自由の向こう側   作:雲龍紙

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『星は堕ちたり』





【Loar 03: xU rre Alyuma_arhou zUzLYIx/.】

 

 

 ――空から、巨大な光の柱が降り下ろされ、大地に突き刺さった。

 

 それは、遠目で見たなら、ただの落雷だと思われただろう。だが、間近で見る事になった自分には、それが下った瞬間、落雷以上に凄まじいエネルギーの塊であると思い知った。

 それが炎や雷のように自然に拡散することなく、集束されたまま一点に降り注いだとなれば、その破壊力は想像を絶するだろう。

 しかも、その巨大なエネルギーの塊は正確に標的を撃ち、そして灼き尽くすと一瞬後には何事も無かったかのように消失した。――街の連中は、正しく『雷が落ちた』くらいにしか思わないだろう。事実、雷雨は激しくなる一方で、弱まる気配は無い。――まるで、そういう風に舞台を(あつら)えたかのように。

 

 巨人は、厄介だと思う。ただ、巨人に対して恐怖を抱くことは長らくなかった。だが。

 

(――これは、何だ)

 

 天からの裁きを、個人の意思ひとつで地上に落とすというのか。そんな馬鹿な。

 

「――空を征く鳥も、嵐の中では飛べないのよ」

 

 少女の言葉に、我に返る。思わず睨み付ければ、少女は微かに自嘲するような皮肉気な笑みを浮かべていた。

 

「おとなしく鳥籠の中にいればよかったのに。そうであれば、飛べない代わりに、翼を失うことも無かったでしょう。――美しい夢も夢のまま、美しいままであったのに」

 

「――――俺たちが目指す先には、夢も自由も美しさも無いと?」

 

「……それは知らないわ」

 

 不安定、というよりは、気まぐれ、と言うのだろうか、この少女は。激しい情を気まぐれに見せる様は、まさしく『風』の性に相応しいと思う。

 

「わたしは、あなたが何を見て『美しい』と思うのかなんて、知らないもの。それはきっと、人によって違うものだわ。――わたしは、劉黒とレイフォンが幸せだと思えるのなら、そう在れる場所こそを『美しい』と思うもの」

 

 それは、親しい者が失われることなく、笑いながら何気ない日常を送れる平穏な場所、ということだろうか。そうであるならば、――――ああ、たしかに。

 

「……ふん。たしかに、それは悪くないな」

 

 失った部下も仲間も、きっとそんな世界が欲しかったのだろう。『鳥籠』の中の仮初めのものでは無く、自分たちが勝ち取ったうえでの、もっと広い世界で。

 

「……俺たちが『壁』から出れば、お前たちとぶつかるか?」

 

「さっきのあれを見て、どう思ったの?」

 

「戦ったら負けるどころか、滅ぼされそうだな。先祖の恨み辛みと相俟(あいま)って、とっくにそうなることが決まってそうだ」

 

「可能性としては、高いわね。ポイントは、逃げて隠れた精神的に弱すぎる先祖を持つあなたたちが、どこまで不戦を貫けるか、というところかしら? それが出来た純人間種は、それぞれの民と寄り添って今も『外』である程度、繁栄してる。――ついでに言っておくと、あなたたちの先祖を一番恨んでる……というか軽蔑してるのは、『外』に残った純人間種ね」

 

「…………それは、『中』と『外』の人間同士での争いの可能性が高い、ということか」

 

「――聖書の時代から、人間は兄弟同士で殺し合うモノなのよ。でも、今の時代では結局のところ、『壁の中』にまともな外交が出来る人間がいない、ということが問題なのじゃないかしら? そもそも、『上』の人たちは、する気も無いのでしょう? まずは革命でもしたら?」

 

 少女の言葉の内、理解できたのは後半だけだった。前半に関しては『がいこう』というのが判らないが、これはおそらく、『他の集団との交渉や折衝』であると推測する。『せいしょ』とやらは完全にお手上げだ。

 だが、言いたいことはだいたい把握した。

 要は、『上』の連中には『壁の中』から出る気は無いだろう。万が一、出てくるとしたら、それは武力をもっての遠征扱いになる。そうなれば『外』の連中は自己防衛として、また今後の禍根の芽を摘むためにも『壁の中』の連中を滅ぼすだろう。それを避けるために交渉や折衝が出来る人材が、今の『壁の中』の情勢では育たないのだから、『外』を目指すより先に革命でもしたらどうだ、と。

 

 ――改めて考えると、非常に、途轍もなく、果てしなく、面倒臭い。

 

「……とりあえず、そういう政治的な話は、エルヴィンに回してくれ」

 

「あら。こういう話は幹部では無く、一兵卒にするから意味を持つのよ」

 

「…………」

 

 つまり、『これ』も駆け引きの一つ、あるいは布石である、ということか。思わず顔を顰めれば、少女はふわりと微笑んで見せた。

 

 

 

【Loar 03:xU rre Alyuma_arhou zUzLYIx/.】

 

 

 

 

 光が墜ちたと同時、災獣がどうなったかなどは見なくても知っていた。同じような光景なら、故郷の都市にいる時にも何度か目にしている。というより、故郷で自分と劉黒が使う力と同じものだった。だからこそ、発動した光が届く直前に、標的を錬金鋼ごと壁の外へ放り捨てたのだから。

 

「……これは、どっちだ?」

 

 『基地』代わりの移動都市を経由して、というのは間違いない。いくつか見知った波動が混じっていたように思う。

 だが、光は地上からでは無く、空から墜ちて来た。ということは、稼働したサーバーは高所に在る。つまり、『衛星』か『塔』そのものが稼働したことになるが――自律型移動都市と違って凄まじい威力になる詩のデータを無数に所有するがゆえに、セキュリティは筆舌にし難いほどだったはずだ。

