翌日、真選組詰所会議室に松平片栗虎、局長近藤勲、副長土方十四郎、一番隊隊長沖田総悟、その他の真選組隊長が集められ、松平片栗虎の口が開かれるのを待っていた。
「よし、全員集まったな。それでとっつぁん、重要な任務というのは?」
近藤が話を始める。それと同時に会議室には重苦しい雰囲気が漂う。ここにいる全員が、どうか面倒なことでないことを願っている。
「今日お前らに集まってもらったのは他でもなーい。明日から一か月間ん、幕府要人の娘を真選組で預かることになった。その娘の護衛から生活のサポートまでを全て行う。以上」
・・・・・・・
「・・・以上って?」
あまりにも唐突な指令に、局長自ら質問にでる。隊長全員ぽかーんである。
「お前ちゃんと脳味噌入ってんのかぁ?」片栗虎は拳銃を取り出し近藤の額に押し付ける。
「いやいやいやとっつぁん、預かるのは分かったけどなんで真選組に?」
「特に理由なんてねぇんだよ。護れと言われたから護る。それ以外にお前らに理由がいるのか、あぁん?」
「いやないけども、あんまりにも唐突じゃないですか」
「そりゃ昨日急遽決まった事案だからなぁ。自由がきくところがここしかねぇもんだからなぁ」
そういって片栗虎は拳銃を懐に収める。厄介ごとを見事に押し付けてきたパターンである。隊長一同頭を抱えて片栗虎の次の言葉を待つ。
「まあそういうことで、これから一か月よろしく頼むぞぉ。そんでもって・・・」
固唾をのんで言葉を待つ。
「その娘さんにぃ、一か月付きっ切りのボディーガードを一名つけることになった。幕府要人の娘さんだぁ、失敗は許されねぇ。真選組の信頼にもかかってくるぅ。それを考えると、土方や隊長クラスをボディーガードにつけてぇところだが、その娘さん、非常に面食いで、もし隊士と恋に落ちてしまったら一大事だ。そしてその娘さん、なんと大のゴリラ嫌いだそうだ。それを考えると・・・」
全員の目線が局長その人に集まる。
「・・・え?」
近藤局長は周りを見回す。
「おめえしかいねえだろうがこのゴリラ野郎!」
「え、ええーーーーー!」
「と、いうことでこの件の全責任は近藤に取ってもらうとして、だ」
「いやいやとっつぁん、取ってもらうとしてって!」
「なんか文句あんのか、あぁん?」
懐から拳銃がちらつく。
「いや・・・ないです」
「わかればいいんだ、わかればよぉ。詳しい話はあとでするとして、局長が一人一か月も付きっ切りになるわけだぁ。ということで局長代理を立てたいと思う訳よぉ」
「副長がそのまま局長代理でいいのではないでしょうか?」
隊長の一人が言う。
「それでもいいんだがなぁ、隊士たちが局長や副長、隊長にたよってばかりではだらしねえと思ってな。それ以外の隊士の中から局長代理を決めようと思ってるわけよぉ。土方には今まで通り局長の補佐をしてもらえば大体のことは大丈夫だろう。たかだが一か月間だ。それぐらいこなせる人材を見つけておくことも大切だしなあ」
・・・・・・・・
「という訳で、今から第一回チキチキ局長代理争奪、ドキッ!隊士だらけの剣術大会を開催しますぅ!」
「ルール説明すっぞー。十人一グループになってその中で剣術勝負をしてもらう。簡単に言えばバトルロイヤル形式だ。勝ち残った一名が局長代理決勝戦に進めるというルールだ。そんでもって最後まで勝ち残った奴が明日から一か月間局長代理だ。ちなみにちょっとでも手を抜いたり、いい加減にやって負けたりしたらその場でそいつが局長代理だ。真剣にやるように」
土方のルール説明により、隊士の目つきが変わる。局長代理が大変であろうということは想像できる範囲だ。なんとしても本気を出して負けなければいけない。隊士全員必死である。
一回戦目・二回戦目・三回戦目と順調に進んでいき、昼休憩をはさんで午後から決勝戦。順調である。道場の中は男臭い熱気に包まれている。本気の切りあい(といっても木刀を使用してはいるが)というのはなかなか出来るものではない。しかし今日はなかなか白熱した試合が続いていた。それほどに局長代理の椅子がいらないということでもあるが。
「いやー、なんだかんだで勝ち残っちゃいましたよー」
