偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
わたしがマミさんの家に居ついてから6日間が過ぎた。
マミさんが学校に通っている間はマンションで大人しく過ごしていた。
少し前の夜にわたしはマミさんに紙とペンを借りると紙に名前を書いた。
朱奈(しゅな)
それが苗字を覚えていないわたしが唯一、覚えているわたしの名前だった。
「マミさん。これがわたしの名前・・・。わたしの漢字・・・。でもこれしかわたしは自分の事を覚えていないの・・・でも。わたしは自分の名前をマミさんにちゃんと覚えていて欲しいの・・・」
「分かったわ。朱奈さん。良い名前と漢字ね・・・。きっとあなたの髪の色に合わせて付けてくれた名前なのかも知れないわね」
そう言ってマミさんは嬉しそうにわたしの漢字をメモに綺麗な字で書いて見せてくれた。
元気になったわたしにマミさんは僕においしいケーキと紅茶をご馳走してくれた。
部屋にいる間は、ただぼんやりとするのでは無くマミさんに教えて貰って洗濯機の使い方と洗濯物の干し方を教わって洗濯物を干して食事を終えたら食器を洗って乾燥機に入れて片付ける事をわたしは覚えました。
合間を見てテレビを見たりマミさんから借りた本を読んだりしてマミさんのいない時間を過ごしていました。
マミさんは学校から帰ると真っ先にわたしの様子を見に戻って来てくれました。
一通りわたしの様子を確かめるとマミさんは2、3時間程、魔女退治のパトロールに出て行きました。
わたしは怖くてパトロールに付いて行く事が出来なかったけれどマミさんはわたしを責める事はありませんでした。
でも昨日だけはわたしはマミさんに頼み込んでパトロールに行く前にある場所に連れて行って貰いました。
「朱奈さん。ここよ」
「ありがとう。マミさん」
マミさんに連れてって貰った場所はわたしとマミさん、暁美ほむらさんが出会った資材置き場でした。
わたしの寝ていた場所にはわたしのリュックが盗られる事無く置きっぱなしになっていました。
リュックの中にはわたしの素性を示す物が無かったけれど放浪するわたしにとってとても大切な物・・・。だからマミさんに頼み込んでまで取りに来たのだ。
「そのリュックは朱奈さんにとって大切な物なのね」
「違うの・・・。大切なのは確かだけど・・・。もしかしたらこのリュックがわたしの記憶の手掛かりかも知れないから・・・」
わたしは言いながら涙を流していた。
「そうよね。いつかきっと朱奈さんも記憶を取り戻せるわ。だから泣かないで」
そう言ってマミさんは笑みを浮かべてわたしの頭を優しく撫でてくれました。
マミさんとマンションへの帰路を歩きながらわたしは考えていました。
頭を撫でられた時に感じたイメージの事を・・・。
マミさんに頭を撫でられた時、わたしの頭の中には誰かのイメージが浮かびました。
そのイメージは左右非対称な髪型をした女の人でそのイメージが浮かぶと何故かわたしは切ない気持ちになってしまうのです。
もしかしてぼくじゃなくて、わたしはイメージの女の人に抱く気持ちをマミさんに向ける気持ちを混同しているんじゃないかと不安になってしまいます。
でも・・・。
わたしが今、感じているマミさんへの感謝の気持ちは本物の筈。
けどわたしは金曜日が近付いて来るのが怖かったの。
もし金曜日になればわたしの持つ《右目の呪い》は《魔女》を引き寄せてしまう。
その時、マミさんの住んでいるマンションにいればマンションに住んでいる人達まで巻き込んでしまう・・・。
《右目の呪い》が発動する前、木曜日の深夜にマミさんはわたしを人のいない場所に連れて行き、そこでわたしに引き寄せられた《魔女》を倒してくれると言ったけどわたしにはそれが怖かった。
