偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
SIDE 暁美ほむら
結界の壁から《魔女喰らいの魔女》と朱奈が座り込み、急激な記憶の濁流に苦しめられている所を私は黙って見ていた。
「ここまでは私の計画通り・・・。朱奈・・・。ごめんなさい。こうしなければ私の大切な人は救えない・・・」
朱奈は気が付いていないだろうが私に朱奈を助けるつもりは無い。
記憶を戻すと言ったのは嘘では無かった。
私は朱奈が《魔女喰らいの魔女》と出会えば記憶を取り戻すと言う事を予め知っていた。
朱奈と会うのは今回が初めてでは無い。
既に何度か会っていた。
私が、私の願いの為に通り抜けて行った時間軸の中で私は朱奈の過去と起こり得る出来事をある程度だが知っていた。
私は苦悶の表情をしていたのかも知れなかった。
目の前にいる《魔女喰らいの魔女》が朱奈を食い殺した直後に私は《魔女喰らいの魔女》を殺す事を決めていた。
それが私に出来る・・・。
朱奈に対する償いだと考えていた。
自分勝手で傲慢な考えだと言う事も分かっていた。
自分の心理を誤魔化しているに過ぎない。
そんな緊迫した時なのにも関わらず私は初めて朱奈と会った事を思い出していた。
○
そこは私が訪れたある時間軸・・・。
何度、同じ時間を繰り返したのかもう私が数えるのを止めた時だった。
私は大きなイレギュラーによって今までよりも大幅に時間を巻き戻さざるを得ず、普段より一週間前の時間に私は戻っていた。
それでも私は私の願いの為に戦い続けていた。
いつもの様に魔力を補充する為のグリーフシードを得る為に私は《魔女》と戦っていた。
《魔女》を倒しグリーフシードを得た私が、ふと脇に目をやるとそこにはボロボロの服を着た少年が《魔女》によって殺された犠牲者の死体から何かを探している様子が目に入った。
関心が無かった為、私はその場を後にした。
だが数日後に私は別の《魔女》の結界で再びボロボロの服を着た少年を見た。
最初は偶然だと思った。
マイナス思考の持ち主が何度も《魔女》の結界に飲み込まれる事は何度か経験していた。
しかし私がその時間軸で初めて巴マミと遭遇した時、既に巴マミはボロボロの服を着た少年を助け出していた。
今まで少年の様にに見えた少女こそが朱奈だった。
《魔女》を引き寄せる《呪いの右目》持った記憶喪失の少女。
今いる時間軸と同じく巴マミは暫くの間、朱奈を保護して共に生活をしていた。
巴マミは朱奈が引き寄せる《魔女》を倒して朱奈を守っていた。
残念ながら巴マミにも《呪いの右目》から朱奈を開放する事は出来なかった様である。
だが朱奈があの《魔女喰らいの魔女》を引き寄せてしまった時、朱奈から何かを取り込んだ《魔女喰らいの魔女》は暴れだし朱奈を食い殺してしまった。
《魔女喰らいの魔女》に朱奈が食い殺されたのを見た巴マミは狂乱し《魔女喰らいの魔女》に身を守る事を捨てて戦いを挑んだ。
驚いた私が支援に動こうとしたその時には巴マミは《魔女喰らいの魔女》と相撃ちとなって散って行った。
私が知る多くの時間軸と異なり巴マミは私の大切な人と出会う以前に死亡してしまった。
巴マミの死によって時間の流れが変わり私の知り得ないイレギュラーが引き起こされ私の大切な人を守る事は出来なくなってしまう・・・。
結界が崩れその場は元の鉄橋に戻り愕然とする私の前にキュウべえは現れた。
「やあ。暁美ほむら。どうやらマミと朱奈は死んでしまった様だね。《魔女喰らいの魔女》と戦って・・・」
相変わらず感情の伴わない声でキュウべえはそう暁美ほむらに語りかけた。
「キュウべえ。その言い方は・・・。朱奈とあの《魔女喰らいの魔女》について何か知っていると言う事?」
そう言いながら暁美ほむらは左手の盾から拳銃を引き抜きキュウべえに突き付けた。
