※サブタイトルの頭に『viega』とあったら『GOD EATER』の神薙ユウ視点です。
※ちょっと、時系列が遡ります。
「これは強制だ。反論は認めん」
上官からのありがたいその言葉でもって、自分の有給消化が確定した。
【viega 01:遺された残響詩】
〔――――幻想種、というモノが存在する。
遙か太古の昔から極少数ながら存在し、そして400年ほど前からゆるやかに増殖した彼らは当時地上を謳歌していた人類の存在を脅かしたと云われる。
地域――というよりも文化圏によって姿かたちも特性も、果ては性質まで違う彼らはまず、『人類と共生するもの』と『人類と敵対するもの』とに分かれた。そのうち後者は『人類に関心の無いもの』と『人類を喰らうもの』に分けられるようになる。
――そして約300年前。
『人類を喰らうもの』は爆発的に増殖し、人類や他の幻想種、人類が築き上げてきたあらゆる文明の悉くを喰らい尽くした。これを指して、『災獣』という。
災獣もやはり、文化圏ごとに性質や特性が異なった。
中でも人類にとって『最悪の特性』を持っていたのが、『荒ぶる神』などという大層な呼称を与えられた【アラガミ】である。これは実に様々な形状の種類が存在するが、実のところは『自ら思考して、喰らう』という細胞――つまるところ、肉眼では捉えられないほどに極小の生物の群れである。
【アラガミ】が喰らうのは人類だけではなかった。ありとあらゆる生物、有機物、果ては無機物まで喰らい尽くす。地上に人類か築いた文明の痕跡がほとんど残っていないのは、主にこの【アラガミ】のせいだった。お蔭で失われた技術の数々は『ロスト・テクノロジー』『オーバー・テクノロジー』扱いである。しかも喰らったそれらを自らの身体で再現してしまうのが、【アラガミ】と呼ばれるモノだった。
――――ならば、と最初の災禍を生き延びた人間は考える。
その細胞を自分たちの身体に投与すれば、少なくとも【アラガミ】に対抗することはできるようになるのではないか、と。
細かい研究過程は表には出せない。紛うことなく、人体実験であったからだ。
結果として、『【アラガミ】と同じような特殊な因子を遺伝子に持つ新たな人類』は、完成した。それが自分たち【狼呀】の起源である、と云われる。――まぁ、実のところ欠陥だらけではあるのだが。
まずは寿命。これは通常の人間種の半分にも満たない。次に体質。生命維持の為には定期的に【アラガミ】をはじめとする災獣を一定数、喰らわなければならない。ちにみに、この『捕食』は神機を通して行う。流石に奴らを直接摂取しようものなら、逆に奴らの細胞に食い尽くされるのが証明されていた。……〕
――と、強制的に与えられた休暇中、【狼呀の民】極東支部――通称・アナグラのロビーのソファで本(というよりは論文集)を読んでいたユウは、不意に感じた珍しい波動に顔を上げる。
ざわり、と立ち話やら任務の確認を行っていた他の【狼呀】たちの気配が揺れた。視線を向ければ、エントランスから歩いてくる人影がふたつ。しかも、実に珍しいことに、【守の民】と【カムイの民】という、【狼呀】からするとれっきとした異種族である。しかも、だ。
(――どうして、【守人】と【天将】が一緒に?)
どちらもそれぞれの【民】のトップに属する者である。万が一にも『何か』があれば、【民】も黙っていない。場合によっては人間種の間で戦争が起きるくらいには、高い地位のはずだ。
カツ、と。高いヒールの音を立てて【天将】が立ち止る。長い薄桃色の髪が、ふわりと揺れた。そしてこちらを見て、優艶に微笑む。
――――ものすごく、嫌な予感がする。
「――カナギ。あの子がいいわ」
「そうか」
(――え。何ソレ?)
「ペイラー博士も、いいかしら?」
「もちろんだとも! こんな機会は滅多にないからね!! あ。希少なデータを採らせてくれるなら、ユウくんにも何か謝礼を出さなくちゃ。――『初恋ジュース』1年分とかでどうだい?」
いや、『初恋ジュース』1年分とか何の冗談ですか止めてください割と真面目に。
いやいや。そもそも、である。
「一体、俺に何の用なんですか」
この博士は一見、非常に胡散臭い人ではあるが、実際には良い人だ。ちょっとした問題点もいくつかあるが基本的にはただのロマンチストな科学者で、このアナグラの支部長代理――いや、近々『代理』が取れるとか噂で聞いたような気もするけど。
ただ、今はその『ちょっとした問題点』の方が前面に出ている。はっきり言って、逃げたい。
が、その空気を察したのかはたまた偶然か、博士はがっしりと俺の両肩を掴み、満面の笑みで告げた。
「――ちょっと、彼らの護衛を頼むよ」
「俺は今、有給消化中です。ついでに神機も強制メンテという名の研究測定に借り出されたんで、出動できません」
「神機の心配はいらない。今回はこちらの【守人】から【核石】の貸与が受けられる。それがダメでも、君なら他の神機でも適応できるだろう」
嗚呼。これは、ダメだ。
完全に『研究』に傾いてしまっている。多分、なんだかんだで有給は取り消されるか、期間が延びるかするんだろう。
もういいや、と思ってとりあえず両手を上げて降参した。
「わかりました。――とりあえず、同調可能かを確認したいので、【核石】を貸してください」
歓喜で騒いでいる博士をどかして、【守人】に歩み寄る。彼は複雑そうな表情で、紐を通して首にかけていた小さな布の袋を開け、中から3㎝くらいの赤く透き通った宝石を取り出した。
