偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
夢の中でわたしは思い出していました。
私が目を覚ました時、そこは見知らぬ場所だった。
戸惑い立ち上がろうとしたわたしはその時になって始めて、自分が裸だと気が付いた。
自分の身体を包んでいた毛布を見つけて思わず身体と足を包み直して周囲の様子を見る。
誰もいない・・・。
「誰か・・・。誰か・・・。わたしを助けて・・・」
わたしがそう言って俯いて数十分経った時、車が止まる音がして誰かがわたしに向かって来る事が足音で分かった。
顔を上げると車から降りた何かがわたしに近付いて来た。
近付くに連れてわたしはその相手が女性の警察官である婦警さんだと分かった。
戸惑うわたしに婦警さんは困惑した顔付きで近付いて来る。
「あなた!?どうしてそんな格好でこんな所に!?そんなんじゃ風邪を引いてしまうわ!?一体、どうしたの?」
婦警さんの質問にわたしは反射的に答えられず俯いてしまう。
言われて気が付いた。わたしはこの質問に答えられない。
何故なら過去の記憶を持っていないから・・・・。
困った様な様子を見せた婦警さんは暫くして別な質問を投げ掛けて来た。
「ねえ、あなたはどうしてそんな格好でここにいるの?」
そう言われてもわたしにどうしたら良いのかは分からない。
混乱していたけどわたしは答えられる事を素直に答える事にした。
「えっと。わたし・・・。分かんない。何も分からない!?」
答えながらわたしは涙を流していた。
「分からないなら仕方ないわ。お嬢さん。お名前は?」
言葉の音からわたしは婦警さんがわたしを怖がらせない様に話そうとしていると感じていた・・・。
「えっと。わたし・・・」
必死に自分の名前を思い出そうとする。
記憶の中に名前に関するモノは無いと感じた。
けれどわたしはわたしを指す1つの単語を思い浮かべていた。
(そうだ。この言葉はわたしの名前!)
思いを込めてわたしは叫んだ。
「わたしは・・・。シュナ。確かシュナ!」
「そうなの。それが貴女の名前なのね。じゃあシュナさん。とりあえず警察署に行きましょう。ここでは体調を崩してしまうわ」
冷気が身体を横切ってわたしはくしゃみをした。
「さあ。行きましょう」
優しい顔を見せた婦警さんに引っ張られてわたしはパトカーに乗り込んだ。
それからの事をわたしは余り覚えていない。
気が付いたら警察署で保護されていて事情聴取の後に病院で診察を受けた後に施設に送られた。
施設の人達はわたしが記憶喪失だと分かると親切にしてくれた。
けれど記憶の無いわたしはどうしても施設の人達の親切に素直に感謝する事が出来ず無意識に警戒して余所余所しい態度をとってしまっていた。
それから一週間後の金曜日にわたしは施設の人達を巻き込んで《魔女》の結界に囚われてしまった。
初めは何が起こっているのか解らなかった。
ただわたしは怯えていた。
次々と目の前で人が死ぬ光景を見て私は怯えていた。
そんなわたしを助けてくれたのは《魔法少女》の筒地綾女ちゃんでした。
背の高い綾女ちゃんは《魔女》を倒してわたしを助けてくれました。
わたしの右目に《呪い》がある事を教えてくれたのも綾女ちゃんでした。
悲しむわたしを励ましてわたしと一緒に記憶を探す旅を提案したのも綾女ちゃんでした。
綾女ちゃんはわたしの名前、シュナを聞いて朱奈と言う漢字を付けてくれました。
わたしの右目に《魔女》を引き寄せる《右目の呪い》がある事を知ってもわたしを怖がりませんでした。
綾女ちゃんはいつもわたしを守ってくれました。
けれど・・・。旅を続けたある日、綾女ちゃんはわたしに言ったんです。
「私はもう直ぐ死ぬの・・・」
その言葉を聞いたわたしは駄々をこねる子供の様に泣きじゃくったのだけれど、何故か記憶を失ってしまいました。
その後、わたしは利己的な《3人の魔法少女達》に捕まり、紆余曲折を経て見滝原市に来てわたしはマミさんや暁美さんに出会いました。
わたしは《魔女喰らいの魔女》と邂逅した瞬間に記憶を取り戻しました。
そこへマミさんが助けに現れたけど《魔女喰らいの魔女》がマミさんに襲い掛かろうとしたのを見てわたしはとても怖かったけど立ち上がってマミさんを守ろうとしました。
《魔女喰らいの魔女》の持つ鋭い爪がマミさんを引き裂こうとするのを想像した私は身を呈してでもマミさんを守りたかったんです。
でもきっとマミさんはわたしが傷付くのを見て悲しんだ筈です。
けれどわたしはやっぱりマミさんが助かって良かったと安堵していました。
わたしの顔を《魔女喰らいの魔女》の爪が引き裂いたけど・・・。
わたしは痛かったけどわたしはやっぱりマミさんが助かって良かったと思っていました。
じゃないとわたしはきっと痛みのショックで死んでいたのかも知れませんでした。
○
気が付くとぼくじゃなくてわたしは知らないベッドの上に寝かされました。
眼を開いて驚いたのは右目に光が全く差さない事でした。
左目には知らない天井が写っているのに右目には何も感じる事が出来ませんでした。
「ここ・・・。何処?」
ベッドの上から起き上がった私は周囲を見てみたけれど誰もいなかった。
でも枕元にスイッチの様な物が置いてありわたしは
(ドラマで見たナースコールかな?)
