偽書魔法少女アヤメ☆マギカ PSEUDEPIGRAPH PUELLA MAGI AYAME MGICA 作:ジャックノルテ
「今日が約束の日ね」
私の目の前で奇跡によって生まれた《あの子》は既に10歳位の体に成長していた。
その姿は私の理想とする少女の姿として成長していた。
けれどその傍らに立つ私は《魔法少女》としての姿を取っていた。
「そうだね。今日、《この子》は生まれるよ。ただ生まれると同時に《魔女》を引き寄せる呪いが発動するけどね」
私の肩に乗っているキュウたんが語り掛けて来る。
後、数分で金曜日になる・・・。この子を誕生させてから七日七晩経つのだ。
「どんな《魔女》が来るのか運試しと言う事ね」
そう言って私は左手に持った箒を構え直した。
右手に付けている腕時計の時間を確認する。
(後、数秒・・・。来た!)
金曜日になった事を確認したと同時に突如として私が生み出した《あの子》の右目から発せられた独特の魔力から瘴気が広がったのが見えた。
思わず右手で瘴気から身を守ろうと手を翳そうとする。
「何が起こるか解らない。だから綾女!目を背けないで!」
キュウたんからの声を聞いて翳そうとした右手を下ろしながら目の前の出来事をきちんと受け止めるべく結界の構築を目に焼き付けた。
目の前に瘴気と同時に奇妙な空間が構築されていく。
同時に足元にいた《あの子》も結界に飲み込まれて気配を感じられなくなってしまった。
「まずい!」
どうやら私のいる場所とは別の場所へと飲み込まれてしまったらしい。
「《あの子》は・・・。こっちね」
この空間を構成する瘴気とは異なる独特の魔力を私は感じ取っていた。
「うん。この方角で合っているよ」
躊躇う事無く一歩を踏み出した私の前に奇妙な生物が二匹現れた。
「気を付けて!二匹の《使い魔》だ!」
正面から大きな口を開いて向かって来る二匹の《使い魔》に対して私は左手で持っていた箒を構える。
箒の範囲に入ったと同時に一匹の《使い魔》に対して箒を横薙ぎに振るって叩き付ける。
もう一匹の《使い魔》に対して無造作に突き出した。箒の穂先が《使い魔》に突き刺さる。自分でも呆気無いと思える程、簡単に《使い魔》を倒す事が出来た。
握り締めた箒に魔力を注ぎ込み破壊力と切れ味をアップさせる。キュウたんに教わった魔力の初歩的な使い方だった。
まだまだ調整が必要だが十分な威力を発揮していた。
不法投棄をしていた2人の男を痛め付けてから私は暴力を振るう事への躊躇いが無くなっていた。でも確実さを実感する為に私は夕方になると山林地帯に程近いホオズキ市の繁華街に赴くと柄の悪そうな男や学生を狙って喧嘩を仕掛けた。《魔法少女》として得た私の前には普通の人間は勝てる筈が無かった。
もう私は戦うと言う事への躊躇いを持っていなかった。
目の前に現れる敵を容赦無く倒して行く。
「凄いね。初めての戦いの筈なのにここまで躊躇いが無いのも珍しいよ」
「そうなの?けどそうかも知れないわね」
答えながら私は前にキュウたんに言った言葉を思い出していた。
「そもそも命懸けの戦いって言うのがこの国に住んでいる私には上手く思い浮かばないわ」
けれど私は命懸けと言うのは今だ旨く理解していたとは言えない。でも愛する者を救う為に戦うと言う事を私は躊躇わない。
結界の中を進みながら目の前に現れる《使い魔》を次々と箒で突き刺し、叩き付け倒して行った。
「どうやら《あの子》は大分、深い場所にいる見たいだね。恐らくは最下層にいると思うよ」
キュウたんの言葉からあの子は最下層に潜む《魔女》の近くにいる事が予想出来た。
少し歩調を速めながらも周囲への注意を怠らずに進んで行く。
遂に私とキュウたんは最下層に着いた。
目の前には何とも形容し難い《魔女》がいた。強いて言うならば珊瑚に似ているから《珊瑚の魔女》と言う所かも知れない。
《珊瑚の魔女》から少し離れた場所にあの子はいた。
不思議な事に《珊瑚の魔女》は朱奈に対して何の危害も加えていない様だった。
これはもしかしたら私がこの場所に現れたからかも知れなかった。
(直ぐに倒したい!)
