しかし、不思議なことにその概念は此処『幻想郷』にもあるようだ。
さて、そんな幻想郷の季節は春。
夏のような生暖かい風でも、冬のような痛冷たい風でもない、暖かく気持ちのいい風が幻想郷に住む人々の肌を優しく刺激する。
天を見上げれば、雲一つ無い広大無辺な蒼天を春風と共にのんびりゆったりと飛ぶリリー・ホワイト。
人里では、真昼間から団子屋さんで団子等を食す老若男女や、朝から縁側で欠伸をしながら友人と世間話に花を咲かす人々、
家と家の細道を元気よく走る少年少女の姿。
人里に住む人々はそんな光景を体験したり、目にしたりすることで誰一人例外なく『春が来た』と感じていた。
しかし、人里離れた場所に住む者達はまだ春を感じてはいなかった。
リリー・ホワイトがいくら春を知らせようがその者達は春を感じない。
何故なら────────博麗神社からの宴会の知らせがこないからである。
第1話「春ですよ!」
「はぁ…………」
《博麗神社》
この『世界』幻想郷を支える神社にして参拝客が少ない、博麗霊夢が住む神社である。
そしてその博麗神社の敷地内に落ちる複数の木の枝を長い歳月を過ごしてきたかの様に古びた木の箒を使い、勢い良く不機嫌そうな顔をしながら掃く一人の女性とその女性を申し訳なさそうに見つめる女性が一人。
不機嫌そうな表情をする女性の名前は博麗霊夢、この博麗神社に住む巫女であり異変解決屋だ。
そしてもう片方の女性は、霧雨魔理沙、博麗霊夢の友人であり、魔法使いである。
この二人は時折、異変解決を協力する仲なのだが、正反対な性格ゆえ、偶に意見が食い違うこともしばしば。
しかし、二人は別段仲が悪い訳ではない。寧ろ良い方だろう。
では、霊夢は何故不機嫌そうな表情を浮かべながら箒を掃いているのだろうか。
それは今から数分十分前に遡る。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「春が来た〜、またお酒が飲めるぞ〜!」
仕事帰りのおじさんが言いそうな年寄りめいた言葉を発しながら、上機嫌に賽銭箱を確認しに行く霊夢。
空を自由に飛び、自己の存在を知らしめるかの様に鳴く雀の鳴き声とハーモニーを奏でるかの様な空気の流れる耳心地のいい音色が霊夢の鼓膜を振動させる。
そんな自然の小さい演奏に心踊らされてか、柄にも無く無意識に鼻歌を歌う霊夢。
今日はなんだか、気分がいい。もしかしたら、賽銭箱に賽銭が入っているのかもしれないと思い更に機嫌が良くなる。
今ならチルノが勝負を仕掛けて来ても、ノリノリで望みそうだなと思いながら、賽銭箱の前へと辿り着く。
賽銭箱の上で羽を休ませる雀を優しく退かし、穏やかな心構えで賽銭箱に手を当て────開ける。
「………………嘘………でしょ……。は……はいって……………………る」
賽銭箱を開け、数秒の沈黙────いや、静止。
この瞬間は、何故か空気の流れる音も雀の鳴き声も霊夢の呼吸も聞こえることは無く、風が吹くことも、霊夢が動くことも、さきの雀が動くことも無かった。
まるで、何処かの完全で瀟洒な従者が時間を停止したかの様な状態だ。
そしてその数秒の停止現象の後、霊夢の閉じた口が空に浮かぶ雲の様にゆっくりと動き出した刹那、周囲の時間も遅れながらに再び、何もかもが動き出した。
この世の終わりかの様に震えた声を空腹とも満腹と言い難い微妙な状態の腹から乾いた喉を通して、精一杯絞り出す。
其れ程、霊夢は賽銭箱に賽銭があることが信じられない様だ。
「何処の誰だか知らないけど、感謝しなきゃね。
さて……これで明後日の宴会に必要なお酒でも買いに行こうかしら」
賽銭箱に入っていた小さな小銭を女性らしい小さな手で掴み取ると、満面の笑みでそれを空に浮かぶ自己主張の強い太陽の上に被せる様に掲げ上げる。
今の霊夢には、この小さな小銭も空に浮かぶ巨大な太陽と同様、輝かしい存在なのだ。