と思ってわたしはスイッチを押して見た。
すると直ぐに看護士さんが来てわたしは直ぐに検診を受ける事になった。
看護士さんに連れられて検診を終えるとわたしはお医者さんからわたしの右目は鋭利な刃物で切られて完全に視力を失ってしまったと教えてくれました。
眼帯をしているわたしの顔は何だか別人を見ているみたいでした。
顔の傷は幸い傷が残らない様に治療したと言われたのでわたしは少しだけほっとしている自分に気が付きました。
目が見えなくなった事は悲しかったけれど、その代わりにわたしは大切な記憶を思い出していました。綾女ちゃんとの大切な思い出を・・・。
名前を聞かれてわたしはこう答えた。
「朱奈・・・。筒地朱奈!」
綾女ちゃんと同じ苗字を名乗ったのは訳があった。
わたしは自分の本当の苗字を知らない。
でも綾女ちゃんの苗字を名乗る事で綾女ちゃんの事をもう二度と忘れないと言う誓いの為だった。
そう言えばここが何処なのだろうと思ってお医者さんや看護士さんに聞いてみるとここが見滝原市立病院だと言う事を教えてくれました。
検診が終わるとわたしは病室で警察官から事情聴取を受ける事になりました。
警察官によるとわたしは顔面から血を流した状態で公園内に倒れているのが見つかり誰かが公衆電話から通報して呼ばれた救急車がわたしを保護したとの事でした。
わたしを救急車に乗せた救急隊員の人達はわたしが何らかの事件に巻き込まれたと考えて警察に通報し警察でもわたしの身元を照会しようとしましたが見つからなかったそうです。
でもわたしが何度か警察や施設に保護されながらも何故か施設の人間を巻き込んで行方不明となっている事も警察は掴んでおり何か知っているのなら話して欲しいと言われました。
でも《魔法少女》の事を話しても信用されないのは分かっていたからわたしはこう話す事にしました。
「わたしは・・・。過去の記憶が無いの・・・。気が付いたらここにいたの・・・。お巡りさんに保護されたのは覚えているけど・・・。わたし・・・。何も覚えていないの・・・」
《魔法少女》や《魔女》、そして《右目の呪い》に関する事を話さない為にはこう話すしかありませんでした。
わたしの話を警察の人達が本当に信じてくれたのか分からなかったけれど一応の納得はしたのか、これからのわたしの事を話してくれました。
退院後に記憶が無く身寄りの無いわたしは風見野市にあるグループホームに引き取られる事が説明されました。
わたしは見滝原市を去らなければ行けない・・・。
でもわたしはマミさんに何のお礼も言ってなかった。
お礼を言いたかったのは確かだけれど入院中のわたしは病院から出る事が出来無かった。
マミさんに会いたかった。会ってわたしの思いを伝えたかった・・・。
けれどわたしの思いは思わぬ形で伝わる事になるのでした。
○
入院してから三日後・・・。
グループホームの人が来てわたしにグループホームでの生活の事を説明してくれました。
親切そうな人だったのでわたしは少し安心しました。
その頃にはわたしはある程度、自由に歩き回れるようになって病院内の院内図書室に行って本を読んで過ごしていました。
片目で本を読むのは少し疲れやすかったけれどこれから少しずつ慣れなければ行けないと思いました。
マミさんに会いに行く事の出来ないわたしは本を読んで時間を潰す以外にやる事がありませんでした。
その日の夕方に院内図書館で適当な本を読んでいるわたしの頭に声が響いたのです。
(朱奈さん・・・。聞こえたら返事をして)
それはマミさんの声でした。
正確には声でなく《魔法少女》のテレパシーだったけれど嬉しくてわたしは直ぐに返事を返しました。
(マミさん!聞こえるよ!)
(良かった・・・。朱奈。今からこの病院の屋上に来れる?)
