偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
キュウべえと出会って三週間後・・・。
通っていた中学校を私は卒業した。
卒業式に何の感慨も無かった。
むしろこの後に控えている人生を変える事に私は思いを馳せていた。
周囲にいる同級生の女子たちが泣いているのを見ても私はバカバカしいとしか感じられなかった。
すれ違った男子生徒が「巨人」と陰口を言われたが特に気にする事でも無かった。
同学年の女子で一番、背が高い私は一部の男子から巨人と陰口を言われているが背の高い事は事実なので気にする事でも無かった。
でも、家族の中では私が一番、背が低かったが。両親も兄さんも私よりも遥かに背が高かく家族と居ても背が高く感じる事は無かった。
同級生達に上辺だけのお別れを済ますと私は卒業証書を持って家に戻るが家には誰もいなかった。
両親は今日も働いている。
兄さんの事は知らない。
もう通わない中学校の制服を脱ぐとお気に入りの服に着替えて私は数日前から家族には内密で纏めていた荷物を持つと家を出た。
こんなに晴れやかな気分は初めてだった。
「やあ。××××。今日が約束の日だね」
団地の階段を抜けるとキュウべえが私を迎えてくれた。
「約束通りに来てくれたわね」
「僕は約束を守るよ」
約束を守ってくれて私は気分が良い。
キュウべえの方はどうだか知らないが。
「ありがとう。この日こそ私が《魔法少女》となるのにふさわしい日だわ。卒業と言う別れの儀式。過去と決別するのにこれ程良い日は無いわ。じゃあ行きましょうか」
私が左腕を伸ばして促すとキュウべえが私の左肩に乗って貰った。
「××××は背が高いから乗るのが大変だね」
「まあ仕方の無い事ね。でも、私はこれでも家族の中で一番、背が低いのよ」
キュウべえを左肩に乗せて私は団地を出た。
団地から直ぐの場所にあるバスの停留所に向かうとバスに乗り込んで私はこの《リンドウ市》の郊外にある山林地帯に足を踏み入れた。
その入り口は不法投棄されたゴミ等が溢れ返り余り人が近寄らない場所でもあった。
私は半年程前から暇を持て余すと1人でこの山林地帯にある遊歩道を歩いていた。
昼間の遊歩道にはある程度、人が通るが夜になると人が通る事は無かった。
両親と兄さんが外泊している時を狙って私は林の奥深くにテントを張って人が来るのか調べて見た事がある。
見つかるかは内心冷や冷やだったが誰かに見られる事は無かった。
その為にこの場所の地形と時間に伴う変化を私は誰よりも理解していた。
暫く歩くと数日前から準備をしていた野営地に辿り着いた。
その野営地は私が数日前から土を慣らして、なるべく他人に見つからない様に作り上げた場所だった。
土を掘って回りよりも少し低い位置に大量の落ち葉を敷き詰めてテントを晴れる様にした場所だ。
さらに数日前から買い揃えた一週間分の水や食料を既にこの場所に持ち込んで準備していた。
この根元に隠された水と食料は見つかった形跡は無かった。
まず回りに緑色のロープを張って緑色のビニールシートを四角形に張り込んだ。
さらに黒や茶色のスプレーを用意してそのビニールシートに吹き付けて簡単な保護色を作り上げた。
四角に張ったビニールシートの壁の中で私はテントを張った。
黙々と作業をこなす私の様子をキュウべえは興味深そうに見ていた。
