自由の向こう側   作:雲龍紙

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『光浄都市ヴォルフシュテイン』

 何故か、長くなった話……トルキスによるリヴァイの都市内観光、みたいな感じです。
 序盤は。


 最後はキナ臭いですが。





【Arma 03: WOLFSHTEIN】

 

 

「――よぉ、お疲れさん」

 

 

 そう言って近付いてきた男に思わず眉を寄せて視線を向ける。だが男の方は意に介さず、静かに歩み寄って来た。それに違和感を覚え――ふと気付く。

 この男は、どうやら足音を殺す癖があるらしい。気配を殺している訳では無いが、普通の人間は足音を殺された時点で接近には気付けないだろう。――暗殺者とか間諜上がりにはありがちな癖だが。

 だが、とりあえず今この瞬間は危害を加えるような意思は無いらしい。というか、なんとなくだが、サーヴォレイドの天剣とやらが傍にいる間は、そういう、血を見るようなことはしないような気がした。事実、移動中も休憩中も、自分に話し掛けて来た今も、意識だけはサーヴォレイドの天剣に向けている。それは、完全に護衛の役割だ。第一に天剣、第二に自分、第三に同業者――今はレイフォンで、自分たちはその他くらいに分類されていそうな気さえする。そのくらいには、注意も向けられていない。

 

 

「――何の用だ」

 

 

 だが、話し掛けられたのなら、仕方がない。一応、形だけでも応答する。

 男はワザとらしく肩をすくめて見せると、チラリとレイフォンの背中を一瞥し、軽く嘆息した。

 

 

「どんなにしっかりしてても、あいつまだ子供なんだよなぁ……こう、オトナの一番汚いところも見知ってはいても、理解はしていないから、見ててハラハラすんの。けどまぁ、それをフォローすんのがまわりの大人の役目ってもんでな?」

 

「……一応、同意しておこうか」

 

「よし。――なら、お前さんは俺と一緒に潜入な」

 

「…………は?」

 

 

 満面の笑みで告げた男に、思わずそう返してしまったのは、別におかしくは無いと思いたい。

 

 

 

【Arma 03:光浄都市】

 

 

 

 レイフォンとレン、マフムートを見送った後、トルキスと名乗ったサーヴォレイドの【剣守】は実にあっさりと裏口――おそらくは、都市の機関部整備などで使われているのであろう場所から、宣言通りに『潜入』してみせた。ちなみに、レイフォンたちはきちんと正面の正規ルート――外壁の外側から地上に伸びる非常になだらかな階段とも坂道ともつかない道から帰還している。

 対するトルキスが使ったのは、巨大な脚に設けられている整備通路を利用して都市の底から潜り込む方法だった。

 

 

「……確かに、『潜入』だな……」

 

「正式な訪問じゃなけりゃ、王サマ連中も使う手段だし問題ねぇよ。――レギオスってのは、基本的には鎖された空間だからな。検問も厳しい。正面から行ったんじゃ、地位があるやつはまず間違いなく騒ぎになる。――けど、そんなんじゃ息抜きも出来ねぇからな。第一、どんなルートを使おうが、都市の意識である【天剣】には筒抜けだし」

 

 

 カツン、カツン、と歩を進めるたびに金属で出来た狭い通路に足音が響く。左右には剥き出しのパイプやらコードやらが張り巡らされ、何処からか低く、ごうんごうんと何かが動いている音が床や壁を伝わって来ていた。――正しく、巨大な機械の内部に入り込んでいるのだと、嫌でも実感せざるを得ない。

 

 

「――トルキス、」

 

「ん?――おっと、あったあった」

 

 

 サーヴォレイドの天剣が声を掛け、トルキスが歩みを止める。同じように足を止めれば、トルキスの視線の先には壁と一体化している扉のようなものが見えた。形状的に押したり引いたりするタイプのものでは無い、ということだけは察せられるが、だとすると――城門のように上から吊り下げられていたりするのだろうか。

 

 

「んー……夜刀、パスは?」

 

「お前、此処が他の都市だと忘れてないか?」

 

「それは知らないのか、読めないのか、突破できないのか、どれだ?」

 

「……Fou guwo ga exec bansh syec dand elle Zarathustra. 」

 

 

 傍から見ても投げ遣りな口調と態度で紡がれた言葉に、だが扉は反応した。やや荒々しく左右にスライドして開いた扉を眺めつつトルキスが息を吐けば、その天剣は更に機嫌が低下したらしく、顔を逸らす。

 その様子に軽く肩をすくめて見せ、トルキスは再び歩き出した。それに続いてしばらく歩いていくと、背後で自然に扉が閉まる音が耳に届く。――本当に機械が自動で動かしているらしい。

