広大に広がる晴天の下、静寂な空間の中で聞こえる音は小鳥の囀りと女性の寝息のみだった。
紅魔館の門の前に腕を組み立ちながら昼寝をする寝息の主である女性の正体は、紅魔館の門番、紅美鈴だ。
緑色のチャイナ服を身に纏ったその姿は昼寝をしていても尚、強者の貫禄を感じさせる。
「……これは入っていいんですかね」
そして、そんな美鈴の顔を困った様な表情浮かべながら覗き込み、寝ていることを確認する女性天狗、射命丸文。
右手には巨大なロゴで《号外》と書かれた文が一から百まで書き上げた新聞《文々丸新聞》が掴まれている。
このまま美鈴が目を覚ますのを待っていたら、最悪日が暮れてしまうと思い勝手に館の敷地内へと入ろうと思ったが、もしタイミング悪く入ろうとした瞬間彼女が目を覚ましてしまったら面倒なことになりそうとも思い、中々行動を移せない文。
「あら……貴女は……」
「あっ、咲夜さん、これはどうもー、射命丸文です。いやー、丁度良かった。実はつい先程霊夢さんから、宴会の知らせを報じてほしいとお願いされて、急遽号外で新聞を配っているんですよー」
「!……霊夢、やっと宴会を開く気になったのね」
文がどうしたものかと悩んでいる最中、先程レミリアから仕事を任された咲夜が紅魔館から姿を現した。
黒い鉄で構造された門を甲高い音響と共に開き、ゆっくりと足を進める咲夜は自身の向かって右側に門の壁に寄りかかり居眠りをする美鈴と新聞を持ちなにやら困った顔をしている文を発見した。
何時もなら鬼の形相で美鈴を叩き起こし、小一時間説教をするのだが、今回はそんなことよりもその美鈴の近くにいる文に意識が向いた。
そして咲夜が彼女の名を口に出し呼ぼうとした瞬間、まだ名を呼ぶ前にも関わらず咲夜に気が付き、先に挨拶をする文。
天狗は移動速度だけじゃなく、こういったことも速いのかと思う咲夜であった。
文は咲夜が何か用かと尋ねる前に、紅魔館へとやって来た理由を勝手に説明していく。
そして咲夜はその理由が自身にもレミリアにも喜ばしいことであった為に、つい無意識に安堵の表情を浮かべてしまう。
「あやややや、咲夜さん、もしかして結構博麗神社の宴会楽しみにしているのですか?」
「まぁ……私というよりは、お嬢様の方が……」
「あー……紅魔館の主様ですか。ふむふむ成る程……なんだか今の情報だけで、新しい記事が書けそうです」
「あら、変な記事を書くようならその羽を切り刻んでお嬢様のお夕食にしますよ?」
「あはははは、それだけはご勘弁を〜〜」
勿論、文はその咲夜の一瞬の表情を見逃す筈も無く、マスメディアとしてか個人的な興味からかその表情の真相を探り出す。
しかし、咲夜は別に隠すことでも無いだろうと考え文の質問に答えた。
すると文の表情は一変、先程までは極普通のいつも通りの表情だったのに咲夜の応答を聞くやいなや、まるでいじめっ子の様な悪意と好奇に満ちたなんとも苛つく表情を浮かべたのだった。
そんな表情を浮かべながら文は、手際よくポケットからメモ帳のペンを取り出すと、三回ほどペンを指で回してからメモ帳に何かを書き始めた。
その光景を目にした咲夜は、内心若干の後悔をしながら、三本のナイフを取り出し、目の笑っていない笑顔を浮かべながら文を脅迫する。
「はぁ……。冗談はお終いにして、そろそろこの新聞をお嬢様の元へと持っていかなければ」
「そうですか。ではでは、私はこのへんで失礼しますねーっ!あ、そうそう、新聞を届けたのは此処で最後なので急いで準備したほうがいいですよ」
「……え。もしかして宴会って……今日?」
