偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
SIDE 巴マミ
「ティロ・フィナーレ!」
私の持つ巨大な銃から放たれた魔力の閃光が《魔女》を焼き尽くした。
同時に結界が崩壊してその場所は元の公園に戻った。
「まさか学校の近くに《魔女》が現れるなんて・・・。少し注意しないと」
《魔法少女》としての姿を解いても気を引き締める私だったが妙な事に気が付いた。
今の《魔女》はグリーフシードを落とさなかった。
つまりは《魔女》となって間もない個体と思われる。
だからこそ難なく倒せたとも言えるのだがどうも簡単過ぎた。
それに学校の近くは最優先でパトロールを行っているのに《魔女》が表れたのも解せなかった。
考え続けたけれど結論は出そうにも無かった。
「考えすぎかも知れないわね」
気を取り直すと私はマンションへの帰路に着く事にした。
マンションではきっと朱奈さんが心細くしているに違いない。
そう思うと帰路を歩く足が速まるのを感じた。
マンションの自分の家に着くと鍵を開いてドアを開けようとすると開かなかった。
「え?」
鍵を回したにも関わらずドアが開かなかったと言う事は鍵が開いていたと言う事だった。
慌てて再度、鍵を回してドアを開くと私は叫んだ。
「朱奈さん!」
返事は無かった。慌てて家の中を見て回るが朱奈さんの姿は何処にも無かった。
「何処に行ったの?朱奈さん」
改めて玄関を見てみると朱奈さんの靴が無くなっている事に気が付いた私は朱奈さんが外に出た事に思い至った。
直ぐに外へ出るとわたしはマンションの辺りを走り回った。
目に付く公園は全て入り、朱奈さんと同じ年代の少女がいれば前に回って顔をチェックした。
傍目から見れば挙動不審だったかも知れないけれど私にとってそんな事はどうでも良かった。
朱奈さんが見つかればそれで良かったのだ。
「朱奈さん・・・。何処にいるの・・・」
途方にくれそうになった私は道端で立ち止まってしまった。
キーン
その時、私は《魔女》の魔力を感じた。
とても強力な魔力だ。まるで見つけてくれと言わんばかりの。
けれどその時、感じた《魔女》の魔力に私は違和感を覚えた。
「この魔力・・・。前にも感じた事がある様な・・・。この魔力は・・・。朱奈さんの《右目の呪い》と同じ!」
そう。今しがた感じた《魔女》の魔力は朱奈の持つ《右目の呪い》から生じる魔力と似ているように私は感じていた。
「この魔力の元に朱奈さんは・・・」
浅はかな考えかも知れないけれど私は魔力の生じる場所へと向かった。
そこは私のマンションから少し離れた位置にある鉄橋だった。
周囲を見渡したけれど幸い、人はいない為に瞬時に《魔法少女》としての姿に変身した私は結界の入り口へと入り込んだ。
入ってみて直ぐに妙な結界だと思った。
あちこちに外へと通じる綻びが多い上に階層を貫いた一本道が他の階層を貫く様に存在していた。
この様な状態の結界は、初めて入るタイプでもあった。
嫌な予感を感じたが、意識で押さえ込むと私は結界の奥へと進んだ。
最深部に部屋の様な場所を発見した私は右手のマスケット銃を構え直すと迷う事無く進んだ。
《使い魔》が現れない事に違和感を抱きつつ最深部にある部屋の様子を窺うとそこには倒れている朱奈さんと《マダラ模様の魔女》が向かい合っていた。
ガアアアアアア!
《マダラ模様の魔女》が雄叫びを上げると朱奈さんに鋭い爪の生えた左腕を振り上げた。
「レガーレ・ヴァスターリア!」
叫び私は左手から無数の黄色いリボンを解き放つと《マダラ模様の魔女》を拘束した。
「朱奈さん!今、助けるわ!」
左手のリボンを一部、朱奈さんに伸ばして朱奈さんをこちらに引き寄せたけれど朱奈さんの瞳は虚ろなままで私の声は届いていないのかも知れなかった。
(どうしたのかしら?けれど今は!)
