自由の向こう側   作:雲龍紙

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『目覚めよ』


※カナギ視点。入れるかどうしようか散々迷って入れておいた話。





【幻奏:won-nh-tah-ren n=mou-uia;】

 

 

 金砂のようにほつれ、崩れて消えていく【黄龍】を見送り、顔を上げる。

 自分は親友のお蔭でだいぶ『あっち側』に存在が近くなっているので、ともすれば相手にされない人類と違って、ある程度はきちんと対応しなければならない。

 だが、神霊にしては随分と人間臭さが残っている【黄龍】が相手で良かった、と思った。あんまりにも人間臭いので対応を忘れ掛けていたが、まさか言霊・音霊・真名による強制を享けるとは思わなかった。しかも、それでいて伏礼ではなく跪礼という略式――神霊の一柱であるくせに、妙に気を使われている、気がする。

 

 膝を払いながら立ち上がり、そっと息を吐く。この、モヤモヤとした心境を唯一、理解してくれそうな少年――ヴォルフシュテイン卿に向き直った。

 

「……俺、いま微妙な気の使われ方をした気がするんだけど……」

 

 少年は軽く首を傾げ逡巡した後、おそらくですが、と前置いたうえで口を開く。

 

「あなたに気を使ったのではなく、あなたを所有する『鳥の神』に気を使ったのでは?」

 

「…………あー、そっちか。なるほどね、うん……」

 

 ――――自分は『鳥の神』の眷属である。

 事実は置いておいて、とりあえず、神霊にはそのように認識されているらしい。つまり、【黄龍】は自らの眷属では無く、『鳥の神』の眷属を強制服従させるにあたって、それなりの配慮をした、ということらしい。

 ちなみに、『鳥の神』と云う言葉は形を示したモノであって、『鳥を統べる神』という意味では無い。正確に表わすのなら、『鳥の姿を纏う神』である。性質は『ヒトの願いを叶えるもの』であり、その正体は『振動。波動。あるいは拡散し続ける光』というものであるらしい。

 

『黄龍よりは永遠で在れますが、単純に力勝負をしたら負けますね。本質的に消滅はあり得ないので、負けても消える訳ではありませんが。――ああ、黄龍は特殊な存在法則をとっているので、あれは消滅しますよ? 現に岩も風化してやがて砂となり、塵となっていくでしょう? 同じ理屈であの方も摩耗していきますからね。そういう意味でも【生きている】と言えるでしょう。生物に近い在りようを選択している訳です』

 

 などというような神霊に関わる話を滔々と語り続けていた一昼夜もあったが、――――待て。

 

 今、ここで思い出せた自分を褒めてやりたい。ついでに運命とやらに感謝しても良い。

 

 黄龍の言動を、思い返す。

 世界が滅びへ向かうきっかけは、いつも小さなものだ。彼ら神霊は、それを伝える警鐘である。不審な綻びは、いたるところに在っただろう。思い返せば――ほら。

 そもそも、何故、自分たちの許に現れたのか。

 ――自分とユウの名に原因がある。自らの民を失った神霊は、自らの言を伝えるためにこそ、『神薙』――即ち『カンナギ』の許へ降りたのだろう。尤も、そこで自分の用事を後回しにするのだから、相当に気を使ってくれている。はっきり言って、神霊らしくない。神霊はもっとこう、唯我独尊と云うか、我が道を突っ走っていくモノの筈なのだ。あるいは、単に壮絶な時差ボケなのかも知れないが。

 

「……カナギ?」

 

 てとてと、と歩いて来て袖を引っ張る少女――レンを思わず見つめ、一拍後にようやく理解した。どうやら、考え込んでしまっていたらしい。

 一度息を吐き、そっと少女の頭を撫でる。そうしてから観察するような眼差しを向けているレイフォンに向き直り、目礼した。

 

「――神勅にて、退席を御許し頂きます」

 

「――ご随意に、だったかな?」

 

 少し苦笑しながら答えたレイフォンに僅かに首肯し、そっと息を吐く。

 レイフォンの返しには問題無い。【流砂の民】は直接的には神霊と通じる機会は無いから、対応をよく知らないのも仕方がないで通る。

 だが、神霊と共に生きることを選択している【守の民】としては、この対応を誤る訳にはいかないのだ。

 不思議そうな眼差しを向ける壁の内側の住人2人に軽く頭を下げ、素早く居間から退室する。

 

 ――【黄龍】は、同胞に訊かれれば、と言った。

 だが、神霊がヒトに問う、などということはない。ならばこれは、『伝えよ』という命令である。

 

 そっと天井を見上げ、今は眠っているはずのユウの容態を想い、思わず嘆息した。

 

 

 

 

【幻奏:won-nh-tah-ren n=mou-uia;】

 

 

 

 ギィ、と扉が軋み、微かな音を立てて閉じられる。

 

 一度息を吐いてゆっくりと呼吸し、整息。そうしてから顔を上げれば、寝台の上に横たわるユウの姿が目に付いた。

 

 ――――さて。

 

 ここからだ。

 ここから、手順を一手でも間違えれば、かなり痛い目を見る事になるだろう。

 