私が銃を向けたのは巴マミを救う事が出来なかった事への憤りからだったのかも知れなかった。
「いきなり銃を向ける事は無いと思うよ」
「私は全てを知っているのよ。《インキュベーター》」
私の言葉を聞いて感情の無いキュウべえが瞳を揺らした様に見えた。
「そうか・・・。なら話しても構わないかな。《魔女喰らいの魔女》と朱奈の関係を・・・」
「話しなさい」
ここからキュウべえの長い話が始まった。
「君は《インキュベーター》と言う本来の呼び名を知っていると言う事は《魔法少女》がいずれ《魔女》になると言う事を知っているんだろう?やっぱりね・・・。ああ。話を続けようか。《魔女喰らいの魔女》は元々、《筒地綾女》と言う《魔法少女》だった。朱奈と言う少女は綾女が奇跡によって生み出したこの世のあらゆる因果から切り離された《魔法少女》にはなれない人間だ。奇跡によってこの世に誕生する時に綾女は朱奈の右目に《魔女》を引き寄せる、言わば《呪い》とも言える物を施した。理由は理解出来ないけど綾女にとってそれは必要な事だったらしい。それに朱奈に施された《右目の呪い》は右目を無くせば無くなる物だったしね。奇跡によって誕生した朱奈と綾女は2人で流浪の暮らしをしていた。けど魔力が濁り始めた綾女は死の直前に朱奈から自分に関する全ての記憶を封印した。そうしなければ朱奈が生きてくれなかったからだと言っていた。けれど綾女が朱奈の記憶を封印する為に使った魔力は《魔女》になる寸前の《穢れた魔力》だった。だからこそ綾女が生まれ変わった《魔女喰らいの魔女》と朱奈が出会ってしまった為に朱奈の記憶を封印した、《穢れた魔力》が《魔女喰らいの魔女》に逆流する現象が起こってしまった。朱奈の記憶を封印した《穢れた魔力》が《魔女喰らいの魔女》に逆流してしまった結果《魔女喰らいの魔女》は自身の性質である《矛盾》を忘却して目の前の朱奈を《魔女》の持つ本能に従って食い殺してしまった。ただそれは僕にとっても予想外の現象であり非常に興味深く観察させて貰ったよ。そうそう。君は何でこの事を僕が簡単に教えてしまうのか疑問に思っているだろう?僕も大抵の場合は《魔法少女》がどんな願い事をしたのかは本人からの承諾が無い限り他の《魔法少女》には話さない様にしているからね。今回は綾女との約束があったから君に話しているんだよ。綾女とは『自分と朱奈が死亡した時点で自分達の事を調べている《魔法少女》がいれば全てを話しても構わない』と言う約束をしていたからね。僕には意味の無い約束ではあったけど君が聞いてきたから僕も綾女との約束を守って君に全てを話したんだ。さて僕は君の質問に答えのだし、君にも僕からの質問に答えて欲しいんだけど良いかな?」
パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!パン!
キュウべえから聞きたい事を聞き終えた私は躊躇する事無くキュウべえに向けて拳銃を撃った。
憤りから全弾を撃ち尽くすまで撃った。
撃たれたキュウべえの体はその場に崩れ落ちた。
キュウべえの死体を残して私はその場を立ち去った。
どうなるかは既に知り尽くしていたからだ。
その後も私はその時間軸で戦い続けた。
だがこの時間軸でも私の望みが叶う事は無かった。
そして私は幾度かの時間跳躍を経てこの時間軸へとやって来た。
己の望みを叶える為に・・・。
○
結界の物陰からそっと覗くと目の前では《マダラ模様の魔女》が鎮座しその前方では虚ろな瞳をした朱奈が倒れている。
このまま行けば後、数分後には《魔女喰らいの魔女》は必ず朱奈を食い殺してしまう筈。
朱奈がここで死ななければこの先、イレギュラーが益々、起こる事だけは容易に想像が付いた。
私は叶えたい望みの為に朱奈を犠牲にしようとしていた。
既に何度か行っている事にも関わらず私の心に小さな痛みが走った。
ガアアアアアア!