 

 

「――今のは、暗号か何かか」

 

「ん~? まぁ、暗号と言うか合言葉? けど、今の文をお前やオレが使っても、エラー……弾かれて終わりだぜ?」

 

「……合言葉なんだろう?」

 

 

 思わず問い掛ければ、前を歩くトルキスは肩越しに一瞥をよこし、僅かに嗤う。

 

 

「――まず、さっきの扉をさっきの合言葉で開けられるのは、そいつだけ。個体識別コード……まぁ、管理番号みたいなモンか。それを使ってたからな。ちなみに、この個体識別コードは詐称不可で、それはその個体識別コードを持つ対象の詳細な生体情報があらかじめ登録されているから。ちなみに今のは声紋――要は声で照合したらしい」

 

「……つまり、名前を名乗って、その名前を持つ本人かどうかを声で判別して、間違いなく本人だったから通された、ということか?」

 

「まぁ、だいたいそんなカンジ」

 

 

 ――これは、予想をはるかに超える技術だ。理解しづらいが、その本人かどうかの確認作業もおそらくは機械で行っているのだろう。先ほどの、言葉を発してから扉が開くまでの時間を考慮すると恐るべき速度だ。

 

「そんでさ、」

 

 

 いきなり男の方から声を掛けられて、思わず瞬く。

 

 

「――オレがレジスタンス活動なりクーデターするなら、今日が絶好の機会だと思うんだよ。もちろん、罠である可能性も濃厚なんだが、それでもこの機会を逃すとこれ以上の好機なんて絶対に来ないと解っているから、行動するしか無いワケだ」

 

「……また、ずいぶんと不穏だな。流石は『王殺し』とでも言っておこうか」

 

「うん? あー……誰に聞いたのかは知らないけど、その認識は、たぶん語弊があるからな。てか、オレの場合は特殊な例過ぎて有名になっただけだぞ。たぶん後にも先にも無いだろ。――って、それはどうでも良くてだな? 【天剣】は攻略済み、【王】は病弱でどうとでもなる。残る厄介な【剣守】は、本日めでたくも負傷して帰還、と。――ならば、この【剣守】を確実に潰す一手は?」

 

 

 言われ、考える。同時に、それが今の状況なのかと理解した。

 

 

「……【王】を人質に脅迫する――だと、弱いのか」

 

 

 人質を取ってレイフォンの前に現れるのは、もう自殺行為だろう。なら、誰かを人質にするのではなく、――殺すつもりで、一撃を放つ。

 その時、レイフォンはまず相手を庇う。それは『壁』から出てくる直前の掃討中にエルヴィンを庇ったり他の兵士を庇ったりしていたから、間違いないだろう。レイフォンは、まずとっさの時には自分を身代りにして庇うタイプだ。

 つまり、それが【剣守】を確実に潰す一手となる。

 そう答えれば、トルキスは深い溜息と共に首肯した。

 

 

「その通りだ。――人質など生温い。【剣守】は単独でレギオスを陥落させる程度の力を持つ。そんな相手に人質など取ってみろ。マジ切れした【剣守】に瞬殺されておしまいだ。――オレでもそうする」

 

「――だが、そう簡単に【王】を殺そうとするものか?」

 

 

 どんな王でも、絶対的な権力を持つ象徴として王がいるからこそ、そのお零れに与かることも可能なのだ。だからこそ、逆に王に危害を加えるのは考え難い。

 このトルキスという男は『王殺し』という認識をされているようだが、そもそもそういう認識をされるという事は、翻って通常は『王殺し』などという叛逆は起きない、という事の筈だ。

 

 

「レイフォンの危惧は、そこ止まりだろうな。単純な権力に関わるあれこれの謀略。――だが今回、それだけじゃすまない可能性がある。杞憂ならいいが、もしそっちが『出て来た』としてもアンタは大丈夫だろうし――アンタはレイフォンが動けなくなった時の保険な。もし、レイフォンが本当に動けなくなったら、そっちを頼む。【王】の方は……今回は護衛がいるから心配ないし」

 

「……つまり、自分を片付ける為だけに【王】にまで手を掛けるヤツはいないだろう、とレイフォンは考えている。要は、気を抜いていると言い換えても良い。――が、そこに付け込んでくる奴らがいて、だがそいつらは今回動くかどうかが良く解らない。だから、あらかじめ何かがあっても対処できるように、布陣だけはしておく、ということか?」

 

「その通りだ。――それでいいな、夜刀」

 

 

 そう言ってトルキスは狭い通路の突き当りにあった扉の前で足を止め、サーヴォレイドの天剣に向き直る。

 