強い衝動を感じると同時に私はキュウたんに視線を送った。
(分かったよ。綾女)
感情無いにも関わらず事前に取り決めたとおりにキュウたんはテレパシーで返事をすると私の肩から降りた。同時に右肩に掛けていたエコバックを地面に落とした。
キュウたんは起用に口だけでエコバックの中に入っていた毛布を加えるとあの子の元に向かった。
これから生まれる《あの子》は裸体のままだった。キュウたんの話ではいつ意識を覚醒させるかおかしくないとの事だった。万一、私が戦っている間に意識を覚醒させれば《あの子》は寒さで凍えてしまうかもしれない。
そう思った私は予めエコバックに入れた毛布を用意しておき《あの子》のいる場所に着いたらキュウたんに持って行く様に頼んでいた。
キュウたんがあの子に毛布を掛けて行くのを見て、私は改めて左手に握った箒を構え直して《珊瑚の魔女》に武器を向ける。
私の敵意に気が付いた《珊瑚の魔女》がその体から生えている赤い枝を私に向かって伸ばして来た。伸びて来る赤い枝は真っ直ぐに私に向かって来る事を瞬時に判断すると同時に私は大きく回り込みながら《珊瑚の魔女》に近づいて行った。
こうやって意図的に大きく回り込みながら少しずつ距離を詰めて行けば相手の赤い枝が何処まで伸びるのかを計る事が出来る。
私の思考を裏付けるかの様に《珊瑚の魔女》が伸ばした赤い枝がビクンと動きを鈍らせた。そのチャンスを逃さずに私は更に《珊瑚の魔女》との距離を詰めて行く。けれど《珊瑚の魔女》と私に思われただけの事はある。直ぐに体に生えていた無数の赤い枝を私に向けて来た。
(今が使い所!)
身体を動かす為の魔力をキュウたんから教わった様に割り振りを変える。戦闘に必要な反射力や思考力、瞬発力を高める。同じ様に身体の痛覚を遮断して一気に《珊瑚の魔女》の懐へと駆け出す!
先程までは速く感じていた無数の赤い枝の動きが余り速くは感じられない。
避けられる枝は避け、避けられない枝は箒で弾き、弾けない物は動きを鈍くしない要所に誘導し、傷付きながらも私は《珊瑚の魔女》に近付いて行く。
(ここで言う要所とは急所であるソウルジェムや身体を動かす関節の事)
初歩的で荒削りだが肉を切らせて骨を絶つ戦術。正直な話、今の私が《珊瑚の魔女》に勝つ為にはこの戦術以外、選択の余地が無かっただけだった。
《珊瑚の魔女》の懐に入り込むと同時に先程から左手で握り締めていた箒に溜め込んでいた魔力を一気に放出させた!まだまだ絞りの足りない放出された赤と青の魔力が《珊瑚の魔女》の急所と思しき場所を貫きその身体をバラバラに砕けさせた。
(決まった・・・)
私の思いを裏付ける様に結界に歪みが生じ始めていた。
直ぐに《あの子》の元へ向かうとキュウたんによって毛布を掛けられ穏やかな寝息を立てていた。
「良かった。もう直ぐね。もう直ぐあなたと会えるのね。朱奈」
「それがこの子の名前なのかい?」
「ええ。私の考えた《あの子》の名前よ」
朱奈。それが私の考えた名前だった。朱奈の髪の毛は赤み掛かった茶色をしていた。
印象的なその髪の色にちなんで付けた名前だった。
腰を降ろして朱奈の頬に触れようとした時、《珊瑚の魔女》のバラバラになった体から大きな物音がした。と同時に私に向けられた敵意を含んだ魔力に気が付いた。
見ると《珊瑚の魔女の頭》と思しき部分が浮かび上がり私に向かって来た。
「ッ!?」
反射的に私は左手に握った箒を向けたが《珊瑚の魔女の頭》と思しき部分は突き出した箒に突き刺さりながらも勢いを殺す事無く私ごと吹き飛ばした!
両手で箒を握り締めるも《珊瑚の魔女の頭》は崩壊し始めた結界の壁に私を押し付けた。
「シュナ!」
朱奈の名前を叫んで抗おうとするが《珊瑚の魔女の頭》の勢いが勝っていた。
私はそのままの勢いで結界の外に押し出される。
(キュウたん!)
飛ばされながら咄嗟に私はテレパシーを放った。
(なんだい?綾女?)