と山崎が土方に話しかける。縁側で一服している土方の顔には少し疲労の色がうかがえる。
「おー、お疲れさん。ミントン振ってる成果が出てるんだなー」
「ミントン振ってないときは剣も振ってるんですから。ちょっとは強くなりましたよ!」
「そうかー、それはよかった。ザキ、お前局長代理になりてえのか?」
「いえ、なりたいとかそういうのはないですけど、自分がどれぐらい出来るのか気になったので本気でやってますよ」
「・・・ええ子やなぁ」グスッ
「なんで泣くんですか副長!でもみんなの本気が見れるのって楽しいですよね。普段見れない顔を見れるというか」
「まあそうだな。とっつぁんの思いつきにしてはなかなかいい企画だな。普段はあんな鬼の形相見れねえしなあ」
「みんなかなり本気ですしね。そうだ。前々から気になってはいたんですけど」
「あ?」
「副長なら知ってるかなーと思うんですけど、局長の本気って見たことありますか?」
「・・・!」ブル
「いやー、局長っていつもふざけてて、本気の本気って見たことないような気がするんですよ。なんかこう、金さん爆ギレで桜吹雪全開にしちゃうぐらいの本気みたいな」
そう言って山崎は土方の方に顔を向ける。土方は少し遠い目をして煙草を煙らせていた。
「副長?」
「いや、ちょっと厠行ってくる。その話は、ま、また今度な。漏れそうでよ」
「あ、いっちゃった。我慢してたのかな?」
「山崎、調子よさそうだな」
「あ、沖田隊長お疲れ様です」
「土方さんが仕切ってるから俺は別に疲れはしねえよ」
「それでも真剣に審判してたじゃないですか」
「なかなかこういう機会もねえからな。楽しんでやっとかないとな」
「そうだ、隊長に聞きたいことがあるですけどいいですか?」
「あ?」
「さっき副長にも聞いたんですけど厠に行っちゃって聞けなくて。隊長は近藤さんの本気を見たことありますが?髪の毛が天に届く勢いで伸びるぐらいの本気とか」
「山崎、俺も小便いってくらぁ。その話はまた今度な」
「あら、隊長まで。確かに今日は冷えるからなあ。俺も体冷やさないようにしなきゃな」
「おう総悟、お前も小便か」
「今日は随分冷えるもんで。漏れる前に出しとこうと思いましてねえ」
「確かに今日は冷えるな。道場の中は熱気で感じなかったが、外はもう冬だな」
「それだけ白熱してたと思えば、とっつぁんの企画も案外よかったのかもしれませんねぇ」
「だなあ」
「そういやあさっき山崎の野郎が面白いことを聞いてきましてね。近藤さんの本気を知ってるかって」
「おー、総悟にも聞いたのか。俺も聞かれてなあ・・・」
ブルッ
「小便・・・行くか」
「そうしやしょう」
冬空の下、二人の男は内また気味に厠に急ぐのであった。
「何とか間に合ったな」
「間一髪でしたねぇ。外の寒さも相まって、危うく漏らすところでした」
「ああ」
「・・・なあ土方さん」
「なんだー」
「俺らは強くなったんでしょうかねぇ」
「・・・どうだろうなあ」
「そう決めてから随分経つんですねぇ」
「だなぁ」
「小便しながら話す話題でもないですがねぇ」
「ああ」
厠の窓から隊士たちの笑い声が聞こえる。賑わい、じゃれあう、和気藹々とした多くの声が聞こえる。日々大変なことや辛いことはあるが、隊士全員がそれを分かち合い、支えあって今の真選組がある。
その中心にいるのはいつだって近藤勲その人である。多くの声の中で、一際大きな笑い声が聞こえてくる。少し離れた厠にもその笑い声が響き渡る。土方も沖田も少し頬を緩ませる。
「近藤さんが心から笑ってる。それが答えでいいんじゃねえか」
「・・・そうしておきやしょう」
「さっさと小便済まして午後の決勝の準備すっぞ」
「うぃーっす」
冬の陽気の中、二人は同じことを考えていた。少し昔の、二人の誓いを。
「俺はもっと強くなる。どんな野郎だって、多勢に無勢な状況だって、絶対負けねえし、絶対に死なねえように強くなる。・・・俺があんたを守ってやる」
「近藤さんがずっと笑っていられるように僕、もっと強くなる!だから、・・・だから!」
「「だから笑ってくれ」」
今は昔の話である。
ぬるりと更新。