ユウ視点の戦闘シーンです。
今日中にこっちの視点を投稿し切ってしまいたいです。
カナギは、よく鳥を使う。
いや、実際には厳密にいうと使われているのは【守人】の方らしいのだが、とりあえずはどちらでも構わないだろう。どうやら昨日イルゼがはぐれた団体を鳥たちが交代で見張っているようなのだが、あいにくと自分は普通の鳥とは意思疎通が出来ないので、これもカナギに丸投げである。
そのイルゼは鳥を使うカナギを珍しそうな目で眺めていた。
確かに今カナギの腕に止まっているような、白い鴉は珍しいだろう。ついでに言うと、この白い鴉は厳密には鳥ではない。鳥ではないので自分も対話が可能である。
どうも『誰か』が見ている『夢』であるらしい。以前話した時に、そう認識していると教えてくれた。夢の中で様々な地平線を、様々な視点で旅している、とのことである。『ここでは自分もただのローランさ!』とやけに楽しそうに言っていたので、呼び掛けるときには『ローラン』と呼んでいる。ちなみに『ローラン』とは彼の国の言葉で『旅人』というような意味であるらしい。
彼はカナギに何かを伝えると力強く羽ばたき、木々の枝葉の間を縫って舞い上がる。それを見送り、カナギは振り返ってうんざりした様子で溜息を吐いた。
【viega 06:奔る
『……まいった。どうやら進行方向に巨人の一群がいるらしい。およそ8体』
その言葉に軽く肩をすくめて嘆息する。
だが、イルゼの様子では『壁の内側』の民にとっては【巨人】の恐怖はとても大きいらしい。すでに顔に血の気が無い。
「カナギは、3。他は俺が倒して来るから、保たせてね」
『……まぁ、妥当なところだな。最大で何分だ』
「――2分、かな?」
『わかった。2分は保たせる』
「■? ■■!?」
呆然としているらしいイルゼを見て微笑み、カナギは肩をすくめる。
まぁ、実際8体なんて条件次第ではどうとでもなる訳で。内3体はしばらくカナギが翻弄してくれるとのことだし、実質的には5体を相手にしてから3体を相手にする流れになる。しかもその相手も性質上、一度にまとまって掛かって来ることは無いと踏んでいた。だいたい、
『ちょっと片付けるから、ここで荷物番な。危険だと感じたら逃げてくれていい。この群れの向こう、約1km先に、お前がはぐれた兵団がいる。休憩中のようだから、お前の足でも追いつけるかもしれない』
「■、■、■■■■」
たぶん、ニュアンス的にはテンパった時に言う「ちょ、ちょっと待って」みたいなことを言っているんだろうと思う。自分たちは待ってあげてもいいんだけど、巨人のお客さんは待ってはくれないし。
(――よし)
ごめんね、イルゼ。犬かなんかに舐められたとでも思ってくれ。
「イルゼ」
ぽん、とイルゼの頭を軽く撫で、ふんわりと微笑む。
「【――――Was yea ra khal warce yor.】」
あなたに加護を。
そう言って、額に軽く口付ける。
――リーダー、あなたって人は…っ!!
以前、同じ【狼呀】の仲間にも同じこと――あっちは半分くらい事故だったけど――をしたら真っ赤になって怒ってたなぁ、と思い出しながらくすくす笑う。
「……お前、夜道で刺されそうになったことは無いか」
「え? 【アラガミ】からはしょっちゅう刺されてるけど」
特に【ハンニバル】の剣は避け損なうと確実に意識が飛ぶ。あの攻撃速度は本当に洒落になってない。あの巨体であの速度は反則だと、何度思っただろうか。
あれに比べれば巨人はもはや、停止しているようにしか見えなくなるから不思議だ。
そう応えればカナギからは溜息を頂戴した。
(――いや。カナギが言いたいことも、一応わかってるよ?)
「女の子をからかって遊ぶなってことだよね? からかってるつもりはないんだけど……うん。気を付ける」
そう言ってカナギが【巨人】がいると言っていた方向に歩き進め、立ち止る。後方から再度、カナギの言葉が届いた。
『――僥倖だ。先に3体のみ、群れから離れてこちらに来ている。いずれも10メートル以下だ』
「■■■■■■■■■■■■■■■■っ!」
『いいから見てろ。残念ながらお前たち通常の人間種とは基本スペックが違うんだ』
――うん。そもそも、こういう『災獣』に対抗するために作り上げられた種族だしね。
戦う事こそが、存在意義。純粋な人間種を、戦う術を持たない者を守る為に存在するのが【狼呀】だ。
――だからこそ。
「――狩りを始めるぞ、【フェンリル】」
――――― zAAgg ttrw rA sss…
自らの意識の遥か深淵から、微かな気泡のように応えが返る。
それが何なのかは、自分は知らない。ただ、以前たまたま任務中に【カムイ】に会った時には『ウォセカムイ』と呼ばれたり、【夜】には『フェンリル』と呼ばれたりしたので、まぁ、たぶん、そういう事なんだろう。あまり詳しく訊いてみたことは無いが、正直、あまり聞きたいとも思えない。
――だが、まぁ。そういうことなら、仕方ないだろう。
のっそりと、木々の間から巨人が顔を覗かせる。やっと自分を見つけたのか、腕を伸ばして来た。
その動きを眺めて待ちながら、遅いなぁ、と思う。
「ユゥ…っ!」
『黙ってろ。【狼呀の民】は戦闘種族だ。本来奴らは一人でいた方が生存率も上がる』
うん。そうなんだけどね。
【アラガミ】相手だったり、【汚染獣】相手だったりしたら正直
【コレ】が相手なら、関係ないと思う。
伸びてくる腕に飛び乗り、思わず笑う。なんでこんな簡単に乗られるかな。
手にする【ミリアン】に意識を向ける。すでに微かな熱を持っていて、じんわりと意思を伝えてきた。すらりと抜き放ち、詠い掛ける。
「【――Was ki wa hymme.】」
――――――Wee zweie ra wearequewaie.
