『此処に永久の光を謳う』
『――――sYAnAsA ut EREMENTAR=GERAD _WOLFSHTEIN ag tAhAkAtA du ahjeas/. 』
ヴォルフシュテインと同調し、承認を求める
遠く異国の地から届いた声に、閉ざしていた瞼をそっと開いた。
自律型移動都市――レギオス・ヴォルフシュテインの地下深く、駆動機関が立てる音のみが僅かな振動となって床を揺らし、薄く湛えられた水が微かに波打つ。
本来は闇に鎖されたように暗い部屋で薄らとでも視界が利くのは、床に幾何学的な文様を描いて填め込まれた唄石が仄かな輝きを発している為だ。線と線が複雑に交差し、絡まり、並行して描かれたそれは、知る者が見れば一見で魔法陣のようだと云うだろう。事実、半分は魔術的な術式であり、もう半分はかつてあった高度文明が生んだ科学的な式でもあった。そして、この場においては純粋に動力の回路でもある。
【―― wAwUjEnNcU ag ahjeas/. 】
承認完了 共鳴開始
『 Legions_WOLFSHTEIN parge EREMENTAR=GERAD_WOLFSHTEIN ag yAzLYEtN nha/. 』
レギオスから【天剣】を此処へ召喚する
「――――え、」
思わず、声を零した。
原則的に、自分たち【天剣】は都市から離れることは出来ない。都市の意識としての役割が与えられているのだから、当然だ。正確には、都市の外周から3kmほどなら離れることも可能だし、もしそこに他の都市を経由するならば、距離を延ばすことも可能ではある。
だが、それをするには煩雑な承認手続きが必要なうえ、要請した側が負担を負う――というよりも、都市の動力源に等しい【天剣】の代わりに動力を提供しなければならない。この動力とはレイフォンの場合なら勁か生命力か、あるいは詩魔法サーバー法式に則って想力――想いの力である。いずれにせよ、リスクの方が高い。
にも拘らず、自らの【剣守】は【天剣】の召喚を要請した。
【―― ahjeas ag jAzAtN /. Tasyue rawah hLYAmYAmErLYE manaf/. 】
承認しました 実行します 謳う命の花を捧げなさい
そして都市のシステムはあっさりと承認した。しかし、やはり規定通りに代替動力を要求している。
――――だが。
ふと、自らの【剣守】が、小さく微笑んだ気がした。
「――レイフォン……」
思わず嘆息し目を瞑り、顔を伏せて逡巡する。
だがすぐに苦笑して顔を上げた。答えなど、初めから判りきっている。
「……本当に、お前は時々、無茶をする。だが、それが悪いとは思わない。――――希みを謳え。私はそれに応えよう」
その声に応じるように、床に描かれた式陣が輝きを強くした。
【Loar 02:xA rre vega hYAmNmErA lusye ayulsa/.】
『―― ahjeas ag jAzAtN /. Tasyue rawah hLYAmYAmErLYE manaf/. 』
承認しました 実行します 謳う命の花を捧げなさい
返る応えと共に、視界に光り輝く式陣が無数に展開される。
(――これ、他の人には見えてるのかな?)
