多くの人が寝静まる中、かぶき町は相変わらず賑やかなままである。 欲望渦巻くこの町は、人々が寝静まった後に輝き始める。
煌めくネオンが妖しい力を持って、多くの人間を引き寄せる。力のある者、弱き者、何かを奪う者、守る者、様々な人間がこの町に魅せられ、一夜限りの甘い夢を見る。
そしてまた日が昇れば、砂の城のようにはかなく波に流され消えてゆく。実に美しき一夜の夢。
そして今宵もその光に誘われて、一人の男がやってくる。
「・・・実に美しい。かぶき町よ。欲望に満ち、すべての夢がここに集っている。私は帰ってきたぞ、かぶき町よ。夢を叶えに、憎き真選組、近藤勲のすべてを壊すために」
ははは・・・ふはははははは!
かぶき町の夜空に男の笑い声ひとつ。かぶき町大捕物の幕開けである。
欲望の町かぶき町にもう一人。眩い光に導かれ、今宵も男は待ちぼうけ。
「おーい近藤さーん」
「おー、トシ、遅くまでご苦労さん」
「どうも。近藤さんはこんな遅くまで何してんだ」
「いやな、近頃色々と物騒だろう?変質者も年末は増えるし、お妙さんの身を案じてこの近藤勲、お妙さんの夜道をお供しようと思ってだな、こうして健気な忠犬のようにお妙さんを待っているわけだ!」
「その心意気やよし。だが傍から見たらただの変質者だぞ」
「いやいやまさかそんなこと!」
「じゃあ少し周りを見回してみようか」
そういわれて近藤と呼ばれる男は抱きついていた電柱からかぶき町を見下ろしてみた。様々な目線が近藤の姿を捉えている。好意的な目線は何一つ存在していなかった。
「わかったかー。わかったらとりあえず電柱から降りてくれー」
トシ、と呼ばれる男、真選組副長、土方十四郎は呆れた声で電柱によじ登っている真選組局長、近藤勲に呼びかけた。
「仕方ない、今日は諦めるとしよう」
「何が諦めるとしようだ。どう見ても近藤さんが変質者じゃねえか」
「まあそう固いこと言うなよトシ」
何の悪ぶれもせず近藤は大いに笑う。朗らかで力強い、いつもの近藤勲の笑顔である。
「江戸の治安を守る俺らのトップが率先して犯罪してどうすんだよ」
「一般市民の治安を守るのも俺たち真選組の役目だろう?」
「・・・」
電柱から降りた近藤は土方とともにかぶき町を歩く。どこかしこも眩いネオンが輝き、すれ違う人々の表情もこの町のネオンと同じように非常に豊かである。
「それはそうとトシ、こんな時間までどうした?」
「気持ちよく一杯飲んでたところに見たことある後姿が見えたんでね。あとは近藤さんを探して引っ張ってく予定だったんだが、早く見つかって助かった」
「おー、そうかそうか。何か用でもあったか?」
「松平のとっつぁんが明日重要な任務の報告があるから遅れるなってさっき伝言があってな」
「・・・嫌だ。ちょー嫌だ!絶対自分が面倒くさいから押し付けてきたパターンだろう?」
「そうじゃないと願いたいが・・・十中八九そうだろう」
「・・・はぁ。トシよぉ。一杯飲んで帰るかー」
「そうしますか。あんまり面倒なことじゃなければいいんだけどなぁ」
こうして夜の街に男二人は消えてゆく。平穏な日常が少しずつ崩れていくことを知らないままに。
書きたくなったので書きます。更新はぬるりと。よろしくお願いします。