《魔女喰らいの魔女》が雄たけびを上げて左腕を朱奈に振り上げた時、暁美ほむらは思わず目を背けた。自分が朱奈を死なそうとしているにも関わらず私は朱奈の死を直視する勇気が持てなかった。
その時だった。
「レガーレヴァスターリア!」
と言う聞き知った声と共に見知った黄色いリボンが幾重にも伸びて《魔女喰らいの魔女》の全身を拘束した。
私が黄色いリボンの伸びた先を見つめるとそこには別の入り口から入って来たと思われる巴マミが現れていた。
「朱奈さん!今、助けるわ!」
そう言って巴マミは左手から伸ばしたリボンを器用に操ると朱奈だけを自分の下へと引き寄せた。
朱奈の瞳は虚ろなままで巴マミの声は届いていない様だった。
(まさか巴マミがもう現れるなんて・・・)
私は心の中で舌打ちしながら今の状況に驚いていた。
恐らく巴マミは朱奈を探して偶然ここを探し当ててしまったのだろう。
いいや。偶然では無い。
《魔女喰らいの魔女》に朱奈の中の残留していた魔力が戻った際に強力な魔力が放出されていた。
あれだけの魔力ならばある程度の距離があれば巴マミならば感知可能だろう。
冷静さを取り戻した私は左手の盾からマシンガン(FNミニミと言う)を取り出し左手で支えながら右手に構えた。
今のタイミングで巴マミを死なせる訳には行かない。
私が動こうとした時、《魔女喰らいの魔女》が黄色いリボンの拘束を力任せに引き千切り、朱奈を引き寄せた巴マミへと走り出した。
咄嗟に巴マミは右手に持っていたマスケット銃を放つ。
目を狙ったのは良かったが、一発だけでは《魔女喰らいの魔女》の動きを止める事は出来ず巴マミと《魔女喰らいの魔女》の距離を縮めて行く。
(まずい!)
私が時間を停止させようとしたその時、巴マミの足元にいた朱奈がゆっくりと立ち上がった。
虚ろな瞳をした朱奈を引き寄せていたリボンは少し緩んでいた。
けれどここから起こる事に私は驚きを隠せなかった。
私の魔法で時間を停止している訳でもないのに視界に写る朱奈の動きは非常にゆっくりと見えていた。
私と同じく驚く巴マミの目の前で朱奈は巴マミを守る様に《魔女喰らいの魔女》の前に
ゆっくりと
ゆっくりと
ゆっくりと
ゆっくりと
朱奈は巴マミに背を向けて己の体が盾となる様に《魔女喰らいの魔女》の前に両手を広げて立ち塞がった。
《魔女喰らいの魔女》の生やした鋭い爪が朱奈の顔の右半分に三本の爪が食い込んだ。
顔の右半分を切り裂かれ多量の血を流しながら朱奈は地面に倒れてしまった。
倒れた朱奈の顔から血が地面に溜まって行く・・・。
「朱奈さん!」
朱奈が顔面から血を流して倒れるのを見て巴マミは本当に狼狽していた。
巴マミの叫びを聞いて私は時間を停止させ構えたマシンガンから次々と弾丸を《魔女喰らいの魔女》に向けて次々と発射した。
発射された弾丸は私の直ぐ目の前で停止してしまうがその隙に私は周囲の状況を確認した。
狼狽する巴マミとその足元に倒れる顔の右半分から血を流し倒れこむ朱奈。
その直ぐ前にいる《魔女喰らいの魔女》。
朱奈の方を見て私は違和感を覚えた。
時間を止めていたとしても《魔法少女》ならば朱奈の持つ《右目の呪い》から常に放出されている微弱な魔力を感じる事が出来た。
だが魔力を感じる事が出来なかった。
その時、私は以前の時間軸でキュウべえが語った事を思い出した。
「それに朱奈に施された《右目の呪い》は右目を無くせば無くなる物だったしね」
つまり・・・。
朱奈は右目の視力と引き換えに《右目の呪い》から開放されたと言う事らしかった。
だが今はその事は重要では無かった。
まずは巴マミを助ける事が先決。
ただし今はまだ私の魔法を巴マミに知られる訳には行かない。
