラコから言い出したのではなく、大人たちが入学祝いとして買ってくれると

言ってくれたのだ。

 俺は長い時間悩んだ末にモリフクロウを飼うことにした。最初は忠誠心や機能性で選ぶつもりだったが、結局は見た目で気に入ったからという理由で選んだ。ドラコは大きなワシミミズクを選んだ。恐らく原作と同じだと思う。

 ペットを選び終えた頃には日が沈みかけていたので、そのまま解散ということになった。

 

 帰り際に親同士の話合いで九月一日にまた会う約束をしてしまったが、今日のことを考えると別に良いかもしれない。ドラコと接していて腹が立つことも無かったし、楽しかった。それにレイブンクローに入れば交流も途絶えるだろうから問題は無い。

 それに原作を変えてハリーと会わずにすんだのだ。今更だが、原作を知っている俺はそこまで慌てる必要が無いのかもしれないな。

 

 俺はホグワーツに行くのを楽しみに感じ始めていた。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作のドラコの杖は、サンザシに一角獣のたてがみ、25センチ、ある程度弾力性がある、です。この物語とは違いますよ。

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