「はい、霊夢さんが今日やらなかったら次は何時になるか分からないとのことなので」
「…………」(霊夢……ただ単に自分が今日やりたいだけでしょ……)
「では呉々も遅れのないようにー」
文から新聞を受け取り、中身を確認するとそこには《素敵な巫女からの宴会の知らせ》と書かれた記事が、一面トップを飾っていた。
宴会の知らせが遅れた理由や謝罪の言葉が一切記載されていないその記事を確認するやいなや、咲夜はすぐ様主人の元へと戻ろうと文に背を向ける。
文はその咲夜の背中を見ながら、空気の移動音と強い風圧と共に羽を羽ばたかせ徐々に宙へと浮き始めた。
そして、いざ空を飛ばんとした刹那、文はなにかを思い出したかのような表情を浮かべ咲夜を呼び止め伝え忘れた話を伝えた。
咲夜は宴会が本日と知ると同時にその訳から推測出来る霊夢の思考を考え勝手に呆れながら、手を振りその場を離れていく文を見送ったのだった。
こうして、とうとうこの日の夜、宴会が開かれるのであった。
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《守谷神社・宴会》
「ちょっとぉッ!お酒が足りないじゃないの!!こっちは、久しぶりのお酒でまだまだ飲みたいのよ!!」
「いや、なんで宴会が此処なんですか!?」
「んぁ?」
「本当なら博麗神社でやる予定だったのに、何故我が守谷神社なんですか!?」
「いやだって、あんたらの神社の方が広いからに決まってるじゃない」
博麗神社とはまた別の神社である《守谷神社》
本来ならば、博麗神社で行われる予定だった春の宴会がなぜか守谷神社で行われている。
理由は二つ、一つは守谷神社の方が広く、沢山の者達が入ることができること。もう一つは守谷神社組の準備が遅れるとのことなのでいっそう、守谷神社でやればいいんじゃないかと霊夢と魔理沙は考えたからである。
そんな理由を知らずに、勝手に宴会の場所を変えられたことに対して怒っているのは、守谷神社の巫女的存在である東風谷早苗だ。
早苗は、テーブルを介して己の前に座る赤い巫女に顔を近づけ今にも食ってしまいそうなほどに口を大きく開け、必死に反論している。
そして何時にも増して元気そうな早苗を少し離れた席から微笑ましい瞳で見る女性組が二人。
頭に帽子を被った低身長の女性、洩矢諏訪子と威厳のある気強そうな女性、八坂神奈子である。
両者はこの守谷神社が祟っている神にして八百万の一柱だ。
他にも人形使いのアリス・マーガトロイドや紅魔館組、天狗のはたてに射命丸文、そしてその元上司的存在である、鬼の星熊勇儀や伊吹萃香に八雲一家や西園寺幽々子、魂魄妖夢などその他様々な面々が守谷神社に集まった。
「まぁ、まぁ、いいじゃねーか。霊夢の株と唯でさえ少ない信仰が下がるだけんだしよ」
「そうね……次からは守谷神社で宴会かもしれないわね、そうすればもっと信仰も増えるかもしれないわよ?」
そんな早苗と霊夢のやり取りに笑いながら入ってくる魔理沙と、呆れながらに魔理沙の意見に同意しながら同じく会話に入ってくるアリス。
既に魔理沙は、酔いが回ってきているのか顔が若干赤く火照っている。
一方アリスは、あまりまだ酔っていないらしく普段通りの白い肌をしていた。
「なるほど……。霊夢さん!次から宴会は守谷神社でやりましょう!!」
「嫌よ」
「え〜、いいじゃないですか!」
「あんたねぇ!さっきまで此処でやるのに対して反対的だったじゃない!」
「それはそれ、これはこれです!!」
「はいはい、もうそういう話はそこにいるスキマ妖怪とでもしてなさい」