此処に謳う
【ミリアン】が燐光を纏う。熔けた鉄のような、灼熱の色。
巨人がもう一方の手を動かすのを一瞥し、足場にした腕を駆け上る。
――弱点は、うなじ。
結局、そこしか見つけられていない訳だが、本当にそこしかないのだろうか。そんなことを考えながらいつものように一閃し、返す刃でもう一太刀入れ、確実にうなじだけを切り離しながら首を落とす。
巨体が倒れるまでのタイムラグ。その間に次の目標を定め、倒れる巨人の反動を利用して近くの木の枝に飛び移る。木々を飛び移り、2体目の背後に回るとそのまま首に飛び乗り、刃を振るってうなじを削ぎ落とす。これも二太刀。
「【――Rre talam dauane re valwa cia, fernia flawr li warce sarla. 】」
――――――Was yea ra rippllys.
生前、ミリアンが謡っていたらしい『同契の謳』を原型に、それを神性語へと紡ぎかえていく。この、一見余計なプロセスには、主に自分の方に問題があるためだった。
元々ミリアンの本来の契約者はカナギであり、自分では無い。自分は遺された【核石】から生前のミリアンの想いを読み取って、それを『オラクル細胞』でもって再現しているだけに過ぎない。故に、最も『想い』を表しやすい神性語でもって【核石】と同調する、という手段をとっている。
ミリアンが同じ神性語で返せるのは、彼女――【宝玉珠】が妖精種であることに起因する。つまりは、神霊――神性存在に近いからだ。
突然走り寄ってきた3体目の巨人へ、2体目の巨人から飛び移る。宙で掴もうとした指を切り払い、伸ばされた腕を走って肩へ。そのままうなじを削いで飛び降りる。
視線の先に、4体の巨人。
「【Omnis rippllys en vianchiel fau, yehar, hyear! 】」
――――――Was yea ra grandus sos melenas yor!
――――― zaa gyA bO jaa…
ミリアンから朱金の炎が溢れ出す。
何やら横槍のような、支援のような意識が一瞬だけ入り込んだが、それはとりあえず放置することにした。経験上、『狼』は自分の邪魔をすることは無いと知っている。
金炎を操り、比較的近くにいた2体をその炎で焼却した。実際には焼却しているように見えるだけで、これはミリアンがその身の炎で触れたものを『練り直し』て塵やら大気やらに分解しているらしい。
どうもこの『練り直し』というのが【守の民】の秘技に当たるらしく、【狼呀】である自分には理解しようがない感覚であるらしい。よって、詳しいことは判らない。
あと、2体。――いや。
視界にいない、もう1体の気配を探る。
振り返って、カナギと少女の背後に迫る巨人を見た。思わず顔が歪む。刹那、カナギと目が合い、彼が頷くのが見えた。――ならば。
2体の巨人に向き直り、殺意を込めて睨み付ける。
周囲をうねる金炎が、感情に反応するようにいっそう熱を帯びた。
とりあえず、あれだ。
油断というか、やる気のなかったさっきまでの自分を殴りたい。
いや。少しばかり慎重になりすぎていただけだが。あまり女の子を怖がらせるのも良くないし、とか言い訳していた自分を切り刻みたい。
――さて、と思考を完全に切り替える。
生き残る為に必要なのは、『災獣』を殺す力だ。方法は問わない。
今まで戦ってきた戦場で集積した経験を元に、最も早くこの戦闘を終わらせる方法を組み立てる。
幸い、巨人のほとんどは予測不能な行動はしない。食虫植物に似ている。
後方で、カナギが走りだす気配。
自分とはまた違った言葉がカナギの声で響いた。
「【――gou ih-rey-i gee-gu-ju-du zwee-i ; 】」
迫り来る 艱難を 払い給え
背後から吹き抜けた風に、僅かだが血の臭いが混ざっていた。
「……っ」
その事実に、思考を止める。
ただ目の前のものに対処するだけでいい。それが一番、早く片付く。
鈍い巨人の腕を掻い潜り、地面から巨人の腕へ、更にもう一方の巨人の肩へと跳躍する。そのまま巨人のうなじを抉り、隣の巨人へ飛び移る。
――止めは、まとめて一撃で。
塵芥一切残さず。
「【 soa wis li gurandus viega 】」
―――Rrha zweie ra… yehar, hyear!
我らは護りの剣である
溢れた金色の炎は、その場に在ったすべての巨人の残骸をも焼き払い、熔かし尽した。
ヒュムノスは、意訳です。むしろ超訳、いや、ニュアンス訳?
なので、丁寧に訳すと訳されていない単語があったりなかったり。
なお、『この詩の想い』に該当するのは『オペラシリーズ』(栗原ちひろ:著/ビーンズ文庫)のラストシーンあたりです。