とりあえず、yart側の視点だけでも、今日中に終わらせる……!
私は今、不可思議な青年・ユウに手を引かれて歩いている。森の中を東北に向かって歩いているのは、小梢の合間から時折見える太陽の位置から判っていた。
幾度か遭遇した巨人は、森の中であるためか小型に分類されるものがほとんどで、それもユウが弱点を斬り飛ばして焼却することで対処していた。
巨人遭遇から撃破までの流れるような一連の動きを何度も眺め、心配することを放棄した私は別におかしくはないと思う。同時にユウがそばにいる限りは巨人に対しても、もう恐怖を覚えそうにない。
正直、巨人を前に臆することなく突っ込んでいき、一撃であっさりと斃すのはリヴァイ兵長くらいだろうと思っていた。凄すぎて、言葉にならない。
太陽が沈んでいき、空が夕闇に包まれ始めた頃。ようやくユウは足を止め、「お疲れ様」とでも言うように私の肩を叩いた。
――――そして私は、本日何度目かの驚愕を体験することとなる。
【邂逅02:謳う紅の刃】
白い月が、すぐ傍の泉を照らしていた。その夜の景色を眺めながら、キレイだな、と思う。同時に、現実逃避をしていることも理解していた。
いや。正確には、現実逃避をしようとして、失敗している。
原因は、手に持っている食べ物――肉だ。
木の枝を削って作った即席の串に、適度な大きさに切ったウサギの肉を刺して連ね、それを目の前の焚き火で炙ったものだ。
――肉。
何度見ても、どう見ても、肉。
壁の中ではここしばらく、肉料理はあまり見かけていなかった。言わずもがな、シガンシナ区陥落に伴うウォール・マリアからの撤退による食糧危機が原因だ。
壁の中では食べられなかった食べ物を、まさか壁の外で食べることが出来るとは。――保護区だとかの可能性は、いまは目を瞑っておく。第一、ここは壁の外なのだし。
ちらり、とユウを窺う。焚き火を挟んで向こう側に座っているユウは、私の視線に気付くとまた微笑んだ。――――やはり、彼は私を安心させるために、微笑んでいるらしい。言葉が通じないので、手っ取り早く「害意は無い」ことを証明するには、微笑みかけるのが一番ではあるが、なんとも複雑な心境にはなる。
が。
それよりも気になるのは、少し離れた木の根元に座り込み、何やら乾燥した木の実や植物の根を砕いて粉末にしては分量を量って混ぜ合わせているらしい、黒髪の青年である。あまり見ない形の服は紅く、それで余計に目を引いた。
その青年が、ちらりと私を一瞥する。切れ長の目は月の無い夜空のような色彩で、更にまるで切れ味の鋭い鋼の刃を思わせた。
「――あ、の……」
「さっさと食え。食事が終わったら傷を見てやる。明日になったら壁近くか、お前がいたであろう団体の近くまでは送ってやる」
意訳すると、「お前の質問に答える気は無い」ということだろうか。
「カナギ。■■■■■■■■■■?」
ユウが青年を窘めるように、何かを言う。青年は少し顔を顰めると、ふ、と嘆息した。
改めて私に視線を向け、要点だけを伝える。
「――とりあえず、食いながらで聞いとけ。そこの阿呆が処置を手抜きしたせいで、冷めると硬くなる。適当にしゃべるから、質問は後で」
「は、はい!」
どうやらこの青年は、私の言葉もユウの言葉も理解しているらしい。
ユウのことは『不可思議』だと思うが、こちらの青年(たぶん、ユウより年上であると思われる)は『不審な』とか『怪しい』とか若干、マイナス要素を帯びる言葉とセットになりそうな気がする。
そんな失礼なことを考えながら、手にしていた肉を口に運んだ。ひと切れを口の中に入れて噛みしめる。じゅわっと肉汁と共に肉の旨みが口の中に広がった。
たぶん、私の顔はにやけていたに違いない。ほっとしたように笑ったユウと、僅かに視線を和らげた青年の反応で、どうやらほぼ確実に『子ども』扱いされているらしいと思い知った。
――いや。たぶん、本当に私の方が年下ではある、と思う、けど……
なにか納得できない。
「そこの阿呆から聞いたが、イルゼ・ラングナー、で合っているか?」
「――はい。私はイルゼ・ラングナーです。第34回、壁外調査に参加。第二旅団最左翼を担当。帰還時、巨人に遭遇し、所属班の仲間と馬、故障した立体機動装置を失い、壁があるはずの北を目指していた時、遭遇した巨人から、ユウ・カンナギに助けられました」
敬礼をして返答すると、ユウからは苦笑、青年からは溜息をもらった。
「――そうか。……ったく、どうしてこうも軍属に縁があるんだか……」
「■■■■■■■■■」
「煩い黙れこの阿呆。お前が筆頭だぞ。有能すぎていつ首を切られて存在抹消されるか判らん立場になりやがって」
「■■■■■■■、■■■■■■■■■■■、カナギ」
「どうせ第二世代特有の共鳴現象だか同調現象だかを駆使して、ニュアンスだけはしっかり把握してるだろう。いまさら言葉を合わせろとか、不毛だ。どうせ俺とお前とでも言語圏が違う」
「……■■■■■■■■?」
「とりあえず、そっちも後だ。――解ってるのに訊くな、鬱陶しい」
一連の会話を眺めながら、肉を咀嚼する。ついでに突っ込みたい箇所が色々と出てきた訳だが、それも聞かなかったことにした。ちょっと『政治的な』匂いのする内容が含まれていたからだ。その部分に関しては、下手に関わるべきじゃない。
青年は再び嘆息し、改めて私へ向き直った。