(うん。行けるよ)
(屋上で待っているわ)
返事を聞いたわたしは直ぐにエレベーターに乗り込んで屋上に行きました。
エレベーターから降りると屋上の庭園にはマミさんが1人、佇んでいました。
「マミさん!」
わたしが声をかけるとマミさんは満面の笑みで走りよって来ました。
「朱奈さん・・・。良かった。もう大丈夫なのね」
そう言ってマミさんはわたしを軽く抱き締めてくれました。
「マミさん・・・。ごめんなさい」
わたしはマミさんにまず言わなきゃいけないと思っていた事をを伝えました。
マミさんはわたしから体を離して困惑した表情を見せました。
「どうして朱奈さんが謝るの?」
「だってわたし、マミさんを悲しませる様な事をしちゃったから・・・」
「そんな事は無いわ。朱奈さんが生きていてくれて私は嬉しいんだから」
マミさんは笑顔でそう答えてくれました。
わたしとマミさんは2人で屋上庭園にあるベンチに2人で腰掛けました。
幸い他の人はいないのでわたしとマミさんが話しているのを見られる心配はありませんでした。
もしわたしとマミさんが話しているのが見られるとマミさんにあらぬ誤解を与えるかも知れません。
わたしの右目を切り裂いた事件の関係者だと・・・。
ベンチに座るとわたしはマミさんに自分の近況を報告した。
マミさんは優しい表情を崩さずにわたしの話を聞いてくれた。
「そう・・・。じゃあ右目はもう見える事が無いのね・・・」
「でも《魔女》を引き寄せる《呪い》が無くなったからわたしは平気だよ。わたし、片目でもちゃんと頑張るから」
「良かったわ。朱奈さんが元気でいてくれて。そう言えば朱奈さんはどうしてあの結界に行ったりしたの?」
マミさんに質問されてわたしはどう答えようかと悩みました。
暁美さんに連れて行って貰ったと答えたらマミさんは怒って暁美さんと喧嘩してしまうかも知れません。
右目を失ったのは暁美さんが原因かもしれないけれどわたしは大切な記憶を取り戻すきっかけをくれた暁美さんを恨みたくはありませんでした。
だから・・・。
嘘を付く事に決めました。
「何でだか分からないけど右目が疼いて気が付いたらあの結界にいたんです」
わたしの返事にマミは納得したとは言い難い表情を一瞬、見せたけどそれ以上は追求して来ませんでした。
わたしは話を逸らす事にしました。
「マミさん。わたし、思い出したんだ。わたしは前にも記憶を失っていた事に」
「どういう事なの?」
わたしはマミさんに自分が覚えている範囲の記憶を話しました。
気が付いたら記憶喪失で《魔法少女》の《筒地綾女ちゃん》に助けられた事。
2人で色々な場所を渡り歩いてわたしの記憶を探していた事。
何故か記憶を失って綾女ちゃんと離れ離れになった事を・・・。
「やっぱりわたし、思い出せないんです。綾女ちゃんと会う前の過去の事が・・・。でもわたしはそれでも良いと思う時があるんです」
「どうしてなの?」
マミさんにそう言われてわたしは前にも言った事がある言葉を選び話しました。
「もし記憶が戻ったら綾女ちゃんやマミさんの事を大好きなわたしが無くなるかも知れないから。それならわたしは記憶なんて戻らなくても良いって思うんです。綾女ちゃんにも同じ事を言ったら綾女ちゃんはただ微笑んでいました」
「そうなの・・・。これから朱奈さんは?」
「えっと入院を終えたら隣の風見野市にあるグループホームに行く事になったの」
「そうじゃなくて朱奈さんはこれからどうしたいのと聞いてるの」
マミさんにそう言われてわたしはこれからの事を考えました。
でも既に答えは出ていました。
「わたし・・・。学校に行って勉強をして働いてお金を貯めたら綾女ちゃんを探す旅に出ようと思ってます」
それを聞いてマミさんは一瞬、顔を曇らせました。
「綾女さんを探す・・・。朱奈さん。もしかしたら綾女さんは」
「マミさんが言おうとしているのは分かっています。でもきっと生きているってわたしは信じたいんです。もしかしたら綾女ちゃんもわたしを探しているのかも知れないから・・・」
わたしは綾女ちゃんが死んでいないと思っていました。
今もきっと何処かでわたしを探してくれているのかも知れません。
わたしの答えを聞いてマミさんは笑顔を見せてくれました。
「良かったわ。朱奈さん。あなたは生きていく為の目標が出来たのね」
マミさんはわたしの目標を認めてくれたみたいでした。
「マミさん。グループホームに入って落ち着いたらまたマミさんに会いに行っても良い?」
「ええ。朱奈さんの事はいつでも歓迎するわ」
「わたし、またマミさんと一緒にケーキを食べたい!」
「ええ。私も朱奈さんと一緒にケーキを食べたいわ。」
それからわたしとマミさんは他愛の無い会話をして時を過ごしたけど《魔女》の気配を感じたマミさんはわたしの眼前で《魔法少女》に変身するとそのまま跳躍して去って行きました。
わたしは暫くマミさんと会えないと思うと淋しかったけれど目標があったからそれに向かって頑張る事を決めました。