【核石】というのは、言ってしまえば自らの身体を武器化する【宝玉珠】といわれる妖精種の第二の心臓であり、魂であり、亡骸である。かつてはその美しさと希少性から、心無い人間によって乱獲されたという歴史があり、その為【宝玉珠】の大部分は人間を信用しない。
だが、こういう持ち方をしているということは、もしかすると恋人か身内だったのかもしれない。確かに、自分の恋人を他の男に預けるとか、まったくもって面白くないだろう。複雑な表情も納得である。
そっと差し出された【核石】を両手で受け取り、ほう、と息を吐いた。
「――きれいですね。夕焼けの空みたいだ」
「ふん。当たり前だ」
腕を組んで睥睨してくる【守人】に思わず苦笑し、意識を【核石】に向けようとしたところで、【天将】がくすくす笑う声が耳をくすぐった。
「――そうね。当然でしょう。その子は【守の民】の『女神』だったのだもの」
一瞬、耳を疑った。
ついで様々な情報が脳裏を乱舞し――最終的に、思考を放り投げた。問い質しても答えが無いであろう疑問は、考えるだけ不毛である。少なくとも、今この状況では。
ふ、と息を吐き、そっと【核石】を手のひらで包み込んで瞑目する。
――――自分たち【狼呀】にはいくつか【型】が存在する。
【型】によって性能の方向性が異なり、中でも『第二世代型因子』を持つ【狼呀】は、『感応』『共鳴』『同調』などの方向に基本性能が特化していた。要は、『精神の干渉・共有』である。
その能力を巧く使えば【核石】に遺された遺志と交感し、【核石】を残した【宝玉珠】が生前にとっていた武器の形を『思い出させる』ことが可能であり、そしてその形を大気中に休眠状態で漂っているとされる『オラクル細胞』――要は【アラガミ】の素――で『再現』することが出来る。
ただし、【核石】との交感までは比較的簡単にできても、その先の段階は非常に難しいらしい。成功者はそこそこ珍しいと聞いている。――自分はあっさりやってしまっているようなので、何が難しいのかよく解らないが。
【核石】の感触を感じて、ゆっくりと息を吸い、深く深く息を吐く。
さて、と意識を向けた。
瞬間。
――― kiafa hynne mea.
私の声を聴いて
まるで鈍器で頭を殴られたかのような衝撃に、思わずたたらを踏み、唇を噛み締める。
これは、まずい。
――― kiafa hynne mea.
聞いて この声を
語り掛けるまでもなく、向こうから強烈な意志をぶつけてくる。遺志ではなく、意志を、だ。
これは、ちょっと特殊な事情を持つ自分じゃなかったら、あっさり倒れていただろう。というか多分、倒れてしまった方が楽だった。
――― Wee yea ra, Was zweie ra, Rrha granme ra
あの日 私は護ると決めた
――― Was ki ra wearewuewie.
謡い、冀う
――― Was granme ra hymme rudje mea xest dilete.
この身に代えてでも 護りたいの
――― melenas ar yor.
愛しています
(――これは……)
最初にきっちりやった方が良いかもしれない。二度も三度も直撃をくらうのは流石に御免こうむりたいし。
息を吐く。ゆっくりと呼吸を意識する。
「【――inna syec, tanta reglle, answa race, inna syec yor. 】」
(心奥 鎖した場所で、秘された螺子を巻き戻す。深く、深淵へと)
――― Was yea wa sync yos spheala inna cest, inna add, echrra en yehar.
深く――深く深く 魂を共鳴させ 想いを解き放つ
「【Was ki wa fusya yor zi fwal der mea. 】」
(あなたを この両腕に包み)
「【Was yea wa aesye yor noi crown inna mea. 】」
(あなたの全てを 我が心の盞に受け入れよう)
――― “Was granme ra swant yora en melenas walasye.”
愛する人々を救うのが 私の役目
――― Was ki ra repoear yor infel.
あなたの想いに感謝します
どろり、と手のひらの【核石】が溶けるような感触。一拍おいて『彼女』は朱金の輝きを零す、刀の姿を顕した。
きらきらと煌く『彼女』は先ほどと打って変わって、今は静かにこの手に在る。
「――いやぁ、素晴らしい!!」
博士の感極まった歓喜の叫びに、我に返った。
周りを見れば、その場にいた【狼呀】たちもこちらに注目している。いや、派手なやり取りになってしまったのは認めるが、別にこんなに注目しなくても――いや、無理か。自分もギャラリーだったらガン見するな、うん。
興奮しすぎて専門用語が並ぶ考察を口に出してしまっている博士は、この際無視しておく。
「――同調可能です。ご用件も受けられると思いますが、結局、内容は何ですか?」
護衛、と博士は言っていたが、正直この二人にそれは必要無い。それだけの実力と事情がある。にもかかわらず、わざわざ想い人の形見を預けてまで【狼呀】を引っ張り出そうとしている。
はっきり言って、きな臭い。
対して、そう思われていることも自覚しているのか、【天将】は小さく苦笑した。【守人】は深く嘆息する。
そして【天将】から告げられた言葉に、その場の空気は凍り付いた。
「――――【カムイ】が消えたの。探してちょうだい」
作業用BGMは中恵光城さんの『Cielo Azul』と『Epitaph』だった、と記憶しています。
Pixivに上げたのは2013年9月……古いwwww
思わず笑ってしまいました。はい。