自由の向こう側   作:雲龍紙

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『風は謳い、万象を揺り起こす』


 昨日の今日でコッソリ投稿……。

 サブタイトルの【Via】のみヒュムノスでは無かったと記憶しています……セラフェノだった、ような……。
 あ。いえ、【Loar】もセラフェノですね!





【Arma:01 Rre Loar hymme en Via omnis.】

 一撃。二撃。

 迫る牙を避けるついでに、口腔に三撃目。

 

 目を瞑り、大気を伝わってくる勁の波動から、戦う人の状況を把握する。

 あの人――サーヴォレイド卿は、実を言うと見た目の年齢に反してかなりの古参だ。だから、戦力的な意味ではあまり心配していない。

 だが、同じ【剣守】の中では異質なほど勁量が少ない、という人だった。だから勁技の大技は使えず、従って単純に討伐に時間が掛かる。ただ、その為に純粋な戦闘技術――勁に頼らない戦闘ならば、ちょっと敵わないかも知れないと思っていた。そういう意味では、非常に尊敬している。

 ただ、独特な人なので距離感が掴みづらい。そのせいで、出来れば自分からは近付きたくない、とも思わざるを得ない人でもあった。

 だが、今回はそうも言っていられない。

 

「……レイフォン?」

 

 緩やかに減速していた馬車が、静かに止まったのを感じて目を開く。心配そうな眼差しを向けているレンに柔らかく微笑み、そっと髪を撫でた。滑らかな指通りを堪能していると、幌馬車の出入り口が開けられる。

 見れば、犬鷲を肩に乗せた金髪のマフムート将軍が入って来るところだった。視線が合えば、鮮やかに笑みを浮かべられる。

 

「――少々、待ちます」

 

「サーヴォレイド卿を?」

 

「ええ。正確には、それに託(かこつ)けて少々時間を稼ごうかと。――少しくらいは、休めましたか?」

 

 その言葉に曖昧に微笑んで応え、微かに息を吐いた。近付いてきたマフムートは目の前に膝を着いて目線を合わせ、微かに苦笑する。

 

「――あなたが『壁の中』から連れて来た方々は、どういうつもりで連れて来たのです?」

 

 ――うん。確かに、それは教えておかないと障りが出るかな。

 

「――協力してくれたから、御礼に『外』を見せようかと思って。それから、将来、戦争回避、不穏分子の炙り出し、変革への試金石ってところかな?」

 

「それは――あの方々もお気の毒に。こんな素で腹黒な謀略家に扮する天邪鬼に使われるなんて」

 

「それは、笑いを堪えながらいう事じゃないと思うよ?」

 

「これは失礼。――あなたがあまりにも素直じゃないので。普通に友好的な親善交流だと仰ればいいのに」

 

「うん。――でも、表立っては不可能だから。少なくとも、今はまだ」

 

 これだけ長期間に渡って都市を不在にしていて、帰還してからも更に騒動が起こることが確約されているも同然な状態で、果たしてまともに『壁の中』から来た人々の面倒を直接みられるかというと、どう考えても無理だとしか答えようが無い。

 というか、普通に安全を保障できないのだ。主に政治的な意味で。

 

「これから、ヴォルフシュテインは荒れる。ただ、これで終わらせるから――これに関しては案じる必要は無い。『彼ら』を招待した手前、時間も掛けられないし。――でも、正面から招くと……」

 

「――まぁ、いらない招待や歓迎を受けますね。了解しました。こっそりとお連れします。――代わりに、せいぜい派手に目立って下さい」

 

「わぁ……やっぱ、そうなるかぁ……」

 

 まぁ、目立つのは最初から確定していたことだったから、それは構わない。問題は、どんな目立ち方なら、まだマシか、というところか。

 歓迎してくれているのは、解る。帰還を喜んでくれるのは、自分としてもやぶさかでは無い。

 だが――今回は、あまり民衆の期待に沿うことが出来ないのだ。

 何より、自分はやることやったら、倒れる予定である。で、あるならば。

 

「――お祭り気分に水を差すのは、あまり好きじゃないんだけどなぁ……」

 