目の前の《魔女》を倒す事に意識を向けようとした時、《マダラ模様の魔女》はリボンの拘束を力任せに引き千切って私と朱奈の方に向かって来た。
「ッ!」
咄嗟に右手で握っていたマスケット銃を一発、《マダラ模様の魔女》の片目を狙って発射した。
片目を潰された《マダラ模様の魔女》だったが勢いを止める事無く向かって来る。
新たな魔法を発動させようとした時、私の目の前に倒れていた朱奈さんが突如としてゆっくりと立ち上がった。
驚く私の目の前で朱奈さんは一瞬だけ私に虚ろな瞳を見せ、両手を広げて私の盾になる様に立ち上がった。
《マダラ模様の魔女》の鋭い爪が朱奈さんの顔に振り下ろされ朱奈は倒れた。
倒れた朱奈さんの顔からは血が流れ出ていた。
「朱奈さん!」
○
「朱奈さん!」
そう叫んで私は起き上がった。
目に入ったのは暗い景色だった。
「ここは?」
目を凝らして周囲を見てみるとここは自分のマンションのベッドだった。
枕元にある目覚し時計を見ると夜の十一時を回っていた。
「あれから一体・・・」
そう。夕方に私は朱奈さんが《マダラ模様の魔女》に襲われている場面に遭遇し朱奈さんを助けようとしたが朱奈さんは《マダラ模様の魔女》に顔の右半分に傷を負ってしまった。
私はその場に現れた暁美さんと手を組んで《マダラ模様の魔女》を倒すと私の魔力を使って朱奈さんの命を繋いだ。
その時、私は気を失った筈なのだが何故、制服姿のままで自宅のベッドに眠っていたのだろうと考えていると
「気が付いたようね」
とリビングの方から暁美さんが姿を表した。
「暁美さん?どうして・・・?」
「キュウべえに聞いて自宅まで送らせて貰ったわ。あなたのソウルジェムの穢れもあの《魔女》から出たグリーフシードで穢れを落としておいたわ」
そう言われて私は自分のソウルジェムを出現させると確かに穢れは落とされていた。
朱奈さんを救う為に私は膨大な魔力を使ったのだ。
(朱奈さん!)
私の脳裏には直ぐに朱奈さんの顔が浮かんだ。
顔を切られた朱奈さんはどうなったのだろう?
「暁美さん!朱奈さんはどうしたの?」
「落ち着いて。今から説明するわ。長い話になるから降りて来てくれると助かるわ」
暁美さんに促されて私はリビングに降りた。
リビングにあるガラスのテーブルの前に私と向かい合って座る。
「まず・・・。何処から話すべきかしらね・・・」
暁美さんは先程の私の剣幕に動じる事無く丁寧に説明を開始した。
○
暁美さんの説明によると結界から出て私が倒れた直後にキュウべえが現れたと言っていた。
「どうやら無事にあの《魔女》を倒せたみたいだね」
そう言ってキュウべえが私達の様子を見に現れたらしい。
「キュウべえ・・・。そう言えばあなたは人間の生命力を感知する力があったわね。巴マミと朱奈の様子はどうなの?」
「そうだね。マミは魔力を少し使い過ぎているけれどソウルジェムを浄化すれば大丈夫だよ。でも朱奈は命を繋ぎ止めたけど直ぐに手当てをした方が良いんじゃないかな?」
キュウべえは私と朱奈さんを交互に見ながら暁美さんの質問に答えた。
「朱奈の《呪いの右目》はどうなったの?」
「どうやら《魔女》に切り裂かれて消滅した様だよ」
「そう」
キュウべえから適切な答えを聞くと暁美さんは鉄橋から見える公園に公衆電話があるのを見つけると119番に電話して《人が血を流して公園で倒れている》とこの公園の場所だけを伝えて直ぐに電話を切った。
暁美さんは公園のベンチに朱奈さんを寝かせると私を抱き抱えて鉄橋から救急車が来るのを見張りながら《マダラ模様の魔女》が落としたグリーフシードを使って互いのソウルジェムの穢れを落とした。
数分で救急車のサイレンの音が鳴り響き救急車が来たのを見た暁美さんは朱奈さんが救急車に搬送されたのを見届けると気を失ったままの私を抱き抱えてキュウべえから聞いた私のマンションへと向かったとの事である。
なおキュウべえは浄化に使ったグリーフシードの処理を行わせた後、朱奈が何処の病院に運ばれたのか調べさせているとの事である。
○
「今、朱奈は見滝原市立病院に搬送されたわ。あなたまで病院に搬送されたら騒ぎになるのは目に見えていたから私が自宅まで送らせて貰ったわ」
暁美さんの話を私は黙って聞いていた。
朱奈さんの右目は切り裂かれてしまったけれど《右目の呪い》から解放されたらしい。
病院に連れて行かれたと言う事なら朱奈さんはもう私とは暮らして行けない事を感じた。
きっと病院に連れて行かれた後で警察からの事情聴取もあるだろう。
その時に朱奈さんは記憶が無く身寄りの無い事も分かるに違いない。
けれど《右目の呪い》から解放されたのなら何処かの施設に引き取られた方が幸せなのかも知れなかった。
私は《魔法少女》。いつ《魔女》との戦いで戦死してもおかしく無いのだから・・・。
「そうだったの・・・。私と朱奈さんを助けてくれて感謝するわ。暁美さん」
「礼には及ばないわ。私はあなたに頼みたい事があるの」
暁美さんは真っ直ぐに私を見つめてそう答えた。その瞳には揺ぎ無い意思が秘められていた。
正直、目を合わせるのが苦手なタイプだと私は感じていた。
(でも私に頼みたい事と言うのはどういう事だろう?)