掲げた小銭と右手をゆっくりと下げ、いざ酒を買いに人里へと行こうとする霊夢。
賽銭箱に背を向け、足を一歩踏み出したその刹那
「れーーいむーー!遊びに来たぜーーー!」
「え、ちょっ!?魔理沙ぁっ!?」
穏やかな風を押しのけ、空気を引き裂くかの様な速さで箒を行使しながら、霊夢の元へと飛んでくる女性、霧雨魔理沙。
魔理沙は、一点の迷いも無く一直線にそのまま止まることなく此方へと向かって来ている事を瞬時に判断した霊夢だが、既に時遅し。
そして己の反射神経を上回る速度で、此方へと突っ込んだ魔理沙。
勿論、避けること出来ない霊夢はそのまま無思考で飛んできた魔理沙と激しく衝突した。
硬く巨大な岩を打製石器で強く叩いた様な音響が先程まで平和だった博麗神社に響き渡り、それに驚いた雀たちは一斉に何処かへと飛び去っていった。
「いっったぁ〜〜……。ちょっと魔理沙!あんた何処見てんのよッ!!」
「あははははは、悪いな霊夢。私の辞書に止まるって言葉はないんだぜ!」
「ないんだぜ!…じゃないわよ!全く……」
地面に尻餅をつく霊夢。
それを見ながら、頭を掻きつつ笑いながら開き直る魔理沙。
若干の痛さを抑えるために右手で己の小ぶりなお尻を摩りながら未だ、笑っている魔理沙を怒鳴りつける。
しかし、これ以上怒鳴っても意味はないと悟った霊夢はため息混じりに諦めの一言。
両足に力を込め筋肉を伸ばし、ゆっくりと地面から立ち上がると二回巫女服に付いた汚れをはたき落とす。
そして、本日二度目の溜息を吐いた瞬間、霊夢の脳へと稲妻が走った、
それは《違和感》。
魔理沙が来た後と来る前となにかが違う。
足りない、なにかが足りない。霊夢はそう感じた。
まるで、世界から太陽が失われたかの様な、なにか大切な物が消えた、そんな違和感だ。
胸の奥が騒めく、酷い頭痛と目眩がする。
次第に荒くなっていく呼吸、そして気付く違和感の正体。
そう、それは────────────
「こ、小銭に……が……さっきの御賽が……な……な……なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!?
ま、魔理沙ぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
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これがこの気不味い沈黙を生み出した、霊夢の機嫌を損ねた理由である。
要約すれば、久しぶりの賽銭が魔理沙との衝突により何処かへ消えてしまい、宴会の為に必要な酒が買えなくなりそれにより、霊夢は怒っているのだ。
「なぁ、霊夢……悪かったって。賽銭なら私が入れるからそろそろ機嫌なおしてくれよ」
「………はぁ、もういいわ。私も少し意地になりすぎてたみたいだし。さっきのことはもう水に流しましょ」
「ほ、本当か霊夢。よかったぜ〜」
「勿論、魔理沙が御賽をしたらだけどね」
「あ、はい」
静かな怒りをぶつけるかの様に箒を使い力強く、博麗神社の敷地内を掃除する、霊夢。
あまりの強さに箒と地面との間に生じる摩擦力の音響が辺りに響き渡る。
霊夢が魔理沙に対して怒ってからはや数十分。
両手では足りないほどの回数謝った魔理沙を条件付きでやっと許した霊夢に対して
これなら、最初から条件付けとけばよかったと密かに思いながら引きつった笑顔で返事をする魔理沙は霊夢の満面の笑顔に若干の恐怖を覚えたがそれを口に出したら、また霊夢が怒ってしまうと考え大人しく賽銭箱へと賽銭を入れたのだった。
こんなことがあった為に春恒例の博麗神社からの宴会の知らせが届かなかったのである。
とこんな感じで、宴会を始める前に霊夢と魔理沙の日常を描いて見ましたっ。
二話以降も描いていくので、皆さんアドバイスなどがあれば是非ともよろしくお願いしますっっ!!
見てくださってありがとうございましたっ!