もし《魔女》との戦いでマミさんが死んでしまったら・・・。
それを考えるとわたしは怖くて怖くてまた泣きそうになってしまいます。
記憶の無いわたしにとってマミさんはかけがえの無い大切な人になってしまいました。
だからわたしは自分が傷付く事よりもマミさんに傷付いて欲しくありませんでした。
マミさんを傷付けるかも知れない私の右目が・・・。《右目の呪い》が憎かった・・・。
でもわたしには自分で自分を傷付ける自傷行為をする勇気がありませんでした。
もしわたしが自分の右目を自分で傷付けたらマミさんはきっと凄く悲しんでしまうだろうから・・・。
そうを思ってしまうとわたしは自分の右目に何も出来ませんでした・・・。
わたしは・・・。
弱くて卑怯で悪い子なのかも知れませんでした・・・。
○
木曜日の午後・・・。
マミさんは学校に向かいわたしは1人で留守番をしていました。
外は青空が広がり良い天気だったのにわたしの気持ちは沈んでいく一方でした。
それは大嫌いな金曜日が来てしまうから・・・。
金曜日が来ると思うとマミさんがせっかく用意してくれたせっかくの昼食も喉をうまく通りませんでした。
日が傾き始めるとわたしの中に恐怖が強くなって来ました。
「怖い・・・」
それがわたしの素直な気持ちだった。
コンコン。
そ んな事を考えていた時、ベランダのドアから音がして反射的にドアの方向を見つめるとベランダに1人の少女が立っていました。
ベランダに人がいると言う事にまず驚きましたが、ベランダにいるのがわたしに銃を突き付けた暁美さんだと分かると二重に驚く事になった。
暁美さんは黒いワンピースを着て睨む様にわたしを見ていました。
(どうやってベランダに上がって来たの?)
けれど良く考えてみれば暁美さんもマミさんと同じ《魔法少女》だったのでこれ位の高さは問題無い筈だった。
驚いたわたしは怖くてその場から動けませんでした。
わたしは暁美さんに銃を突き付けられる様な事をした覚えはまるで無かった。
暁美さんの名前だってこの間、マミさんから聞いたばかりで聞いた事の無い名前だった。
(あなた・・・。記憶を取り戻したくないの?)
するとわたしの頭に声が響いたのでした。
一瞬、何が起こったのか解らなかったけど直ぐにこれが《魔法少女》達が行うテレパシーだと気が付きました。
わたしは記憶を取り戻したいかと聞かれて少し迷ってしまいました。
記憶を取り戻す事に怖さがあったのは確かだけど・・・。
(あなたが記憶を取り戻す事が巴マミの命を救う事に繋がるんだとしても?)
それをテレパシーで伝えられてわたしは・・・。
(記憶を取り戻す手伝いをしてあげるからベランダのドアを開きなさい)
わたしは・・・。
暁美さんの言う事を聞く事にしました。
ベランダのドアを開くと暁美さんは履いていた靴を脱いで左手に持つと部屋に上がって来た。
「あの・・・。どうして・・・」
わたしの質問に暁美さんは表情を崩す事無くわたしの右手を握り引っ張りました。
「来れば分かるわ」
短い一言だったけどその有無を言わせない口調に押されてわたしは暁美さんに引っ張られてマミさんのマンションを出ました。
外は日が落ちかけ夕闇が町を覆う時間でした。
わたしは暁美さんの先導を受けて2人で街を歩きました。
怖かったけれどわたしは思い切って暁美さんに話し掛けてみました。
「あの・・・」
「何かしら」
「名前・・・。教えて下さい・・・」
「・・・。暁美ほむらよ。朱奈」
それを聞いてわたしはやっぱり疑問に思いました。
暁美さんの名前にはわたしは聞き覚えが無い。
けれど暁美さんは迷う事無くわたしの名前を告げて来た。
(やっぱり暁美さんはわたしの過去を知っているのかな?)