《魔法少女》どうしでの頼みごと等は大抵の場合、縄張りに関した事だと当たりは付いた。
「私に頼みたい事って言うのは?」
私が聞き返すと暁美さんは少しの間、黙っていたが、やがて重い口を開いた。
「もうすぐこの街に《ワルプルギスの夜》が来る」
「何ですって?」
《ワルプルギスの夜》。最大最強と言われる《伝説の魔女》。
一度、現れれば街を1つ破壊して去って行く最悪の存在。
余りの強さに《魔法少女》が束になって戦っても勝てないと言われる《ワルプルギスの夜》がこの街に現れる・・・。
少し狼狽した私だったが、目の前にいる暁美さんが表情を変えない事に気付いて心を引き締めた。
私は正直、まだ暁美さんを信用し切れていない。
《ワルプルギスの夜》が現れると言う情報も何処まで信じて良いのか分からなかった。
そんな私の思いを知ってか知らずか暁美さんは話を続けた。
「私達、《魔法少女》にとって最強の敵とも言える存在。私は《ワルプルギスの夜》を倒す為にこの街に来た。だからあなたと手を組みたいの。ベテランの《魔法少女》で実力も噂になっている巴さんと。《ワルプルギスの夜》を倒すまでの間」
暁美さんの言葉を聞いて私は再度、疑問を抱きストレートにぶつけてみる事にした。
「何故、《ワルプルギスの夜》がこの街に現れるとわかるの?私は何年もこの街で《魔法少女》をやっているけれど《ワルプルギスの夜》がこの近辺に現れたなんて話は私も知らないわ」
《魔法少女》同士での噂話やキュウべえからの情報でも《ワルプルギスの夜》が何処かの街で出現した事は確かだが、それはここから東京と大阪並に離れた場所での事だった。
「それは・・・。言えないわ。でも必ず現れる。その時になって後悔しても意味は無いわ」
揺るぎ無い意思を宿した瞳を持つ暁美さんの言葉には確信があった。
だからと言って暁美さんの言葉を鵜呑みにする訳には行かない。
それに私は確かめたい事があった。
「暁美さん。私はいくつかあなたに確認したい事があるわ」
「何かしら?」
「まずあなたは朱奈さんの事を何処まで知っているの?何故、朱奈さんに銃を突き付けていたの?」
私は少し強い口調で言ってしまったが暁美さんの表情は変化しない。
「朱奈の事は・・・。《魔女》を引き寄せる存在と聞いていたわ。危険な存在だと思ったから排除しようとしただけよ」
「排除ってあなた・・・。朱奈さんをどうするつもりなの?」
「簡単よ。朱奈が《魔女》を引き寄せるのは《右目の呪い》が原因。なら右目を排除すれば《魔女》を引き寄せる事は無いわ。右目を潰してしまえば良い事よ」
淡々と語る暁美さんの表情はやはり変化しない。
けれどその事が返って私の心に怒りの火を付けてしまった。
「酷い・・・。たとえ《魔女》を引き寄せていたとしても朱奈さんは人間よ!あなたが朱奈さんをどうこうする権利は無いわ!」
ここまで声を荒げたのは久しぶりだった。
それを聞いても暁美さんはまったく動じない。
「そうね。それを思い直したからこそ私はあなたと朱奈を助けたのよ」
「もう1つだけ教えて。あなた、さっき倒した《魔女》のいた結界に朱奈さんがどうしていたのか知っているの?」
「知らないわ。きっと《呪いの右目》が原因、なんでしょう。あなたが見た通りに私は後からあの結界に来たのよ」
暁美さんの言葉に私は押し黙った。
沈黙が暫く続いた。
私は静寂を破る様に話し始めた。
「ごめんなさい。暁美さん。私はあなたを信じる事が出来ない。《右目の呪い》を持ってしまった朱奈さんを危険な存在だからと排除しようとするあなたを信じられない。だからあなたとは手を組めないわ」
私の出した答えに暁美さんは動じる事は無かった。
まるで想定内と言わんばかりに暁美さんの表情は崩れる事は無かった。
「そう・・・。なら仕方ないわ。でも 《ワルプルギスの夜》は必ずこの街に現れる。その事を忘れないで」
暁美さんはそう言って立ち上がるとそのまま玄関に向かい出て行ってしまった。
残された私は暫くテーブルの前で呆然としていた。
ソウルジェムの穢れは落とされたけれど今の会話で私は精神的に疲弊していた。
玄関のドアの鍵を閉めると私はお風呂に入ると直ぐにベッドで横になった。
(そう言えばこのベッドは昨日までずっと朱奈さんが眠っていた・・・)
枕には朱奈さんを思い返させる優しくて繊細な香りがした気がした・・・。
「朱奈さん・・・。私はまた1人にならなきゃいけないのね・・・。でも・・・。それがあなたの為なら・・・。私は・・・」
枕の上で何時の間にか私は涙を流していた。
誰もいないマンション。
私以外、誰もいない部屋・・・。
私は1人で涙を流していた。