 寝台に歩み寄り、眠っているユウの容態を観察する。

 少し顔色は悪いが、呼吸も乱れてはいない。今朝飲ませた薬が効いたらしい。【狼呀】に効かなかったらどうしようかとも思ったが、それは杞憂に終わって良かった。

 そっと額に手を置き、まだ僅かに高い熱に思わず目を伏せる。少し、罪悪感が首を擡げた。

 

 一瞬、このまま目が覚めてくれれば、タイミングが悪かったということにしてしまえるのに、と思う。

 

 

 用があるのは、ユウでは無い。

 ユウを仮宿にして、深く眠っているはずの神霊である。

 

 だが、気が進まない。

 ――――気は、進まない。だが。

 

「……    、」

 

 すまない、と音にすることなく、唇だけで形作った。

 左手をユウの額に置いたまま、ゆるやかに目を瞑り、そっと息を吐く。

 

 

 

―― Wor ga Dew.

 我は守人

Wor ga zx-in Shen-liah, Mimuwe Yao eld Wega-ru i-ni.

 森羅に重なり、眠る汝貴を迎え入れる

 

 

 

 ちらりとユウに目をやり、様子を窺う。特に変化は見られない。――もうどちらでもいいので、出来れば早く起きて貰いたい。元々音痴で歌うのは苦手なのだ。それもソラとの生活が長いおかげでだいぶ矯正されたが、苦手なことに変わりはない。

 

 

 

――Presia rippllys, bister Dia.

 応え給えや 獣の王よ

 

Rre bister diasee quesa na cyurio noglle ar dor,

 汝貴の神子が駆ける秩序亡き大地は昏く

 

Den dest phantasmagoria en rhaplanca ides.

 在りし楽園は朽ち、恵みの大樹は枯れた

 

frawr slep, quive kira lusye nuih,

 花も睡る 星亡き氷空の下

 

Presia cexm Dyea.

 いざや神よ 降り臨め

 

 

 

「『――――随分、上達したようだ』」

 

 その声は、ユウの口から発せられる。だが、普段のユウの声とは全く違う、昏く、重みのある声だった。

 だが、知っている。

 この声の主に用があったからこそ、ここで呼んだのだし、そもそも【カムイの民】の【天将】がユウを選んで指名したのは、ユウ自身が依代であったからだ。――おそらく、ユウ自身は気付いていないか、さほど重要視していないのだろうが。

 

 そっと左手を引き、溜息を吐く。その途端、朱金の双眸と目が合った。黄の色を帯びるのは陽属、あるいは大地に属するモノだ。――【黄龍】とも、近いだろう。

 

「『――祀りも無しに呼ばれるとは思わなんだぞ、小さき光の』」

 

「……直答を、」

 

「『許す。――龍が眠ったか』」

 

 問い、というよりも確認に近い声に、頭を垂れる。

 

「……煩いので、しばらく眠る、と。同胞に訊かれたなら、そう応えよと」

 

「『――――あれほどの神威も、その様か。龍が墜ちれば後は一気に崩れる。名も無き我如きに構う暇など無かろうに』」

 

 その言葉には、一体どう応えろと。応えようが無い切り方をしないで欲しいと思う。切実に。

 

「……龍の他に、お目覚めの方は」

 

「『鎖も楔も無く起きていたのは黄龍のみ。他は存在を維持する為に特定の民と繋がったか、自ら囚われたか、或いは眠りについた。――ふむ。では、ひとつだけ助言をやろう』」

 

 ユウの身体を動かし、軽く首を傾げて困ったように微笑んだ神霊は、そうして難題を吹っ掛けた。

 

「『とにかく、まずは『壁』から出よ。長くここに在れば我らは囚われよう。偶然か作為的にかは知らぬが、結界と同様の効能がある。――ではな』」

 

 ふ、とユウとはだいぶ印象の異なる笑みを残し、再び神霊は眠りについたらしい。瞼を閉ざしたユウを見つめ、思わず頭を抱えて息を吐く。

 

「…………面倒臭い、」

 

 とりあえず、ユウの体調がある程度でも回復したら、いったん『壁』から出る。それから対策を練ったうえで、改めて行動する。でないと貴重な神霊を封じられる可能性が出て来た。

 

「――というか、まさか」

 

 行方不明となっている【カムイ】も、実は眠ってしまっているのではないだろうか。万が一にもその原因が『壁』であった場合、おそらく【カムイの民】は総出で『壁』を破壊しに来るだろう。普段あの民は山岳地帯に籠っているが、いざともなればそれくらいやってのける。

 

「…………さっさと見つけて帰ろう、うん」

 

 結局、それが一番平和的な解決だろう。少なくとも、自分にとっては。

 

 

 

 

 





 サブタイトルは契絆想界詩です。なんか、契絆想界詩も何となく組み方が解かってきました。あれだ。こいつは構文じゃなく、単語が複雑なだけだったんだ、と。
 あとは、星語さえどうにか解析できれば……っ!!

 でもあれ、厳密には言語じゃないしなぁ……orz

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