「わたし・・・。前にも暁美さんに会った事があるの?だから・・・。暁美さんはわたしを知っているの?」
暁美さんはわたしの言葉を聞いても直ぐには答えませんでした。
と言うよりもどう答えるか考えているみたいだった。
しばらくして暁美さんは答えてくれました。
「いいえ。私はあなたの正確な過去は知らないわ。でもこの先へ行けばあなたの記憶を取り戻す鍵があるのは確かよ」
暁美さんはしっかりとした口調でわたしにそう答えてくれました。
「どうしてわたしの記憶を取り戻す事がマミさんを救う事に繋がるの?」
抱いていた疑問をわたしは暁美さんに話していた。
「それは・・・。あなたが記憶を失ったのはこれから向かう先にいる《魔女》が関係しているからよ。理由は分からないけれど、その《魔女》はあなたの記憶を封印する代償として魔力を半分、分け与えてしまった・・・。けれどもしその魔力が急激に《魔女》に戻ったら?」
「どうなるの?」
「魔力が急激に上昇すればどんな《魔女》でも活動に支障をきたす筈よ。つまり・・・。倒すチャンスと言う事ね」
迷いの無い暁美さんの口調には迷ってばかりのわたしみたいな迷いが無くてわたしは暁美さんの事を信じても良いのかも知れないと感じていました。
暫く歩いてわたしと暁美さんはマミさんのマンションから少し離れた所にある鉄橋に来ました。
わたしを先導する暁美さんは橋の中央に行くと右手を掲げて魔法少女としての姿に変身しました。
同時にそこへ結界の入り口が現れたのでした。
それを見てわたしは怖くなって立ち竦んでしまいました。
暁美さんはそれに気付くとわたしに言いました。
「記憶を取り戻したくないの?巴マミを助けたく無いの?」
それを聞いてわたしは暁美さんが言ったマミさんを救う事に繋がるんだとしたら・・・。
わたしは・・・。
怖かったけど頑張って一歩を踏み出しました。
それを見て暁美さんはわたしの手を握って先導してくれました。
その結界の内部は何故かわたしはいつもの様な怖さを感じませんでした。
(今まで結界に何度も入っていたから慣れたのかな?)
わたしはそう感じているんだと思いました。
暁美さんの先導を受けてわたしはすんなりと結界の最深部と思しき場所に着きました。
ここまで来る途中で《使い魔》が一匹もわたしと暁美さんを襲う事が無かったのは変だと感じたけど暁美さんに質問する事は出来なかった。
物陰から暁美さんと最深部の様子を伺うとそこには全身を赤と青の布の様な物で覆い左右で手足の長さが違う《マダラの魔女》が鎮座していました。
「さあ。朱奈。あの《魔女喰らいの魔女》に近付いて。そうすればあなたの記憶が戻るきっかけになる筈よ」
暁美さんに言われた事をわたしは直ぐに実行出来なかった。
確かにわたしは《呪いの右目》を持ち結界の中で《魔女》や《使い魔》に危害を加えられる事は無かった。
でもだからと言ってわたしは《魔女》や《使い魔》が怖くない訳では無かった。
わたしは《呪いの右目》を持った少女だ。
わたしだって《魔女》や《使い魔》に恐怖を感じる・・・。
現にわたしは《魔女喰らいの魔女》に強い恐怖を感じていた。
恐怖から動けないわたしを見て暁美さんは言葉を続けました。
「あなたは《呪いの右目》があるから《魔女》からは危害を加えられない筈よ。だから行きなさい。あの《魔女喰らいの魔女》に近寄れば、あなたは記憶を取り戻す筈だから。付け加えるなら、あの《魔女喰らいの魔女》が原因であなたは記憶を失ったのだから」
「えっ!?」
「巴マミを救いたく無いの?あなたの記憶を封印している魔力をあの《魔女喰らいの魔女》に返してあげて。それがあの《魔女》を倒すチャンスなんだから」
そう言われてわたしの頭に浮かんだのはマミさんの顔でした。