「あら酷いじゃない霊夢。やっと声をかけてくれたと思ったらそんなくだらない話なんて……ゆかりんは悲しいのですシクシク」
「自分で自分をゆかりんって……」
魔理沙とアリスの言葉を聞いて潔く手のひらを返した早苗は、輝かしい目をしながらテーブルから身を乗り出し更に顔を近づけた。
霊夢は手元にある酒を自身の升へと注ぎながら早苗の頼みを切り捨てる。
しかしそれでも食い下がらない早苗を面倒くさく思った霊夢は偶々近くに座っていた紫へと強引に話を振った。
たいして紫はそんな霊夢の扱いに慣れているのか両手を目元に当てわざとらしい泣き真似をしながら冗談交じりで返した。
霊夢は呆れた表情を浮かべながら泣き真似する紫に静かに突っ込んだ。
「……………………」
「?なによ……?私の顔になんかついてる?」
「あ、いえ…別にそういうわけじゃ……」
そんな紫と霊夢のやり取りを穴が開くかの様にジッと見つめる早苗。
それに気付いたのか霊夢は再び意識を早苗に向け直し、それでも尚何も言葉を発しない早苗を見て思わず自分の顔になにかついていて早苗はそれを見つめているのでは無いかと勘違いし手を口元に当てる。
そして、触ってもなにもとれなかったので疑問に思い早苗に確認をしたら別にそういうことではないらしい。
「??……じゃあなによ、そんな不思議そうな顔で見てきて」
「いや、なんていうか……前々から気になっていたんですが霊夢さんって紫さんと結構仲がいいですけど、二人はいつ頃からお知り合いなんですか?」
「へ?あー………………………………。さぁ?」
「え?」
それでも不思議そうな表情で自身を見つめてくる早苗を不思議に思った霊夢は、その真相を探るべく此方を見た訳を聞いた。
すると早苗から返ってきた答えは霊夢の予想斜め上をいっていたようで、思わず霊夢は間抜けな返事をしてしまった。
そして騒がしい周りの中、数秒間黙り込み早苗の質問の答えを眠る己の記憶から探し出すが結局見つからず。
早苗もまさか覚えてないとは思わなかったようで、先程の霊夢のように不意をつかれた様な声を出した。
「いや、私もあんまり覚えてないのよねー……」
「うわぁ……」
「霊夢……貴女結構酷いことをサラリと言うのね」
「なによ………じゃああんたは覚えてるわけ?」
「あら、心外ね。貴女との出会いはきちんと覚えているわよ?」
「はっ、どうだか」
「ついでに貴女が初めて解決した異変とか、貴女が初めて夢想転生を使った日とかも記憶にあるわよ?」
「はぁ!?」
「え!?霊夢さんが初めて解決した異変ですか!?」
別に隠すことでもないと思った霊夢は正直に記憶にないと明言、その悪びれのない霊夢の姿を見て若干引く早苗と流石に傷付いたのかやや白い目で霊夢を見る紫。
霊夢はそんな二人に対して若干苛つきを覚え、特に紫に対しては適当な奴だから覚えてないだろうとも思っていた。
しかし、紫は覚えていたらしく更には初めて夢想転生を使った日や異変解決したことすらも記憶にあるらしい。
それには思わず霊夢も驚愕、早苗は霊夢が初めて解決した異変と聞いて鼻息を荒くしながら紫へと詰め寄った。
「あら、中々面白そうな話をしてるじゃない」
「あややや、博麗の巫女の初めての異変解決ですか!これはいい記事になりそうですね」
「へぇ……霊夢さんの初めて異変解決……確かに気になりますね!ね、幽々子さ…幽々子様!?」
「あぁふぃなぁいうむ?」
「せめて口の中の食べ物を無くしてから話してください。あとどれだけ食べる気ですか……」
「いや、いいから別にそういう話はしなくて」
「あら、そう?」
「いや!!是非!!是非聞かせてくださいその話!!」
