自由の向こう側   作:雲龍紙

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れんあいフラグ……?
そんなものは、建ってないですよ?



死亡フラグは乱立してますが。




【viega 07:tasyue enne sos waath near en manafeeze faura. 】

 

 

 ――やってしまった……

 

 我に返った瞬間、【巨人】が跡形も残らなかったのを見て、思わず天を仰ぎ嘆息した。

 

「…………」

 

 周囲を見る。やはり、どこにも巨人の残骸は無い。

 その事実を再確認し、再び深く嘆息する。

 

 ――いや、それは別に問題無い。

 

 問題なのは、これは自分が少々――いや、結構、ただの【狼呀】から逸脱しているうえに【詩紡ぎ】とか【宝玉珠】とか【カムイ】だとかの相乗効果を効率的に運用して、もういっそ人外宣言した方がいいんじゃないかと思う程度のことをしでかしたことだ。

 

 正直、カナギだけなら気にしなかった。カナギも気にしないだろうから。

 気に掛かるのは、イルゼの反応である。

 『壁の内側』にいるのは基本的に純人間種だと思われている。つまり、【幻想種】など見たこと無い訳で。それはつまり、実物を見れば最初に警戒し、緊張し、未知を恐怖する、という事だった。

 ましてや、【巨人】などという災獣がれっきとした『人類の敵』認識されているところである。それは良いのだが、この単純な『人類v.s.人外』という構図を考慮すると、かなりの高確率で『人間ではない=人類の敵=排除しなければ』という三段論法が展開されるのが予測された。この最大のネックがゆえに、『壁の内側』と意図的な接触は避けられているというのが、『外』の事情である。

 

 何が言いたいのかというと、つまるところ自分が懼れたのはイルゼの反応だ。純人間種には不可能なことをやって見せてしまった。それに対する反応を知ることになるのを、忌避していた。

 

 恐れなら、いい。【狼呀の民】ですら、自分を恐れることもある。

 

(――いや。やっぱ、いやだな……)

 

 慣れてはいる。だが、やはり怖がられるのは、少し寂しい。

 だが同時に、怖がるのも無理はないと思っている。自分の目の前に、自分を殺せる力を持った何かがいれば、どういう風に接していたとしても、緊張も恐怖も拭い切れないだろう。

 人間は、恐怖を隣人には出来ないのだから。

 

 ひとつ息を吐き、頭を振って思考を切り替える。

 

 さっき風が起こった時、微かに血の臭いが混じっていた。つまり、カナギは負傷したという事だろう。早急に確認と、それから手当をしなければならない。主に、自分の首を守るためにも。

 

(――要人に怪我させるとか……減俸は確実か)

 

 むしろ減俸で済めばいいのだが、場合によっては軍法会議に突入である。下手をすると物理的な意味で首が飛ぶ。

 カナギの心配は、実はするだけ無駄なので、しない。彼は『鳥の神』に気に入られている限りは似非【不死者】である。つまり、怪我や寿命で死ぬことは無い。正確には、死んでも『練り直し』されて強制的に蘇生させられるのだとか。これは羨ましいような、しかし絶対に遠慮したいような、微妙なものだと思う。

 

「――カナギ」

 

 声を掛ける。イルゼの肩が跳ねるのを見て、ちょっと――自分で思っていた以上に精神的なダメージを負った。だが、それも今はとりあえず脇に置いておく。

 

「カナギ。怪我は?」

 

『問題無い。手当くらいは自分で――』

 

 いやいや。負傷したのは、その隠している左手だろう。

 手を負傷してるのに『自分で』ってのは、かなり難しいと思う。

 そう思いながら再度、口を開きかけたところで、イルゼが叫んだ。

 

「――■■、■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 イルゼは、がしっとカナギの左手を掴んで、じろりと睨む。

カナギは驚いたのか、返答までに少し間が空いた。

 

『……折れた木の枝が、掠っただけだ』

 

 うん。自分でも驚くと思う。なんか、すごくいろいろ言ってる。多分、純粋に心配してくれているんじゃないだろうか。

 

『あー……うん。わかったから。とりあえず、離れろ。な? 本来の人間種みたいにヤワじゃないし』

 

――あ。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■?」

 

 ――今のは、突っ込まれたんじゃないだろうか。

 イルゼは、自分たちから少しでも情報を読み取ろうと、ずっと観察してたし、結構しっかりしている。

 言葉の通じない自分と意思疎通をしようとした時にも、そうだった。

 理解しようとする姿勢を、崩さなかった。

 

 ――ああ、だからか。

 

 どうやら自分は、イルゼに期待しているらしい。

 

 ――どうか、失望させないで欲しい、と。

 

「――――■■■■■■、■■■■■■■■■■」

 