 

「――人間と同じで、いくら考えても、俺はこの身体ひとつしかない。考えられるだけの状況の全てに手をまわせるほど、オレは手札も駒も持ってない。――レイフォンみたいに勁量が多い訳でも無いし、イージナスのヤツみたいに協力者も多い訳でも無い。そんでもって、策謀が得意な訳でも無い。――最低限、最悪のシナリオだけは回避するってラインを死守することしか出来ない。それで、いいな」

 

「――それでいい。これ以上は、お前に何も望まない」

 

 

 微かに首肯し、言い切った天剣の表情には、だが何か翳りがあった。それにトルキスは軽く困ったように苦笑すると、手を伸ばして天剣の頭を撫でてから身を翻し、扉を開けて先へ進む。

 その背を視線で追い、ふと歩き出そうとしない天剣に声を掛けようとして、その幽かな呟きを聴いてしまった。

 

 

「――望めるわけが、無いだろう……」

 

 

 思わず動きを止めれば、その隙に天剣も静かに歩き出す。その様子を見送りつつそっと息を吐き、静かに後を追った。――――本当に、『外』にも色々あるらしい。

 おそらくはトルキスの『王殺し』に関することだろう。どうやら、そのことについてサーヴォレイドの天剣は少なからず感じているものがあるらしい。ただそれは怒りではなく、別の感情であるのは雰囲気で察せられた。――後悔、に近い何か。

 

 

「そろそろ外に出る。眩暈、立ち眩みに気を付けとけ、リヴァイ」

 

「……そろそろ日も暮れる頃だろうが」

 

「それもそうか。んじゃ、人酔いに注意な」

 

 

 先を歩くトルキスから言われ、思わず眉間にシワを寄せる。――日も暮れる時間に、そんな人が大勢出歩くのか。

 

 カン、カンと音を立てて階段を上っていくトルキスには緊張は見受けられない。つまり、人が大勢出歩いているという状況は別におかしなものでは無く、また予想は可能な範囲である、という事であるらしい。

 階段を上りきると、トルキスと天剣が簡素なドアの前で待っていた。にやりと笑って口を開く。

 

 

「ようこそ、【流砂の民】の領域――通称、レギオスへ」

 

 

 ギィ、と軋む音を立てて開かれたドアの先には、無数の灯火が輝いていた。

 

 

「……大通りか?」

 

「あァ。もう少し歩いて王宮前の広場まで行く。――オレがやるなら確実に狙えるトコロにするし」

 

 

 ドアを閉めながら応えるトルキスの言葉を聞くともなしに聞きながら、周囲を見渡して思わず溜息を吐く。

 周囲の人々は、おそらくは中流から上流階級までいるのだろう。まぁ、上流階級とはいっても、いわゆる『お忍び』だと思うが。――大半は中流で、知り合いと酒を飲み交わしたり、露店で買ったらしいものを飲み食いしながら歩いている。酒場らしき店からは時折大きな笑い声が漏れ聞こえ、別の店先では楽器を演奏している者に合わせて踊り出す客がいたかと思えば、その周りの客たちも声を合わせて歌い出す。

 だが、そのどこにも『内地』にあるような、どこか退廃的な享楽の気配は無かった。

 ぼんやりと享楽に耽って酒に溺れているのではなく、目に見える者たちは心から楽しんでいるようだった。陽気に、快く楽しんでいる。鬱々とした空気は無く、賑やかで華やかだった。

 

 

「――英雄が帰還したからな。いわゆる、『お祭り騒ぎ』ってやつだ。この辺はお上品な感じだし、まだ静かな方だな」

 

「……どこから驚けばいいのか解らない」

 

 

 真っ先に目に入ったのは、人々の様子だった。しかし、足元の石畳は完璧に整備され、街のいたる所に張り巡らされた水路や噴水の中には、水の中であるにも拘らず光が踊っている。何より、陽は暮れて夜になっているというのに、街は温かい光に包まれているようだった。

 

 

「街の様子は、【天剣】の性質によって結構、違いが出る。光浄都市ヴォルフシュテインは、名の通り光と水に包まれた都市だ。中でも夜景は格別とされる。一生に一度は訪れたい都市ランキング不動の1位を取り続けて――」

 

「待て。なんだそのランキングとかいうのは?」

 

 

 前半はなるほど、と思いながら聞いていたが、後半は一体何なんだ。思わずトルキスの言葉を遮って顔を顰めれば、トルキスは笑いながら肩をすくめる。さっさと歩き出した背中を追い、はぐれないよう慌てて自らも足を動かした。――ここで迷ったら、本当にどうすればいいのか判らない。