何処で話を聞いたのか、先程まで各々酒の席を楽しんでいたはずのレミリアや文、妖夢などが霊夢達の元へと集まり出した。
中でも妖夢は早苗同様、若干興奮しているのか口から発する言葉が力強く、幽々子が口に沢山の料理を含んでいることに気が付かないまま話しかけその膨らんだ口を見て驚いていた。
霊夢はため息混じりに紫を止めているが、紫はどうやら既に話そうと決めているのか軽く流されるだけで相手にされなかった。
早苗は先程まで自身がいた場所から離れ、紫の隣へと移動をしておりそんな早苗を見た霊夢は若干呆れながに酒を口へと運んだ。
「まぁ、でも確かに気になるわね。そもそも霊夢って私達倒したりして結構強いし、初めての異変解決もなんだかんだ簡単に終わったんじゃないかしら?」
「れいむは正直問答無用だからな、初めてってことで異変の起こし主殺して殺してそうだな」
「萃香、あんたもう酒飲まなくていいわよ〜」
「で実際どうなのかしら?初めての異変も簡単に解決したのかしら?」
結局周りに集まったのは宴会に参加した者たち全員だったが、その中で口を挟むのは限られていた。
アリスはなんだかんだ霊夢の実力を認めているらしく、聞かなくても直ぐに終わったって分かると言わんばかりに誇らしげに予想し始めた。
萃香はそんなアリスに便乗して冗談を放つが、霊夢の笑わない笑顔から放たれた無慈悲な言葉を聞いて、口を閉じた。
最後にレミリアが本題へと軌道修正したのを見るあたり流石人の上に立つだけのことはあると隣の咲夜は思うのであった。
「そうねぇ。まぁ、貴女達が弱い訳じゃないし生まれつき霊夢が特別強い訳じゃないのよ?」
「といいますと?」
「初めて倒したり異変主が、特別強かっただけよ。よくあるじゃない、レベル1がレベル100を倒したら経験値が物凄く上がるって現象。霊夢はそれに似た感じで、初めて倒した異変主があまりに強過ぎた為、その異変主より弱い奴には負けなくなったのよ」
「へぇ、紫がそこまで言うなら一度会ってみたいものねぇ」
「まぁ、あいつは強かったからな。私も霊夢もいま生きてることが不思議なくらいだぜ」
「そういえば、魔理沙も一緒だったっけ」
「なんだ忘れてたのか?」
「今思い出したわよ。確かいまから3年くらい前だったっけ?」
頬に手を当て昔を思い出すかのような表情を浮かべながら、説明を初める紫といつの間にか紫の前に座りメモ帳とペンを持ち話を聞く文。
紫の説明に出てきた異変主に興味を持つ一同。
そんな中、魔理沙は当時を懐かしむ表情をしながら話へと入ってきた。
霊夢もやっと思い出したのか、魔理沙の話に乗っかり出した。
「そうそう、あれは確かいまから3年くらい前、まだ霊夢と魔理沙が異変に出会ったことが無い頃の話ね」
「紫さん、是非一から話してください!!」
「あら、いいの?霊夢?」
「はぁ、分かったわ。私が話す」
紫も正確な年月を覚えてはいなかったのか、やはり魔理沙の一言で思い出した様子。
紫は人間とは比べ物にならないほど長生きしている為、仕方がないことではあるが。
そしてとうとう我慢の限界が来たのか、話を迫る早苗。
紫は霊夢の確認を形だけでもとろうと霊夢へと話の許可を求めた。
霊夢はそう言うやいなやゆっくりと席から立ち上がり障子の襖を開け縁側に出ると腰を下ろし酒を片手に月を見ながら語り始めた。
「────昔、私と魔理沙は"六道凛音"って名前の一人の人間と仲が良かったのよね」
こうして霊夢が初めて解決した異変の話が始まった。
これは霊夢と魔理沙、紫のちいさな"世界"に住む一人の女性の話である。