自由の向こう側   作:雲龍紙

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『風に羽ばたく翼』


 そういえば、説明したような、していないような。
 サブタイトルの頭……【Arma】とか【stig】とかですね。これは『誰視点』なのかをメモしています。但し、以前はサブタイトルの前は短かったので考慮してなかったのですが、最近は結構、偽りアリな感じに……orz

 とりあえず、この章で多いのは

【stig】のトルキス視点
【Arma】のリヴァイ兵長視点

 ……あれ? もしかして2つだけ……?
 いや……あれ?

 


【Arma 02:rre fwal famfa tou fhyu.】

 

 

「これで――終わりっと」

 

 汚染獣の脳天に止めの一撃を突き刺し、断末魔を聞き流しながら肩を回しつつ遠くからこちらを窺っている兵団に視線を向けた。

 

「あいつらも物好きだよなぁ。さっさと帰ればいいのに」

 

「――おそらく、休ませているんだろう」

 

 ふわり、と紅い光となって両手の剣が崩れるように零れ、再び紅蓮の髪をもつ青年の姿となって顕れる。――何だかんだで付き合ってくれるこいつも大概だと思うが。だからこそ、「あいつら『も』」という言い回しだった訳で。

 

「ん? 休ませて――って、ひょっとしてレイフォン?」

 

 思わぬ情報に問い返せば、自分の天剣は小さく頷いた。

 その応えに思わず瞬く。

 

「……マジで? ちょ、負傷したのか?」

 

 『あの』ヴォルフシュテイン卿を休ませる、という事は、そういう事で間違いない。すれ違った時に姿が無いな、とは思ったが、まさか本当に休んでいたとは思わなかった。

 

「――ヴォルフシュテインは、基本的に運には見放されている」

 

「あー……うん。否定はしねぇけど、」

 

 ヴォルフシュテインは基本的に不運である。諸々を顧みた時、そうとしか思えないので、そういう風に認識されている。つまり、今回も不運であったと。

 

「――偶々、災獣に襲われ掛けている者を見つけて災獣を撃退。その結果、災獣が倒れ込んだ方向にあった建物が崩れ、降り注ぐ瓦礫の中に取り残された2人を救出。結果として、頭部を負傷」

 

「…………うん。それは、運が悪かったな」

 

 この運の無さがヴォルフシュテインである。むしろ不運の女神に愛でられているのかもしれない。

 思わず深く嘆息して、一度頭を振る。思考を切り替え、天剣に向き直って不敵に笑いかけた。

 

「用は済んだ。帰ってイイぜ」

 

「――お前は?」

 

「オレ? ――ちょっとレイフォンで遊んでからにする」

 

 ちらり、と天剣に一瞥される。ただ眺めるような視線だが、同時に探るような気配もあった。信用無いなーと思う。いや。もしかすると別の意味で信用されているのかも知れない。

 

「……ヴォルフシュテイン卿が負傷しているからな」

 

 読まれた。核心には触れないが、それでもこういう言い方をするのならば、完全に読まれているだろう。軽く肩をすくめて返答にする。

 

「お前まで付き合う必要は無いだろ。第一、お前はザーヴォレイドの【天剣】だろうが。王サマだってこっちに来てるのに」

 

「――都市には『女王』が残っている」

 

 その一言で、心の底から納得した。あの燃えるような紅蓮の髪の『女王』と呼ばれる王妃がいるなら、何も問題は無い。

 

「――それから、ヴォルフシュテインとは、少しばかり話がある」

 

 それはあれか。いわゆる『O・HA・NA・SHI』というヤツか。それは非常に面白いかもしれない。いや、絶対に面白いし、楽しいだろう。その時には是非とも混ぜてもらうことにする。

 

「んじゃ、一緒に行くか。――夜刀」

 

 普段はあまり呼ばない名を呼べば、天剣は思わずといった様子で瞬いた。そんな反応に僅かに苦笑し、手を差し伸べる。

 

「ほら。――導け。お前が俺の天剣だろう」

 

 束の間、何かを憶い返したらしい天剣は、微かに吐息を零すとその手を取った。

 

 

 

【Arma 02:rre fwal famfa tou fhyu.】

 