 つまり、一介の【詩紡ぎ】が『衛星』や『塔』を稼働させることは不可能である。詩魔法を使用するたびに認可申請して、それが通らなければ発動しない、と聞いたことがある。

 

「――『新約パスタリエ』なら、『衛星』か」

 

 『新約パスタリエ』では『塔』は稼働しない。――が、『衛星』を介して『塔』に干渉することは不可能では無い。

 

「――――いや。そもそも、なんで」

 

 より正確に表わすのなら、神薙ユウは【詩紡ぎ】の因子は保有しているが、【詩紡ぎ】では無く、【月奏】に分類されるはずである。何故ならば、『男性型の【詩紡ぎ】は存在しえない』からだ。

 そして『塔』や『衛星』という詩魔法サーバーと詩で繋がれるのは【詩紡ぎ】のみ。

 

 だが今回、おそらくは『衛星』が稼働している。どういったプロセスを経たのかは不明だが、とにかく稼働してしまった以上、【詩紡ぎ】と分類できるだろう。

 

 ちょっと、自分で考えて混乱してきたので、とりあえずこの疑問は脇に置いておくことにする。第一、いずれにせよ自分の行動に変更は無い。

 ただ、やはり後で考える必要はあるだろう、とは思う。場合によっては、現状の各勢力のパワーバランスを崩しかねない以上、非常に政治的な存在になる可能性が高い。

 政治的な思索は苦手なので、正直、ヤエトに泣きつきたい心境だった。

 

『――放っておけない、放っておいて貰えないのなら、敵対は回避しなさい。あと、信用できるかどうかはどうでも良いので、使えると思った者は、手の届く範囲に留めておくように』

 

 というのが、ヤエトが昔語ってくれた有り難いお言葉である。以来、出来る限り沿うようにしている訳だが、はっきり言って苦手なのだ。だから基本的には放っておいて貰っている。

 ――が、どうも【狼呀】の彼は、自分の方が放っておけないらしい。

 

 軽く嘆息し、改めてユウの方を見る。雨の中佇む彼は、既に蒼い微光を纏っていない。不意に、ぼんやりとした紅い眸と目が合った。

 

「――っ」

 

 とっさに駆け寄り、案の定倒れかけたユウを支える。正直、【狼呀】の他者の為なら己を顧みない性質はどうにかならないのか、と思う。何度か【狼呀】と共同で掃討戦をやったことはあるが、はっきり言ってかなり心臓に悪い。

 具体的に挙げるなら、体調が悪くても決して人に覚らせないし、あっさりと災獣の前に身を躍らせて囮役を買って出るし、限界が近いのを自覚しながら無理をしてぶっ倒れる。本当に、どうにかしてもらいたい。おかげで自分ばっかり慣れてしまった。今ではそういう【狼呀】の隠し事はだいたい見破れる。

 

「――――ごめん、」

 

「何でしたら、寝てても良いですよ。ちゃんと運びます。病人の看護はウチの陛下で慣れているので安心して下さい。夜伽(よとぎ)も慣れてますし」

 

「…………えっと、看病の方だよね?」

 

「当たり前です。――という返答と、ご想像にお任せしますという返答、どちらがいいですか?」

 

「いや、むしろなんで『当たり前です』って返してくれないの!?」

 

「それはもちろん、反応が面白そうだったからです」

 

「……ひょっとして俺、からかわれてる?」

 

「からかうだなんて、そんな。ちょっとした意趣返しですよ」

 

「なんの!?」

 

 それには小さく笑って応え、ひょい、と行きと同じように肩に担ぐ。意外と意識もしっかりしているようで安心した。

 

「――――【黄龍】殿」

 

 呼べば、ふわりと大気から滲むようにして現れる姿に、とりあえず言うだけ言ってみる。

 

「すみませんが、送って下さい」

 

「いや、私のこの移動方法はお前たちにはちょっと」

 

「送って下さい」

 

「…………、」

 

「まさか、【黄龍】ともあろう御方が、たかが人間の1人や2人、安全に通せない、などと言う訳がありませんね?」

 

 男は金の双眸を眇めて、こちらをじっと眺めている。笑顔でその視線に立ち向かうこと数秒、男はゆったりと瞬いた。

 

「――名は?」

 

 ここでそれを問われるのならば、ひょっとして極東風のあの名前だろうか。他者に教えるのは厳禁だと云われている、名前。

 

「……たぶん、キュアンティスの【天剣】――氷花の君に頂きましたが」

 

「ならば、良し」

 

 どうやら、名を訊かれた訳では無かったらしい。その名を持っているかどうか、あるいは知っているかどうかが肝要である、と。

 

「では、言葉通りに送るとしよう、ヒトの仔よ」

 

 ぶわり、と風が沸き起こった。とっさに顔を庇い、しばらくして風が治まってからもう一度前を見る。

 そして、言葉を失った。

 

『誤って我が逆鱗に触れることがなければ、だがな』

 

 艶やかな白金の鱗。黄金の鬣に斜陽色の双眸。頭部から後ろに枝分かれしながら伸びる角は滑らかな真珠を思わせた。ごく単純に、美しいと思う。

 

 ―――巨大な龍神の姿が、そこにあった。

 

 

 

 





 『夜伽』という言葉には、主に2つの意味があります。
 ひとつは、夜通しの看病。
 もうひとつは、……うん。おそらく皆さんもご存知のR18な方です。

Q:なんでユウはヒュムノスが謳えるんですか?
A:言語的な意味ならば、単純にユウの趣味のひとつだからです。システム的な意味ならば、いわゆる偏食因子のせいです。

Q:黄龍さんは、え? マジで龍?
A:黄龍は黄龍です。もうだいぶ人間的な部分は……残ってないんじゃないかなぁ。


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