幾ら私でもキュウべえに手伝いを要求するほど愚かでは無かった。
作業を終えると私は持っていた鞄から左手でペットボトルのお茶を取り出すと飲んだ。
お茶を飲んで喉を潤した私は上を見上げた。
綺麗な青空が広がっていた。
青空を見つめて私は自分が得た僅かな達成感を感じていた。
「××××。どうしてこんな所にテントを張るんだい?」
「これはね・・・。これから必要だと思ったから張っているのよ。まあ今に分かるわ」
「ふーん。そうなのかい?」
キュウべえの首を傾げる様子を私は愉快な気分で見ていた。
正直、私はもう家には帰らないつもりだった。
《魔法少女》となり私の願いが契約によって叶えられるのであればもう家族と無為な時間を過ごす必要は無いと思っていた。
まあキュウべえにはこの事は後で説明をしてあげよう。
きっと理解に苦しむと思うけど。
「これで準備を終えたわね。キュウべえ。夜になったら私はあなたと契約を行うわ」
「何故、夜まで待つんだい?別に今でも良いじゃないか」
キュウべえは私の行動を理解出来ない様に首を傾げていた。
思った通りの行動を取るキュウべえに私は笑みを浮かべた。
笑みと言っても苦笑とも言えるけど。
「私はね、人は夜に眠るとその間の事を覚えていないじゃない?夢を見る事があるけどそれは空想じゃない?だから私は思うのよ。人はもしかしたら夜になると生まれ変わっているんじゃないかと」
「訳が分からないよ。けど××××がそうしたいと言うのなら僕は構わないよ」
私の回答にキュウべえは肩を少し竦めただけでした。
「じゃあキュウべえ。夜までは時間があるから契約に関して私に話せる事を色々と聞かせて貰いましょうか?」
嬉々として私はキュウべえに語り掛けた。
「何を話せば良いんだい?」
「《魔法少女》に関する事で私に話してない事を話せる範囲で出来るだけ話して頂戴」
「良いよ。君の決意は固いようだし君は本来、知らない方が良い情報も知っている。僕が話せる範囲でよければ話してあげるよ」
キュウべえはそう言って《魔法少女》に関する事を私に話し始めた。
かなり細かい部分に至るまで私はキュウべえから聞きだしていた。
契約に関する知識は恐らく全ての《魔法少女》の中でもトップクラスに至っただろう。
そして時間は過ぎて日は落ちた。
私が生まれ変わる時が来たのだ。
○
夜の闇が林の中を包みこの場所には私の用意したランタン型の懐中電灯の灯りだけが灯っていた。
時間は19時を過ぎている。
簡単な食事も済ませたしそろそろちょうど良い頃合だ。
「さて。キュウべえ。そろそろ始めましょうか」
「そうだね。始めよう」
テントの外に出た私はその前に敷いておいたビニールシートの上に座った。
私の前にキュウべえはちょこんと移動した。
対面する私とキュウべえ。
キュウべえの顔を見て私は改めてキュウべえはもう少し表情豊かでも良いなあと感じていたがこれから行う事を考えて集中し直した。
「さあ。始めよう。××××。君は《魔女》との戦いを受け入れその魂を対価として何を願う?君が見た通りに《魔法少女》はいずれ《魔女》へと変化してしまう。その運命を受け入れる覚悟は出来たのかい?」
キュウべえの言葉に私は即座に答えました。
自分の思い全てをキュウべえにぶつける様に私は叫んだ。
「私、××××は・・・。私の定めた幾つかの条件の元で私を愛する存在を作り出したい!