 イルゼはじっとカナギを見る。カナギも何故か応えず、イルゼを見返した。双方とも視線を合わせているが、見つめ合うというより睨み合っているような状況になっている。

 

 何故かそのことがおかしくて、思わず笑ってしまった。その声につられるように、カナギがチラリと一瞥を寄越す。イルゼはぽかんとした表情で瞬いていた。

 

 

「……馬鹿か、馬鹿なのかお前は。どうするんだよこれ」

 

「言葉選びを失敗したのは君でしょ。それにね、大丈夫じゃないかな」

 

「…………」

 

「少なくとも、俺は大丈夫」

 

 ――うん。イルゼなら。

 

 多分、大丈夫だろう。きっと、自分たちが恐れているようなことには、ならない。

 確信する材料なんか無いのに、そう思っていた。そうしてカナギに微笑み掛ける。

 しばらく無言で眺めていたカナギは、ふと項垂れて息を吐いた。それを見て思わず笑みを深めてイルゼに向けて親指を立ててみせた。

 イルゼはまだ途方に暮れたように、ぱちぱちと瞬いている。

 

『――そもそも、だ。俺たちは一度も、お前に対して自分たちを人間に分類するような言葉で語ってはいなかった、と記憶している』

 

 良かった。説明してあげてくれるらしい。

 

 しゃべりながらカナギはイルゼの足元に置いたままだった籠を開け、水筒と軟膏、清潔そうな布を取り出す。それを見て慌てて水筒を取り上げ、思わず一瞬カナギを睨んでしまった。手当くらい自分にさせて貰いたい。

 負傷した手をそっと取り、傷を洗って薬を塗り、丁寧に布を巻いて傷を保護する。

 さすがにこの作業は【アラガミ】との交戦の関係で、日常茶飯事だ。体に染みついている。だが、自分と違ってカナギは【守人】という名の要人だ。自分の時よりは丁寧な手当を心掛けた。

 

『俺たちの住処には『人間種』のほかに『妖精種』『精霊種』なんかが共生してるんだが、『壁の中』にはいないんだろう?』

 

「――■■■■■■■■■■■■」

 

『だろうな』

 

(――ああ、そうか。『壁の中』には純人間種しかいないんだっけ)

 

 それなら、アレを渡して反応を見てみるのも面白いかもしれない。

 

「――イルゼ」

 

 治療の為に出したものを籠に片付け、胸ポケットから取り出した文庫サイズの本をイルゼに差し出す。褪せた紅い表紙には壁の中で使われているらしい文字と、自分たちが使っている共通文字で『美シキ残酷ナ世界』と書かれていた。

 

「――『Die schöne grausame Welt』?」

 

 いくつかの【民】に伝わる各々の起源や伝承を記したもの。昔、何故か『外』に出て来た人がそれを書き、書き写したものを持ち帰ってこの原本は遺していったらしい。

 自分は知り合いの【護森人】から譲り受けた。なので、実のところ筆談であればもう少しスムーズな意思疎通も可能だったのだが、あいにくと紙もペンも持ち歩く習慣は無い。

 

『――お前にやるそうだ。帰還したら読んでみろ。ただし、本当に信頼できる奴以外には見つかるなよ。色々な意味で『それ』は、お前たちにとって劇物に等しい』

 

 ありがとう、カナギ。あげるってのは伝えられそうだけど、忠告までは無理だから感謝した。

 まだ少し硬いままのイルゼに背を向け、先に歩き出す。少し離れた先から、2人を呼んだ。

 

「――イルゼ、カナギ」

 

 足を止めて振り返り、微笑み掛ける。いつの間にか顕れていた『鳥の神』に思わず苦笑を零した。

 その鳥を見つけたカナギは、うんざりしたような顔で深く嘆息する。

 

『――ソラ。なんでお前まで』

 

『いいかげん、帰って来てください。きみがいないと暇なのです。出掛けるのなら、わたしにも一言あって良かったでしょう』

 

 白い小鳥は首を傾げて、ピルピルと囀っている。だが、しっかりとその内容が聞こえてしまっている身としては、ただ苦笑するしかない。カナギは微かに頬を引き攣らせている。

 

『まぁ、それについては、帰還した時にでもゆっくりじっくり話し合うことにしましょう。それより今は、『彼の方』が案内をかって出てくれていますので、あまりお待たせしてはいけませんよ』

 

 ルルル、と鳴いた小鳥は軽く身づくろいすると、再び青い空へ飛び立っていった。見れば、抜けるような蒼穹で、白い鴉が一羽、旋回している。

 とりあえず、その白い翼を追って先に歩くことにした。

 たぶん、カナギは少しばかり精神を立て直すのに時間がいるだろう。

 

 

 

【viega 07:還り、生きる小鳥への贈奏】

 

