自由の向こう側   作:雲龍紙

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『光は踊るように降り注ぐ』





【Loar 03:xLYE rre lusye zarle zess d.n/.】

 

 

「――望むのならば、その望みを謳い上げよ。それが魂からの渇望ならば、必ず叶う」

 

 呟かれた言葉に、思わず隣の男を見た。紅い髪を風に揺らしながら、男はレイフォンがいるであろうあたりを見つめている。

 

「……旧時代の言葉だ。旧世界は祈りや願いを込めた詩によって成り立っていた時代がある」

 

 まぁ、応える神霊も多かっただろう、と呟き、ふと視線をこちらに向けた。

 

「――見てみるか?」

 

「見る?」

 

 何を、と言い続けようとしたところで、男の足下から光跡が広がった。やけに複雑な紋様が連なる図形――あるいは、紋章のような光。

 

「――見えるか?」

 

 相変わらず主語を欠いた言葉に思わず胡乱げな目を向け――男の向こう、蒼穹に広がった複雑な光跡の紋様に目と言葉を奪われた。

 七色に移り変わり、揺らめくそれは、シガンシナ区の上空を覆うほどに広大で、しかも細かい。

 

「――あれは式だ。3割は化学式に準じている。あとは旋律式とプログラミング――機械言語と、数式と魔術式と言ったところか。まぁ、あそこまで巨大なモノは、人間には扱い切れないのが普通だ」

 

「…………つまり、計算式、ということか?」

 

「一言で片付ければ、そうだ。ついでにアレを発現・維持・発動させるのには相当のエネルギーが必要となる。まったく……ヴォルフシュテインも良くやる」

 

 最後の言葉は心底からだったのだろう。深く嘆息し、男は再び沈黙した。

 

 

 

 

【Loar 03:xLYE rre lusye zarle zess d.n/.】

 

 

 

 

「【――極光(ひかり)() 架け継ぐ深宙(ミソラ)に 契り籠ん】」

 

 ほろり、と劉黒の姿が崩れるように光の粒子となり、別の形となって再び集束する。

 現れたのはレンのような大剣では無く、細身の片刃。刀身に波打つ波紋が微かに光を虹色に反射する。

 カタナ、と呼ばれる剣。

 自分が修めた武術がカタナを扱う流派だったから劉黒にもこの形を取ってもらっているが、劉黒自身は防御術式に特化している。――もっとも、どうやら戦闘行為に苦手意識を持っているだけで、戦闘自体が苦手である訳では無いらしい。

 

『――いつもの通り、私が術式主導で良いのか?』

 

「俺じゃ劉黒みたいに正確な式は組めないよ。とりあえず、いつも通り勁量と目の前の敵には集中するから、術式はよろしく。――勁が足りなければ、」

 

 途中で言葉を切り、目の前を通り過ぎようとする巨人の首を刈る。

 とりあえず、劉黒の術式が発動するまで露払いしつつ待てばいい。巨人を斬撃で斃せるかどうかは二の次で、足止めさえ叶えばそれで良かった。

 

「――――最悪、ヴォルフシュテインに残ってる部下たちが用意してくれる」

 

『ふむ。――ああ、レイフォン。王から伝言だ。「あなたの事だから忘れていそうなのでもう一度言います。帰還は凱旋です。対応するための心の準備は済ませておくように」だそうだ』

 

「…………そうだったね、そういえば」

 

 忘れていたというより、考えないようにしていた訳だが。

 本当に、苦手なのだ。というか疲れる。精神的疲労が半端無い。あれか。都市入口から王宮までパレード状態になるのか。それは、心の底から嫌だ。

 

(――劉黒。俺、たぶん王宮まで辿り着いたら倒れるから。王宮までは頑張るけど、それ以上はもう無理だから)

 

 そう思ったが、絶対に顔にも態度にも出さない。出せば最後、もっと面倒なことになる。具体的にいえば、倒れるタイミングを失うことになりかねない。それは、ちょっと遠慮したい。退場できないということは、その後ほかの貴族や有力者からの無駄な面談が入るということに他ならず、普段なら受けても良いが、こっちは先ほどの負傷が痛むのだから出来れば遠慮しておきたい。

 

「――とりあえず、それもいつも通りだね。なんとか乗り切るから、乗り切ったらあとはよろしく」

 

 応えは聞かずに走り出した。助走をつけて跳躍し、眼下の通りにいた小型の巨人を2体、まとめて勁の斬撃でもって一閃で圧し潰す。

 微かに呆れたように息を吐く気配。一拍後、気を取り直したのか、劉黒が意識を切り替えたのがわかった。

 

 

―――― sawul fffam tecasa sssy

 感じる あなたの哀しみを

 

sawrb fffam tecasa sssy

 感じる 世界の哀しみを

 

 

 劉黒の謳う詩を聴きながらも走る足は止めず、目についた巨人に足止め目的の一撃を加えて通り過ぎる。先ほどレンを残した場所に戻り、右手を差し出しながら叫んだ。

 

「――レン!!」

 

 エルヴィンの隣で佇んでいたレンは微笑み、とん、と軽く屋根を蹴って風に乗り、ふわりと両手を差し出した右手に添えて舞い降りる。

 

 

YIx tIirs fawEE LAas tIi lex hyummnos

 光よ 聖なる力よ 我が詩を以って 護りと成せ

 

sss illm baars meevax yearh leee

 それだけが 私にできる唯一のこと

 

 

「――【天剣】の術式って、相変わらず大掛かりね」

 