「俺は、カナギ・サンスイ。【守の民】の薬師で、そっちの神薙ユウは【狼呀の民】だ。お前の知識に合わせるなら、【守の民】は生産者で【狼呀の民】は兵団となるだろう。端的に言うなら、俺たちはお前たちの感覚で言う『壁の外』を生き延び、暮らしている一族だ。ちなみに、俺は壁の中の住人と薬草のやり取りの関係で個人的に交流があって、それでお前たちの使う言語も使える。だが、中と外は断絶して長い。故に、現状では言葉が通じる可能性は非常に低い」
――――今のところ、青年の話に破綻は無い。
よく噛んだ肉を飲み込むと、ユウが水筒らしきものを差し出してきた。お礼を言って水筒を受け取り、口を付ける。ほんの微かに、さわやかな甘みが口の中に残った。初めての味わいに首を傾げる。
「――薫り水だ。茶の一種だとでも思っておけ。茶葉の代わりに薫りのいい植物で水出しする」
「おいしいです。ありがとうございます、ユウ」
改めてお礼を言う。すると僅かに困ったように微笑み、青年を指し示した。どうやら、本当にニュアンスは伝わっているらしい。
(――いや。というか、これは……)
そっと青年を窺えば、青年は小さく苦笑して肩をすくめて見せた。
「あの……もしかして、」
「確かに淹れたのは俺だが、そんなことはどうでもいい」
やらかした。
いや、だって。出会ってから今まで不機嫌な気配を払拭しきれていないこんな人が、あんな繊細な味わいのお茶を淹れるとか――いや、でも薬師とか言ってた気もするし、それなら納得も――いやいや、でもなんかイメージ的に似合わない。
思わず硬直した私から視線を外し、青年は小さな擂り鉢などの道具を片付け始める。
それでも、話を続けてくれる気はあるようだった。
「――俺たちも、普通は自分たちの生活圏から出ることは無い。色々と面倒だからな。俺みたいに個人的に動く奴なんかは、紛うことなく変わり者だ」
――――ちょっと待って欲しい。というか、突っ込みたい。
主に、巨人の脅威はどうしているんだ、と。
普通の人たちは自らの生活圏から出ない――これは私たちで言うところの『壁』の内側だろう、と思う。が、しかし。『個人的に動く』とは、どういうことだ。
まさか、巨人の領域である『外』に、個人の都合で出歩いている、という事なのだろうか。私たち調査兵団のようにある程度まとまった人数がいるなら、理解できなくはない。だが。
――ひょい、と。
視界に肉の串焼きが差し出される。差し出したユウはニコニコと笑っているが、そういえばこの人はリヴァイ兵長並みに凄かった。もしかすると、カナギと名乗る青年も同じくらい凄いのかもしれない。
串焼きを受け取りながら、そんなことを考えてみる。だが、こう……自分たち兵士とは雰囲気が違いすぎて、よくわからない。
「今回は、『壁』が陥ちたと聞いて確認調査と薬草採集と、ついでに、探しものを兼ねて歩いていた」
――――たぶん。
壁外調査ならぬ壁内調査はついでなんだろうな、と思わせる言い方だった。彼にとっての本命は薬草採集なのだろう。その部分でだけ、やけに瞳を輝かせていた。探し物については、よくわからない。うんざりしているような、焦っているような、どうでもいいような、そんな顔をしていた。
「――巨人とやらに関しては、とりあえず当面は問題ない。そこに少しばかり特殊ながら最高の【狼呀】がいるし、俺自身もまったく戦えない訳でもないし、調合したもので視界を奪うなり動きを奪うなりして逃げることくらいは出来る」
つまり、『外』を出歩くための条件があるのは、彼らも自分たちと変わらないのだろう。だが、その基準が自分たちとはだいぶ違うような気がする。
「――こっちからお前に言えることは、これで全部だ。これ以上は、現状ではお互いに良くないだろう。たぶん、無いものねだりになりかねない」
青年の言葉に、思考を止める。私自身、なんとなく同じことを考えていた。
彼らが少人数で『外』を往けるのは、それに見合う実力と実績、そして『何か』があるのだろう。そしてその『何か』は、自分たちの与り知らないもので、もしかすると自分たちには永久に手にすることが出来ないものなのかもしれない。
(――たとえば、ユウと出逢ったあの時……)
ユウは巨人の頭部を斬り飛ばし、同時にその頭部を『焼却』した。その原理も手段も、私には判らない。ただ、ユウが手にした刃で巨人を斬ると、奴らは確実に燃やされた。だから、ユウ自身かユウの剣に『何か』があるのだろう。
思うことがない訳では無いが、それでも。それは恩人に詰め寄ってまで今すぐに問い質すことではないような気がする。ユウにとっては触れられたくない部分かも知れないし。
自分自身で納得し、私はひとつ頷いた。
「わかりました。2人とも――本当に、ありがとうございます」
言って、頭を下げる。
ユウは微笑を、カナギは溜息を、それぞれ零したようだった。
カナギさんは『オペラシリーズ』(栗原 ちひろ:著 角川ビーンズ文庫)出身です。オリキャラじゃないです。
そもそもこのシリーズに、オリキャラなど入り込む余地は無い! いたとしたら……食い殺されるモブとか、くらいですかね……?
そもそも何かしらのキャラに似てしまう程度のオリキャラなら、別にオリキャラじゃなくてもいいんじゃないだろうか……?
とか思った結果が、増殖する原作数でしたとさ。