巨大な式陣は【剣守】になる前にも、何度か都市の上空に展開された瞬間を見たことがあった。だから、そういった莫大な力を要求されるような巨大なものについては、万人に見えるのだと思う。
だが、こういったひとつひとつはさほど大きくは無い、消費導力も少ない式陣についてはどうなのだろう、と考えることがある。
わざわざ確認するような事でもないので、実は聞いたことは無いのだが。ただ、個人差があるような反応は何度か見ているので、そういうことなのだろう。
とりあえず、この無数の式陣を望む結果を得られる配置に動かさなければならないし、その為には一部を編み直したりしなければならない。そしてその作業を大幅に短縮することが可能なのが、謳うことだった。
そもそも、歌というのは多大な情報が複雑に絡み合って出来ている。単純に考えても一度の動作で『旋律』という情報と『言葉』という情報が互いを補足し合いながら展開するのだ。しかも旋律も言葉も、更に『言葉としての意味』と『音に込められるニュアンス』という要素に分けられる。これだけで単純に計算しても4倍ほど情報処理の効率が上がる。これを使おうと考えた人は間違いなく天才だと云われただろう。――あるいは、旧時代には当たり前の技術だったのだろうか。
一度息を吐き、とりあえず謳うことにして自分の勁脈に意識を向ける。――この瞬間、自分の勁量が同胞の中でも異常だと云われるほどのものであることに感謝した。お蔭で誰にも、何にも犠牲を強いずに済む。
「―― xA rre vega hYAmNmErA lusye ayulsa, yanje, yeeel, ag etealune/. 」
此処に永久の光を謳う 遠く 遥く いつまでも
言葉と同時に、練り、留め、溜め込んだ勁をいっきに解き放った。
特に方向性を持たせた訳でもない、ただ撒き散らしたに等しい勁は波紋のように周囲に広がり、街の上空を静かに覆ってゆく。
――――都市の意識である【天剣】を都市外に呼び出す方法は、意外にも多いと先達であるサーヴォレイドの【剣守】から聞いていた。それに、自律型移動都市としての機能を殆ど稼働させていない状況であるならば、実は煩雑な手続きはいらないのではないかと踏んでいる。
要は、問題なのは『自律型移動都市を稼働させるエネルギー』なのだ。ならば、自律型移動都市を一時的に停止させてしまえばいい。実際、ここしばらくヴォルフシュテインは停止状態だったのだから、いま再び停止状態になろうが今更である。ついでに、先達の【剣守】から聞きかじった方法でも試してみよう。ぶっつけ本番なのはいつもの事だ。まずいと思ったら即座にキャンセルすればいい。
「xA rre jAzAtN cenjue hymme li hymmnos/. 」
現行システムの書き換えを実行
『―― ahjeas /. jAzAtN cenjue hymme li hymmnos/. 』
承認しました 現行システムの書き換えを実行します
「xA rre vega tArAmA nille Legions_sphaela/. 」
此処にレギオス独界を疑似展開
『 Legions_WOLFSHTEIN = > lAnNcAaA EREMENTAR=GERAD_WOLFSHTEIN/. 』
レギオス・ヴォルフシュテインから【天剣】ヴォルフシュテインへ接触
「xA rre Legions_WOLFSHTEIN parge EREMENTAR=GERAD ag yAzLYEtN nha/.」
レギオス・ヴォルフシュテインから【天剣】を切り離し、召喚する
『 jAzNtU zz lAnNcUaA/. 』
切り離しを実行します
空を割るように、七色の揺らめき――オーロラが顕れた。
差し出した左手の先に、頭上の極光から雪のように舞い落ちて来た光の粒子が集う。やがて人間と同じサイズにまでなったその光の中から、一人の青年が顕れた。
気軽に一歩踏み出したように現れた青年の背後で、光が閉じるように消える。当たり前にレイフォンの手を取っていた青年は軽く微笑み、しかし何処かあきれた様子で溜息を零した。
駆け抜けた一陣の風に、青年の長い黒銀の髪が翻る。
「――まったく。我が守ながら、あきれた勁量だ」
「その勁量を受け止めて平然とするあなたには言われたくないよ、劉黒」
「――そうか」
ひとしきり笑いを堪えると満足したのか、すい、と左手を持ち上げ、青年は軽く手の甲に口付けた。
珍しいな、と思う。【天剣】である彼が、こう、儀式以外で口付けと云うか、祝福を贈るのは珍しい。もしかすると、本当に心配させてしまったのかもしれない。
というか、心配するべきなのは、こっちだと思う。
「――――劉黒は身体、もう大丈夫?」
「特に支障は無い。――大丈夫だから出て来たんだ。心配するな」
それより、と劉黒は笑う。どこか幸せそうに日向ぼっこしている猫を思わせた。
「我が守よ。お前の希みは?」
「この場の災獣の一掃を」
ふふ、と目を細めて【天剣】はわらう。
ならば、と彼は詠うように続けた。
「共に謳い、叶えよう。――――災獣を屠る、その為に。我らは残り、響き渡ることを選んだのだから」
視点が違うと、各キャラの持つ情報に差異があるのが浮き彫りになります。それで混乱させてしまったら申し訳ない、と思いながらも、もうどうしようもない。
今回の架空言語は『新約パスタリエ』のみです。
最速ヒュムノス。システム処理なら『新約パスタリエ』が最速です。が、特定のサーバーでしか使えないのが難点といえば難点。まぁ、この言語はサーバー処理前提の言語なので、致し方無し。
あと、劉黒さんは神霊としては……実はあんまり強くないです(爆)