 思わずそう呟けば、マフムートとレンは僅かに首を傾げて、眼を瞬かせた。

 

 

 

【Arma:01 Rre Loar hymme en Via omnis.】

 

 

 

 丘の上でしばらく休むことになったらしく、マフムートが率いる一団は馬で駆けていた時よりもどこか緩んだ空気を漂わせていた。中には望遠鏡や双眼鏡を取り出し、遙か後方で行われている怪物――汚染獣とか云うらしい――とサーヴォレイドという移動都市の【剣守】の戦闘を眺めている者までいる始末だった。

 もっとも、自分も双眼鏡を拝借して、それを眺めている訳だが。

 

「……あれも巨人みたいにすごく軽いのかな」

 

 ポツリと呟いたハンジを一瞥する。

 

「――単純に考えて、あの大きさに相応の重量があるなら、その重さを支えるための筋力もすごい訳で。それをものともせずに蹴ったり殴ったりで軌道を逸らせるなら、――あの人、人間じゃないよね」

 

 いっそしみじみと零したハンジに「そうか」と言って返した。ふと背後で人々が割れるような気配を感じて振り返る。

 その先に幌馬車から出て来たらしいレイフォンの姿を見つけ、思わず眉根を寄せた。

 目が合うと軽く微笑み、静かに歩み寄って来る。

 その外套は相変わらず血と土埃に薄汚れたまま。しかも頭部の怪我も一切手当も何もしていないらしい。思わず責めるような眼差しを向けるが、気にせずふわりと笑っている。――お前、本当にいい加減にしろと声を大にして言いたい。ガキがそこまで気張るなと。

 

「――そろそろ、出発します」

 

 口を開こうとした矢先、柔らかくレイフォンに先を制されて口を噤む。

 

「帰還したら僕は倒れますので、しばらくヴォルフシュテインはごたつきます。――マフムートか、サーヴォレイド卿に案内してもらえますので、そのつもりでお願いいたします」

 

「……3ヶ月も出奔してたトップが、帰還後すぐに倒れて意識不明――となれば、不穏分子やら今回の黒幕やらが好機とみて動き出す、か」

 

 そこを一網打尽にするつもりなのだろう。つまり、レイフォンの都市はこれから荒れる。

 だが。

 

「――お前、どうするつもりだ」

 

「さて。……一応、問題は無い筈なんですが」

 

 こいつは都市の防衛機構を統括する、と言っていた。つまり、都市の警備やら要人の警護やらも、すべては本来ならこいつが采配するのだろう。そんな軍事的なトップが倒れた場合、普通は命令系統に支障が出る。

 よって、今回の『倒れる』というのは、釣りのはず。そういう特大の餌で釣っても、釣りだと判断されない状況下である今だからこそ、実行できる手段に過ぎない。

 つまり、こいつが倒れるのは『演技』のはずだ。そうでなければならない。

 ――だが。

 

「……お前、俺らを雇えるか」

 

 その言葉に部下がぎょっとしてこちらを見たのが解った。マフムートの部下たちは少し遠巻きに、興味深そうに眺めている。だが、レイフォンは――思わずと云う風に笑みを深めた後、次いで苦笑した。

 

「そんな風に察しが良いうえに優秀だと、本当に部下に欲しくなりますね」

 

「冗談じゃねぇぞ」

 

「解っています。――ですが、よろしいのですか?」

 

 苦笑したまま小さく頷いたレイフォンは、静かな眼差しを向けて来た。――こう、こっちの懸念と思惑を看破したうえで、その提案を呑む準備はあるが、それで良いのか、と訊いて来るのは素直に称賛に値する。嫌でも内地の連中との落差を感じずにはいられない。

 というか――固辞しなかったという事は、それなりに手が足りていないのが実情なのだろう。ならば、部下の身の安全のためにも、二重三重の意味で確実な保身に利用させてもらう。

 

「ここまで来て、お前に何かあったら寝覚めが悪いだろうが」

 

「――――わかりました」

 

 ふと息を吐き、レイフォンは何処か温度を感じられない硬質な笑みを唇に乗せた。――本当に、そういうのは子供がするような表情では無い、と思う。

 

「――閣下。どうぞ」

 