 

 

 しばらく歩くと、明るい広葉樹の森から抜けた。蒼穹からの日差しが眩しい。

 残念ながら、1km先にいたという兵団は巨人に応戦している間に離れてしまったようだった。だが、方向は解っているので、あまり気にはしていない。いざとなれば『壁』まで送ればいいだけだし。

 

 イルゼは自分の中で何かを振り切ったのか、あるいは開き直ったのか肚を決めたのか、自分にも今朝より親しげに近づいてきてくれた。カナギが通訳してくれたところによると、『歌を教えてくれ』ということらしい。さっきの戦闘中にも使ったし、たぶんあれを聴いてこんなことを言い出したんだろう。

 カナギは音痴だから無理とか言ってたが、実は怪しいと思う。彼の実年齢を考えて、『鳥の神』の『主食』を考えると、たとえ昔は音痴だったとしても、今現在もそうだとは限らないだろう、と思うのだが。

 

 広がる青空の下、草原を歩く。

 何故か巨人の姿は見えなかった。あの時のカナギの言霊が効いているのか、他の神性存在が遠ざけるよう細工してくれたのか、あるいはまったく別の要因があるのか。

 

 ふと、視界の彼方。

 馬影の群れを見つけて立ち止る。カナギを呼んで2kmほど先にある巨大な木々の森の影を指し示してみた。

 

「――あれ、そうじゃない?」

 

「……よく見つけたな。俺はもう少し近づかないと判らん。――が、方向的にも時間的にもあれだろう」

 

「じゃ、解説よろしく」

 

 にっこりと笑って丸投げする。

 カナギは呆れたような溜息を吐いてから、イルゼを呼んで巨大樹の森を示した。

 

『――イルゼ、あそこに巨大樹の森がある』

 

「■■。■■■■■、■■■■■■■」

 

『現在その森に、お前がはぐれた兵団がいる。――馬があれば、一人で帰れるか?』

 

 ここからおよそ2km弱。今のところ周辺に【巨人】の影も見えない。ならば、馬で駆け抜ければ無理のある距離でも無いはず。一人にするのも心配ではあるが、あの一団の元まで送ろうものなら間違い無く面倒なことになる。それはもう、いろいろな意味で。

 

 案の定、イルゼは少し考えると、しっかりと首肯した。

 

「■■■。■■■■■」

 

 その答えにカナギは微笑し、なら、と言葉を続ける。

 

『――とびっきりの馬を貸してやろう。ただし、何も訊くな』

 

 その言葉を待っていたかのように空から白い鴉が舞い降り、その姿を白馬へと変えた。

 ――うん。ローラン、君、本当に何者?

 いや、なんとなくは察してるんだけど。たぶん、誰かの『魂』だけがフラフラしているのだと思う。正直、危ないからやめた方が良いと思うんだけど。

 

 イルゼは周囲を見渡し、そして何かを察したらしい。ただ頷き、そして何も訊かなかった。

 カナギは馬の手綱を取り、イルゼに渡す。

 

『乗れ。在るべき場所へ還ると良い」

 

 イルゼは手綱を受け取ると鐙に足を掛け、慣れた動きで白馬に乗騎した。

 

「――――■■■■■。■■■、■■■■■■……」

 

 それは輝くような、眩しい笑顔だった。

 本当に、この【エデン】の蒼い空と太陽が似合うような、笑顔。

 

 ――この笑顔が、曇らなければいい、と祈った。

 

「■■■、■■■■■。――■■■。■■■■■■■。■■■■■■。■■■――」

 

『いらん。俺たちはお前を見捨てることも出来た。それをしなかったのは単に寝覚めが悪くなるからだ。お前が気にすることは何もない』

 

 往け、とカナギは馬の尻を叩く。『彼』は抗議の声を一声上げると、そのまま大地を蹴って走り出した。イルゼは慌てて態勢を整え、最後に振り返る。その姿に大きく手を振りながら、思わず苦笑した。

 

 

 輝いて見える大地を、白い馬影が駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――この楽園に、自分たちの居場所は存在しない。

 

 

 

 

 

 





この時の作業用BGMは、やっぱり中恵光城さんの『青い空、七色の虹』でした。
……明るい曲ではありません。ですが、暗い曲でもありません。
『悲しいまでに澄み切った青い空』という、本当にそんなイメージです。
「何て綺麗なんだろう」が最後の最後で「なんで、綺麗なんだろう…」になって涙腺決壊。

ヒュムノスの澪・焔あたりのCDが好きな人なら、楽曲にストーリーが込められていても気にしないだろうから、そういう人にはおすすめしたい。
……あ。そういえば『Prim Nosurge』とか『シャラノイア伝承』とかのコーラスもしてますね。

もちろん、ここでは終わりません。
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