 

 

 

 マフムートとレイフォンに促されて幌馬車の中に連れて行かれ、渡されたのはやけに刺繍の多い服だった。その刺繍による装飾を見て、ユウと共に壁の中に残っているはずのカナギを思い出す。複雑で特徴的な刺繍は、カナギが着ていた服にもあった。

 窺うようにマフムートを見れば、にこにことした顔で答える。

 

「これは【守の民】の服です。――我々のことを殆ど何も知らなくても、怪しまれない出身なのが【守の民】なので、こちらをご用意しました」

 

「……立ち位置は?」

 

「まず、【守の民】は大陸の東北に位置する樹海に棲む民です。大半は狩猟採集が主な生活をしています。『何処から来たのか』と云われたなら、だいたいは『東』か『北』からと答えれば納得されます。――で、表向きは【巡礼者】という事にしておいて下さい。それで大抵は穏便に済みます」

 

「巡礼者?」

 

「ひとり、あるいは少数で荒野を渡り歩き、自らの信仰する神を探し求める者、あるいは真理を求める者、くらいの認識でよろしいかと。――世界の真実を探す者たち、と言った方が理解しやすいでしょうか?」

 

 なるほど。それならば、どこで何を訊きまわってもおかしくは無い設定ではある。

 だが、マフムートは『表向き』と言った。なら、当然この後は『裏向き』に続くのだろう。

 

「――で、裏向きは?」

 

「話が早くて助かります。――『同業者』と『権力者』に対しては、お渡しした指環をご提示ください。大体はしたり顔して粛々と従ってもらえます。レイフォン閣下直属の隠密部隊である証なので、所有者を妨げることは、レイフォン閣下を妨げることと同意である、と見做されています。まぁ……本物かどうかを見極める為の試験をさり気なく課せられることもありますが、あなたなら大丈夫でしょう」

 

 どうやら、そうとう、かなり、ずいぶんと奮発されたらしい。

 だが、そうなると少しどころかかなり気になってくるのは、そんな指環をマフムートが所持していた経緯である。思わずマフムートを見つめれば、彼は軽く苦笑してみせた。

 

「――以前、レイフォン閣下に助けていただきまして」

 

 それだけで話題を逸らされ、マフムートは細々とした情報やら武器やらを渡して来る。立体機動装置も持ち歩く分にはあまり問題無いが、緊急時以外で着用するのはお勧めできないと言われた。ついでに『緊急時』というのは『王・公・卿が危機に陥っている時』と『都市が危機に曝されている時』であるらしい。

 とりあえず着替えながら他の注意点などを聞かされていると、馬車の外で大勢の気配が揺れ、次いで僅かに殺気立った。

 幌の隙間から僅かに垣間見えた刃物の閃きに、咄嗟に外へ飛び出してすぐ傍にいたレイフォンの首根っこを掴んで無理やりその場から退かし、反射的に抜いたナイフを逆手に持って頭上から切りかかって来た男の剣戟を防いで蹴りを放つ。それを後方に跳んで避けた男は、軽く口笛を吹いて剣を鞘に納めた。

 

「――あれ?」

 

 一拍遅れたレイフォンの声に、ずいぶんと暢気な調子の声だというのが咄嗟に出て来た感想だった。だが、それは同時に警戒していなかったか、警戒できないほどに調子が悪いという事だ。

 ナイフを握り直し、数歩先の男を睨みつける。

 

「――挨拶にしちゃあ、ふざけてねぇか」

 

「あァ? そいつならこれくらい余裕でどうにでも出来るだろ? お前さんは過保護だな」

 

 思わず口をついて出た悪態にそう応えた男は、片手を挙げると不敵な笑みと共にレイフォンに声を投げた。

 

「――よう、久しぶり」

 

「……お久しぶりです。でもなんでそんなに爽やかっぽい言動なんですか。正直、似合わないので引きます」

 

「お前、珍しくやらかしたんだって?」

 

「死んでくださいとは立場上言えないので、今すぐ消えて下さい。それか黙れ」

 