いずれ来る強敵との戦いの時までキュウべえに私の魔法を知られる訳には行かなかった。
巴マミの背後に移ると私は時間を解除した。
同時に事前に撃ち込み停止していた弾丸は次々と《魔女喰らいの魔女》の体に撃ち込まれ《魔女喰らいの魔女》はバランスを崩してその場に崩れ落ちた。
「え?何が起きたの?」
「しっかりしなさい。巴マミ」
狼狽する巴マミに私は背後から声を掛けた。
巴マミの背後に異動したのは後からこの結界に来たと装う為だったが何処まで通じるかは分からなかった。
声を掛けながらもマシンガンの狙いを《魔女喰らいの魔女》に向けたままである。
「あなたは!暁美さん!」
「朱奈を助けたいのなら目の前の敵に集中しなさい。じゃないと・・・。助けられる者も助けられなくなるわよ」
私の言葉を聞いた巴マミは一瞬、苦悶の表情を浮かべたが、直ぐに表情を引き締めた。
「そうね・・・。あなたの言う通りね。ここは・・・。共同戦線と行きましょう」
「良いわ。私があの《魔女》の足を止めるからあなたが止めを刺して!」
巴マミの返事を聞く事無く私は《魔女喰らいの魔女》に牽制としてマシンガンを撃ちながら横へ回り込んだ。
弾丸が無くなったマシンガンを躊躇無くその場に捨てると盾から手榴弾を3個、取り出して投げ付けた。
体勢を立て直そうとした《魔女喰らいの魔女》が爆発に飲まれて再度、動きを鈍らせた。
私は盾から新しい武器を取り出し構え様とした時、巴マミの左手から黄色いリボンが伸びて《魔女喰らいの魔女》を再度、拘束した。
私の攻撃のダメージから《魔女喰らいの魔女》はリボンの拘束から逃れる事が出来ない様だった。
瞬時に巴マミは胸元のリボンを解くと右手に巨大な銃を出現させると片手で構えて自らの魔力を発射した!
「ティロ・フィナーレ!」
必殺の魔法の名を叫ぶ巴マミが片手で抱えた巨大な銃から放たれた閃光は《魔女喰らいの魔女》をそのまま飲み込んでしまった。
断末魔の叫びと共に閃光が収まると《魔女喰らいの魔女》が維持していた結界が崩壊し始めこの場所は元の鉄橋へと戻った。
《魔女喰らいの魔女》がいた場所辺りにはグリーフシードが一つ落ちて来て転がった。
巴マミは直ぐに顔から血を流す朱奈に駆け寄りその体を仰向けにそっとその場に寝かせ手を握った。
「朱奈さん!しっかりして!朱奈さん!」
巴マミが声を掛けても朱奈は苦しそうな顔をするだけで返事をする事は出来なかった。
「朱奈さん・・・。私はあなたを死なせない!」
そう言うと巴マミは自分の両手を朱奈の顔にある傷口へと向けた。
「何をするつもり?」
駆け寄った私は思わず口を挟んでしまった。
巴マミの持つ魔法で朱奈が助かるとは思えない。
「私の魔法は命を繋ぎ止める為に作られた魔法・・・。だから私の魔法で朱奈さんの命を繋げてみせる。傷を治せなくても・・・。せめて・・・。命を繋ぐ事だけは・・・」
そう言って巴マミは己の持てる魔力を朱奈の傷口へと注ぎ込んだ。
「お願い・・・。朱奈さん。死なないで・・・。私はもう誰にも死んで欲しくない・・・」
私の目の前で巴マミは限界まで魔力を酷使していた。
朱奈の苦しそうな表情は変わらなかったが先程よりは苦痛が治まった様である。
(私には出来ない魔力の使い方だ・・・)
ベテランの《魔法少女》である巴マミの繊細な魔力の使い方に私は素直に感心していた。
「これでもう大丈夫な筈・・・」
魔力の急激な消耗から疲弊した巴マミはそのまま《魔法少女》としての変身を維持出来なくなりその場に倒れてしまった。
その様子をずっと見ていた私は落ちていた《魔女喰らいの魔女》のグリーフシードを拾い上げた。
そして巴マミと朱奈を見つめていた。
これからどうすべきか・・・。
既に私はこれからの行動を概ね決めていた。