 

 

「何って――都市民たちの娯楽? 情報雑誌とか観光雑誌に載ってるような解説。ちなみにウチのサーヴォレイドは近年まで名前も挙がらなかったんだが、ここ数年はちゃんと上位に入ってる。王サマと奥さんのお蔭だな。どちらかというと、就職したいって方向みたいだけど。クーア財閥万歳」

 

「街の様子は【天剣】の性質によって違う、とついさっき言わなかったか」

 

「風光明媚な四季折々の景色があなたの心をとらえた時、あなたは終の棲家にこの都市を選ぶことでしょう――的なキャッチコピーはあったな。実際、のどかで時間の感覚とか曖昧になるし。若者向けじゃなくて、自分の時間を満喫できるような奴が行きたがる都市だな。寺社仏閣巡りが好きなやつ向け――って言っても判らねぇか」

 

「それはつまり、田舎だということか?」

 

「いやいや。仮にも『都市国家』だぜ? 都市部は賑やかだよ。城下町って感じ――って、これでも判らねぇよなぁ……落ち着くし、静かなところも賑やかなところもあってメリハリもあるし、オレは結構、好きなんだけど」

 

 

 そう言ってトルキスは足を止める。見れば、どうやら本当に王宮の目と鼻の先にまで来ていたらしい。広場の中央には大きな噴水があり、その噴水の向こう、50メートルほど先には王宮の扉が開かれているのが見えた。警備の数は予想していたよりも少なく、だが全体的に質が良いと判断する。

 

 

「――って、オイ」

 

 

 トルキスは気負うことも無く解放された門を通り、王宮の敷地内に足を踏み入れた。それに慌てて駆け寄っていき、思わず問い掛ける。

 

 

「入っていいモノなのか?」

 

「ヴォルフシュテインの王宮は観光目的で一画が解放されている。表の庭も解放されているから、普通に出入りが可能だな。――生垣とか噴水の配置の関係で気付きにくいだろうが、普通に一般人もいるだろう?」

 

 

 言われて周囲を注意深く見渡せば、確かにひっそりとはしているものの、人影はちらほらしている。

 だが、これでは警備はかなりし難いだろう。

 それを言えば、トルキスは軽く鼻で笑ってみせた。

 

 

「――そもそも、警備をする必要が無いんだよ、本来は。ヴォルフシュテインの王サマは民衆に大人気だし――むしろ身体の弱い陛下の為に!って見舞いの品が届けられるのは日常茶飯事だし、レイフォンだって【剣守】の中じゃ珍しいくらいに貴族・一般市民・果ては流民まで幅広く支持されてるし、【天剣】は【天剣】でふらっと街中とか農地とかに現れて民といつの間にか交流しているし。――果たしてそんな連中に、反旗を翻そうなんて気を起こす民がいるか? いるとしたら、結果として仕事を肩代わりする羽目になってる宰相か直属の部下くらいだろ。そんでそいつらは、王サマたちに心酔している筆頭だ。――まぁ、単なる愚物はここじゃ生き残れないしな」

 

「……なるほど。そもそも、単純に施政に不満を持つ不穏分子は発生しないのか」

 

「発生する余地なんて、何処にあるよ? 自分の仕事以上に仕事をこなしつつ、かと言って完璧人間では無く、そこそこ頻繁に倒れたり、何もないところで躓いたり、抜けているところがあったりするんだぞ? 民としては『心配』の方が先に来るんじゃね? 主に生活能力の方で」

 

 

 少し、想像してみる。――仕事は出来るくせに、何もないところで転んだりして、思わずそれに手を差し伸べればほわほわとした笑みを返して来るレイフォンを思い浮かべてみて――ああ、と心の奥底から納得した。これは、ちょっと手を貸して世話を焼いてやらないと、いろいろ気掛かりすぎて心配になる。

 

 

「――だから、本当に暗殺騒動まで起こすような奴は、都市内では限られるんだよ。オレが気にしてんのは別口で、たぶんお前がそれに巻き込まれることは無い。だから連れて来たんだし」

 

 

 思わず怪訝な眼差しを向けた時、トルキスが再び足を止めたのと門の方でわぁっと歓声が湧き上がったのは殆ど同時だった。

 その歓声を合図にしたかのように、王宮の中から何人かの人影が出て来る。

 

 

「――あれがヴォルフシュテインの王サマだ」

 

 

 そう言ってトルキスが視線で示したのは、王宮入口に続く階段の上に佇む長身痩躯の青年だった。衣装は黒を基調としたものでまとめられている。――王と云うともっと派手な、たとえば金とか赤とか、あるいは聖なるもののイメージが強い白だとかを身に纏うモノだと思っていたが、そういう訳でも無いらしい。――まぁ、あの布地の滑らかな輝きを見れば、素材自体が良いものであるのは察しが付くが。