 するり、と現れたマフムートは手に幅広い盆のようなものの上に、紙とペンを乗せて運んできた。レイフォンは当然のようにペンをとり、紙に何かをさらさらと綴っていく。最後に署名をし、その紙を筒状に丸めて封蝋をしたものを差し出した。

 

「――ヴォルフシュテイン王 ヤエト陛下にお目通り叶うのは、早くても私が倒れた後です。なので証明書代わりにお持ちください。陛下にお目通りの際、この書状をお渡しくだされば――悪くて黙認、良ければ身元を保証してもらえます。――まぁ、保険ですね」

 

 それを受け取りながらも、思わず睨む。それで意図が伝わったのか、レイフォンは困ったような微笑を浮かべた。

 

「――マフムート将軍」

 

 レイフォンの呼び掛けに軽く肩をすくめ、マフムートは筆記用具を近くにいた部下に渡して片付けるように指示した後、自らの首に掛けていた小さな袋を取り出し、中から指環を通した紐を引っ張り出した。

 一度それをしみじみと眺めると、息を吐いて隣に立つレイフォンにちらりと視線を向ける。

 

「……まぁ、私が持っていたところで、もう使うことも無いでしょうし?」

 

 いささか棘も含みもふんだんに滲む言葉に、レイフォンは思わず視線を逸らした。そうして申し訳なさそうに口を開く。

 

「……ごめん、なさい。――でも、あの……一段落したら、お返しするので……その、」

 

 ここまで言いよどむレイフォンというのは、実はあまりお目に掛かれないような気がする。少なくとも、ここまであからさまに言葉を選んでいるのは、初めて見た。

 そんなレイフォンに再び肩をすくめて見せ、マフムートは手にした指環を持って近付いて来る。訝しげに見ていると、それを差し出して来た。

 

 古い、緻密な細工が施された、燻し銀の指環。

 細工の中央には控えめな大きさの青い宝石が填め込まれている。それを見て、思わずマフムートの兵団が掲げている旗のひとつと細工の紋章を見比べた。

 指環の細工は、交差する剣と槍を囲む茨。その中央には狼らしき獣の姿。青い宝石は獣の額部分に填め込まれている。

 この細工と全く同じものが、兵団の掲げる旗にも描かれている。それも、もっとも高い位置で翻っている旗に。

 つまり――これは、もしかしなくてもヴォルフシュテインという都市を表わす紋章であり、ひいては王あるいは王に極近しい者にのみ使うことを許される類のモノの筈である。

 

「――――おい。これは嫌がらせか」

 

「まさか。――でも、意味を察せるならば、重畳です」

 

 思わず突っ込んだ言葉に、レイフォンが苦笑で返す気配。改めて視線を向ければ、やはりここ数日で見慣れた笑みが浮かんでいた。

 

「――それは、後見に僕がいる、という証です。王宮内でもある程度は自由に歩き回れる権限付きなので、しばらく持っていて下さい。何故マフムート将軍が持っていたのかは、秘密です」

 

 ――まぁ、十中八九機密事項だろうが。

 とりあえずは有り難く受け取ることにして、マフムートの手から指環の形をした通行手形を取る。

 

「何か騒動に巻き込まれて所属を問われたら、ヴォルフシュテイン卿の【本】だと答えて下さい。――それで解放されなければ、相手は僕の『敵』です。煮るなり焼くなり、お好きにどうぞ」

 

「……好きにして良いんだな?」

 

「はい。どうぞお好きなように。――マフムート将軍、そのように手配を」

 

「かしこまりました。――では、お客人がた」

 

 にこりと笑顔を浮かべ、マフムートは有無を言わせぬモノを漂わせながら恭しく幌馬車を示しながら言葉を続けた。

 

「大変申し訳ありませんが、まずは都市に着くまでに着替えて頂いた後、簡単に皆様の役どころをご説明させて頂きますので、そのつもりでお願いいたします」

 

 

 

 




 トルキスの戦闘シーンを入れようと思ったけど、それを入れるとまた投稿がいつになるか判らなくなるので、サクサク進むことにしました。はい。

 どうせ、この後に戦闘シーンもありますし。はい。

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