相変わらず、のんびりした声で話すキュウたんに私は少し苛立ちを感じたがこの際、それはどうでも良かった。
(朱奈の事を見ていて!私はこの《魔女》を倒したら合流するわ)
(分かったよ。綾女)
キュウたんの返事を聞いて安心した私は魔力を両腕に集中した。赤と青の光に両腕が包まれて行く。
「今度こそ!これで終わりよ!」
両手で握った箒の先から赤と青の魔力が大きな破壊力を伴って放たれる。
「ぐぎゃああああああ」
《珊瑚の魔女の頭》は大きな悲鳴を上げて崩れ去った。
直ぐに私は周囲の状況を確認する。
山林地帯の外側まで吹き飛ばされたらしい。おまけに空中から落花し続けている。
ふと目の前を見ると落花しているグリーフシードがあったので迷わず右手で握り締めた。
魔力を両足に集中して落花の衝撃に備える・・・。
激しい音を響かせて道路の上に落花したけれど痛覚遮断を行っていたお陰で殆ど痛みは無かった。山林地帯の近くを走る道路に落ちて来たらしい。
「ここは・・・。確かテントから少し離れた場所よね。でもキュウたんの居所を探れば・・・」
キュウたんは独特の気配を持っている為に直ぐに居場所を特定する事が出来た。足に魔力を集中させてキュウたんと朱奈のいる場所へ駆け足で向かって行く。
この位置ではどうやら朱奈とキュウたんもテントから外れた場所に出現しているらしい。
必死に私は足を速めるけれど周囲の木々が邪魔をして思う様に速度は上がらなかった。
焦る気持ちを必死に押さえながら足を速めて行く。
やがて朱奈とキュウたんがいると思われる場所に出た。そこは山林地帯に程近い公園だった。歩を進めようとした時、視界に複数の人影が目に入った。
何かを感じた私は木の陰に身を隠して様子を窺う事にした。魔力で強化された視力で様子が良く見える。でも見えて来た景色は私にとって余り良くない景色だった。
毛布に包まって立ち尽くす朱奈を保護する警察官と思しき人物が目に入った。
その場で私は固まりそれ以上、動けなかった。ショックから立ち尽くしていた。
愛する朱奈を他人に取られると言う事に私は大きなショックを受けていた。
朱奈の足元にいるキュウたんからテレパシーが響く。
(綾女。朱奈は目覚めてしまったよ。ただパトロールをしていた警察官に見つかってしまったよ。僕にはどうする事も出来なかった)
テレパシーによる謝罪を聞いても私にキュウたんを責める気持ちは無かった。
(実際、問題として普通の人には見えないキュウたんにはどうする事も出来ないだろう)
あるのは私自身への怒りだった。
何故、もっと強くなれなかったのだろう?
何故、魔女を倒せたと思い上がったのだろう?
何故?何故?何故?
答えは出ている慢心だ。私が慢心していたから朱奈を警察官に取られてしまったのだ。
「ねえ、あなたはどうしてそんな格好でここにいるの?」
強化した聴力で朱奈と警察官の会話に聞き耳を立てると言葉使いから警察官は女性であり婦警さんだと分かった。
「えっと。わたし・・・。分かんない。何も分からない!?」
朱奈は涙を流しながら泣きじゃくっていた。
今すぐにでも出て行って朱奈の頭を撫でて慰めたい。
でも私にはそんな資格は無い。《魔女》から朱奈を守り切れなかった私には・・・。
「分からないなら仕方ないわ。お嬢さん。お名前は?」
婦警さんはなるべく朱奈を怖がらせない様に話し掛けているのが言葉使いから感じられた。
「えっと。わたし・・・」
朱奈は自分の名前を知らない。
だから答えられる筈が無い。そう思っていた。でも・・・。
「わたしは・・・。シュナ。確かシュナ!」
朱奈が私の付けた名前を名乗った事に私は驚きと嬉しさを感じていた。
「どうして・・・。知らない筈なのに・・・。もしかして。あの時、聞こえていたのね」
込み上げるのは嬉しさだけでは無かった。何時の間にか景色が歪んで見えた事で自分の目から涙が流れていた事に私は気が付いた。
涙を手で拭うと朱奈は婦警さんに手を引かれてパトカーに乗せられるのが見えた。
(綾女。朱奈は連れて行かれてしまうよ。良いのかい?)
キュウたんからのテレパシーが届き私は今すぐにでも朱奈を手元に引き寄せたいと言う衝動に駆られた。
でも必死にそれを押さえ込む。
今の私では朱奈を《魔女》や《使い魔》から守り切る事が出来ない。
それに・・・。あと一週間経てば朱奈は再び《魔女》を引き寄せる。
なら、今は・・・。
(今は・・・。駄目よ。今の私じゃ駄目。迎えに行くのはもう一週間、先に延ばすわ。だからキュウたん。朱奈の居所だけは、把握したいから朱奈に付いて行って貰っても良い?)
(良いよ。じゃあ場所が定まったら綾女に伝えるよ)
キュウたんはそう言って婦警さんと一緒にパトカーに乗り込んだ。
朱奈とキュウたんを乗せて走り去るパトカーを私は見えなくなるまで見つめていた。
強い後悔を感じていたけれど、私は決意を固めていた。
もっと強くなる決意を。
私の愛する朱奈を守る為にも強くならなければならない。
「朱奈。私はもっと強くなってあなたを迎えに行くわ」
3月の夜はまだ寒かった。
その寒さが私の頭に冷静さを取り戻させていた。
私は朱奈を取り戻す・・・。