 ふと、その王様の背後にある柱の陰に佇む男がトルキスを見ているのに気付き、眉をひそめる。

 

 

「――知り合いか?」

 

「ん? ウチの王サマ」

 

 

 へらりと笑ってひらひらと手を振るトルキスに何処か呆れたように息を吐き、それでも柱の陰に立つ男はひらりと手を振り返す。

 どうやら、警戒する必要は無いらしい。――色々と突っ込みたくはあるが、それは今後の機会に取っておくことにする。

 歓声が近付いて来る。ただ、妙だと思ったのは、湧き上がった歓声がそのまま続くことは無く一瞬後には鎮まり、ひそひそとさざめくような声に変わっていくことだった。

 

 

「あー……徹底的にやる気か、あいつ」

 

 

 トルキスの呟いた言葉に訝しむ視線を送れば、トルキスは思わず、という風に目元を手で覆って考え込んでいる。代わりに、その横にいた天剣がそっと教えてくれた。

 

 

「普段は、もっと笑顔を振りまいて手を振ったりしている。それは、そういう行為が民衆を安心させる為に行われるものだからだ。だから、どんなに体調が悪かろうと、笑顔で手を振らなければならない。――が、今回はそれをしないらしい。半分は黒幕への『それが出来ないほどに、余裕が無い』というポーズだろうが……」

 

 

 不意に人波の間から、レイフォンの姿が垣間見えた。連れの少女に支えられるようにして、ゆっくりと王宮へ――王の許へと歩を進めている。土埃と黒い染みで薄汚れた外套とその歩き方。そして何よりも時折ほんの微かな音を立てて石畳に滴り落ちる、点々と続く濃い雫の痕――血痕に、人々の間から気楽な宴のような気配が払拭されていく。

 

 王宮の正面にある噴水を迂回し、階段の下まで辿り着くと静かに片膝を着いて跪き、頭を垂れる。

 

 数瞬、噴水の水音だけが、その場を支配した。

 

 

「――面を上げなさい」

 

 

 低く滑らかな声が、周囲に沁み込むように響く。マフムートの時は良く透る声だと思ったが、このヴォルフシュテイン王の声はどちらかというと静かな声だ。けれど、沁み込むような深みがある。

 その王が二の句をつごうとした時、トルキスが動いたのと、柱の陰にいた男が動いたのは殆ど同時だった。

 

 

「伏せろっ!」

 

 

 トルキスが民衆を押しのけて向おうとする先、木々の影から銃口を向ける男の姿を見つけ、思わず舌打ちする。とっさにレイフォンの許へ走り出した。だが、――間に合うはずもない。

 

 

 ――――乾いた銃声が、響き渡った。

 

 

 

 





【光浄都市ヴォルフシュテイン】

自律型移動都市
【都市名】光浄都市ヴォルフシュテイン
【都市コード】WOLFSHTEIN_LAGUZ= LEGIONS
【都市の型】円壌型
【基礎製造コード】LAGUZ= LEGIONS:03

詩魔法サーバー
【型番】Infel=Phira:E03
【サーバーコード】
JUKLIZDA_Infel=Phira: E03_FEHU_Infel=Phira00
【使用者上限数(登録ユーザー上限)】1万人
【対応言語】新約パスタリエ、アルトネリコ依存各ヒュムノス、REON-4213、ラグクーア語
(神霊により対応言語疑似拡張。アル・シエラ、律史前月読、契絆想界詩)
【影響範囲】通常時は都市外10km(設計上の最高値は都市外およそ100km)

大地の心臓
【個体名称】Asiann_lyuma
【アドレスコード】Asiann_lyuma=hymme_FEHU_Infel=Phira:E.03
【核の色・形】白い光。形状は通常の【大地の心臓】。
【波動概略】ME-XA-YIR
【波動周波数】2.98×10^18Hz


【天剣コード】Ray-fane_GRANDEE_WOLFSHTEIN
【真名(まな)】劉黒
【性別・外見年齢】男性型・20代半ば
【身長・体重】184cm・68kg
【暫定属性要素】光、氷、境界、守護、白
【神格名】光の調律者、光の王
【神格レベル】10…clear
【神性レベル】100…clear
【総合値ランク】S


※神格レベル……人類における神格としての認知度に依存。0でない限り許容する。
※神性レベル……世界に対する影響度に依存。波動純度の数値。高ければ高いほど(以下、文字が塗り潰されていて判読不可)

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