1つ、作り出した存在は10歳の少女である事。
2つ、その少女と私は無条件に互いを愛する事。
3つ、その少女は小学校6年生程の知識を持っている事。
4つ、その少女の右目にはグリーフシードを孕んだ《魔法少女》の敵を毎週、金曜日に一体、引き寄せる呪いを施す事。
5つ、その少女に掛けられた呪いは右目を排除すれば無くなる事。
6つ、その少女は私の前で七日七晩掛けて私の目の前で誕生する事。
7つ、その少女はこの世のあらゆる因果から切り離された人間として生まれ《魔法少女》になる事が出来ない事。
以上よ。さあキュウべえ!私の願いを叶えて!」
「これは!?こんな細かい願いでエントロピーを凌駕してしまうなんて!?××××君は本当に変わっている!」
キュウべえの目の前で私の体から赤と青に光り輝く何かが飛び出した。
「ッ・・・!」
苦しさから私は胸を押さえて苦しんだ。
「受け取って!それが君の新しい魂だ!」
キュウべえの声に促されて私は上体を起こすと目の前にある赤と青に光り輝く何かに思わず左腕を伸ばした。必死に伸ばした左手で赤と青の光を掴み取った。
その瞬間、私の中で何かが駆け巡った。
赤と青の光が私を包み込む。
赤と青の光に包まれ私の姿は変わる。
私の身体を赤と青に分かれた左右非対称の服が包み込んだ。右胸には赤と青の二色に輝くソウルジェムが装着されていた。
自分の服装の変化を私は赤と青の光が収まった後に見る事が出来た。
「これが私の服装?」
「うん。契約は成立だよ。それにしてもまさか自分の顔まで変化させるとは思わなかったよ・・・」
キュウべえの言葉を聞いて私は怪訝な表情をしたのだと思うけれど、とりあえず鞄の中に入れておいた手鏡を取り出して自分の顔を見てみる。
鏡に写った顔を見て私は驚きと喜びを感じていた。
その顔は今までの私の顔とは違っていた。
私の理想とする顔に変わっていたのだ。
キュウべえと契約の約束をしてから私は《魔法少女》となった場合、自分の顔を変える必要があると感じていた。
(顔さえ変わっていれば誰も私を××××とは思わない筈だ)
そう考えて私は必死に自分の顔を考え続けて絵に書いたりしてイメージを掴んでいた。
キュウべえとの会話の中で契約の反作用によって自分の姿すら変えた《魔法少女》の存在を知っていた私なりの反作用を狙った行動だった。
もっとも顔を変えたのは私が過去、全てと決別する為の物だったが旨く行かなければ旨く行かないで構わなかった。
その場合は私の捜索願を出すと思われる煩わしい両親を《魔女》か《使い魔》の結界に放り込めば良いだけだった。
それに変わったのは顔だけでは無かった。髪の色も瞳も右側を青に、左側を赤に染め上げていた。物凄く派手な姿に我ながら苦笑してしまう。それが《魔法少女》としての私の姿だった。
「キュウべえ。これが私の新しい姿なのね。正直、ここまで変わるとは思わなかったわ」
「そうだね。それは僕も同じだよ。でもそれが君の新しい姿だ。そして君の奇跡も叶っている」
キュウべえに促されて私が脇を見ると目の前にある木の根元に光り輝く球の様な物があった。
何なのかは察しが付いたが覗き込んでみるとその中では小さな何かが集まって小さな人の形を成して行った。
一時間後にはそれが保険の授業で習った母親の胎内にいる筈の胎児の形を成していた。
自然界ではあり得ない現象・・・。
私は契約と言う名の奇跡が起こした現象に心の底から驚きを感じていた。
「キュウべえ。この子は七日七晩後には私の願い通りに成長するの?」
「そうだね。七日七晩後にはその光の球から出て君の言う10歳の少女として誕生する筈だよ」
キュウべえの言葉を聞いて私は満足した。
だから次の段階に進む事にした。
「さて・・・。キュウべえ。私・・・。今の名前を捨てるわ」
「どういう事だい?」
「言葉通りよ。今の名前を捨てるのよ。××××じゃ無くてこれからは・・・。《筒地綾女(ツツジアヤメ)》と名乗る事にするわ。《キュウたん》」
「ふーん。君がそう名乗りたいなら構わないけど僕の名前はキュウべえだよ」
「あなたは私の決して叶わない願いを叶えてくれたわ。だから《キュウたん》は私の友達よ。あなたに感情があろうと無かろうと構わないわ。それに友達はあだ名を付けるものでしょう?だから《キュウたん》と言う名前をプレゼントするわ」
私の言葉にキュウたんは少し首を傾げました。
「ふーん。そう言う考え方もあるんだね。僕は構わないよ。筒地綾女」
「フルネームじゃ無くて綾女で良いわよ。《キュウたん》」
「分かったよ。綾女」
私の言葉に《キュウたん》はそう答えてくれた。
(私にとって《キュウたん》は最高の友達よ)
願ってやまない奇跡を叶えた私は間違いなく幸せの中にいると思えた。
この話において××××こそが朱奈を生み出した筒地綾女だと明かされます。
主人公である筒地綾女の本名は××××とバツで伏字となっていますが本名は特に設定されておりません。
作者にとっても永遠の謎の一つです。