偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
その日、僕は部屋の中で音楽のCDを聴いていた。
今日のリハビリは終わってやる事が無い僕はこれ位しか退屈を紛らわせる方法が無かった。
けれど今の自分が演奏できない曲を聞き続けるのも苦痛が混じっているのも確かだった。
交通事故に遭った僕は入院してリハビリの真っ最中だった。
元の様に演奏を行う為には辛いリハビリを乗り越えなければならない・・・。
当然の帰結と言えたけれど精神的な重みを感じない訳では無かった。
それに今日は誰もお見舞いに来ないらしい。
僕は耳に付けていたイヤホンを外すとCDプレーヤーを手近にある机の上に置き、車椅子にその身を移した。
車椅子で移動する事なら僕、1人でも行う事が出来た。
(たまには1人で外の空気でも吸おう)
部屋を出る時に看護士さんには外の空気を吸って来ると言付けて部屋を出た。
1人で車椅子を動かした僕は部屋を出て直ぐの場所にあるエレベーターに向かった。
外に出ると言っても病院の外に出る訳では無い。
この見滝原市立病院の屋上には屋上庭園が完備されていた。
少し苦労をしながらエレベーターのスイッチを押してエレベーターに乗り込むと屋上へのボタンを押した。他の利用者は居らず途中の階に止まる事無くエレベーターは真っ直ぐに屋上へと向かってくれた。
スムーズに屋上に行けた事に僕は満足していた。
ドアが開き僕が車椅子でエレベーターを降りようとした時、1つの影が僕の車椅子にぶつかって来た。
「うわ!」
「きゃ?」
お互いに悲鳴を上げながらぶつかって来たのが女の子だと分かった。
見ると顔は伏せていたけれど僕よりは年下の女の子で僕と同じく入院患者の着る寝巻きを着ていたので同じ入院患者だとは分かった。
「大丈夫かい?」
僕が声を掛けると女の子は顔を上げて僕を見ようとした。
女の子の片目には眼帯がされて右目が見えていない様だった。
だから顔をちょっと右側に傾けて僕の方に左目の視線を寄せていた。
「ごめんなさい。わたし・・・。まだ右目が見えないのに慣れてなくて・・・」
左目に涙を滲ませながら女の子は申し訳無さそうに言っていた。
「良いんだよ。僕も車椅子には慣れていないからお互い様だよ。立てる?」
「はい・・・。立てます」
僕に言われて女の子が立ち上がると同時に左目から涙が零れた。
「あれ?泣いているの?」
僕は女の子がぶつかった拍子に怪我をしたのかも知れないと心配になった。
「もしかして何処かケガをしたの?」
「違います。これは・・・。その・・・。少し寂しくて泣いていたの・・・」
女の子は一所懸命に言葉を繋いでいたけれど涙は次々と流れていた。
「そうだよね。確かに病院にいると寂しいよね。友達とは会えないし家族とも過ごせない。どんなに快適な環境でもやっぱり寂しいよね・・・」
目を伏せながら僕は自分の抱いていた思いを露呈させていた。
そんなつもりは無かったのだけれど、女の子はどうやら僕と同じ様に寂しさを感じていたらしい。
僕も父さんや母さん、それにさやかやクラスのみんなに何時でも会えない事に僕も寂しさを感じていた。
「ごめんなさい。わたし、そんなつもりじゃ・・・」
女の子は僕から目を逸らして涙ぐんでいた。
責めるつもりは無かったけれど女の子にはそう聞こえてしまったらしい。
「謝る事は無いよ。僕も入院して長いからね。落ち着くまで僕が話し相手になってあげるから。ね?」
軽い罪悪感を振り払う様に僕はそう言っていた。
「うん・・・」
女の子は涙を拭いながら僕と一緒に庭園の方に向かった。
そこで僕は自分の事を少しだけ話す事にした。
「僕はバイオリンの演奏をしていたんだけど、交通事故にあって入院しているんだ。歩くのも手を使うのもリハビリをしなければ満足に行う事も出来ない。でも・・・。僕はもう一度、演奏をしたいから手と足のリハビリは大変だけれど、頑張っているよ」
目の前の女の子を励ます為に僕は自分の身の上話をしていた。
真剣に僕の話を聞く女の子は僕の話を聞いて少し元気を取り戻したみたいだった。
「わたしも頑張る。片目が見えなくてもわたしも頑張るよ」
「そうだね。僕も頑張るよ」
お互いに励まし合いながら僕はもう一度、演奏がしたいと言う思いを募らせていた。
「わたし・・・。もう戻るね。もう大丈夫だから」
暫く話すと落ち着いた女の子はそう告げて来た。
「うん。良かった。僕で良ければ何時でも話し相手になれるよ」
僕がそう言うと女の子は少しだけ申し訳無さそうな顔をした。
「ごめんなさい・・・。わたし・・・。明日には退院するの。退院したら遠い所に行かなきゃ行けないの」
「そうなんだ。それは・・・。良い事だよ。退院出来るなら出来るに越した事は無いからね」
そう言って僕は女の子が退院出来る事に喜びを表した。
正直、こんな女の子がずっと入院し続けるのは辛いだろうと僕は感じていた。
僕ですら辛いのに目の前にいる女の子は、これまで出会ったどの人よりも気持ちの脆さを感じる事が出来た。
「そうだ。名前は?僕は上条恭介」
そう言えばお互いに名前を聞いていない事に気が付いて僕は言いながら手を差し出した。
握手を示す為である。
女の子は少し気まずそうにしながらも、震える手で僕の手を握った。
「わたし・・・。朱奈。筒地朱奈」
「筒地さん。退院おめでとう。僕もリハビリを頑張るから君も頑張って」
「うん。わたし・・・。頑張るよ。上条さん。さよなら」
握手を終えると筒地さんは手を振って去って行った。
1人、庭園に残った僕は暫く空と見滝原の風景を見つめる。
日が傾き始めて僕も部屋に戻ろうかと思った時、屋上に誰かが来た事がエレベーターの音が開く音で分かった。
その方向を見るとそこには僕の見知った少女が屋上に上がって来た所だった。
「上条君。お加減はいかがですか?」
「志筑さん。悪くないよ。わざわざお見舞いをありがとう」
SIDE 上条恭介