わたしが記憶を取り戻せばマミさんが傷付く事は無いのかも知れない。
暁美さんはわたしが記憶を取り戻せばマミさんを救う事に繋がると言っていました。
だからわたしはマミさんを救う為に危害が加えられないと分かっていても、とても怖かったけど一歩ずつわたしは《魔女喰らいの魔女》に向かって進んで行きました。
一歩ずつ、ゆっくりと遂にわたしは《魔女喰らいの魔女》の眼前に辿り着きました。
(何も起きない・・・)
《魔女喰らいの魔女》は微動すらしませんでした。
そう思ってわたしが暁美さんの方を振り向こうとした時、《魔女喰らいの魔女》の身体が動き出しわたしの方へ頭?を向けました。
わたしが驚いていると《魔女喰らいの魔女》が右手をわたしの頭の上に広げました。
瞬間、わたしの中から何かが抜けて行きました。
これが暁美さんの言っていた記憶の封印なのかもしれませんでした。
わたしは足の力が抜けてその場に倒れ込んでしまいました。
目の前では《魔女喰らいの魔女》も同じ様に倒れ込んで苦しげな声をあげていました。
わたしの中から抜けた、記憶を封印していた《何か》が《魔女喰らいの魔女》を苦しめているのでしょか?
《何か》が抜けたわたしの頭の中には記憶の様な物が濁流となって私は混乱していました。
でも・・・。
わたしはとても大切な事を思い出して・・・。
苦しいけど・・・。
頑張って・・・。
その事を弱々しい声だったけれども呟きました。
「綾女ちゃん・・・」
それはわたしの大切な人・・・。
わたしをいつも守ってくれた《魔法少女》の名前・・・。
頭の中に色々な景色が入り乱れる。
余りの記憶の濁流にわたしは動く事すら出来なかった。
目の前で何かが動いているのは把握出来る。
けれど今、記憶に押し潰されている私には身体を旨く動かす事が出来なかった。
何か大きな音がわたしの頭上で響いたけれどわたしは反応を示す事も無い。
自分でもわたしは意識が虚ろになっていると感じていた。
わたしの体に何かが巻きついて来た。
何処かに引き寄せられるのを感じられる。
引き寄せられた時の勢いで首が揺れてマミさんの姿が目に入った。
(マミさん!)
わたしの意識は一瞬、ハッキリとすると僅かだけど手の指が動いたのを感じた。
首の筋肉に力を入れて習慣的に首と顔を正面に向けて目の前の出来事に意識を向けて見てみた。
《魔女喰らいの魔女》が体に巻き寄せられた黄色い布を引き千切り両手の爪を振り上げてこっちに走り出していた。
後ろにマミさんがいる事を自覚したわたしは思わず立ち上がろうとした。
でも全身の動きが物凄く緩慢に感じられ体を動かすのがいつもよりも時間が掛かっている事にわたしは焦りを覚えていた。
動きが遅くてもわたしは自分が動かせる最大の速度で体を動かしているつもりだった。
だから・・・。
ゆっくりと
ゆっくりと
ゆっくりと
ゆっくりと
一生懸命に体を動かしてわたしはマミさんの前に盾となる様に《魔女喰らいの魔女》の前に立ち塞がる形を取った。
《魔女喰らいの魔女》は右腕を振り上げた。
右手には鋭い爪が生えていた。
その爪が
ゆっくりと
ゆっくりと
ゆっくりと
ゆっくりと
わたしの顔に向かって振り下ろされて来た。
(これが・・・。殺されると分かった人が見る光景なのかも知れない・・・)
心の中にそんな事が思い浮かんだけれど直ぐに消し飛んだ。
《魔女喰らいの魔女》の爪がわたしの顔に食い込んだ時、わたしは意識を途切れて行った。
途切れる直前に右目の視界が暗くなったのを感じた。
頬に血が流れるのを感じられた。
「朱奈さん!」
マミさんの声が聞こえた。
でもわたしはマミさんに返事をする事も出来ずに意識を完全に失ってしまった。