 鮮やかな笑顔と共に毒を吐いたレイフォンの言葉に耳を疑い、思わず背に庇ったレイフォンをまじまじと眺める。

 男の方は軽く肩をすくめると、大げさに首を振って嘆いてみせた。

 

「せっかく、あれこれ便宜を図ってやったってのに……」

 

「……あなたに対するお礼は、『今度試合しましょうね』ってことで良いですか」

 

「――へぇ?」

 

 男は目を細めて口角に笑みを刷くと、悠然と歩み寄る。とりあえず、害意は無いようなので黙って見ていると、男はレイフォンの頭を撫でながら楽しげに囁いた。

 

「その言葉、忘れんなよ?」

 

「……いちいち近付くの止めて下さい」

 

 これは、何と言うか。あまり見ない相手を警戒している猫のようだ、と思う。こう、悪い相手では無いのは判っているが、それでも緊張はする、という条件反射のようなものだろうか。

 ぱしん、と撫でる手を払うレイフォンの表情が年相応の少年のもので、思わず微かに安堵の息を吐いた。本人的には不機嫌ではありそうだが、そういう表情も出来るなら、思っていたほど心配してやる必要も無いだろう。

 だが、だとするとやはり最初の警戒度の低さは、非常によろしくない。ついでに周りのマフムートの部下たちも未だ微かに殺気立っている。かなり強くこの男を警戒しているらしい。

 

 ふとレイフォンの視線がこちらを向き、その視線を追うように男もこちらを見遣る。

 男は不敵に笑うとレイフォンを見下ろして問い掛けた。

 

「……で? 見ない顔があるケド?」

 

「彼らは『壁の中』の人たちです。今回の件にご協力頂いた返礼に、お連れしました。ただ、このまま僕が連れて行くと確実に巻き込んでしまうので……頼んで良いですか、トルキス兄さん」

 

「……――――レイフォン、あのな?」

 

 思わずしゃがみ込み、顔を覆って頭を抱えたらしい男は、それでも気を取り直すとレイフォンに呆れたような視線を向ける。

 だが、言葉はレイフォンに制されて続かなかった。

 

「以前、倒れる前に一応頼ってみろ、とトルキス兄さんに云われたので、頼って良いですか? 御礼に、今年は真面目に個人戦をしてみようかと」

 

 深く溜息を吐いた男は立ち上がると、レイフォンの頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜるようにいささか乱暴に撫でまわす。思わずバランスを崩して踏鞴(たたら)を踏んだレイフォンは、しかし今度は窺うように男を見上げていた。

 

「……あー、引き受けてやるから、お前は自分の都市に集中しろ。いいな?」

 

 客観的に見て、今のところこの男は強いて言うなら『特定の相手に対して喧嘩っ早い』あるいは『戦闘狂の気がある』になるが、それ以外はあまり問題も無いように見える。だが、マフムートの部下たちは警戒を解いていない。これはレイフォンの時には警戒どころかむしろ慕っているような気配さえあったことを考えると、別に【剣守】だとか【降魔の民】だとかは関係無いように思う。

 

 だが、同時に汚染獣から逃れる際にすれ違った時には、信頼しているようにも見えた。それらを考えていくと、どうも『あの男がレイフォンに近付くこと』を警戒しているように思う。そこまで考えて、そっとマフムートに疑問の視線を向けてみた。

 

 マフムートはその意を汲み取ってくれたらしく、軽く苦笑して幌馬車から降りて来ると小さく手招きする。それに気付いてさり気なくレイフォンの傍から離れれば、目敏くそれに気付いた男が不敵に嗤うのが見えた。思わずその表情に眉根を寄せる。

 

「――おい、将軍」

 

「彼はサーヴォレイド卿トルキス閣下」

 

 それは今までの会話から拾って理解していた。思わず顔を顰めてマフムートを見れば、彼はシニカルな笑みを見せて続ける。

 

 

「王殺しの都市サーヴォレイドを知らしめた御方です」

 

 

 





【トルキス・ベラフォルト】

・原作は『マザーキーパー』。
・但し、原作の状況とこのシリーズの状況の差異により、少々性格が丸くなっている。……らしい。
・ここでは【残紅都市サーヴォレイド】の【剣守】。しかし、いろいろと曰く付きである模様……。

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