「それは構わない。勁は足りるから。――それより、レン。力をかして」

 

「呆れた。――――でも、風くらいなら、いつでも使うわ」

 

「助かる。少しの間、巨人の動きを止めたい。頼む」

 

 しょうがない子ね、と言ってレンは笑う。

ざわり、と風が周りを逆巻き、大気が渦巻くのがわかった。

 

 

SAax tIirs fawEE LAas tIi raYEE

 我が心の聖なる願いよ 護りとなりて全てを救いたまえ

 

SAax tIirs fawEE XAarS tIi VaYEE

 全てを護りて 生なる喜びを与えたまえ

 

TiS tEna Yto tAA tII na Stu TTTT

 光よ 弱き心に力を 全てを祓う聖なる力を 全てを救う愛の力を与えたまえ

 

 

 

 耳を澄まし、劉黒の詩に合わせて口遊む。

 レンも心得たように笑み、合わせるように唱えた。

 

「【――Was ki erra faja yuez.】」

貴方と共に歩みましょう

 

「【Was granme erra chs sos yor.】」

そのために私は在る

 

 

「【――fam-ne wa-fen-ny rei-yah-ea; 】」

遥か世界まで届くように…

 

 

 轟、と音を立ててレンを中心に大気が渦巻いた。

 何人かの兵士が飛ばされていたが、肉体的な心配はしない。間違ってでも死なせたりすれば、確実に劉黒が塞ぎ込むからだ。劉黒がそうなることが判っているのから、とりあえずレンは風を操って飛ばされた兵士も怪我などしないようにするだろう。――飛ばされた精神的なショックとかは、どうにも出来ないが。

 とりあえず、この風圧では巨人もまともには動けないようで、ひとまずは安心する。これ以上、不用意な犠牲は出さなくてすむだろう。

 思わず息を吐いたところで、ズキズキと痛みを訴える頭を軽く押さえた。レンから物言いたげな視線が向けられるが、今はこれに関して問答する時では無い。小さく微笑み、言外に心配するな、と伝える。

 

 

YIx tIirs fawEE LAas tIi raYEE

 光よ 聖なる力よ 護りとなりて全てを救いたまえ

 

SAax tIirs fawEE XAarS tIi VaYEE

 全てを護りて 生なる喜びを与えたまえ

 

E I eeeiiio cet tetyio I yA hyea

 大いなる聖なる力 全てを包む愛の力

 

E I eeeiiio cet tetyio I Yyy AAA

 邪は打ち消され 光は万物を満たす

 

 

 頭上の空で、雲が吹き払われ、大きくひとつの式陣が展開された。街ひとつ覆うほど巨大なそれに、思わず安堵の息を吐く。

 ここまでくれば、とりあえず問題無く発動するはずだ。

 

 

Xa iEi AaaA IYA

 大いなる愛が 満ち溢れるよう

 

 

 上空の陣とは別に、地上にも無数に大小様々な陣が展開される。ざっと見ただけでも50程だろうか。そして発動するモノを察しているだけに、その展開した陣の数がそのまま巨人の数であることも知っていた。

 上空の陣がエネルギー砲の砲口だとすれば、地上の陣は標的を定める照準のようなもの。この照準を合わせるために、レンに風を操ってもらい、巨人の動きを封じたのだから。

 

「……まぁ、まだ個別に狙うだけマシだよね」

 

 思わず呟いた言葉に、レンは小さく首を傾けた。

 

「――それ、2年前の疑似戦争のこと?」

 

「うん、それ。――あの時は完全に人狙いじゃなくて都市を潰しに掛かったから。あれに比べれば可愛いものだと思うんだけど……」

 

 どうかな、と言ってみた自分に、レンは首を振って嘆息してみせる。――いや、実のところ自分でも五十歩百歩だと思うんだけど。

 

「――都市全域を間合いとするなら、それはもうどんな内容でも変わらないと思う」

 

 うん。知ってた。わかってる。――本当に。だからこそ、【剣守】は同胞であるはずの【降魔】の中でも畏敬の対象なんだから。

 

 

Zan stimyni ipy EiE

 神よ慈悲を 弱きものを赦し 正しき光の下へ

 

 

 頭上の陣がいっそう強く七色に輝いた。2年前と違って狙いを固定化しているから、たぶん、矢が降ってくるような発動の仕方をするのだろう。

 

 

yerh zecta ferx cafeb maarb itt sss

 愛しい世界を守りたい

 

SAax tIirs fawEE rAE StIyn raYEE !!

 想いに宿りし我が使命よ 全てを解き放て!

 

 式陣は弾けるように砕け、そして案の定、砕けた欠片が光の矢となって、地上の式陣に囚われた巨人に雨の如く降り注いだ。

 

 

 

 

 





 今回は大部分を『EXEC_FLIP_ARPHAGE/.』から引用しました。イメージが近すぎて……どうやっても新たに自力で紡ぐことが出来なかった、という敗北宣言をさせて頂きます。

 それにしても、この歌詞……星語なのか律史前月読なのか。いや。たぶん律史前寄りではあるのは解かるんですが、むしろ志方さんの律史前がこれだけ……?それで検証しづらいのだろうか……。律史前月読といえばシモツキンこと霜月はるかさんの印象が強いですし。

 どなたか、星語と律史前月読の解析方法を教えてください。え?ひたすら歌詞と資料集と睨めっこ? ですよねー……。星語構築のセンスが欲しい今日この頃。


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